第4話
──そして時は現在へと戻る。
此処は国に使える騎士達が住まう宿舎。
朝という事もあってか、何処となく忙しない雰囲気が辺りを支配している。
そんな中、宿舎に住まうセオは窓から差し込む朝日でようやく目を覚まし、まだ寝足りないのかごしごしと目を擦ってみせる。
「ふあ~ぁ…。あーもう朝かぁ…準備しないと」
寝ぼけていてもとりあえず急いで準備をしなければならないという事だけは脳裏に浮かんでいるらしい。
ベッドからのっそりと起き上がると、クローゼットを開けて中に入っている普段着を取り出して着替え始めた。
もたつきながらもようやく着替え終わった所で、コンコン、と扉をノックする音が聞こえた。
「……? はい、どうぞー」
誰か居たっけ…? と首を傾げつつ、着替えも済んでいる事だし中に入って貰っても大丈夫か…と判断して扉に声をかけるセオ。
すると、おもむろに開いた扉から1人の女性の姿が飛び出した。
「お早うセオ君。今日はちゃんと起きられたみたいだね、偉い偉い」
「あ…お、お早う、レネードさん」
そういえば彼女の存在をすっかり忘れていた。
セオは心の中でそう呟きつつ、表面上では人当たりのいい笑みを浮かべてみせる。
一方、レネードはそんなセオの内心には全く気付いていないようで、けろっとした様子でセオの肩をポンポン、と叩くと、
「朝食作ったから、一緒に食べましょ? …あ、勝手にキッチン借りちゃったんだけど…大丈夫だったかな?」
「へっ? つ、作ってくれたのかい? いやいや、全然大丈夫だよそんな。むしろ、わざわざ作ってくれてありがとう」
「本当? あー良かった、後でセオ君に怒られちゃったらどうしようかと思ったよ~。さ、じゃ行こう?」
意外と気を遣ってくれているらしいレネードに驚いたようで目を丸くしつつも、彼女からの好意は素直に受け取る事にしたらしいセオ。
セオの対応が嬉しくてにこにこと満面の笑みを浮かべるレネードと一緒に居間に向かうと、早速朝食を取り始めた。
それからレネードが留守番をしてくれる事になり、彼女に留守を任せてから宿舎を出るセオ。
騎士の詰め所に向かうと、そこにはすでに大勢の騎士達がひしめき合っていた。
「うわ、皆早いなぁ…お早う」
「何だセオかよ、お早う」
詰め所の一角に屯する若い騎士の一団を見つけると、そちらへ足を運び声をかける。
親しげに挨拶する所から、どうやらセオと彼らは同僚なのだろう。
…と、若い騎士の1人がセオの姿を見るなり、自分の傍に来るよう手招きしてから何やらひそひそ声で耳打ちを始めた。
「……ところでセオ、あんたさぁ…あのエロいお姉さんと一体どういう関係なんだよ?」
「は? え、エロい…? …あぁ、もしかしてレネードさんの事?」
いきなり何を言い出すんだこいつは、という視線を向けつつ、ようやく若い騎士の言いたい事が分かったのかレネードの名を口にするセオ。
すると、若い騎士が俄然追及する気満々になったようで、ずいっと身を乗り出すとセオの肩に無理矢理肩をかけつつ早口でこう捲し立てた。
「あのお姉さん、レネードさんって言うのかぁ…。で、あんな美人でスタイル良くてエロいお姉さんと一つ屋根の下で暮らしてるって、それ何てギャルゲだよ? とりあえずきっちりがっつり説明して貰おうか」
「ちょっ…落ち着けって! 正直、俺だって未だに訳分からないんだよ。何せ、向こうが住む所無いから居候させてくれって…」
「な、何…だと!? くっそーうらやまけしからん! 今此処であんたみたいな奴なんざ成敗してくれるッ!」
「えぇっ!? 何でそういう結論になるんだよ!? 言っておくけど、こっちだってレネードさんに振り回されて大変なんだからな」
だんだん白熱してきた若い騎士達が本気で武器を抜こうとし兼ねなかったので、セオが慌ててそれを引き留めた。