第7話
「まずは、王宮に仕える身寄りのない者を集めました。万が一、何かあったとしても…隠しやすいからと。そして、特殊な術式を用いて人間の体内に魔耀石を埋め込んだのです」
「え、魔耀石を…? そんな事して、大丈夫なの…?」
信じられない、と言った様子で眉をしかめながら、思わず内心を吐露するシノア。
そう思われても無理はない、とロゼルタは頷いて見せた。
「大丈夫な訳が無いでしょう。魔耀石の力が強すぎて、人間の肉体の方がそれに耐えきれなかったのですよ。沢山の人々が実験台にされてきましたが、実験は失敗の繰り返しで皆犠牲に…」
刹那、一同の回りを取り囲む空気が一瞬にして張り詰めたものになる。
それも無理は無いだろう、ロゼルタが口にした真実は、あっさりと受け止めるにはあまりにも重すぎるものであったのだから。
「土台、無理な話だったのですよ。そもそも、魔耀石自体得体の知れない代物なのですからね。私達人間が扱えるようなものでは無い。そのせいで犠牲になってしまった人達には、謝罪してもしきれない…」
「犠牲って…オマエ何考えてんだよ!? 幾ら身寄りが無かろうが何だろうが、1人の人間である事に代わりねーだろ! オマエら人の命なんだと思ってんだ!」
ロゼルタの絞り出すような声を遮る様に、ユトナの怒号が響き渡る。
今にも掴み掛らんばかりの勢いであったが、咄嗟にロゼルタの傍に控えていたネクトに制止された為事なきを得たが。
ロゼルタもまた、ユトナの言い分も尤もだと思ったのか、自らの過ちを悔いているのか…一切言い訳も弁解も口にしようとはしなかった。
「確かに貴方の言う通りですよ、私は弁解するつもりはありません。…話を戻しますよ。セオルーク=リゼンベルテ…何処か、耳にした事のあるような…不思議な感覚があったのですよ。それで、もしやと思い先程言った実験の記録を探して読み返していたのです。…やはり、私の既視感は勘違いでは無かった」
「まさか…セオがその実験の被検体だったって事…?」
半信半疑で、震える声を必死に奮い立たせながら言葉を紡ぐシノア。
出来る事ならば、自分の仮説が間違いであって欲しい。
けれど、シノアのそんな儚い思いは次いで放たれたロゼルタの返答は無惨にも砕け散る羽目となる。
「…ええ。彼は唯一生き残った被検体です。当時、私が密かに書き記しておいた記録の中に、確かに彼の名前が残されていましたから」
「で、でも…もし若様の言う事が正しいなら、セオがその…適応者とかいうのなんでしょ? それなら何で、ユトナが狙われたの?」
「いえ…確かに生き残ったのは彼だけですが、実験自体は失敗しました。彼の体内に埋め込まれた魔耀石は元々彼が宿している魔力と反発し合い、結果力を失ってしまったようなのです。つまり、適応者としては程遠い…」
そこまで話を聞いていた所で、セルネが合点が行ったように頷いて見せた。
「適応しない者に無理矢理魔耀石を埋め込んだ所で、そうなるのは火を見るより明らかじゃからのう。成程、ようやく現状が飲み込めてきたわ。先日の蒼月の日によって蒼い月光を浴びてしまった事で、セオの体内に宿っていた魔耀石が暴走したのじゃろうな。魔物が蒼月の日に暴走してさらなる異形の存在へと変貌するのも、お主らも知っておろう?」
ようやく、バラバラに散らばっていた謎が一つの真実へと繋がっていく。
セルネの仮説に同意するようにロゼルタも頷いてみせるが、理解は出来ても納得するにはあまりにも残酷すぎる真実であった。
「…オブセシオン、貴方も途中から気づいていたのでしょう? だから、躍起になって彼を始末しようとした。…違いますか?」
ロゼルタの確信めいた鋭い言葉は、険しい表情を浮かべ無言を貫いていたオブセシオンを突き抜けてゆく。