第2話
「はぁ…まぁいいや、此処でユトナを責めてても始まらないし…これからどうするか考えようか。
勿論、僕は騎士団なんて入れないし…此処はやっぱり辞退するのがベストだと思うんだ」
騎士と言えば、高い志や忠誠心は勿論の事、国民を護れるだけの力──ひいては戦えるだけの能力が無ければとてもではないが勤まらない。
だが、残念ながら戦いに関してはからっきしのシノアでは、あまりにも荷が重すぎるのであろう。
シノアの中ではもう結論は出ていたのだが、何を思ったのかさらに食い下がったのがユトナであった。
「え~マジかよ、勿体ねーよそんなん。オマエ知ってんのか? 騎士団ってすげー人気あって、競争率も半端なくてすげー狭き門なんだぜ? そんな中、オレがどんな思いして合格勝ち取ったと思ってんだよ? いいか、辞退なんて死んでもすんじゃねーぞ」
「合格勝ち取ったって…どうせその試験だって、ユトナが暇潰しか何かで受けたんじゃないの?」
「ンな訳ねーだろ。…まぁ、腕試しってのもあったけど」
騎士団に入る事の難しさを切々と語るユトナであったが、シノアはというとイマイチ信憑性が無いようで。
首を傾げつつ、それでも彼が入団するには最大の問題があるのには変わりない。
「とにかく、ユトナが何と言おうが駄目だからね。大体、僕に武術の才能も技術も無いのは知ってるでしょ? そもそも、僕には荷が重すぎるんだよ」
「……、あー…それなら大丈夫、オレに秘策があっからよ」
何か思う所があるようで、悪戯を思いついた子供のような表情を浮かべるユトナ。
当然、シノアは訳が分からない、といった様子で、
「……? 秘策? ユトナ…何か企んでない?」
「企んでるなんて人聞き悪い事言うなよ。よっしゃ、オマエは此処で待ってろ、ちょっと準備してくる」
「は…? 準備って何の? ちょっ、ユトナ?」
シノアの反論など何処吹く風、むしろまるで聞いていないようでシノアの制止も聞かずにさっさと部屋から出ていってしまったユトナ。
煮え切らない気持ちを持て余しつつ、ユトナに振り回されるのは慣れているようでシノアは大人しく彼女が帰ってくるのを待つ事にした。
それから、暫くして。
足音が聞こえてきた為、ようやくユトナが戻ってきたと視線をずらしたシノアの視界に映り込んだもの、それは──…
「ゆ、ユトナ…? 何その格好?」
「何って…見りゃ分かんだろ、男装してんだよ。これなら女だってバレねーだろ」
男物の服を着た、ユトナの姿。
露出度は出来るだけ抑えつつも身軽な格好で、元々中性的な顔立ちだったせいか一見して女性とは思えない程だ。
しかも、胸元の膨らみもほとんど確認できず、はっきり言ってしまえば真っ平らと言っても過言ではない。
「如何だ、どっからどー見ても男だろ? それに、オレとシノアは顔そっくりなんだし、シノアのフリしとけばバレねーって。どうせ、騎士団にはオレ達の事知ってる奴ぁいねーんだし、シノアと性格が違うってバレる事もねーだろうからな。
…あ、あと胸にもサラシ巻いて潰してるから、全然胸も出てねーだろ?」
「まぁ確かに、外見だけすれば僕にそっくりだし、こうして見ると見た目も中身も何から何まで男だよ。というか、女性らしさなんて微塵も無いし。
それから…胸にしたって、元々全っ然胸無くて洗濯板だしね」
「……、オマエ、さらっとオレの悪口言いまくってねーか?」
「そう? 気のせいだよ多分」
ユトナをまじまじと眺めながら、冷静に分析するシノア。
所々聞き捨てならぬ毒舌も飛び交っていたが、それがわざとなのか無意識のうちなのか、知る由は無かった。
「とにかく、これなら大丈夫だろ? って事で、オレはこれからシノアになって騎士団に入るからな? いいだろ?」
「…え、それとこれは話が別だよ。大体、ユトナが僕になっちゃったら、僕はどうなるのさ? 流石に僕が2人いるって訳にはいかないし…」
どさくさに紛れて承諾を得ようとしたユトナであったが、当然と言えば当然、あっさりシノアによって却下されてしまう。
すると、ユトナは何をそんなに悩む事があるのか、とでも言いたげな程あっけらかんとした顔つきでこう、言い放つ。
「ん? そんなん簡単だろ、オマエがオレに成りすませばいいんだよ。早い話、お互い入れ替わろうぜって話」
「……え、ええぇぇぇっ!? それはつまり、僕に女装しろって事?」
「まぁ、一言で言えばそうなるな」