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煌天の蒼月 第1部  作者: 天空朱雀
第2章 騎士団の少女とメイドの少年
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第18話

今までじっとキーゼを見据えながら黙って彼の話を聞いていたユトナであったが、急にキッとキーゼを睨み付けながら、こう言い放った。


「…じゃあ、兄貴の事は嫌いじゃねーんだ?」


「ん? 別に嫌いって訳じゃないさ。あんな厳つい顔してるけど、案外いい兄貴だからな」


「…そっか。ならいいや。さっきのやり取り見る限り、あんま仲良くねーのかなって心配だったからさ」


あっけらかんと言い放たれたキーゼの返答に、満足げに満面の笑顔を向けるユトナ。

キーゼとて、兄が自分を気に掛けてくれている事くらい、とうに承知しているのだろう。


けれど、その兄という壁があまりにも厚く、高すぎて最初から乗り越える事を諦めてしまっている。

それでも一族という重い枷を取り払うことなど出来やしない。

だから、こうして中途半端な所に逃げて心の安息を保っているだけ。

こんな事を重ねていても何の意味もない…そんな事、キーゼ自身が痛いほど分かっている。

でも、どうする事も出来なくて底無し沼であがいているかのようで。


「まぁでも、キーゼが兄貴の事嫌いじゃねーってのは何か分かるけどな。だってあのオッサン、確かにごついけど目は穏やかで優しげだったもんな」


ユトナの呟きに、心底驚いたように目を見開くキーゼ。

だが、何故キーゼはそんなに驚愕するのか皆目検討がつかないユトナは、首を傾げるばかり。


「ンだよ、何驚いてんだよ」


「いや…くくっ、兄貴と初対面でそんな事言う奴、初めて見たからさ。やっぱ面白いよな~シノアって」


「へ? そうなのか…って、誰が面白いだよ、人を面白人間みたいに言うなっつーの!」


「え、あんたそういうキャラじゃね?」


「ちげーよ!」


いつの間にかボケとツッコミが確立しつつある2人のやり取り。

そんな会話を繰り返していた2人であったが、ふと何か思い出したらしいキーゼが声を上げた。


「さてと、そろそろ戻るか。セオ1人で待たしちゃってるからな」

湖の方を親指で指差してから、2人は湖畔の方へと戻っていった。



◆◇◆



「…で、結局また振り出しに戻ってんじゃねーか」


ユトナの至極不満そうな顔が、セオとキーゼの視界に映り込む。

ぶちぶちと文句を零すユトナをフォローするかのように、苦笑いを浮かべつつセオが口を挟んだ。


「まぁまぁ、いいじゃないか。そういや、無事に騎士団が盗賊を討伐したみたいだし…もうすぐ俺達の任も解かれると思うよ」


「むぅー…身体鈍ってんのは事実だけど、もっと強くなって精鋭部隊に入らねーとな。今に見てろよ、オレが皆ぶっちぎって最強の騎士になってやるぜ」


先程とは異なり、妙な闘争心とやる気に満ち溢れているらしい。

そう意気込むユトナの前に設置してある釣竿が、ピクピクと引き始めた。


「…ん? なぁそれ、獲物引っかかったんじゃね?」


「え、マジかよ!?」


キーゼが釣竿を指差せば、さらに強い力で引っ張られる竿。

慌ててユトナが竿を持って引っ張ろうとするも、おそらくは釣り針に引っかかった魚もそう簡単に捕まってなるものか、と必死の抵抗を見せる。


「ぐぬぬ…! 何なんだよコイツ、大人しくしろってんだムカつくっ!」


暫く攻防戦を繰り広げていたが、遂に均衡は破られる。

よっぽどの大物が引っかかったのだろう、ユトナの手に負える代物ではなかったようで逆に釣竿に引っ張られる羽目になってしまった。


「危ない! すぐ釣竿を離すんだ!」


「え、えぇ? わ、ちょ…うわぁぁっ!?」


「……え、ちょ、おま…なんでおれまで…!?」


セオの必死の制止も、時すでに遅し。

ユトナはそのまま、釣竿に振り回されるような形でバランスを崩し、水面へと引き込まれてしまう。

さらに始末に負えないのが、ユトナがあまりの混乱に陥ったあまり、咄嗟に傍らにいたキーゼの服の裾を掴んでしまったのだ。

故に、全く持って無関係なキーゼも共に湖へ飛び込む惨事となってしまった。

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