第6話
「そう…ですか。では貴方の言う“周りの望むように”して差し上げましょうか」
「……? おいオマエ、何する気…」
流石に不穏な空気を感じ取ったかのか、訝しげな眼差しをロゼルタに投げかけるユトナ。
しかし、彼女の視線に気づいていないのか、それとも気づいていてあえて無視したのか…ロゼルタは気にする素振り無くずかずかと歩を進める。
そして、一同が呆気にとられる中。
セオが寝ているベッドに膝をつくと、何の躊躇いも無く彼の首筋に手を押し当てたのだ。
「ちょ…!? 何やってんだよオマエ!?」
「おいおい…王子サマご乱心するにも程があんだろ」
まさかロゼルタがこんな突拍子もない行動に移るとは露知らず、一同にとってはセオも含めてまさに青天の霹靂。
暫く唖然としていたユトナ、キーゼ、ネクトの3人であったが、このままでは不味いとロゼルタを制止しようと腕を伸ばす。
「止めろって! セオが死んじまうだろ!?」
「…その手を退けなさい。それに、これは彼が望んだ事なのですよ? 彼はどうやら、他人に死ねと言われれば死ぬらしいですから」
「別にセオはンな事言ってねーだろ!」
「いえ、彼の言葉を要約すればそういう事でしょう。…さぁ、如何するのです? このまま死ぬか…抵抗したければ幾らでも抵抗して構いませんよ?」
制止しようとしたユトナの腕を邪険に振り払いつつ、ロゼルタの眼差しはセオを捉えて離さない。
“早く二択に答えろ”ロゼルタの双眸はそう訴えかけているようにも見えて。
それに比例するかのように、セオの首を絞める指にも少しずつ力を込めていく。
指はセオの柔らかな首筋にめり込んでいき、彼の気道をじわじわと責め立てる。
苦しげに顔を歪めるセオ。
それでも尚、ロゼルタは冷淡な表情のまま。
「早くしなければ…本当に死にますよ? 貴方には…自分の意志と云うものが無いのですか?」
「かはっ…ぐぅ…っ」
──息が苦しい。
必死に空気を取り込もうとするけれど、狭くなった気道ではなかなか上手く呼吸が出来ず。
そういえば…何故自分はこんな目に遭っているのだろう。
何時だって周りに流されて…周りの人が良ければ、自分はいつも後回しだったような気がする。
けれど…本当にそれでいいのか?
“俺自身”は一体どうしたいんだ?
──そんなの分かっている。最初から分かっていた。
けれど、周りばかり気にして、罪悪感を感じて…聞こえないふりをしていた。
こんな所で死ぬくらいだったら──…
「……っ、はぁっ…い、嫌だ…俺はこんな所で…死にたくないし、ずっと…皆と一緒に、此処に居たいんだ…!」
途切れがちではあったけれど、掠れて今にも消え入りそうだったけれど…確かに紡がれた、セオ自身の心の叫び。
彼の声だけがいやに一同の胸に刻まれるかのように、室内に響き渡った。
それを皮切りに、やけにあっさりと首筋の拘束が解かれる。
漸く空気を思い切り吸い込める感覚に開放感を覚えつつ、視線をずらせばやけに満足げな表情を浮かべるロゼルタの姿が映り込む。
「おいロゼルタ、オマエどーいうつもりだよ!?」
「フフ、良かったじゃないですか、お友達の本心が聞けて」
「は? …もしかしてオマエ、その為に…」
もしや、と訝しげにロゼルタを見遣るユトナであったが、ロゼルタと言えば本心を覆い隠すように微笑みを湛えるばかり。
全く食えない奴だ、と溜め息を零すユトナも気に留めず、ロゼルタは改めてセオを見据えた。
「確かに、多少荒療治でしたけれどね。ですが、漸く本心を語ってくれましたね?」
「え、あ…俺は…」
無意識のうちに、咄嗟に口から滑り落ちた言葉。
自分でも驚いているのか、実感すら湧かないのか…セオ自身、自分が放った言葉が信じられないと言った様子でぽかんとするばかり。
「さて、と…お節介ついでに、ちょっといいですか」
きょとんとするセオを尻目に、いきなり彼の腕を掴んだかと思えば、手早い動作で拘束道具を外すロゼルタ。
最後にセオの首に付けられた首輪を外すと、毅然とした声色でこう言い放った。