第3話
そう言い切ってから騎士達をぐるりと見渡すと、最後にこう付け加えた。
「街に到着してからは散開して各自で行動、但し現状報告も兼ねて正午にはこの場所に集合する事。では解散」
マディックの言葉を皮切りに、散り散りに去っていく騎士達。
セオもハッとなると後れを取るまいと慌ててその場から立ち去ろうとするが、背後からかけられた声に引き留められた。
「セオルーク、少しは慣れたか? …といっても、まだ来たばかりでは慣れようが無いか」
気さくに声をかけてくれたのは、マディックであった。
転属されたばかりで何かと不安もあるだろうと気遣っての言葉だろう。
「あ、俺の事はセオって呼んで下さい。お気遣いありがとうございます、でも騎士としての経験もありますし、大丈夫です」
「そうか…そういえば此処に転属になっただけで、騎士としての初陣では無いのだったか。犯人を見つけても、もし1人では手に負えないようならば遠慮無く私を呼んでくれ」
「はい、ありがとうございます。…それにしても、マディック隊長って優しいんですね。もっと厳しい方だと思ってました」
ぺこりと頭を下げるセオに、思わず苦笑いを浮かべるマディック。
「ああ、それはよく言われる。そりゃ、こんなガタイで厳つい顔のおっさん見たら、誰だってそう思うだろうよ」
いつも言われていて慣れっこなのか、特に気にしてはいないらしい。
彼の懐の深さに感心しつつ、次々とその場から立ち去る騎士達に気づいて焦りを孕んだ表情を見せるセオ。
「…あ! 俺、もう行きますね。犯人、絶対捕まえてみせますから!」
そう言い切るセオの双眸は、何物にも揺るがぬ力強さを秘めていて。
小さく会釈してからその場を去ったセオであったが、街への道中あれこれ思案を巡らせる。
「う~ん、それにしても手がかり少なさすぎるよなぁ…。まずは聞き込みからかな」
セオはそう結論付けると、逸る気持ちを抑えつつ歩く速度を速めていった。
◆◇◆
──セオとは場所を別にして。
此処は、件の王都の一角、寂れた街外れの通りにて。
オレンジ色のウェーブのかかった長い髪をポニーテールにし、露出度の高い服装を身に着けどことなく健康的な魅力を放つ女性。
彼女は忙しなく辺りを見渡しながら、目に入る光景全てが珍しいといった様子でしきりに関心していた。
「はぁ~、やっぱり人間の街は賑やかでいいわね~。これならあたしの目的も見つかるかも」
まるで子供のように瞳を輝かせ、何やら希望に満ちた様子で独りごちる女性。
どうやら、女性は何か目的があって此処を訪れているようだ。
「…とはいえ、特にこれといってしなきゃいけない事も無いし…よーし、まずは手始めに観光って事で!」
1人片手を振り翳しながら意気込むと、早速商店街にでも繰り出そうとかと思った…その刹那。
不意に、道の向こうから強烈な視線を感じた。
一体何事かと思い、視線を感じる方向へと振り返る女性。
彼女の視界を支配するのは、1人の少年の姿。
きょとんとする女性をよそに、少年の表情は驚愕と緊迫感に満ちていて。
事情はさっぱり掴めないが、尋常ではない事態である事は何となく察しがついた。
自分以外の誰かを睨んでいるのかと思い、辺りを見回してみる。
…が、自分の他には誰もおらず。
やはり、少年の視線が捉えているのは女性、その人であるのは間違いなさそうだ。
しかし、女性には少年にそんな表情で睨み付けられる理由がこれっぽっちも見当たらない。
本人に聞いた方が早いと、早速話しかけてみる事にした。
「ねぇ…君、さっきからあたしの事じーっと見てるよね…? あたしに何か用かな?」
しかし、これは火に油を注ぐ行為であると、後に痛感する羽目となる。
途端、少年の顔つきが一変したのだ。
──言うならば、憤怒の表情か。