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煌天の蒼月 第1部  作者: 天空朱雀
第3章 メイドの少年と魔術師の少女
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第3話

中は広々とした空間になっており、床には絨毯が敷かれ、アンティークの家具はどれも高級そうなものばかり。

天井にはゴテゴテしたシャンデリアが吊るされ、見渡すばかり煌びやかな世界が広がっている。


シノアが今まで暮らしてきた世界とはまるで異なる光景に、ただただ唖然とするばかり。

それ程までに、目の前に広がる景色は豪華で、煌びやかで。


圧倒されつつも室内のさらに奥へと進んでいくと、そこにはゆったりとしたいかにも座り心地の良さそうなソファが一つ。

そこに腰掛けて完全にくつろぎモードに入っているのは、1人の少女であった。


外見的な年齢は16~17歳くらいであろうか、長く艶やかな睫毛と大きな瞳は、美少女といっても差し支えないくらいであった。

絹糸のように真っ直ぐ艶やかな黒髪は腰くらいの長さで、彼女の最も特徴的な箇所といえば頭に生えた猫の耳と尻尾である。

おそらくは、黒猫の獣人なのであろう。


少女は気怠そうにシノアを一瞥するなり、これまで気怠そうに言葉を紡ぐ。


「そなたの事は聞いておる。何でも、今日から此処で働く事になったメイドだそうじゃな」


何処かあどけなささえ残る少女の声とは裏腹に、口調は何処か古風なもの。

シノアは気圧されそうになりながらも、何とか声を絞り出した。


「え、あ…はいっ。あなたの事は存じてますっ。セルネ=ネロガット様…ですよね? 宮廷魔術師だそうで。僕は今日からあなたのお世話を任されましたシノ…じゃなくてユトナと申します。ど、どうぞ宜しくお願いします」


「ほう…妾の名を知っておるか。自己紹介が省けて楽じゃな。それと、そんなに堅苦しくしなくても構わんぞ。妾はそういう肩が凝りそうなのは嫌いなんじゃ」


「そ、そうですか…」


「…あ、じゃが妾を気安く呼ぶでないぞ。妾はメイドのそなたとは比べ物にならん程の地位におるのじゃ」


「それも存じてます。えと…じゃあセルネ様、何かございましたら何なりとお申し付け下さい」


尊大な態度を取りつつ終始何処か面倒臭そうな態度の少女──セルネに内心ぽかんとしながらも、とりあえず機嫌を損ねないように丁寧な口調で返すシノア。

すると、セルネはシノアを穴が開く程じっと凝視してから、おもむろに部屋の片隅を指差してみせた。


「それは良い心がけじゃ。まずは部屋中の窓拭きと床磨き、家具も綺麗に拭いて貰おうかのう。それから、小腹が空いたから調理室から果物を持って参れ。…良いな? だらだら無駄に時間をかけて掃除したら只では済まぬぞよ?」


「い、いきなりですか…? はい、分かりました」


本人はソファに半分寝そべるかのようなぐーたらな態度で、一気に怒涛の如く命令を言い放つセルネ。

着任してきたばかりで此処まで命令するか? と内心突っ込みを入れつつも、そんな事を言おうものなら色々と面倒な事になるのは明白だった為、二つ返事で了承すると早速掃除用具を取りに向かう。


元々家で掃除をする事も多く、その上掃除をするのは割と好きな為、効率も良くあっという間に部屋中が綺麗になってゆく。

シノアの性格上、割と細かい所まで気配りが出来る為、てきぱきと熟しつつも細かい所まで綺麗に掃除がなされている。

それはソファでくつろいでいるセルネも何となく気づいているようで、さりげなくシノアを見遣りつつも内心それなりに関心はしているようだ。


「セルネ様、大変お待たせ致しました。果物、お持ち致しました」


「ふむ…ほう、妾の好きな果物も入っておるではないか」


「はい、調理室で働いてる人に聞いたんです。折角ですから、セルネ様のお好きな果物を持っていった方がいいかな、と思いまして」


「成程、なかなか細やかな気配りが出来るようじゃな。よし、良い動きであった。掃除も終わっておるようだし…そなた、もう下がって良いぞ。今度とも頼むぞよ」


「あ、ありがとうございます。では、失礼します」


相変わらず尊厳な態度を取るセルネであったが、シノアの行動をそれなりに評価はしているようだ。

その証拠に、彼女の表情はいつになく明るい。


シノアはぺこりと頭を下げてからそそくさと部屋を後にするが、部屋を出るなり疲労が一気に噴き出し全身に重くのしかかった。

げっそりしつつも、いつの間にか凝ってしまっていた肩を自分で叩きながらだだっ広い廊下の隅をとぼとぼと進む。


「つ、疲れたぁ…。まさか、いきなりあんなに大量に色んな事頼まれるとは思わなかったよ」


ふとシノアの脳裏を過ぎるのは、セルネの事。

黒猫の獣人と言うのも珍しいが、何処と無く底の知れない強大な力のようなものを感じた。

流石、国お墨付きの宮廷魔術師という肩書に見合うだけの力は持っているのだろう。


そんな事をぼんやり考えながらとぼとぼ歩いていると、不意に背後から少女の声が響き渡った。

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