第1話
セオとレネードが出会った頃より、時は遡る。
城下町の一角にある、小さな家。
此処には依然、老夫婦と双子の男女が仲睦まじく暮らしていた。
しかし、今この家には双子の姿しかおらず。
それもその筈、つい半年程前、老夫婦は相次いで亡くなってしまったのだ。
残されてしまった双子達。
今までは老夫婦の世話によって毎日暮らす事が出来たが、今はもうそんな後ろ盾は無い。
だからこそ、2人で自立して生活する事を誓った2人なのだが…。
そんな中、とある晴れた昼下がり。
郵便屋がこの家に一通の手紙を配達した事から、全ては始まった。
「はい、御苦労さまですー」
アビスグリーンの絹糸のような髪が風に遊ばれ、華奢で中性的ないでたちは性別を判別しにくくする要因にすらなっていて。
郵便屋が配達してくれた手紙を受け取るのはこの家の住人、双子のうちどちらかなのだろう。
「えーっと、宛先は…あれ? 僕充て…? しかも国からって…何かあったっけ…?」
思い当たる節が無いのかきょとんと首を傾げつつ、家の中に入りながら早速手紙を開封してみる。
中には便箋が1枚入っており、逸る気持ちを押さえながらゆっくりと便箋に書かれた文章に目を通してゆく。
読んでいくうちに、この人物の顔が見る見る青ざめてゆく。
かと思えば今度は便箋を握る手がわなわなと震え、青ざめていた顔は次第に怒りに支配されていった。
ほとんど無意識なのだろう、まるで何かに導かれるようにすたすたととある場所へと向かう。
目的地へ到着するなり、その人物は手にした便箋を高々と突き付けてみせた。
──目的地に居る、とある人物へ向けて。
「ユトナ…これ、どういうつもりだよ!?」
「…へっ? 何だぁ? 何1人でカリカリしてんだよシノア、とりあえず落ち着けって」
「これが落ち着いて何ていられるわけないでしょ!」
便箋をつきつけられたのは、アビスグリーンのショートヘアで勝気そうな少女──ユトナ。
しかも、シノアと呼ばれた人物とはよく似た顔立ちをしている事から、どうやら2人は双子なのだろう。
堪忍袋の緒が切れた、と言わんばかりに今にも大噴火を起こしそうなシノアとは対照的に、へらっとした態度でまるで緊張感の欠片も無いユトナ。
ユトナのそんな小馬鹿にしたような態度が、シノアの神経をさらに逆撫でしてゆく。
「だーかーら、これ見てよコレっ!」
「ん? どれどれ…へぇ~これ、国から来た郵便か。何々…貴殿、シノア=レインハークは先日行われました騎士団入団試験に合格致しました。おめでとう御座います。つきましては、入団の手続きを……だってさ。
すげぇなシノア~、いつの間に受けたんだよ?」
「~~っ…僕がそんなん受ける訳ないでしょーがっ! こんな事するのはユトナ以外いないじゃん! しらばっくれても無駄だよ!?」
遂にシノアの怒りが大噴火。
顔を真っ赤にしながら烈火の如く怒り狂うシノアを見て、ようやく冗談では済まないと判断したらしいユトナは、急にポリポリと決まり悪そうにしてみせた。
「あー…そういや受けたっけかな? あそこの騎士団は女じゃ受けらんねーから、悪いとは思いつつシノアのフリして受けたんだよなぁ。
いや~、それについてはホントに悪かったって。それにしても、まさか受かるとは思わなかったぜ。まぁ許せよ、なっ?」
シノアの前で両手を合わせながら、へらっと笑いつつ許しを請うユトナ。
しかし、この程度の謝罪で納得できる程、軽んじられる内容では無くて。
「もうっ…何でこう、行き当たりばったりな事を平気でするんだよ…? それに、ユトナ1人だけの問題なら別に何したって構わないけど、僕まで巻き込まないでくれる?」
「オマエ…さらっとひでー事言わなかった?」
「……何か悪い事言った? 大体、こんな事やらかしといて、ユトナが文句言える立場ないよね?」
「…うっ、シノア怖ぇよ、目が据わってるって。まぁまぁ、とにかく落ち着けって」
シノアは基本大人しくて引っ込み思案、控え目な所があるが、親しい相手や感情が高ぶった時等は、意外と毒舌で黒い所があるらしい。
だが、こうして言い争いをしていても状況は進展しないと思い直したのか、シノアははぁ、と深々と溜息をついてからユトナの方へと向き直った。