第13話
ユトナの視界に映るのは、青年の姿。
当然の如く、彼の視界にはユトナの姿が映っている事であろう。
…胸にサラシを撒いた、女性の姿が。
「──っ!? ちょ、オマエ…っ、何勝手に入って来てんだよ!?」
慌てふためきながら胸元を隠し青年から背を向けるも、時すでに遅し。
最初は訳が分からずぽかんとしていた青年であったが、色々と察するものがあったらしく次第に何やら合点が行ったかのような表情を浮かべた。
「もしかして…貴方、女性なんですか?」
「へぁっ!? いやいやいや、何でオレが女なんだよ、変な事言うなアホっ!」
「では、証拠を見せて頂けませんか? 貴方が男性だという…ね。試しにそのサラシを外して頂けますか?」
「えっ? あ、いや~これはちょっと無理なんだよな~」
「何故です? 男性ならば、別に胸くらい見せても何ら問題は無いかと思われますが?」
「だっ、だからこれには深い事情があんだよっ!」
「へぇ…そうですか。では、差し支えなければその事情とやらを教えて頂けませんかね?」
「さ、差し支えあるから駄目だっ!」
「おや、では何がどの様に差し支えるのでしょう? 詳しく聞かせて頂きたいのですが」
「うっ、そ、それは…」
暫くそんな攻防を繰り広げていた2人であったが、どんなにはぐらかそうとしても食い下がる青年に、遂にぐうの音も出なくなってしまったユトナ。
それでも何とか言い訳を捻り出そうとしていたが、それより先に青年がとどめの一言。
「…やはり貴方、性別を偽っていたのですね。確かにおかしいとは思いましたよ。男性にしては華奢というか…体格が小さいですからね。そういえば…貴方フェルナント国の騎士ですよね? ですが確か、あそこの騎士団は男性しか入れないと聞きますが…?」
「……! う、煩いっ」
完全に反論の機会を失ったしまったユトナは、苦し紛れにそう返すしかなかった。
──不味い、これは完全にどう考えても不味い。
今後、幾ら取り繕うとした所で、もう言い逃れは出来ないだろう。
何せ確たる証拠を目の当たりにしてしまったのだから、幾ら誤解だの自分は男だの主張した所で無駄な事。
もし、青年がこの事実を騎士団に漏らしでもすれば、その時点で自分の騎士としての人生はピリオドを迎える。
折角苦労して夢見ていた騎士団に入ったというのに、1日で辞めざるを得ないなんて空し過ぎる。
そう考えたユトナは、必死で青年に食い下がった。
「オマエが察してる通り…オレは男装して騎士団に入ったんだ。…なぁ、この事黙っててくんねーか? 折角頑張って此処まで来たのに、こんな所で諦めたくねーんだよ…! 黙ってたってオマエにはデメリットねーし、別にいいだろ?」
まるで青年に掴み掛らんばかりの勢いで懇願するユトナ。
一方、何か考え込むような仕草を取っていた青年であったが、やがてニヤリ、と口角を吊り上げた。
──そう、例えるならそれは…悪魔の微笑み。
「それでは私の方に全くメリットがありませんから…そうですね、ではこちらかも一つお願いをしても宜しいでしょうか? …貴方確か、王子をお探しでしたよね? その王子、見逃して頂けませんかね?」
「はぁ? 何でいきなり王子の話が出んだよ? それとオマエに、何の関係があんだ?」
まるで的外れな交渉に思わず間抜けな声を上げながら首を傾げるユトナ。
すると、青年はクスクス忍び笑いを零してから、おもむろに片目に付けている眼帯を外してみせた。
眼帯の奥に隠された青年の素顔を目の当たりにするや否や、ユトナの表情がみるみる青ざめていく。
だが、それもその筈。
青年の瞳は左右で異なる色、つまりオッドアイなのだ。
ユトナが他の騎士から聞いた王子の特徴、そのものであった。




