最終話
異空戦騎パラレルワールド大競争を投稿してから約一年が過ぎました。
その一年を記念して今回は特別な話として、最終話を投稿します。
短い様で長い付き合いありがとうございました。
また次の作品でのお付き合いをよろしくお願いいたします。
さて、スーパーSF大戦の続きを書かなければ。
ではでは。
10年後、西暦にすると2051年のゾハラの故郷の町、サコ市に三人のセントールが歩いていた。
ひとりは成年の女性でゾハラの成長した姿であるが、彼女が初めて陽介と出会ってから約20年が経過しているにも関わらず30台には見えない。
それもセントール族の加齢特性による物だが、数百年単位の寿命を持つセントール族では肉体的に充実した期間が長い為に彼女の見た目は依然若さを保っていた。
もうひとりは彼女によく似た姿をしているがかなり幼い。
仲睦まじげな様子から親子だと推察出来る。
となると最後の男性はゾハラの旦那さんと云う事になる。
彼は自分の娘の頭を撫でると、自分の馬の背に載せた大量の買い物、主に食物を背負っている背負子の位置を確認する。
彼もゾハラと同じく道産子やポニー系の小柄な馬体をしているので、一般のセントールほどの荷物は積めない。
かと云って昔陽介がゾハラに作ったリアカーを曳くほどの荷物でも無かったので、一家の大黒柱として恥ずかしくない様に気張って大地を踏みしめていた。
バン・シュワー湖の南岸より離れた箇所にある辺鄙な町には亜人種も多数おり、王都カーリヤから離れた亜人達の数も増えつつある今日この頃。
和気藹々と家路についている三人であったが、ふと思い出したようにゾハラが彼に最近届いた手紙の事を話す。
「公都カーリアのエマナ公爵から呼び出しが掛かったんだけど、貴方も一緒にいきましょう。この子も彼女たちに会わせたいし」
「え、僕が公爵に会うのは恥ずかしいよ、ふたりで旅ってのはチョット心配だけど」
「ダーメ、良いじゃない。私たち大分あの町にいってないんだし。馬車をふたりで曳いて、この娘と食料を載せて行きましょうよ。ちょっとした遠乗りみたいなものでしょ? ね?」
「二頭立てで馬車を曳くのかい? 途中で魔獣に襲われたら」
「その時は弓矢で牽制しつつ脚で引き離すしかないわね。大丈夫だって、いつもみたいに阿吽の呼吸で息を合わせれば良いんだし、ね」
「むぅ、僕はまだそこまで慣れてないんだけどな」
「幹線道路を走るし、王都に近づいてもバレないから大丈夫よ。ねぇ、一緒に行こうよ、ねぇ。パパさん」
「君は一度決めると梃子でも動かないからな。それが生粋のセントールの性質って奴なのかな」
「うーん、普通のセントールならもっと頑固だからねぇ。私なんか随分と柔らかい方だと思うけど? 貴方と結婚するぐらいだし、ねえ」
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
公爵領の経営は、現在カーリア公爵エマナを中心に副公爵シーラ、ガイア、アルケーが補佐をして盛り立てている。
彼女らは西暦2044年にエマナが20歳を機に大々的に婿を一人募集した。
頭脳明晰で体力壮健、文武両道でありながら権力には興味のない温和しい人物と云う実に難しい条件であったが、地球圏からの応募もあり優秀な人材が集まった。
もっとも、旧王家の伝統に基づいた家風に従い、王家の女性数人が一人の男を共有するハーレム制であり、婿は実権を持たず政治には関わらない事になるのだが、能力に優れてバイタリティに溢れた人物と云うのは何かと口を出したがるので優れた子種と公爵家の保全だけを求めるエマナ達には遠慮したい人物だったのだ。
そこで優秀な人材を種類毎に選別する事になった訳である。
候補の中から婿ではないが公爵領の経営に参加する意志のあるバイタリティの有る人物を選別除外し、その他の人数の中から数名が面接を受ける事になったのだが、基準は当然『誰が一番好みの男性か』である。
結果として白人のイタリア系アメリカ人が選ばれていた。
理由は家族を大切にしそう、複数の女性をあしらうのに慣れていそう、顔が好み、とか色々あったが一番の決め手は子作りが得意そう、だったそうだ。
当然の様に事前に王家から公爵に対して干渉があり、洋士の血を継いだイケメンが送り込まれて込まれて来ていたのだが、彼女たちには全くと云っていいほど効果がなく丁重に送り返されていた。
伴侶を決定した後は優秀なブレーンを領地の運営に当てて、優秀な子種を得た彼女たちであるが、基本的に陽介から引き継いだ雷力石の事業やVR技術関連のAW-01世界側の発信拠点として領地を整備して日々を過ごす事になった。
そして領地経営が軌道に乗り始めた頃、陽介は娘達から離れることを告げた。
西暦2046年の事である。
「お父様、どうして? まだ私たちはお父様の力が必要なのですよ?」
「いや、そもそも僕は政治家とか企業家には向いていないしね。優秀な人材が入って来たんだから彼らに任せるのが一番だって。これからの公爵家の未来は君たちが切り開いて行くんだよ。それには僕の様ないまいち自分に自信のない人間がいても仕方がない。退職金もちょっとした額があるし、どこかに引っ込んで隠居生活でもするさ」
「なら、ここにいて下さっても良いじゃないですか。それにお父様の起業家としての評価はとんでも無いものになってるんですけれど。今どこぞの大企業にふらっと顔を出しただけで重役に採用される程度には」
「偶々上手く行っただけ、偶然も偶然だよ。大丈夫、別に地球圏に戻ってしまう訳じゃないし。まだ44歳だし、俺はまだ若い、冒険者の真似事みたいな事をして過ごすよ」
「少しメタボって来ている癖に、もう若くはないんです。冒険者なんて無理に決まってるじゃないの。いいですか? お父様には孫だって四人もいるのですよ。少しは現実を見てよ、お爺ちゃん?」
エマナが自分の娘を抱き上げながら陽介の目の前に掲げ上げると、進退窮まった陽介は少し後退り、狼狽したまま駆けだした。
「う、う、てやんでぇ、お前の父ちゃんデーベソー!」
「あ、行っちゃった。仕方ないなぁ、お父様ったら。じゃあ、お父様の事は頼みました、ゾハラさん」
「うん任された、じゃあねエマナちゃん。短い様で長い付き合いだったわね」
エマナと別れを告げたゾハラは愛用のモトクロス用サイクルに乗って走って行く陽介の後を追っていった。
以来、公爵家に陽介からの連絡は途絶えたままである。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
数年が経過した。
ここはゾハラの出身地の衛星都市のひとつである。
ここで数年を過ごしたゾハラは、数年前に結婚したセントールの伴侶と共に街道を数日駆けてバン・シュワー湖の湖畔を迂回して公爵領都カーリアへと赴くべく準備を進めていた。
並列二頭立てで四輪荷馬車を引くセントールはとっても珍しいのか、すれ違う旅人や追い越す商人が目を丸くして凝視して来るのが鬱陶しく感じていた様であったが、まあ、和気藹々と二人の足取りは軽かった。
ただ、旦那の方が人に顔を見られたくないらしく、オープンフェースのヘルメットにゴーグルを装着しており悪目立ちしている。
並足で人の歩く速度よりも遙かに早く移動する彼ら三人は、貨物の移動が鉄道に移行し始めて空いている幹線道路をスイスイと走り続けた。
もちろん牛飲馬食の例えの元となった通り、下半身の馬体を維持する為に荷馬車に積んだ食料を大量に消費しながらであるが、高カロリー食を走りながらパクついて走行時間を延ばしつつ僅か四日間で公都に到着する。
新たに拡張されつつある公都カーリアの外観は流石に近代兵器が登場していた為に城壁は築かれてこそいない。
だが、空堀と運河兼用の水堀が都市周囲に掘られていて野生の魔獣の進入に備えられており、その他にも河川増水時の臨時水路とされている。
これは非常時にコンクリート製の蓋を外すとそのまま塹壕になる乾水路であり、その様な目立たない災害に対する備えが縦横に張り巡らされており、都市計画自体が最初から戦乱を考慮している事を示していた。
市内に入り、公都の中心にある旧来からの神殿の脇を抜けると、公爵を始めとする貴族や裕福な民間人が住まう街に足を踏み入れた。
この都市の貴族街はアクアマンデの王都と違い籠城を前提としていないので、道幅も広く両側に歩道の付いた二車線の日本式道路である。
舗装は細かく砕いた魔力石のガラを使用したコンクリートで、薄っすらと魔力を帯びている為に夜間になると中央の白帯が薄く蛍光する仕組みになっていた。
ちなみにこの時点に於いても科学的に理解が進んでいない現象である。
貴族街の中でも最も奥まった場所にゾハラ達の目的地である公爵家の屋敷が建ち並んでいた。
広い敷地の中に公爵家の為の複数の屋敷が目的別に建っているのだ。
それなり以上に広い敷地に広がる西洋式庭園と正面の迎賓館、ハーレムにいる母親の数だけ合る居住棟と使用人館、雑務館などが正門から翼を広げた様な形で広がっているのが一望出来る。
ゾハラ達が正門前の門番所に近寄ると、新人の警備兵が槍を突きつけて近寄らせまいと威嚇してきた。
「何者か!? ここはカーリア公爵の屋敷である。亜人風情が近寄って良い所ではないのだぞ」
槍を目の前に突きつけられた事も助長しているのだろうが、番兵の言葉の内容にゾハラは頭にカッと血が登り、顔を歪めて彼をねめつける。
「あ゛あ゛? 何ぞ言いましたかね? 王都の流行りにでも毒されたのですか? 旧き王家の血と伝統を引き継ぐ公爵家の門番が人種差別なんて情けない事を何故堂々と公言しているのやら。はぁ~情けない事よ」
「ハッハッハッ、亜人風情が偉そうに。いいか? 私が仕える公爵家は常に正しい選択をして現在の地位を築き上げてきたのだ、されば当然の如く純粋な人間こそが尊い存在であり亜人は差別されて然るべき存在だと云う事を承知しているという事。
私の父親はカーリア公爵エマナ様の母親であるグウェンディロン様が幼なじみである、よって公爵様の事は幼き頃から知っているし、我が家では古来より亜人の存在を危惧してきた。
つまりそれは公爵様の教育にも影響を及ぼしていた筈だし、当然の如く私の意見とも一致する筈なのだ。
つまり私の意見が公爵様の意見であることは明白である。これ以上詰まらぬ事を言うので有れば無礼討ちに致すぞ」
「あの、私は貴方の事を見た事もないのだけれど。誰?」
「私もお前の事など知らぬし、知る必要もない。それは私の言っている事が正しいからだ。世の中に真理はひとつであり、私が正しいのだからお前が間違っているのは明白である。我が父カゼイロスの名も知らぬ亜人風情が」
「ああ、あの目からビームが出る変わった貴族の」
つらつらと自慢話のような事を喋り続けようとしていた番兵が口を噤むと怪訝な目でゾハラを見る。
「貴様、我が父を知っていると言うのか? 現王家がアクアマンデ王国の支配権を握った戦乱の最中、我が父カゼイロスは散ってしまった。
まだ幼かった私は父の言葉から色々と学んだ。そしてその言葉を今の知識で補うと、色々な事が理解できるのだ。
常に親しく王家の姫君と付き合っていた我が父は誰にも分からない様に秘密を打ち明けてくれていたのだよ。今になるとそれが分かる。
そう、エマナ様たちの本当の父親は異世界人の男などではなく、我が父カゼイロスであった事が今になってようやく理解できたのだ。
ああ、本当の事を公言出来ない我が妹たちの事を思うと私の心は千千に乱れる。だから、私はこうして彼女達を陰ながら守らなければならないのだ。
私のこの献身を亡き父は草葉の陰から見守ってくれている筈。だから危険な亜人達を心の妹達に近付けることは絶対に許さないと誓ったのだ。ムハーっ!!」
怪気炎を上げて、実際に口から炎を吐き出して興奮している門番を余所にゾハラはガックリと頭を垂れて気落ちしている自分の夫を抱きしめて慰める。
「流石にそれは無いって。彼の妄言だから、事実無根だよ」
「いやあ、彼女の戦績を思い出すとねえ、思わず納得してしまいそうになる自分が怖い」
「だって、あの頃は毎朝毎晩二人で励んでいたでしょうに。他人の立ち入る余裕は無かったと思うけど」
「本当に大丈夫かなあ」
取り敢えずゾハラは自分と同じセントール族の夫を立ち直させたが、門番が異常に興奮していて公爵家に近寄れない状態は続いていた。
そこへ、門で起こっている騒動を聞きつけたのか若い頃のセブ・アース・ティアンムに似た風貌の執事が正面の建物から姿を現した。
そう、彼はティアンムの跡を継いで筆頭執事を勤めているセブ・アース・ティアンムJr.である。
ティアンムJr.は正門の前まで走ってくると、ゾハラ達に威嚇している番兵の槍を掴み動きを阻害した。
「客人に対して無礼です。矛を収めなさい」
冷静に告げるティアンムJr.であったが、自分が正しいと確信している門番は『たかが執事風情が良く言う、この自分が正しい事をしている事も理解できないのか』と自分の信念に基づいた思考から、ティアンムJr.の手を払うべく、槍を大きく8の字に動かした。
梃子の原理で掴んだ手が伸ばされ、関節の曲がらない方向へと力が掛かり腱が伸びきった所で一気に力を込められた槍が捻られてしまい、槍から彼の手が離れてしまった。
番兵は石突きを地面に突き立てて槍をグイっとティアンムJr.に向けて押し倒し、彼の肩に当たった槍の威力によって彼は地面に倒され、尻餅を付くことになった。
激昴したティアンムはその屈辱に声を荒げて番兵を睨みつける。
「何をするか! たかが番兵の分際で筆頭執事たる私を愚弄するつもりなのか」
「それはこちらの台詞ですぞ! 王都の上流階級に於いては亜人などは下等種族として排斥の対象になっていると云うのに、まるでマトモな人間の様に遇するとは恥ずかしくないのですか!?
旧王家の血を引く大貴族たるカーリア公爵家の正門から亜人が入り込むなど、素晴らしき王都の貴族様方から見れば『これぞ田舎者よ、フナ侍よ』と嘲りを受けるのが必定。
我ら門番が守るは公爵家の安全のみにあらず、公爵家の名誉こそが最大の守るべき物なれば、これこの様な非人ざる者などは、切って捨てるが世の定め、公爵家の為ならばと身体を張っておりますれば、貴方の云う甘っちょろい戯れ言などは従わぬのが正しき事ですぞ。筆頭を名乗るのであらば反省なさりませいっ!」
「君は番兵のスイムロスだったな、亜人も平等に扱う事を信念とした公爵家の家風に合わせられぬと云うならば馘首だ。勤務規定に則りこの場で解雇だ。ましてや我らの潜在的な敵である王都に通じるなど不届き千万、制服装備を庶務に返却し、直ちに出て行き給え!」
「不当解雇だ! 撤回せよ! それに我が父カゼイロスはグウェンディロン様の秘密の愛人にして公爵様達の本当の父親なるぞ、つまりカゼイロスの息子である私はこの公爵家を導くべく望まれて作られた男なのだ。さあ、我の前に跪け?」
「君は麻薬でもやっているのか? その様な事実はない。妄想もいい加減にしたまえよ、妙な風聞を流すつもりなら、侮辱罪にて逮捕し処刑も辞さないぞ」
「なにぃっ!?」
激高した番兵が槍を振りかざし、矛先をティアンムJr.に突きつける。
「くっ!」
「それ以上我を愚弄するならば、この場で斬る」
血走った眼で番兵は口走り、喉元に突きつけられた刃にティアンムJr.は口籠もる。
そこへ横で状況を見ていたヘルメットのセントールが腕を広げて割り込んできた。
「まあまあ、そういきり立ちなさんな。門番さん? 君はそのカゼイロスさんの息子であると、それで昔にカゼイロスさんがグウェンディロンさんと結ばれたと、はっきり聞いたのかね?」
「バカが、この様な重大な秘密事は明言する事は出来ない事も理解出来ぬとは。父は婉曲に示しただけだが、エマナとガイアが生まれた10月10日前にグウェンディロン様の寝室に忍び込み、父とグウェンディロン様が契りを結び後に彼女達が生まれた、証拠の下履きを我が父は託されていたのだ。我が父は確かにそう云っていたのだ、これが密交をしたのだと云う事くらい亜人の貴様にも理解出来るだろう?」
「確か、その頃に下着泥棒が屋敷に入ったと云う記憶があったが、えーと、ティアンムJr.君、記録はどうだったかな」
「え、あ、はい。父が痛恨の極みと後悔していた出来事ですが、その頃にグウェンディロン様の衣装部屋が荒らされていた事があり、替わりに男物の下着が置かれていたと云う理解不能な珍事件があったと記憶していますが。何故貴方がそれを?」
Jr.が不思議そうにセントールを見つめるが、彼は飄々とした態度でスイムロスに向き直りオドケた口調で告げた。
「まあ、それは後にして。と云う訳で、グウェンディロンと君の父親との不義密通は存在していなかった事が分かったかな? ここは素直に謝るべきかと」
「ふざけるなっ! 我が父カゼイロスは高潔な騎士である。下着泥棒などと云う事をする筈がないだろう。これだから亜人は駄目なのだ」
「えぇ? 確かに君の父親が下着ドロをやったと云う証拠は無い訳だが。不義密通をやったと云う証拠もない訳だし。それ以上、余計な口を叩かない方が身の為だよ」
「亜人風情が生意気に、斬るっ!」
「なら、射つ」
番兵が槍を離れた位置にいるセントールに向けると、矛先が自分に変わった事を確認した彼は腰のホルスターからニューナンブを取り出して相手に向けた。
「むぅ、お前のコルトは、ルガーだな?」
「いや、ニューナンブだけど、って云うか自動拳銃ですらないし。で、どうする?」
「流石に、この距離で拳銃相手は不利だな。だが、私は力に屈したのではない。真実はいつもひとつなのだ」
「カーリア公爵エマナ達姉妹はグウェンディロンと長田陽介の子供って事だね」
「その証拠は無い。我が父の証言がある以上、カーリア公爵が我が妹である事は明白、何故ならばオレは正しいからだ。お前は間違っている、オレとは意見が違うからな。オレが間違っている筈がない。根拠なら有るとも、私は高貴な貴族の出でありお前がカーリア公爵の父親などと嘯いているナガタヨースケは異世界の下賤な一般人である。これは客観的な証言から導かれる事実なのだ。つまり私が正しく奴が間違っている。こんな当然のことも理解出来ないから亜人は駄目なのだと云う事を立証しておるのが分からんのかね」
「君の言葉を聞く程に人間種族に対する信頼が揺らいでしまって困るんだが。それにアクアマンデ王国国王は日本の庶民だが?」
「あの様な高貴な方とナガタヨースケを同列に語るなど! 恥を知れぃっ!」
「まあ良い、お引き取り願おうか」
彼が拳銃の銃口を標的に向けながら威嚇すると、血走った眼で睨みつけながら番兵は手に持った武器を放して言い放つ。
「銃火器を持ち出すとは無粋な、セントールならば馬上槍だろうが。これだから情緒を解さない亜人はいかんのだ。恥を知り給え」
「自分の意見を押し通す為に暴力を振るう人物よりマシだ。Jr.君、まともな番兵を呼び給えよ」
「え、あっ、失礼しました」
セントールがJr.に呼び掛けると彼は携帯電話を開き、電話の向こう側へと指示を出し始めた。
直ぐに門の中から別の番兵3名が出てくるとJr.の脇に直立し敬礼するが、地面に膝を着き拳銃を突き付けられている仲間の番兵に視線は釘付けである。
本来ならば仲間に脅威を与えているセントールに飛び掛かり、仲間の番兵を救い出すのだが呼び出された用件が「客人に暴行を加えている番兵を捕縛せよ」であったので目標を間違えることはなかった。
彼らは直ちに気を取り直すとロープを取り出してスイムロスの手足を縛り付ける。
彼は罵声を上げながら番所へと引きずられて行く。
その様子を一同は眺めていたが、Jr.は溜め息を吐くとそもそもの用件を果たすべく彼らに向き直る。
「失礼をば致しました。ご用件の方を伺いましょう」
「ああ、いきなり強烈な歓迎を受けてしまって失念していた。私は」
彼は頭を覆っていたヘルメットを脱ぐと言葉を続けた。
「長田陽介・改だ。娘たちに会いに来たのだが、面会のアポイントメントは取ってある筈だよな?」
陽介の言葉に驚いたJr.は不躾ではあったがマジマジとその顔を眺めてしまい、年齢こそ変わっている物のそれが昔に良く見ていた陽介そのものだと気付くと口をアングリと開けて驚愕の表情を浮かべた。
「せ、せ、先代様っ!?」
「ああ、ははは、まぁ驚くのも無理はないよね。俺だってこんな事になるとは。とほほ」
「はぁ、随分とご立派な下半身になられて」
「その言い方だと何かエロ方面に聞こえるので止めてくれ、誤解されたくない」
陽介は頭痛をこらえるような仕草で頭を押さえる。
無理もない、陽介とゾハラが新しく冒険者稼業に就こうとゾハラの実家に厄介になる事を決めたのは良いのだが、彼を見る両親の目が怪しい雰囲気である事に気付かなかったのだ。
冒険者資格は持っていたので暫くは徒歩での移動をしていたのだが、ある日にゾハラの父であるゾハルが相方となる中型種の馬を連れて来て陽介に与えた。
何故か冒険に出てもスライムばっかりに当たる陽介は遠出をする為にもその贈り物を喜んで受け取ったのだが、それがゾハラの両親の婿取り準備だとは気付けなかったのだ。
陽介は与えらた馬、流星号の世話をしながら昔使っていた小部屋に下宿をしていたのだが、流石に下半身が馬のセントール族が見立てた馬は優秀で、次第に人馬一体の境地に近付きつつあった陽介と流星号はゾハラを連れて冒険の旅で魔獣を刈り続けた。
ある時、非常に珍しい種類のスライム、俗に言うレア・モンスターの一種、フュージョンスライムに遭遇した。
ゾハラが興奮しながら捕獲を主張したので、苦労して生け捕りにするとギルドに提出せずに彼女の親に手渡していた。
それから一週間が経ったある日、突然夕飯に一服盛られて眠らされ、気が付いたら腰から下が愛馬とくっつけられていたのであった。
何故か異常にスムーズに身体が動かせた事が不思議だったが、ゾハルに色々と問いつめると、愛馬の頭脳を下半身を制御する為の副脳にしているとか、彼女の一族はセントール族の中でも変わっていて伴侶を別の種族から魔法外科手術で改造するとか、それには稀少種族のフュージョンスライムが必要だとか、様々なことが告げられたのである。
『何故、事前にその事を云わなかったのですか』
と問うと。
『自分はそれを告げられた時に非常に嫌がって逃走を試みた所、近隣のセントール族が総出で山狩りをして自分を捕獲しやがったので手間を省いたのだ』
と答えた。
『正直魔法の手術に必要な他の材料は揃っていたのだがフュージョンスライムだけが見つからなかったので、長期戦を覚悟していたのだが、スライムに好かれる体質が幸いしたな。わはははは』
だそうである。
こうして彼はセントールに改造され、残りの長い人生を送ることになるのであった。
応接間で父親の変わり果てた姿を見た娘たちは驚きの声を上げずに、『おー、これが例の改造手術ですか』と珍しい物を見る目で観察していた。
どうやら小さい頃からゾハラが娘達に計画を話していたらしく、彼女らはこの事に全く驚いていなかったのだ。
こうして、陽介は新しい身体で新しい第二の人生を始めるのであった。
めでたしめでたし。
「と云う夢を見たんだ」
俺は通学途上で隣を歩く幼なじみに昨晩見た夢の事を話した。
最近流行の異世界転移物の小説じみた内容に自分でも笑ってしまうが、話を聞いた彼女は醒めた目で俺を見ながら言い放った。
「ハーレム願望に寝取られ願望、ご都合主義の塊ね。まぁ、最終的に私に似た相手を選んだのは、まぁ、いいんじゃない?」
最後にデレながらポニーテールを揺らした彼女、『馬子そはら』はそう批評する。
確かに夢の展開や内容は今まで色々読んだラノベやネット小説じみた内容だったが、イヤに臨場感がハンパなかった。
とても夢として片づけてしまって良いのかと、不安感が早朝から俺をせき立てていたのだ。
だからだろう、突然野外に放り出されても色々と役に立つツールを仕込んでいたのは。
胸騒ぎを抑えつつ、俺こと竹中雄大は学校へと続く杉並木を歩いていった。
エピローグ
一週間ばかり公爵家に泊まった陽介とゾハラ、そして娘のゾハリは翌日の昼に自宅へと戻る予定になっていた。
エマナとしては、例え陽介が改造人間としてセントール族にされてしまっていても身近にいて貰いたかったのだが、陽介がヤケに晴れ晴れとした顔をしているのを見て『幸せに過ごしてくれているのなら、それで』と笑顔で送り出す事を決心し、同じ男を共有する公爵家ハーレムの構成員である妹たちに説明した。
妹たちもゾハラから計画の事は聞かされていたので、『エマナ姉様がそれで良いのなら』と納得して、翌日のお見送りには旦那と姉妹達が勢ぞろいで本館の玄関に集合した。
来る時にも使用した四輪荷馬車に娘のゾハリを乗せ、クッションの座席の周りにお土産と黄色い箱のジュールメイトを積載して出発の時を待つ陽介達。
並列で轡を並べて笑顔で会話を交わす陽介とゾハラの様子に、多少ファザコンの嫌いがある娘達一行は少しばかり嫉妬を浮かべたが、既に二十歳台に入っているだけあって顔には出さない。
陽介としても娘達が公爵家を盛り立てて行けているのか不安だった心配が払拭されたので精神の重荷が解消された事から心が軽くなっていたのだが現在の社会情勢から油断の出来る状態ではなく、せめて笑顔で分かれたいと沸き上がる不安を押さえていただけの空元気だったのだ。
内心はともかく、表向きは和気藹々とした雰囲気でエマナは首を下げて陽介を上目遣いで見上げる。
多少気弱な顔付きでエマナは無理に微笑んだ、っと云う体で別れの挨拶を発する。
「お父様、貴方がいなくなり私たちは必死でこの公爵領を維持してきました。幸いにして大きな戦争もなく……」
そこへ年若いセブ・アース・ティアンム二世が足音も高く駆け込んできた。
普段は物静かな所作で如何にも高級貴族の執事だと、どこに出しても恥ずかしくない作法を身につけていたのだが、今日この時ばかりはそんな事を忘れてしまったかの様に荒々しく足音を立てて走ってきた。
暫くは荒々しく息を就いていた彼であったが、電報が書かれた短冊状の紙をエマナに差し出すと途切れ途切れではあるものの声に出して報告した。
「エマナ様、複数の観測所からの報告を受けた王立魔法科学研究院が状況を纏めた報告書を緊急に配布しました。発・王立魔法科学研究所、宛・エマナ・ナガタ・カーリア公爵、です」
そう云うと彼は恭しくその冊子を手渡して、端的に口頭で報告する。
「複数の浮遊大陸が針路を変更しました。数年以内に『他大陸』が来ます!」
戦乱の予感がした。
完
夢オチでは無いです。
神託的な?
異空戦騎 TS戦記を始めました。
よろしければどうぞ。




