第4話
おずおずと申し訳なさそうに苦笑いを浮かべるセオの姿を視界に捉えるなり、感極まったユトナが鉄砲玉のように駆け出すとその勢いのままセオに思い切り抱き付いた。
しかしその勢いの凄まじさに軽くタックルを食らったような形になってしまったが、ユトナがそれを知る由も無く。
「げふっ!? ちょっ、ユ…じゃなくてシノア、首締まってるんだけど…苦しい…」
「へ? あー悪ぃ悪ぃ。ちょっと勢い余って…な? でも、元気そうで本当良かったぜ! 一時はどうなる事かと心配したんだからな…!」
「それは…本当にごめん。でも、俺はもう大丈夫だから」
「本当か? 本当に大丈夫なんだな? どっかいてーとか、苦しいとかはねーのか?」
「それも大丈夫だよ。別に、何処か怪我したって訳でも無いしね」
「そっか、それならいいんだけどさ…未だにオレもさっぱり訳分かんねーよ。大体、セオは何も悪い事してねーのに何でこんな事になっちまったんだよ…!」
セオが無事なのを確認するとゆっくり彼から離れるものの、今度はふつふつと怒りが込み上げてきたのか声を荒げるユトナ。
しかし、セオと言えば返答に困った様子で苦笑いを浮かべるのみであった。
「確かにセオは悪くないよな。諸悪の根源はあの魔術師なんだし」
キーゼもユトナの主張に賛同するようにうんうん、と頷いて見せる。
すると、小さく咳払いをした後、場を纏めようとロゼルタがこう切り出した。
「その辺りも含めて、今後に関して私の方から説明いたします。今回の件は、オブセシオンが禁忌の魔術に手を出した結果暴走させてしまったという事で周りには説明してあります。彼には全責任を取って宮廷魔術師の位を剥奪、城から追放命令を出しました。細かい事は適当に誤魔化しておきましたので、今後セオルークが咎められる事は無いでしょう…彼はあくまで被害者と説明しましたから」
淡々と成り行きを説明するロゼルタであったが、その内容に思わず苦虫を噛み潰したような表情を浮かべるユトナ。
「うわ、全部アイツのせいにして面倒事押しつけやがったのかよ…相変わらずえげつねーなオマエ」
「おや、そうですか? 確かに私も彼の計画に加担してしまいましたが、それも弱みを握られての事。これくらいの報復、やった所で罰は当たらないでしょう?」
「…絶対オマエだけは敵に回したくねーな…」
「ふふ、それは誉め言葉として受け取っておきますよ」
確かにオブセシオンに対しては恨みつらみも無い訳ではないが、こうも完膚なきまでに反撃を食らって流石に不憫という気持ちを禁じ得ない。
しかも、先程の内容をにこやかな態度で言い淀みなく説明するのだから、ある意味恐ろしい。
ユトナのジト目をあえて軽やかにスルーしつつ、ロゼルタの視線はセオへと向けられる。
「それから最後に、貴方の処遇についてです。体調が戻り次第、速やかに騎士団に復帰する事。分かりましたね?」
「…え? 俺…騎士団から追放されたりとかは…?」
セオにとっては青天の霹靂だったようで、瞠目したきりその場に硬直してしまうセオ。
「する訳が無いでしょう。まぁ、暫く監視はつくでしょうがね。勿論、貴方に咎は無いという意味合いもありますが…王宮の手元に置いた方が何かあった際に対処しやすい、という判断もあるでしょうね」
何を言っているのだ、とでも言いたげにあっけらかんとした態度で言ってのけるロゼルタに、セオは些か拍子抜けしてしまったよう。
じんわりと胸の奥に嬉しさが込み上げてくるのとほぼ同時に、ユトナにばしばしと肩を叩かれて思わず前につんのめりそうになる。
「何だよー追放なんて言うなよな脅かしやがって。これからも一緒に頑張ろうぜ!」
「小並感だけど本当に良かったな」
「確かに、セオに何ら落ち度は無いのだから当然の結果だな。また一緒に騎士として任務を熟す事が出来て嬉しく思う」
ユトナだけでなくキーゼとネクトもセオの傍に歩み寄り、それぞれ労いの言葉をかける。
何よりも皆の気持ちが嬉しくて、自分は世界にたった1人なのではないと実感させられる。
けれど。
皆の気持ちが嬉しいと思えば思う程、自分は此処に居てもいいのか…皆の優しさに甘えてもいいのか、という疑念がセオの胸を過ぎる。
今はこうして康寧な状態を保ち続けているものの、もしまたいつか力を暴走させてしまったら…しかも、自分では全く制御出来ないのだから不安は尽きない。