第2話
「……あ、もしかして皆が言ってたエロいお姉さんって…」
「わーっわーっ! ストップそれ以上言うなっ!!」
暫くきょとんとしていたユトナであったが、ふと同僚達が囃し立てていた内容を思い出してようやく合点がいったようにポンと、手を叩いてみせる。
しかし、すぐにセオが大きい声を張り上げて遮った為、レネードの耳に入る事は無かったが。
すると、レネードはユトナに興味を示したらしく、頭のてっぺんから爪先までまじまじと凝視してから、
「初めまして、可愛い騎士さん。あたしレネードっていうの、宜しくね」
自己紹介をしてからにっこりと人懐っこい笑みを向けるレネード。
まさか可愛いと言われるとは思わなかったようで、不意打ちな言葉にあわあわと狼狽えつつも、何とか取り繕うユトナ。
「え、うぇっ!? かっ、可愛くなんかねーよっ。…あ、オレはユ…じゃなくてシノアってんだ。こっちこそ宜しくな」
「シノア君ね? 了解~。あ、そうそう、これからセオ君と買い物に行くんだけどね、もし時間があるなら君も如何? やっぱり、買い物って皆で行った方が楽しいし」
「ん~そーだなぁ…いいぜ、丁度暇だったしな」
「よーしっ、じゃあ決ーまり! 早速行きましょう? 前にね、とってもいいお店見つけちゃって」
うっかり本名が口から零れそうになるが、何とかそれを飲み込みシノアの名を口にして誤魔化せたようだ。
さっさと2人で会話を繰り広げ、その上さっさとこれからの事を決めて城を出ようとする2人に、若干置いてきぼりをくらいながらも慌てて突っ込みを入れるセオ。
「え…えっ? ちょっと待ってくれって、俺の意見は?」
「まぁいいじゃない、それともセオ君は、シノア君と一緒だと何か不味い事でもあるの?」
「いや、そういう訳じゃないんだけど…」
「あら、それなら何ら問題無いじゃない。ほらほら、セオ君早くしないと置いてくよ?」
セオの突っ込みなど何処吹く風、むしろ何か悪い事でもある? とでも言いたげに軽く躱すレネード。
完全に丸め込まれてしまったセオはこれ以上反論の言葉も出ないようで、押せ押せな2人の女性に振り回される羽目になってしまった。
城から出る間際、ふと背後を振り返り城を仰ぎ見るユトナ。
彼女の脳裏に浮かぶのは、自分の唯一の家族の事。
(シノア…アイツちゃんとやってんのか…?)
一抹の不安は過ぎるものの、すぐにそんな不安は頭から押し退けて再び歩を進めるユトナであった。
◆◇◆
──休暇を満喫するセオ達とは場所を別にして。
此処は城内のとある廊下。
廊下にはいかにも高級そうな赤い絨毯が敷き詰められ、至る所にこれまた高そうなツボやら彫刻などが飾られている。
そんなだだっ広い廊下を、何処か不安げな表情で辺りをキョロキョロ見回しながらとぼとぼと歩く1人のメイド。
ユトナとよく似た相貌を持つこのメイドこそ、ユトナの双子の片割れであり彼女と入れ替わった少年、シノアである。
「うぅ~、何てお城ってこんなに無駄に広いんだろう…? えーっと、こっちで合ってるのかな…?」
不安そうに眉尻を下げ、挙動不審な態度丸出しで辺りをキョロキョロするシノアは、どうやら何か部屋を探しているようであった。
暫くあちこちをうろついていたシノアであったが、ようやく目的地を見つけたらしくホッと安堵の息をつく。
彼の視線の先には、無駄に豪華で大きな扉。
扉の前に佇んで、まずは大きく深呼吸。
気を落ちつけて何とか冷静さを取り繕うと、震える手を何とか抑えながらゆっくりと扉を数回ノックしてみた。
それから数十秒の時が流れた後。
不意に扉の向こうから、鈴を転がすような可憐な声が飛来した。
「……入るがいい」
「あ…は、はいっ、失礼しますっ」
応答があってビクッと盛大に肩を震わせてから、再度大きく息を吸い込んだ後おもむろに重い扉を開いた。