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煌天の蒼月 第1部  作者: 天空朱雀
第2章 騎士団の少女とメイドの少年
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第19話

「わわっ…2人共、大丈夫かい?」


慌ててセオが手を貸してくれたお陰で何とか2人は岸まで上がる事が出来たが、完全に服までずぶ濡れで濡れ鼠状態。

キーゼが服の裾を掴んで搾ると大量の水が零れ落ち、まるで猫のようにふるふると頭を左右に振ってみせた。


「うー、冷たいな流石に…全く、酷い目に遭ったな。…にしても、かなりの大物釣り上げられたかもしんないのになー、勿体ない」


「ンな事言ったってしょーがねーだろ、まさかあんな強い力で引っ張られるとは思わなかったんだよっ。あーくそっムカつく、あとちょっとで釣り上げられたってのに~!」


悔しそうに地団太を踏むユトナ。

ずぶ濡れになったり、濡れ鼠のままで頭から湯気が出そうなくらい憤慨したりと、何とも忙しないものである。


「まさに、逃がした魚は大きかった、ってな。…ふえっくしょいっ! うー…マジで寒いぞコレ。とりあえず、濡れた服脱ぐか」


盛大にくしゃみをしてからぶるりと背筋を寒気が通り抜けたようで、これ以上身体を冷やさないようにとおもむろに上着を脱ぎ始めるキーゼ。

上半身裸になった所で、何気なくそんなキーゼの姿を視界の隅に捉えたユトナが顔を真っ赤にしながらその場に凍り付いた。


「ぎゃあぁぁぁっ!? なっ、ななな、何いきなり脱いでんだよオマエっ!」


「へ? いきなりって…そりゃ、濡れた服何時までも着てる訳にいかないしな。そんな驚く事か?」


幾らガサツな態度を取ろうとも、男装して男として振る舞おうとも、やはり本質の女性の部分は隠しようがない…と言った所か。

男性の裸など、当然見る機会も無ければそういったものにまるで耐性も無いのだろう、慌てふためいた様子で金魚のように口をパクパクさせるユトナ。

しかし、ユトナを男性だと思っているキーゼにとって、何故彼女がそこまで困惑するのか皆目見当がつかないのも至極当然。

不思議そうに首を傾げつつ、


「やっぱあんた面白いよな反応が。リアクション芸人ばりにさ。つーか、シノアこそ寒くないのか? さっさと脱いじまえよ。…って、別に変な意味で言ったんじゃないからな…って、そりゃ男同士でそんな事言う訳ないよな~、ホモォじゃあるまいし」


純粋にユトナの身を案じているのだろう、早い所服を脱ぐようにと勧めてから、自分で言い放った冗談をへらりと笑い飛ばすキーゼ。

だが、ユトナにとっては冗談では済まない事態に陥ってしまった。


(やべぇ、やばすぎるだろコレ…っ。流石に服脱いだら、オレが女だってバレるし…けど、このままじゃ明らかに不自然だし…)


ぐるぐる頭の中で自問自答を繰り返すも、納得のいく結論が出る筈もなく。

堂々巡りのループに嵌まってしまったユトナは、困惑と動揺で頭が今にもパンクしそうになっていた。


「いやっ、その、えーっと…お、オレはいいって、別にっ。寒くねーしなっ。ほら、このとーり元気元気っ!」


「そうか~? 何かやせ我慢でもしてんのか? 変な所で意地はんない方がいいぞ?」


「べべ、別にそんなんじゃ…っ」


キーゼにさらに食い下がられて、ユトナが苦し紛れに放った言い訳も最早裏目に出てしまったようだ。

しかし、だからと言って此処で女だとバレ訳にもいかない…どうやらそんなユトナの思いは、セオの胸にも届いたようだ。

セオだけは騎士団の中で唯一ユトナの素性を知っており、またある意味協力者でもある。


何とかこの場を乗り切る起死回生の言い訳はないものか…必死に頭を回転させてあれこれ考え抜いたセオの脳裏に、一つの妙案が浮かんだ。


「ちょ、ちょっと待ってくれ。えーと、シノアには…そうだっ、まだ孤児院に居た頃、大きな傷を負って今も傷痕が残ってるんだ。シノアはそれを気にして、人に見られたくないみたいでさ…だから、その、人前では服を脱げないんだよ、うん」


我ながら上手い言い訳を思いついた…と心の中で自画自賛するセオであったが、如何せん彼は嘘をつくのがすこぶる下手だという事を自覚していなかった。

むしろ、視線をあちこちに泳がせ上ずった声で説明した所で胡散臭さが増すという事にいい加減彼は気づいた方が良いのではなかろうか。


それでも上手く誤魔化せたとあくまで思っているらしいセオは、さりげなくユトナに目配せを送る。

すると、ハッとなったユトナがセオの言葉に続いた。


「そ、そう、そーなんだよ! ガキの頃にちょっと色々あってな。だからオレはこのままで平気なんだって」


ぶんぶん過剰なくらいに首を縦に振るユトナ。

一方、そんな2人の言動をそれこそ穴が開きそうなくらいじっと凝視していたキーゼであったが、彼の口から放たれた言葉は意外なものであった。


「そっか、成程なーそんじゃしょうがない。だったら、先に宿に戻って着替えてきたらいいんじゃね?」


「あ、そういやそーだった…。じゃ、オレは先に行ってるからな!」


拍子抜けするほどあっさり2人の言葉を信用したようで、ユトナに先に戻るよう促すキーゼ。

キーゼにさらに追及されなかった事でホッと胸を撫で下ろしたユトナは、彼の言葉に従いそそくさとその場から逃げるように立ち去った。


(…なーんか嘘くさいんだよな…つか、セオが嘘ついてんのはバレバレだし、シノアもそれに乗っかってる感バリバリだったもんな。2人共、おれに何か隠してんのか…? にしても、あそこまで服脱ぐのを頑なに拒むってのもおかしな話だよな。脱いだら何かマズイ事でもあんのか…? ……、まさか…な)


心の中で疑問をぶつけるキーゼの脳裏に不意に浮かんだ、一つの仮説。

しかし、そんな事があってなるものか…とまるで自分自身に言い聞かせるように胸の奥でそう呟くと、先程自分が思い浮かんだ仮説を奥底へと押しやっていった。

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