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煌天の蒼月 第1部  作者: 天空朱雀
第3章 メイドの少年と魔術師の少女
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第1話

「でりゃああぁぁぁっ!!」


耳を劈くような雄叫びが、訓練場に響き渡る。

此処は城の片隅に設置された騎士団専用の訓練場。

騎士団に所属する者ならば、誰でも利用する事が出来る場所だ。


此処では、騎士達が時間の合間を縫って己の鍛錬に勤しんでいる。

現に、絶えず騎士達の雄叫びや武器が激しくぶつかり合う事が聞こえてくる。


そんな場所で、一際大きな雄叫びを上げながら鍛錬に勤しむ騎士が1人。

その騎士の顔からは凄まじいほどの気迫が感じられ、声をかける事すら憚られるくらいだ。


暫く訓練だけに集中し武器である双剣の素振りを繰り返していたその騎士であったが、流石に人間である以上疲労は避けられない。

ようやく疲労を感じて剣を下ろすと、一気に押し寄せた疲れの為自然と肩で息をし始めた。


「はぁっ、はぁっ……まぁこんなもんか」


「…ユトナ…じゃなかったシノア、お疲れ様。随分と訓練に精を出してるんだな」


背後から声を掛けられ、思わず後ろを振り返る騎士──ユトナ。

彼女の視線の先には、見知った顔…セオの姿があった。

どうやらセオも、この訓練場で訓練に勤しんでいたらしい。


「おう、セオかよ。…ケッ、まぁな。最近溜まりに溜まった鬱憤を発散しようと思ったんだよ。やっぱ身体動かすのが一番だよな」


セオの言葉に、あからさまに苦虫を噛み潰したような表情を浮かべると、思い出すのはユトナにとってもはや忌々しい対象でしかない1人の人物。

それはユトナをいち早く女性だと見抜き、その上で交渉を持ちかけてきた男──ロゼルタ。


元来、誰にも縛られず自由気ままに振る舞うのがユトナの自然なスタイルである為、自分を上手く丸め込みあれこれ策略を巡らせるロゼルタは目の上のたんこぶ、苦手な存在と認識しているようだ。

娼館での出来事以来、顔見知りとなってしまったロゼルタとはその後も何度か顔を合わせたものの、ロゼルタの腹黒さに振り回されるばかり。

それがユトナにとっては、この上なく気に入らない事なのだろう。


一方、そんな事情など知る由も無いセオは、不思議そうにきょとんとするばかり。


「へぇ…何かよく分からないけど、とにかくあんまり根を詰め過ぎないようにな。体調崩したら元も子もないし」


「分かってるってンな事は。ふぅ…さーてと、そろそろ帰るか。セオ、オマエも今日は非番だろ?」


「ああ、俺もそろそろ帰ろうと思ってたんだよ。どうせだから一緒に帰らないかい?」


「おう、そーだな」


手早く武器を仕舞い汗をタオルで軽く拭いてから帰る準備を整えると、さっさと訓練場を後にする2人。

他愛も無い会話をしつつ、2人の足は中庭へ向かう。

丁度その時、入口の方から中庭に向かう1人の女性の姿が見えた。


ユトナには見覚えの無い女性であったが、セオにとっては最早見知った姿。

セオが驚きのあまり金魚のように口をパクパクさせる中、女性はセオの姿を見つけるなり顔をパッと輝かせながら2人の方へ駆け寄ってきた。


「セオ君みーっけ! もうっ、探しちゃったよ~」


「ぶふっ! …ってか、レネードさんどうして此処に…?」


「そりゃ勿論、セオ君を迎えにきたに決まってるでしょー? 今日は一緒に買い物に行くって約束したじゃない」


「そ、それはそうだけど、わざわざ城内にまで来なくても…」


女性──レネードはセオの傍に駆け寄るなり最早タックルに近い形でセオに抱き付いて満面の笑顔。

一方、いきなり抱き付かれて驚くやら恥ずかしいやらでまるで林檎のように顔を真っ赤に染めてうろたえるセオ。


そんな2人のやり取りを蚊帳の外で眺めるしかないのは、ユトナであった。

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