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第3話 初めての冒険、そして

 結構掛かってしまいました。

 異空戦騎 パラレルワールド大競争


 第3話


 ゾハラに引っ張られて街の外へ連れ出された陽介は折り畳み自転車を展開し始動スイッチを入れた。

 前輪と後輪のホイールに組み込まれた電動アシスト機能はいざと云う時のために切って置き、発電ブレーキ機能だけ入れておく。

 もともとオフロードタイプのタイヤでノーパンクにしてあるので、荒野の道でも問題なく走れるようになっている。

 街の門から外を眺めると広大な平原が広がっているが、一箇所が盛り上がっていて丘陵地帯になっていた。

 その丘陵の一部が風雨による浸食で削れており、大昔にトロールと云うモンスターが現れたユーミン谷が存在する。

 扁平なこの地域で唯一の起伏である為、街の人間が赴くことが多い事から踏み馴らした道が延びていた。

 陽介が隣を見ると、ゾハラが折り畳み自転車を組み立てている様子を興味深そうに眺めている。


「えと、面白い?」

「すっごく」


 確かに一番機能が近い馬車でさえ構造が相当単純に出来ている、溶接によって組まれたフレームにブレーキワイヤーや電線が走る電動アシスト折り畳み自転車は興味を引く存在だった。


「それじゃあ準備が出来たので、出発出来ます」

「では行きましょう、しゅっぱぁつ」



 ゾハラがそう言うと荷物を括り付けた格好で歩み始めた。

 一応、直ぐに敵襲に対応する事が出来る様にと背中に弓と矢筒を背負っている。

 それに対して陽介は一メートルばかり檜の棒を背中に背負い、頑丈な麻で出来た布の服は普段着の上に被っていた。

 カッポカッポと並足で進み始めたゾハラに遅れまじと気合いを入れてペダルを踏み込む陽介。

 矢張りと云うべきかセントール族の歩みは相当早く、必死で追いつく陽介だったがそれを見てゾハラが笑みを浮かべた。


「おー、結構早いんだ、それじゃあもうちょっと早く行こうか」

「え、ちょ、待っ」

「ドーン♪」


 陽介の制止の言葉を聞く事もなく、ゾハラはトロット、早足で走り出す。

 パッカラパッカラとかなりのスピードで走るゾハラに付いて行けるように更に気合いを込める陽介の自転車は、凸凹デコボコした路面に苦労しながらも必死で横に並ぶ。


「・・・へぇ、意外と早いんだ。これはセントールの名に掛けても負けてらんないなぁ」

「いや、ちょっと、スピード、落として」

「これが私の全力前進!」


 気合いを入れたゾハラは足並みをギャロップに切り替えた。

 ダカラッダカラッと力強く大地を蹴る。

 その脚は相当早く、生身の人間にはどうしようもなく早かった。

 このまま荒野に置いて行かれると、相当困った事になるので陽介は封印されたスイッチに手を掛ける。


「電動アシストSW.ON! 電動バイクモード起動」


 何やら疲れてランナーズハイっぽくなった陽介は掛け声を上げながら、ペダルを踏み込む力よりも大きな倍率でアシストモーターを駆動するためのスイッチを入れた。

 これは法改正で、漕いだ力よりも大きなトルクを出せる機能が認可される予定であった為に予め付けられていた物であったが、彼がこの世界に来る迄に許可が下りていなかったので今まで使用を躊躇ためらっていた物だった。

 スイッチを入れた途端に電動アシスト機能がフル回転し、物凄い加速が陽介を襲う。

 足を止めるとスピードも落ちてしまう為に漕ぎ続けていたが、ハンドルの操作が非常にシビアであり少し気を抜くと転倒してしまいそうで気が気ではなかった。

 耳元を抜ける風切り音が激しくなり、冷たい風が目を痛めつける。

 目を凝らして前方を見続けていると、先行するゾハラの背中が見えた。

 ぶつからない様に右に避け、ギャロップで走るゾハラの横を通り過ぎる。

 陽介の背中を唖然とした顔で見送ったゾハラは思わず歩みを弛めてしまった。

 相手が脚をゆるめたのを確認した陽介はペダルを踏む足の力を抜き、電動アシスト機能を切る。

 ブレーキを半分だけ握ると発電ブレーキが作動、スルスルとスピードが落ちて行き、自然と停止した。

 陽介はゼイゼイと息を荒くして、後ろから近付いて来るゾハラに文句を言う。


「こっちは、そんなに、はやく、はしれない、んだから、てかげん、してくれ、よ」

「私を追い抜いて置いてそれはないんじゃないかな。ん、でも分かった。貴方あなたに合わせます」

「(やけに素直でちょっと怖いな)それは、どうも」


 陽介が電動アシストを切り普通に走り出すと、カッポカッポと足音を立てて陽介の横を併走しだした。

 大体一時間半位経過した所で丘陵の麓、ユーミン谷に到着した。

 水場がある事から一体は湿地帯になっており、大きめの池の周りには倒木とススキ科の植物が群生している。

 その外周に広葉樹の林が広がっていて、下草が広く生い茂っていた。

 所々に様々な種類の植物がコロニーを作って群生しており中には有用な薬用植物も存在している。

 もっともどの植物がどんな薬になるかはまだ調べが付いていないので、陽介がんで使用する事はないが何に使えるか分からないのでデジカメで遠景と至近距離からの撮影をしておく。

 撮影している間にゾハラはギルドの札をほこらから取り出して鞄にしまい込んでいた。

 陽介はデジカメを片付けながら後ろにいるゾハラに声を掛ける。


「採取って何を取りに来たんだい?」

「エビの実って云う草の種なんだけど、三日月みたいな白い鞘に赤いストライプの入った実が生ってる膝位の高さの草。そっちになかった?」

「白い鞘の実が生ってる草かぁ、見当たらないよ」

「うーん、じゃあちょっと離れたところまで探してみるわ。気を付けてね? 弱いんだし」

「・・・云われるまでもないし」


 ゾハラが心配そうに見ながら離れて行くと、陽介は背中の檜の棒を装備して、杖の様に地面に衝いた。

 周りを見回すと動物の姿は見えない。

 池に近付いて見てみても魚の姿は全くなく、蛙も何も居ないが、小さな甲殻類がジョワジョワ泳いでいるのが見て取れた。

 無数の小さな水棲動物が鰓脚さいきゃくを動かして蠢き回っている。

 見続けていると何か気持ち悪くなってきてしまう陽介だった。

 目を背けた陽介は別の事に興味を向ける。


「そうだ、岩石のサンプルを取って置こうか。雷力石並の役に立つ鉱石とかあるかも知れないし」


 そう呟くと池に背を向けて谷の崖になっている方へと歩き始める。

 よって池の中央で起こった変化に気が付く事もなかったのだ。

 彼が向かった谷は丘の上から流れてきた水によって長い年月を経て削られて出来た物だった。

 丘になってるにも関わらず崖によって曝された断面は歪みもなく長い年月を経て斜面に沿って積み重ねられた地層になっていた。

 よって地下からのマグマ溜まりの上昇による隆起ではなく、別の要因が考えられる。

 伝説ではこの国の北側にある広大な湖は空から落ちてきた星によって抉られて出来たとされており、この丘は砕けた星の一部が平原に落ちてきた物であるとされている。

 もしも事実なら隕石であるので変わった性質を持っていてもおかしくはない。

 サンプルを納める箱を開いて変わった色や変わった構造の石を拾ってしまって行く。

 中には風雨に曝されているのに錆びていない鉄みたいな金属とか真っ赤なルビーみたいな石もあった。

 陽介は軍手でそれらを掴み、小分けされたサンプル箱に入れて行った。

 しばらくの間作業に熱中していたが、背後から水音が聞こえて来た。

 彼はゾハラが戻ってきたのかと振り向いてみる。

 するとそこには陸に上がったクラゲみたいにブニョブニョした物体が蠢いていた。

 彼はそれを知っていた、スライムだ。

 この世界にモンスターが居ると知った時、一般的な博物誌を閲覧する機会があったのだが、まず最初にモンスターの項目からスライムを検索していた。

 ここがファンタジー世界であるのなら、あの有名な世界の系統であるのではないかと思ったためだ。

 だが陽介の期待に反してあの涙滴状の物ではなく、巨大アメーバーか粘菌かといった代物だった。

 この大陸に於いては、煮ても焼いても喰えない代物として有名で、身を切っても叩いても死なないほど生命力が強いが、体内にある核を攻撃すると倒せる、と記されていた。

 さて、陽介の居る場所は、丘が削られて出来た谷の底のれきが溜まっている足場の悪い所である。

 谷の両側は地層が露出している崖になっている。

 谷の奥は細くなっていてオマケに切り立っている。

 逃げ場がなかった。

 取り敢えず足下に落ちている石ころを拾ってスライムに投げつける。

 足場が礫となっている為、踏みつけると石と石が微妙に滑るのでバランスを崩しながらも、何とか投げる事が出来た。

 山なりの小便弾しょうべんだまだが、見事スライムの核付近に命中し、表面で跳ね返された。

 これはダメだと谷の上の方に後退りながら時間を稼ぐ。

 谷は少しずつ狭くなっていて、勾配もキツくなって来ていた。

 陽介は必死の表情で両足に加えて両手も使ってキツくなってきた急斜面をゆっくりと登って行くが、スライムは狭くなった谷一杯に広がりながらジリジリと這いずって移動してくる。

 ここで思い出したのが背中に背負った檜の棒である。

 逃げ場のない彼は、檜の棒を使い、勢いを付けて駆け下り、棒高跳びの要領でスライムを飛び越せないだろうかと思案する。

 どうせこのままではスライムに追いつかれ、包み込まれ、消化されてしまうのだ。

 キッとスライムを睨みつけた陽介は背中の檜の棒を前に構え、急な勾配を下に向かって駆け下り始めた。


「う、うぉおおおおおーっ! おおおっ??」


 タイミングを計り、スライムの手前の地面に檜の棒を突き付けてジャンプしようとした所、足が滑った。

 ドシンと尻餅を付いたが、勢いの突いた体は止まらない、そのまま檜の棒を前方へと伸ばしたまま滑り台に座ったような勢いでスライムに突撃していった。

 パニックになった陽介は、咄嗟に『このままスライムの核を突き破ってやる』とばかりに棒の先端が核にぶつかるように向きを固定する。

 かなりの勢いで檜の棒はスライムにぶち当たり少しだけ凹んだが、木の棒を面取りしただけの先端では貫通力に乏しかった為にヌルっと表面を滑っていった。


「マジかよっ!? って、うわっうわっうわぁあああ」


 情けない悲鳴を上げながらスライムに激突した陽介の体は、そのままスライムの体の表面を滑って行き、反対側に落っこちた。


「よっしゃラッキ! このまま逃げれば」


 陽介は喜色も露わに脚に力を込めるが、スライムの体に接触してまとわりついた体液がまるで特殊浴場で使用されている溶液ローションの様にぬめり、立ち上がる事を許さなかった。

 滑って前のめりに倒れた所、後ろからスライムがのし掛かってくる。

 生温かい流体が腰から下を覆って行き、体の自由を奪って行く。

 モンスターに襲われ体の自由が奪われて行く恐怖に、パニックになった陽介はこんな事を考えていた。

『ああ、これでスライム娘であれば』

 多少所ではなく情けないことを考えていた陽介の耳に異様な響きの音が聞こえてきた。

【ヴィヨロロロロロロロロ】

 音が近付いて来たかと思うと、ガポン、と音を立ててそれはスライムの核に突き立った。

 スライムはビクリと身を捩り獲物の体を締め付けたかと思うと、力を失いただのゲル状の物体に戻る。

 陽介が腰を捻って音の元を見ると握り拳よりも小さな球体には一つの穴が開いていて、後ろには矢がついていた。

 陽介は自分の知る知識でそれについて思い出して見た、これは流鏑馬やぶさめなどで使われる鏑矢かぶらやと呼ばれる矢であった筈だ。

 だとすると、普通の矢では貫通力が強すぎて突き抜けた矢が自分の体を傷つけると考えた誰かが射った物に違いないと陽介は結論づけた。

 彼は何とかスライムの残骸から体を引きずり出すと近くに座り込んでしまった。

 荒く息を吐くと谷の入り口付近から近付く彼女の方を見やる。

 ゾハラは構えていた弓を背負い直すと「大丈夫だった~?」と右手を挙げて寄越す。

 何となく脱力し溜め息を吐く。

 あ~、っと声を出して腰に付けた袋の中を確認した。

 サンプルは無事の様だった、服は溶解したりボロくなったり酸にやられた様子もない。

 そして身体にも痛み、痒痛、その他の違和感も感じない。

 彼は生き延びたのだ。


「池の主に目を付けられるってよっぽどの事よ。まぁ、初級のスライムだからよっぽどの事がないと負けることはないけど。弱いなぁ」

「弱いですよ。最初からそう言ってますよネ」

「そう怒らないで、事実なんだから」


 ゾハラに慰めにもならない事実を告げられ陽介は落ち込むが、良くある事として流された。

 そうしてじっとしていても仕方がないので、動悸が収まるのを待ってから池の方へと移動した。

 流石にヌルヌルするスライムの体液を付けたままでは気持ちが悪かったのもあるし、第一再生されでもしたらエラいことになる。

 ふんどし一丁になって脱いだズボンを水で洗い流した。

 十分に絞りきってはいたが湿っていたのは仕方がない、履いている内に勝手に乾くだろうと気にしない事にした。

 今回の接敵は非常にストレスの溜まる出来事だったが、陽介にとってはそれ以上に初めて見るモンスターに興味が尽きなかった。

 側に立っているゾハラも元の世界ではモンスターに分類される種族ではあるのだが、もう見慣れた。


「あのスライムはゲームみたいに勝手に消えたりするのですか?」

「ゲーム? 勝手に消える? 意味が分からないけど、あのまま置いておけば干からびて風化しちゃうんじゃないかな。味は悪いし栄養もないからモンスターも食べないんだよね」

「なるほど、了解しました。ちょっと見に行っても良いですか?」

「スライムの死骸を? いいよ」

「すいません、あっ、そう言えば薬草の方は?」

「エビ? あったよー♪ 向こうの方に一杯生えてたから夢中で取っちゃった。お陰でスライムが追いかけて行くの気付いてたけど、助けに行くの遅くなっちゃった。ゴメンね」

「…了解です。それじゃ行きますね」


 今来た道を戻り、ヌメヌメしたスライムの死骸の側に立つ。

 地面はゴロゴロした石なので隙間が開いているのだが、弾力が強いのか下に吸い込まれる事もなくその場に存在し続けていた。

 生命力の強い不定形生物と云えば元の世界ではいくら攻撃しても死なないラスボス的な存在が映画では定番であった為、陽介は今にも動き出すのではないかと非常に不安な気持ちにさせられた。


「これは生き返ったりしないですか?」

「普通死んだら生き返らないよ? ほら、核も壊れてるし。分裂する時でも核壁は破れないから。完全に死んでるって」

「じゃあ、体の部分を採ってもそこから再生するって事はないのかな?」

「核が無くて再生したってのは聞いた事がないし。って云うか、不味くて食べられないよ、スライムなんて」

「いや、食べるつもりはないんだけど。乾燥剤に使えないかなって思って」

「乾燥剤?」

「うん、調べたらゲル状の物質を乾燥させると吸湿性の高い物が出来ると書いてあったから試してみようかなと」

「いいけど、私の背中には載せないからね」

「分かった、自分で運ぶから」


 そう言うと表皮をナイフでなぞり薄皮を裂く。

 透明なゲル状の肉がプリプリと盛り上がって来たので持って来ていたコンビニ袋に入れて口を縛る。

 大体2キロ位のそれは持って帰って水分を飛ばしたところ、200グラム位の乾燥剤になった。

 採取した植物の標本を乾燥させるのに役立ったそうな。


 こうして無事に冒険の旅を済ませた彼らは帰路に就いた。

 家に帰るまでが遠足です、と陽介が気を張っていたためか事故もなく無事に街に戻る事が出来た。

 ゾハラも冒険者ギルドに顔を出し、課題のほこらの札と依頼を受けていたエビの実の種を提出し報酬を受け取った。

 初めての冒険と云う事で気分が高揚したのか、帰り道で曲乗りの様な足取りでタップダンスをお披露目するほど浮かれてしまった。

 後日思い出して赤面し、道を歩くと子供に笑われてしまうのであるが。

 流石にその日は二人とも家に帰るとグッタリとベッドに横になり、疲れを取ることに専念せざるを得なかった。


 だが数日後、陽介の運命を一変させる出来事が発生する。

 その運命を彼らは未だ知らない。

 次回、異空戦騎 パラレルワールド大競争・「貴方が勇者!?」 乞御期待。

 この話までが前書きみたいな物です。

 次話から本筋に移る予定です。

 ではでは。

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