登場人物(悪魔2)
★エウリノーム 『シワと傷の悪魔』で初登場
『地獄の辞典』の著者であるコラン・ド・プランシーが創作したとされる悪魔。その名はギリシア神話の女神・エウリュノメー(海神オーケアノスの娘)に由来すると考えられている。しかし、エウリノームの外見は女神とは程遠く、頭には2本の角があり、目を見開いて、鼻と耳を尖らせ、顎鬚を生やした醜悪な老人の姿をしている。『地獄の辞典』(1863年版)によれば、古代ギリシアの都市・デルポイ(現在のデルフィ。パルナッソス山南麓に位置する、アポロンの信託が行われていた聖域)の神殿には、ハゲタカの皮の上に座した魔神エウリノームの像が置かれていたという。
『悪魔倶楽部』に登場するエウリノームも原典をなぞった外見をしており、頭部に2本の角、全身に多数の傷を負った醜悪な老人の悪魔として姿を現す。また、狐の毛皮を纏っている。素早い動きと並外れた跳躍力で相手を翻弄し、麻痺毒の息を吐くという設定になっているが、そちらは完全に小説用の創作である。『悪魔倶楽部』に登場する悪魔は、魔界に1体しか存在しないタイプと、複数体存在するタイプの両方が存在する。エウリノームは後者であり、初登場以来も何度か登場しては、そのたびに樹流徒たちに葬られている。
★カーリー 『漆黒の地母神』で初登場
インド神話の女神。破壊神シヴァの妻。その名には“黒き者”の意味がある。ドゥルガーやサティーと同様、パールヴァティーと同一視されることがある。また、パールヴァティーが変身した姿とされたり、一側面とされることもある。カーリーは恐ろしい外見を持っている。顔は血にまみれ、3つの目は血走り、常に舌を垂らし、腕は4本ある。手の1本に武器を、別の1本に巨人の首を持ち、残り2本は天を向いて祈りを捧げている。また、黒い肌の上に虎の皮を纏い、頭蓋骨のネックレスや切断した腕の帯を身に着けている。
『悪魔倶楽部』のカーリーはおおむね原典と同じ姿をしているが、少し恐ろしさを抑えられている。元の外見を少し簡略化した姿と言った方が正しいかも知れない。肌は黒く、舌を垂らし、腕が4本あるという基本的な部分はそのまま、手から生首をぶら下げたり切断した腕の帯を身につけているなどの特徴は省かれている。カーリーはあらゆる攻撃を通さない鉄壁の肉体で樹流徒の能力をことごとく防いだ。しかし、魔空間の特性を活かした青年の機転によって実質的に敗北する。その後、素直に負けを認めたのか、無言でどこかへと歩き去っていった。
★フルーレティ 『メイジは語る(後編)』で初登場
ルシファー、ベルゼブブ、アスタロトに仕える上級悪魔。ソロモン72柱の悪魔であるエリゴス、ピュルサン、マルティムを配下に持つ。仕事を命じると夜の内に片付けてしまう。また、望む場所に雹を降らせる能力を持つ。
『悪魔倶楽部』のフルーレティは、メイジの回想の中で語られるという特殊な初登場の仕方をしており、現時点(第156話まで投稿の時点)では樹流徒と1度も遭遇していない。メイジはフルーレティについて以下のように語っている。「ソイツはほぼ人間の姿をしていた。中性的な顔立ちをした男で、長く尖った耳と燃えるように真っ赤な瞳を持っていた。全身の肌はうっすらと青い。それらを除けば人間と区別がつかない。黒い衣を纏い、言葉を解する悪魔だった」。尚、『悪魔倶楽部』では既にマルティムが登場しているが、フルーレティの配下だという描写は今のところ無い。
【追記】
第166話『戦域離脱』の最後で樹流徒とフルーレティの初対面が実現した。
★サレオス 『保険』で初登場
ザレオス、ザエボス、サロスなどとも呼ばれる。ソロモン72柱の悪魔で序列は第19位。30の軍団を指揮する地獄の公爵。公爵の宝冠を被り鰐に跨った雄雄しい戦士の姿で現れる。温和な性格をしており、酒を好む。男女の間に愛を芽生えさせる力を持つ。
『悪魔倶楽部』のサレオスも、先に紹介した悪魔・フルーレティと同じくメイジの回想に登場したのみであり、現時点(156話の時点)では樹流徒と出会っていない。メイジはサレオスについて「冠と鎧を装備したオッサン騎士で、鰐を駆る悪魔(一部抜粋)」と、語っていた。ベルゼブブの一味という設定になっており、メイジがベルゼブブの仲間に入るために課せられた試験(イブ・ジェセルのメンバーを襲撃すること)の結果を見届け、それをベルゼブブたちに報告する役目を受けていた。しかし、いざ現世を訪れたところ「天使の犬は後回しにしてしばらく現世で遊ぼう」「色々と楽しい場所に案内してくれないか?」などとメイジを誘って試験を後回しにさせた。その結果、フルーレティから注意を受けたようである。
★インキュバス 『トラウマ』で初登場
インクブスとも呼ばれる。夢魔や淫魔などの通称で知られており、名前の由来はラテン語のincubo(横たわる)。眠っている人間の女を襲い、誘惑し、そして交わり悪魔を産ませる。先に紹介しているサキュバスはこのインキュバスの女性版である。ただし両者は同一の存在であり誘惑する人間の性別によって姿を変える、という説がある。この悪魔は魔女の使い魔になることもあるようだ。
『悪魔倶楽部』に登場するインキュバスは、全身真っ白な肌の小人型悪魔として登場する。同く小人型悪魔として登場するチョルトと似た容姿を持っているが、インキュバスはチョルトに比べて体がひと回り大きい。また、角が無く、耳が異様に長細く尖っている点などもチョルトとは異なる。黒い霧を口内から吐き出し、それを浴びた者を睡魔に誘う能力を使用するが、この設定は小説用の創作である。
★バーバ・ヤーガ 『魔女』で初登場
スラヴ民話に登場する魔女。ババ・ヤガー。バーバ・ヤガ(ー)とも呼ばれる(むしろそちらの呼称が正しいようである。ロシア語の表記に従った発音をするとバーバ・ヤガーが一番近く、バーバ・ヤーガという呼び方はしないらしい)。バーバ・ヤーガは1本の巨大な鶏の脚を土台にし、人間の骨で作った生け垣に囲まれた奇妙な家に住んでいる。細長い臼に乗り、杵で地面を突き、箒で跡を消して移動する。その様子はイヴァン・ビリービン(ロシアの絵本・挿絵画家)が描いた絵画で見ることができる。子供をさらって鍋で煮て食べてしまう恐ろしい魔女だが、良い子は食べない。どうやら善良な人間に対しては力を貸してくれるようで、森に迷った人間に道を教えてくれたり魔法の馬を与えてくれたりする。
『悪魔倶楽部』では、樹流徒が召喚した悪魔という形で初登場する。小柄な老婆で、黒いとんがり帽子とローブを身に付け、片手に箒を持つという、誰もが一見して“魔女”という単語を連想しそうな姿をしており、これはビリービンが描いたバーバ・ヤーガとはかなり違う。召喚されたバーバ・ヤーガは樹流徒たちに魔法の馬を貸す条件として魔界の貨幣に関するクイズを出した。結果、ベルに正解を見つけられてしまう(厳密に言えばベルは最初から答えを知っていた。これについては後に紹介するリリスの項で説明)。バーバー・ヤーガが貸してくれた魔法の馬は、全身を白い毛に覆われた体長4メートル以上の巨馬で、自身と騎乗者の姿を透明にする能力がある。この設定は小説用の創作である。魔法の馬は市民ホールの周囲を固める悪魔の群れの中を突っ切って樹流徒たちを敵陣へと潜入させた。余談だが、現在バーバ・ヤーガの名前表記をババ・ヤガーかバーバ・ヤガーに変更すべきかどうか検討中。
★スヴァルトアールヴ(黒アールヴ) 『潜入』で初登場
北欧神話に登場する世界は3つの層に分かれている。そして第2層の中には黒い妖精の国・スヴァルトアールヴヘイムが存在し、黒アールヴはその国の住人である。黒アールヴは肌が黒くて背は低く、醜い姿をしているという。地中を好み、太陽の光を浴びると石になってしまう。
『悪魔倶楽部』の黒アールヴは醜い姿ではなく、少女のようでもあり、大人のようでもある顔をした女性型悪魔として登場する。身長は1メートル前後で、肌は褐色。耳は長く尖っている。手を触れずに離れた物体を動かす念動力の使い手だが、これは小説用のオリジナル設定。黒アールヴはオセが生み出した魔空間の中で樹流徒たちと戦闘を行った。そして念動力を使ってベルのスタンロッドを奪ったり、南方の銃を遠隔操作して樹流徒に大きなダメージを与えた。だが、最後は南方が放った炎の銃弾に額を撃ち抜かれて絶命した。余談だが、『悪魔倶楽部』では神でも妖精でも魔界の住人たちは全て“悪魔”と呼んでいる。そのため、黒アールヴの場合は妖精であり悪魔でもあるという扱いになっている。
★オセ 『石の塔』で初登場
オズ、ヴォソなどとも呼ばれる。ソロモン72柱の悪魔で序列は第57位。『悪魔の偽王国』では第56位。30の軍団を率いる地獄の大総裁である。召喚されると優美な豹のような姿で現れるが、すぐに人間の姿になる。人間をあらゆる姿に変えるが、変身させられた者はそのことに気付かず暮らし続けるという。
『悪魔倶楽部』では、オセは黄金色の瞳を持った体長2メートル超の豹頭悪魔として登場する。真っ白なローブを纏い、手には青い水晶の球が埋め込まれた杖を握っている。人を狂気に陥れる能力でベルを混乱させ、樹流徒たちと同士討ちをさせた。もっとも実際はベルはオセの能力を受けていない(これについては後に紹介するリリスの項で説明)。さて、オセは樹流徒たちに対して「私は他の悪魔と違いニンゲンが相手でも油断はしない」という旨の発言をしていた。しかし本当のところはオセ自身が誰よりも人間を侮り油断をしていたらしく、最終的にはそれがあだとなって敗北を喫することになる。それは戦闘中のオセの口数の多さを見ても明らかである。また台詞自体もどこか芝居がかっており、オセの油断が表れている。
★ブエル 『瀬戸際』で初登場
ソロモン72柱の悪魔。『ソロモンの小さき鍵』では序列第10位だが、『悪魔の偽王国』では第7位。50の軍団を率いる地獄の大議長である。ブエルは変わった姿をしており、獅子の頭から5本の脚が放射状に生えている。胴体は無く、脚を使って転がるように移動する。何故このような姿をしているのかというと“ブエルは元々星型のヒトデのような姿をしていた悪魔だったから”という説がある。しかし『悪魔の辞典』に描かれた挿絵によって現在の姿が定着したのだという。ブエルは哲学、自然科学、論理学、薬草学、植物学などに通じ、それらの知識を召喚者に与えてくれる、見た目に寄らず博識な悪魔である。
一方、『悪魔倶楽部』に登場するブエルが読者の方々に与えるイメージは、原典と大分異なっているだろう。外見こそ『悪魔の辞典』の挿絵をなぞっているが、言葉遣いは乱暴だし得意の知識を披露するといった場面などが一切なかったため、知的な悪魔どころかむしろ粗暴な悪魔として描かれている。ベルゼブブの一味という設定になっており、悪魔の増援部隊を率いて市民ホールに現れたが、黄泉津大神にやられてアッサリと意識を失ってしまった。更に術をかけられて儀式に関する情報を引き出され、最後は自爆で樹流徒たちを道連れにしようとするものの、それすら阻まれてしまう。『悪魔倶楽部』の中では少々不遇な扱いを受けてしまった悪魔と言えそうだ。
★マルバス 『三つ巴』で初登場
バルバスとも呼ばれる。ソロモン72柱の悪魔で、序列第5位。36の軍団を率いる地獄の大総裁。召喚されると獅子の姿で現れるが、召喚者の望みに応じて人の姿になる。多数の能力を持つ悪魔で、秘密の事柄について語ったり、病気を与えたり治したりする。更には機械技術に関する知識を与えたり、人間の姿を別のものに変えたりもできる。シェイクスピアの『ヴィンザーの陽気な女房達たち』『ヘンリー5世』にはバルバスン(またはバルバソン)という悪魔が登場するが、これはマルバスのことではないかと考えられている。
『悪魔倶楽部』のマルバスは黄金の鬣と群青色の毛皮を持った、2足歩行が可能な獅子の悪魔として登場する。赤い瞳を持ち、口の隙間から常に黒い息を漏らしている。マルバスは天使・パワーと戦闘をしている最中に樹流徒と遭遇し、それまで樹流徒と対峙していた天使・ドミニオンも巻き込んで三つ巴の戦いを始めた。戦闘大好きな悪魔という設定になっており、単に敵を倒すことよりも戦いを楽しむことを目的にしている。成り行きで僅かな時間とはいえ樹流徒と手を組んだりもした。マルバスは樹流徒が初めて共闘した悪魔である(リリスに操られていたベルや、樹流徒に召喚されたベヒモスなどを除いた場合)。爪から青い三日月の光を放ち建物を引き裂く能力を使用したが、当然ながらそれは小説用の創作である。
★リリス 『剥がれた仮面』で初登場
リリトとも呼ばれる。男児や妊婦を襲う女性の悪魔。アダムの最初の妻にして、サタン(ルシファー)の妻でもある。名前の由来はヘブライ語の“リーリース”で、語幹のリースには“夜”の意味がある。そのことからも分かるように彼女は夜の悪魔であり、『イザヤ書』では“夜の魔女”と記されている。リリスは長い髪と翼を持ち、足には鉤爪が生えているという。また、フクロウに似た姿という説もある。アダムと別れたリリスは楽園を去り、紅海沿岸に移り住んだ。そして悪魔たちと関係を持ちリリム(またはリリン)と呼ばれる種族の魔物を生んだ。
『悪魔倶楽部』のリリスはベルゼブブの仲間として登場する。外見については青白い肌の若い女性の姿をしており、唇は紫色、強いウェーブがかかった紫色の髪を腰の辺りまで垂らしている。背中からは一対の灰色の羽が生え、蛇の皮膚のような模様が広がっている。四肢の指先から赤紫色の鋭利な爪が伸び、露出度の高い漆黒のコスチュームを身につけている。リリスは、ベルの体を乗っ取り、スパイとして長い間イブ・ジェセルに潜入していた。そのためベル(リリス)は最初からバーバ・ヤーガのクイズの答えを知っており、彼女が問題に正解できたのは偶然などではなく、むしろ必然の結果だった。また、ベルに乗り移ったリリスは、オセの能力を受けたときにも混乱した演技をしていた。彼女は実際には操られておらず、自分の正体がバレないことを第一に考えて見事に樹流徒とオセの双方を騙しきったのである。ちなみに本編には書かれていないが、リリスがイブ・ジェセルに潜入している事を知らされていたのはベルゼブブとメイジを含めたごく数名であり、これはリリス本人の希望によるもの。天使が現世に現れたことで潜入作戦が潮時だと判断したベルゼブブの指示により、リリスは魔界へ帰還した。
★フルカス 『裏道化師』で初登場
フォルカス、フォーラス、フォウルカスなどとも呼ばれる。ソロモン72柱の悪魔で序列は第50位。20の軍団を指揮する地獄の騎士。青ざめた馬に乗り、槍を持った、長髪で白髭の老騎士の姿で現れる。薬草、宝石に関する知識に詳しく、哲学、論理学、美学、天文学、修辞学にも通じている多才な悪魔。更には占いも得意としている。ソロモン72柱の悪魔で序列第31位のフォラス(この悪魔もフォルカスという別名を持つ)と混同されることがある。また、北欧神話の主神・オーディンとの関連性を指摘されることもある。
『悪魔倶楽部』のフルカスは落ち着いた言動をする老騎士として描かれている。ただし残忍な性格を思わせる鋭い瞳を持っている。また、その他の外見的特長ははおおむね原典通りだが、フルカスが騎乗するという青ざめた馬は今のところ登場していない。九舘地下街にいたフルカスは、そこを通りかかった樹流徒に対して「死相が出ている」と言って、無理矢理彼を呼び止める。そして樹流徒の死相を消すために、ワイルドポーカーと麻雀の裏ドラ要素を加えたオリジナルのゲーム“裏道化師”をしようと持ちかけた。
★ゴグマゴグ 『裏道化師』で初登場
イギリスに伝わる巨人の悪魔。名前には「敵対者」の意味がある。ブリテン島に上陸したブルトゥス(ブルータス)軍と戦い、コリネウスとの一騎打ちに敗れて死亡した。ゴグマゴグは、ゴグとマゴグという巨人の兄弟をあわせて呼ぶのだという説がある。ローマ皇帝ディオクレティアヌスの娘たちは夫殺しの罪でブリテン島に流され、そこで悪魔の妻となり子を産んだ。それがゴグであり、彼にはマゴグという兄弟がいたという説である。ゴグとマゴグの名前は『エゼキエル書』や『創世記』にも登場する。
『悪魔倶楽部』に登場するゴグマゴグには、ゴグとマゴグの兄弟説が採用されている。外見は猫の頭部と人間の体を持った獣人という設定で、体は大きく、頭に王冠を載せている。ゴグは青目の白猫で、はきはきした声で喋り活発な印象を与えるキャラクターとなっている。それに対しマゴグは赤目の黒猫で常に眠たそうな顔をしており、のんびりした雰囲気を持っている。ゴグマゴグは前の項で紹介したフルカスと共に登場した。ちなみにゴグマゴグの名前が判明するのは『ゲェム開始』の時である。
★ロンウェー 『異形の青年たち』で初登場
ロノウェ、ロネヴェ、ロノベなどとも呼ばれる。ソロモン72柱の悪魔で序列第27位。侯爵にして偉大な伯爵であり、19の悪霊の軍団を指揮する。『地獄の辞典』の挿絵には杖を持った頭の大きな小男として描かれており、尻尾が生えたその姿はどこか猿に似ている。また『ソロモンの小さき鍵』では怪物の姿で現れるとだけ解説されている。修辞学を教え、言語に関する知識を持ち、召喚者に友人や敵からの好意を与える。また忠実な使い魔を授けるという。
猿じみた姿のロンウェーだが『悪魔倶楽部』では完全に猿の姿で登場する。全身を黄土色の毛皮に包まれ、背は人間の腰くらいまでしかない。悪魔倶楽部のコックということで手には出刃包丁を持っている設定になっている。ただし常に持ち歩いているわけではない。外見通り身軽で、優れた跳躍力を持っているが、その能力が活躍する場は与えられなかった。初登場時は樹流徒に頭を踏まれて水堀に転落し、『魔界へ』において樹流徒にリベンジしようとするものの一撃で気絶させられた。ロンウェーが初めて姿を現したのは『異形の青年たち』のときだが、名前はもっと早い段階で出ていた。
★ピクシー 『進めグリマルキン(前編)』で初登場
イングランド南西部に伝わる森の妖精。虫の羽を生やした小人で描かれる場合が多い。悪戯好きで、人間を道に迷わせたり、牛の乳を出なくしたり、ランプの明かりを消してしまったりする。ピクシーの名前は妖精パックが由来と言われている。パックは上半身が人間、下半身が山羊という姿を持つ妖精で、シェイクスピアの『夏の夜の夢』では浮気草を使って恋の騒動を引き起こす役として登場する。
『悪魔倶楽部』のピクシーも虫(蝶)の羽を持つ小人の姿で登場した。魔界の第4階層・貪欲地獄の地中空間で、蜘蛛の巣に絡まっているところを樹流徒に助けられた。人間を凶悪な生き物だと思っており、救出されたあとも樹流徒を恐れている様子だった。ただ、『悪魔倶楽部』の物語の中ではピクシーにとって人間以上に恐ろしい存在がグリマルキンである。なんでも食べるグリマルキンは、妖精すら食べてしまうからだ。
★ガルグユ 『ガーゴイル3兄弟』で初登場
ガルグイユとも呼ばれる(むしろガルグユよりもガルグイユと呼ばれることのほうが多いようだ)。その名前には「食道」や「喉」といった意味がある。セーヌ川に住み人々を襲う竜の姿をした怪物で、フランス北部の都市ルーアンを襲った。長い首と四本のヒレという外見的特長を持ち、口から大量の水を吐き出して洪水を起こすことができる。先に記載されているガーゴイルの項でも触れているが、ガーゴイルの語源はこのガルグユらしい。
『悪魔倶楽部』のガルグユはドラゴンの姿をしていることを除けば原典とはかなり違う。脚は生えているが4本のヒレはないし、吐き出すのも水ではなく緑色の毒息という設定になっている。ちなみに皮膚の色は紫。ガーゴイル3兄弟の相棒という形で登場して樹流徒と戦ったガルグユだが、樹流徒が放った麻痺毒を吸い込んで動けなくなった。
★ベルフェゴール 『忘却の大樹』で初登場
キリスト教の七つの大罪において『怠惰』を司る悪魔。その名には“人間嫌い”の意味がある。『地獄の辞典』において、2本の角と長い髭、それから牛の尻尾を生やした醜悪な老人が、車輪のついた便座に腰掛けている姿で描かれている。ベルフェゴールは占星術において性愛の星である金星の悪魔とされており、それはベルフェゴールの前身になったとされるバアル・ペオルが関係しているようだ。バアル・ペオルは死海近隣に住み、モアブ人に崇拝されていた神と言われている。ヘブライ人がシッティムを訪れたとき、モアブの娘たちはヘブライ人を誘惑し、バアル・ペオルに供物を捧げさせた。その話が元となったのだろう、ベルフェゴールは妖艶な裸の美女という、別の姿を持っている。伝説によれば、ベルフェゴールは“男女の結婚による幸福がありえるかどうか”を確かめるため地上に派遣された。ベルフェゴールは地上の男女を見て回り、幸福な結婚など夢物語でしかないことを確認したという。ベルフェゴールの名前に人間嫌いという意味がついたのはこの伝説が元になったと言われている。
『悪魔倶楽部』の世界では、魔界の各階層に魔王が存在するという設定になっており、ベルフェゴールは第4階層・貪欲地獄の魔王である。その姿は『地獄の辞典』に描かれたベルフェゴール像が基本となっている。人間嫌いを自称するベルフェゴールは、ベルゼブブの依頼を受けて、人間である樹流徒が魔界血管を通行するのを阻止するために戦った。氷の矢や分身能力など多くの能力を操り樹流徒を敗北寸前まで追い詰めたその強さは、魔王の名に恥じないものだった。しかし最後は樹流徒が決死の覚悟で放った自爆攻撃に巻き込まれて散った。