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インターミッション VR技術の活用方法と

 都市国家パレードが国連にPKFを出させる交換条件に出したのがVR技術であった。

 G8+1国はそれぞれが異世界との干渉を持ち、それに失敗した経緯を持つ。

 異世界との交易によってもたらされる物は、物質的な物の遣り取りもさる事ながら全く異なる文明文化との交流による刺激によって発生する新たな技術や機会が最大の貢献物である。

 都市国家パレードの商工ギルドが擁する錬金術師が作成した錬金術によるVR基幹部品の試作品と制御プログラムの試作、そして没入する疑似世界ヴァーチャルリアリティーの作成はユーザーである国連加盟国の要望に従って作成される事になった。

 停戦交渉が成って未だにきな臭い状況ではあったが、制御機器である分子回路と大脳とのダイレクトリンクを行う頭環を持って商工ギルドの技術者一同は案内の長田陽介と共に地球世界へと足を踏み入れた。

 パレードの商工ギルドのメンバーは団長のドワーフ、ギムル・ルフトン、副団長のエルフ、パック・チェリーメアフル、他、合計10名のメンバーだ。

 この地球世界は、モンスターパレードの人間にとっては過去の時代に相当するとは云え本物の地球である。

 元プレイヤーとしては感慨深い物があったに違いない、ひとりのドワーフの目元にはうっすらと光る物が見えていた。

 今回は国連主導であった事から、VR技術の説明と必要な環境と運用方法の説明を行う為にアメリカの国連本部へと移動する事となった。

 大型バスを借りて福島県いわき市小名浜港から千葉県の成田空港へと移動し、割と大型の荷物もある事からチャーター便にてアメリカへと飛んだ。

 次元通廊が開いて数年経ったこの時代にあっても地球ではファンタジー世界の住民であるエルフやドワーフ、獣人などの亜人は珍しく、既存の宗教勢力やカルト教徒を中心とした反ファンタジー主義勢力によるテロの可能性も否定出来なかった為にチャーター便でないと危険な場合もあったのだった。

 空港からバスを乗り継いで研究施設へと移動、事前に仕様書を提出していた為に、基幹部品を填め込むだけで最低限の機能を持たせたVR機器の使用が可能になっていた。

 取り敢えず標準的なVR空間をプログラムしてあったので、地球側の技術者に体験じっけんして貰う事となった。

 VR空間へとダイブした技術者を待っていたのは普通の応接室と並べられた豪華な食事と饗応役の女主人ホステスがいた。

 その臨場感は実に見事なものであり、彼の五感に非常に強く訴えるものであった。

 食事のボリューム食感味覚は確かに本物のように感じられ、喉越しも満腹感も実感された。

 ホステスとのスキンシップによる触感も満足の行くものとして感じられるのだ。

 そして僅か30分の体験ではあったのだが、研究者は満足感と共にダイブアウトする。


「ふぅ~う。これは凄い。完全に五感を補完するのですね。なんだか満腹感まで持続している様な気がするのですが? これはダイエット向きではありましょうが、少々危険なのではないでしょうか」


 彼がモンスターパレード側の技術者に問うと、そのドワーフは口角を吊り上げてニヤリと笑い、彼に告げた。


「仰るとおり、VR空間で食事を採った場合、胃袋の胃酸が分泌過多となり胃潰瘍の危険性が非常に高い訳です。更に高度に脳幹制御を行う事により胃酸の分泌を抑えたりも出来るのですが、今回の様に実際に胃袋に物を詰め込むのが一番なのさ」

「実際に胃袋に?」

「満腹感はあるだろう? あなた方の仕様書に従えば、栄養価の高いペースト状の食物を胃の中に詰め込むのが簡単な対処法ですから。量の調整もVR内で採った食事量に合わせれば良いのです。どうですか? 大豆を発酵させて雑穀類を配合した高栄養食は」

「うん、なかなかの物ですが、大豆の発酵物ですか。味噌のもろみみたいな物なのかな?」

「いや、納豆です」

「そんな物を勝手に人の腹に入れないで貰いたい」

「納豆美味しいよ? 栄養価も高くてローコストで腸内細菌も整えてくれるし。貧民の配給食にするには向いているんじゃないかな。発展途上国向けだね」


 彼が言った通り、地球では先進国向けには本来の娯楽用途としてVR機器を流通させる予定なのだが、発展途上国には数万人規模の大規模な施設を建設して生活困窮者の物欲を満たして政情の安定と治安の維持向上を狙っていた。

 発展途上国で人口爆発が起きる原因は、生活困窮者の娯楽が人間の原初的な快楽しか無い事だ。

 地球に存在する物資の量は限られているし、次元通廊が開通したとは云えども恒久的な物かどうかも判明していない上に通過できる物資の量も限られている。

 更に言えば無軌道に物資を地球へと搬入してしまえば、質量の増した地球は公転軌道を外れてしまう可能性すら存在するのだ。

 無論、それには大陸ひとつ分に匹敵する質量が必要だろうが、長い歴史の営みの先にはそれも有り得ない話ではない。

 汚染物質の拡大や、以前の話でもあったが余剰物資の異世界へのゴミとしての搬出などの対応策も考えられてはいる。

 だが、第一に必要なのは地球人類が現環境下に於いて文明の衰退や滅亡を防ぐ事である。

 その為には人口の無期限な拡大を防ぎ、且つ必要な贅沢品を増やす事無く物欲は満たす、そう云った錬金術が必要なのであった。

 それがこのVR技術である。

 味は酷いが栄養価の高い食事をVR空間内で豪華なディナーとして食べる事が出来るのであれば、それは幸せなことであるし、現実世界では手に入れる事の出来ない宝飾品や贅沢品も只のデーターとして量産することは可能だ。

 それに気付いて現実世界でも物質主義を空しく感じて精神主義に傾いて貰えれば御の字である。

 VR機器によって娯楽がもたらされて現実の困窮を満たす事が出来れば、社会に対する不満も減り、労働することで制限されているVR利用時間を更に増やすポイントを付けるとでもすれば勤労意欲も沸こうという物だ。

 その為には人間の三大欲求である食欲、性欲、睡眠欲をVR機器によって満たす事が必要であった。

 食欲は当然OKである。

 性欲は国毎に異なる基準があるのだが、基本的に18禁であるが体験が可能となっている。

 人工知能か役者が行うものではあるが、売春行為であり倫理的に許されないと禁止される国もあるだろうが、実際に売春するよりも安全であり性病の蔓延や不意の妊娠を防ぐ事からも、国際的な組織である『女性権利の男女平等を目指す委員会』推奨である。

 逆に『女権優先委員会』や『売春婦の権利を認める会』からは目の敵にされている。

 VR空間での相手は基本的にAI制御の非実在成年男女が多くなるのであるが、幼児性愛者ペドフィリアや同性愛者と云った特殊な嗜好を持つ相手の欲求不満をVR空間の疑似的行為によって解消する事で現実社会での強姦事件を防ぐ効果があると実証されているので、性欲を発散させる相手が異性や成年の形態をしているとは限らない。中には獣耳やそれ以外もいる訳だが。

 その様な特殊な場合はVR・R-18使用時には免許制となり、公安の監査機構に届け出て定期的な監査が入る面倒はあるが、医療機関の管理の元で未成年のVR・AI売春婦も対症治療行為の名の下に認可される場合があった。

 人権擁護団体の中にはVR空間でそれら性的筐体を使用する事は現実社会での事件を誘発する事に繋がるので18禁的行為は一切禁止せよ、と云う向きもある。

 またAIと云えども人権は守られなければならないとして、AIへの強制猥褻罪でVR運営が起訴される例もあり、多国で混乱が発生した。

 よって国際推奨基準と云う物はあるが、国際基準は存在しない、各国毎に宗教的、民族的基準に基づいて制定されて行くことになる。

 何にせよ、現実の人間よりも魅力的な美男美女を好きなだけ相手にしても良く、尚且つ妊娠などの面倒事が発生しないVR・R-18行為は瞬く間に世間に広まっていった。

 ビデオやPCの普及にエロビデオやエロソフトと云ったアダルト・コンテンツが大きな役割を担ったのと同様の手筈である。

 また、スラム街の近くに多人数向けの施設を造ることにより、VR使用時に病理検査や栄養補給を行い、VRカプセルに入る前にシャワーを浴びる等の衛生管理を施す事により、医療費の削減や病人を減らす方向で考えられていた。

 何より、VR・R-18での刺激的に過ぎる疑似行為に慣れると現実での行為に魅力を感じられなくなり、不特定の相手に対する性的暴行などの不純異性交遊や夫婦間の正当異性交遊などの実際の性行為が減るお陰で、それまでは無秩序に増えていた人口の増加が抑えられる方向にあった。

 この性的刺激の度合いは人口増加率の著しい発展途上国の方が高めに設定されており、出生率低下による人口の減少が社会問題になっている先進国では性的刺激は少な目に設定されている傾向にある。

 その為に先進国からツアーで発展途上国のVR・R-18を体験する為のツアーまで組まれてしまう位に人気がある。

 何しろ先進国の規制では現実の出生率を上げたい事から、基本的に単数の相手のみで実際の行為よりも低い性的快楽しか得られないのだが、発展途上国の規制では現実の物よりも強い快楽を得られる様に設定されていた。

 更に現実に於いてはハーレムで複数の女性と寝ても肉体的構造から結局はひとりとしか交接は出来ない物であるが、VR体験の中では複数人数の異性を相手に自分の局部を二股にしたり触手化させて同時に複数の相手と性行為を体験する事も可能だった。

 ちなみに女性の方も逆ハーレムは人気のコンテンツであった。

 その結果、本物の行為はVRでの行為に比べて快楽の度合いが少ない事から現実での行為に失望する女性が大量に発生したのだが、政府からしてみれば人口調整にコンドームを配るよりも効果的なので敢えて目を瞑っている。

 斯様かように普及したての頃は、初期のVR技術発展期のマスコミには18禁側面ばかりがクローズアップされてしまった。

 マスコミの提示するお題は世論に『発展に対して問題提起が行われてしまう』物なのだが、VR機器は別に18禁専用の機械マシーンと云う訳では無かった。

 アバターを用いて裕福な生活を体験したり、実在する生物や絶滅した巨大生物、はたまたファンタジーの幻想生物等をハンティングするVRMMO、単独で行うギャルゲーなど。

 もちろん、最高の学習環境を整えた学習ルームも完備されていた。

 ここで好成績を上げれば現実世界でも奨学金を得られるとあって人気は上々である。

 斯様に魅力的な仮想生活環境の虜になれば、現実の生活から脱却すべく努力する者、仮想生活にのめり込んで現実をおざなりにしてしまう者、程々に利用する者に分布する訳だが、発展途上国の年々拡大するスラム生活者が前者二つのどちらの道へ進んでも政府からすれば現実でのトラブルが減る事から損はないのであった。

 VR技術供給委員会で決定された指針では、先進国はスラム生活者の多い発展途上国に対して大規模VR施設の建設に対して補助を行う事が義務付けられており、その為に大都市圏のスラム街に近い場所に設けられた大規模なVR施設には大体スポンサーとなっている国名をもじった名称が付けられている。

 先進国向けには世界VR規格が制定した規格に沿って各企業が団体向け(5,000万円~数億円)、個人向け(100万円~2,000万円)用のVR機器を製作販売しており、そちらのプログラムは現在の所VR機器を自力で開発した元々の世界でベストセラーになっていたVRMMOソフト『モンスター・パレード』が発売されている。

 以上の事は将来の出来事になる訳だが、陽介が引率してVR技術者の最初のミーティング・ディスカッションが行われた今日この時には未だに未来は見えていない。

 結局の所、VR機器の基幹部品の生産は陽介の管理下にあったカーリア公爵領に作られた錬金術師の工房にて行われており、既にパレードからやって来た錬金術工房のメンバーや鍛冶師が活動を開始していた。

 やはり元NPCの王族の下で働くと云う事に疑念を抱いていた元プレイヤーは多く、情報を収集していた所、アクアマンデ王国との遣り取りや国内に入って来た人間に優遇政策が取られるに至って激しい危機感に襲われた様だった。

 そんな時に陽介からVR機器の工房を開く為の人員募集が伝えられた途端、商工ギルドも冒険者ギルドも組織毎の移転を決意していた。

 そうして人員やギルドの技術書等の財産の移動が行われて工房が運用され始めた直後の事だが、直ぐ様順調に作業が行われた訳ではなかった。

 パレードの元プレイヤーはゲーム感覚で覚えた工程だったが、現地の鍛冶屋は試行錯誤して親方から見て覚えた、つまり理解していたので違う技術体系のアクアマンデ王国の工房に揃った道具でも何とか使えたが、元プレイヤーは『身体が勝手に~』だったので、前の物と同じ道具を揃える事から始めて漸く活動を始めることが出来たのだ。

 ただ、その手際の良さは元プレイヤーの方が格段に上であり、現地組とは隔絶している。

 単に早さと効率から云えばそれで比較は終了してしまうのだが、現地組はそれ以上に細かい調整や融通が利くので、一長一短である。

 活動が始まってからの工房では、早めの納期が迫っている百人以上の処理を同時に行える並列高速演算型の基幹部品が生産に入っていた。

 また、カーリア周辺では他の計画も推し進められている。

 以前に陽介が魔族との間に結んだ地下都市ジオフロント計画プロジェクトもカーリア近郊の雨が少なく地下水に乏しい荒野、土砂漠が選定されていて、既に魔力石の試掘鉱と言う事で露天掘りが行われていた。

 実際に魔力石が出て来たのは関係者の皆にも予想外であったが。

 地球の建造物でも同様の現象が起こるのだが、地下に大規模な構造物を建造すると地盤の圧力による浮力によって地上へと押し上げられてしまう為に、重石となる空中都市の重量を受け止める大黒柱とその基礎となる岩盤までを掘り返しているのだ。

 後は直径100メートル高さ500メートルにもなる巨大な柱を500メートル置きに441本立てて、10キロメートル四方、100平方キロメートルの巨大な柱が林立する不思議で勇壮な景色が広がる事になる。

 魔族側の要望によると、直射日光が入ってこなければ若干は明るくても問題ないとの事だったので、5層構造で壁が無いので換気はし易い。

 各階層天井まで100メートル近くある巨大なテーブル状の人造大地は魔族の生活に適した環境となり、魔王が人類種を滅ぼして太陽神を立ち去らせなくても、彼ら魔族が地上で生活が出来るようになった。

 建設には国中から集められた建設業者や巨人や空を飛べる亜人が集められ、地球の大手ゼネコンを始めとする大規模な建設団が近代建築の粋と、この世界の魔術を結集して建設は進められた。

 資金源はVR機器の基幹部品の売却益や魔力石を始めとする魔術マテリアルなど様々だが、今まで陽介が作り上げてきたコネクションをフルに活かして地球世界と交易を行いその費用を稼いだのだった。

 基礎工事が終わり、最初に一番下の地下階が完成したのは娘のエマナがカーリア公爵領を拝領してから十年後の事だった。


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