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インターミッション・都市国家パレード興亡記

 又々説明回、残酷描写があります。母性や母親の無償の愛を信じている方は閲覧注意。

 都市国家パレードは元々、辺境に位置する城塞都市のひとつに過ぎなかった。

 VRMMOでの設定では、元の世界での中堅国家で魔獣が支配する大陸中央部の樹海に隣接する城塞都市で、樹海や地下迷宮から採取される魔獣素材を取り扱う資源調達都市であったのだ。

 その為に貴族の影響は薄く冒険者達の活動によって魔獣の侵攻を抑える、人口の割には戦力をが多い良くある冒険者御用達の拠点として栄えていた。

 それが時空融合によって他世界に跳ばされ、治安維持を司っていた貴族が王を名乗り、治安維持と生活環境保持を構築させたのだった。

 何事にも名目や象徴は必要であり、もし彼が立たなければ生活を維持出来なくなった都市生活者達は難民と化し、装備の整備が難しくなった冒険者達は生活の糧を求めて四散していっただろう。

 そう言う理由から都市の規模の割には戦力が充実していた都市国家パレードは、長田陽介と云う人物の助言を受けてアクアマンデ王国による民族浄化を退けたのだった。

 だが、軍隊による暴力を退けた後に待っていたのは、経済的政治的に圧倒的な人材の浸透戦術とも云うべき侵略だった。

 特に相手国王の池面洋士の息子や娘達は姿形もさる事ながら人を引きつける会話に長けており、王国から人材交流を名目として送り込まれた彼らはあっという間にパレード国内へと入り込んだのだ。

 そしてパレード側も結婚式間近に迫っていたプラム姫をアクアマンデ王国国王の池面洋士に嫁がせて姻族関係になっていたので、国連の監視もあって武力による侵略を受ける事もなく親密な国家関係を構築した、かに見えた。

 パレードで重要な政策を立案し実行して来た食客である長田陽介は戦後にアクアマンデ王国から一地方を統治する権限をもぎ取り、娘達に公爵位に就かせると、自らはその政治的補佐に回っていた為に既にパレードからは去っていた。

 そして新たに友好国となったアクアマンデ王国からパレード王国はインフラの整備や農業指導で幾多の人材を国内に受け入れる事になった。

 そうした人材の大半は戦時にパレードの罠にはまって武装解除されて捕虜となった事のある者達であるが、それらに混ざり入り込んだ洋士の子供達の姿も多かったのだ。

 アクアマンデ王国の支援を受けた彼らはパレード国内で農園を開拓したり地下迷宮へと潜り地元の冒険者を押し退けて魔獣退治を行ったり、その素材の買い取り等を行い、利益を上げて多額の税金をパレード王家へと納税するようになった。

 もちろんパイの総数は限られている、だが限られたパイの大部分と外部から持ち込まれつつある物資を合わせると全体の税収の増額もあり目に見えてアクアマンデからの入植者達の納税額は増え、非常に目立っていた。

 すると当然彼らに対する待遇も良くなり、パレードへと住民票を移しただけで国籍はそのままでも国政に口を出す事の出来る地位に就くことが出来るようになっていった。

 戦後四年が経過し、洋士に嫁いだプラム姫が産んだ長男は三歳になり、既に三人目の赤子を妊娠したとの報告を受けた国王は両国の友好関係は盤石であり、この先も上手くやって行けると確信し、安堵の溜息を就くことが出来たのだ。


 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 パレードは地球と云う異世界にある国際連合と云う組織に対してVR技術の提供を行う事業を興さなければ成らなかったのだが、インフラの整備に忙しく王家ではそこまで手が回らなかったのが実状であった。

 その時に、最近はアクアマンデ王国の商人に圧されて活動がしにくくなったと云う抗議を寄せて来ていた商工ギルドと冒険者ギルドから提案が上がってきた。

 彼らの大半は元プレイヤーであり、この現状に対して元NPCの対応は甘いものだとしか云えず、歯痒い思いを抱いていた。

 どう見てもヤクザと手を組んだ悪徳業者の遣り口にしか思えなかったからだ。

 真っ当に働けば稼いで生活を出来るようにするのが為政者の役割ではないのか、自らの収入が増えるのであれば外国人でも構わないと考えるのは危険なのではないのかと、非常に強い危惧を抱く状況にあったのだ。

 その為に『VR技術の提供は条約による決まりであり、決して疎かにしてはいけないが、国家事業として手が回らないのも理解できるので生産拠点を長田陽介氏の保護の元で開発したい、でなければ国内に入り込んだアクアマンデ商人を排除し、既得権益を回復させよ』と云う要求を提案として王家へと渡していた。

 実際に地下迷宮から上がる魔物による素材の買い取りをアクアマンデ王国の商人にも開放したのだが、商売先が地元の冒険者のみの商工ギルドは外国への伝手を持つアクアマンデ商人に太刀打ち出来なかったのである。

 だが既に納税額で過半数を超えたアクアマンデ商人を排除する事は出来るものではなかった。

 その為、どの道切り捨てる事になるのであれば引き取り先がある内に実行してしまえとばかりに、国王はVR技術の生産拠点を陽介の元に移す事を許可した。

 どの道、戦後の論功報償を陽介に払っていなかった事や、陽介がアクアマンデ王国国王に睨まれている事もあって距離を置きたかったこともある。

 意外とあっさりと許可が出た事に当の陽介が意外な顔をしたのは余談として、国内にいた旧来の商工ギルドや冒険者ギルドに所属する者達の大半がカーリア公爵領へと移動する事となったのだ。

 パレードの為政者達にとっては税金をより多く払ってくれることが重要であって、誰が払っているか等という些少な事は考慮の外であったのである。

 ますます商売がやり易くなったアクアマンデ商人達の中から推薦されて商業関係を司る大臣やインフラ整備を司る地位に洋士の血を引く子供達を含むアクアマンデ王国人が就いたのは以上のような経緯であった。

 こうなると当然の如くパレード国内にいるアクアマンデ人の権利を守る条約が結ばれ、パレードには彼らの保護義務を担う必要が出来たのだが、元々国内には3,000人にも満たない人口しかいなかった所に50,000人のアクアマンデ人が住み着いていたのだ、圧倒的多数の彼らが脅かされる事はないだろうと考えられていた。


 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 事件が起こったのは戦後四年半が経過した時であった。

 宰相府の過半数が外国人で占められた政府内で、突然彼ら全員が示し合わせたかの様に休暇を取ってしまい、許認可の書類を扱う事が出来なくなり政府は機能を停止した。

 更に、パレード国内で商売をしていた洋士の三男であるワイルド系美男子のサンフォルトと云う若い商人が護衛の冒険者を引き連れて公園を占拠し、クーデターを宣言した。

 言い分によると『旧国人が不当に商売を占有し、アクアマンデ人の権利を侵害している』と言い、昔から住むパレードの住民を引きずり出して来ては私刑リンチにし始めたのだ。

 この状況を知り、直ちに親衛隊に治安維持活動を行わせようとしたパレード国王であったが、治安維持を担っていた外人官僚がサボタージュを行っていた為に出動させられなかった。

 勢い余った国王は大臣の承認がいらない国王の権利を行使した。

 『国家非常事態宣言』である。

 すぐ様事態を治めようとした国王であったが、実は彼らの狙いはそれであったのだ。

 非常事態宣言が発令された事を知ったクーデター犯サンフォルトは直ぐに国境の向こうに待機していたアクアマンデ王国の治安維持部隊にメッセージを送り届けた。


『現在、パレード国は政府機能が政府要人のサボタージュにより機能しておらず治安維持能力を喪失、現在発生したクーデターによりパレード国内に住むアクアマンデ人は生命の危機に瀕している。我サンフォルト・池面はアクアマンデ王国の治安維持部隊による治安回復の為に出動を願う』


 自分で原因を作りそれを大義名分として自分で消す、これを『マッチポンプ』と云う。

 自分で起こしたクーデターで治安が悪化したので、自分達の安全を守る為に出動して騒ぎの大元を排除して貰いたい、と云う意図だった。

 これを受理した治安維持部隊は直ちに出動し、クーデター犯のサンフォルトと合流した後に王宮に攻め入った。

 そこで捕縛された王族はアクアマンデ人を危機に遭わせた罪により即日絞首刑、貴族等も死刑か地下迷宮20階層に囚人服のみで装備品は無しの状態にて追放処分となった。

 無事に目的を果たした治安維持部隊隊長は治安維持を目的とした暫定政権を立ててパレード領地内の占有を宣言した。

 暫定政権の成立を宣言した王宮内の玉座の間にてサンフォルトは部隊長に歩み寄り、彼とガッチリと握手を交わした。

 その後クーデター犯が逮捕や処刑された記録は残っていない。

 そしてアクアマンデ王国へ嫁ぎ、現在三歳と一歳の男の子を育てている妊婦のプラムが長男と次男を連れてやって来た。

 この男の子が期間限定でパレードの名目上の国家元首となるのだ。

 完全に傀儡政権としか考えていない人選であるが、短期間だけでも周りを黙らせる事の出来る権力状態を正式に作り出すことが出来れば、彼らの勝ちなのだから。

 こうして対外的には都市国家パレードは存続し、国連に加盟する独立国とされていたのだが、更に数ヶ月を経てアクアマンデ王国へ編入し50番目の自治州とする事を暫定政権が法律を合法的に作成し、アクアマンデ王国政府がそれを批准すると、暫定政権により国連加盟を解消する手続きが取られた。

 ここに初の異世界国連加盟国は消滅する事となる。

 幸いな事に、アクアマンデ王室側からは計算外な事に冒険者ギルドや商工ギルドの中枢部がカーリア公爵領へと移転していた為に一番美味しいVR技術関連の利権は奪い損ねていた。

 陽介が事前にこの事変について知っていたかどうかは分かっていないが、それがもたらした利益から推測すると、彼は事情を知っており手を出していた物とする後の歴史学者の見解は強い。


 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「お父様ぁ?」

「うん? なんだいガイア」

「お父様がパレードが潰されるのを前以て知ってたって本当?」

「いや、それこそ青天の霹靂って奴だよ。何しろ『パレードと地球が交易するならここの港を利用するのが良いんじゃない?』って感じで提案したらいきなりここに生産拠点を造っても良いですか? って云われたから何が起こっているのかなと思っていた所にアレだろ? 折角事前に色々手を回して命辛々防衛したってのに、あっさり併合されちゃうんだものな。ガッカリしたよ。まあ、大部分の人は保護できたのが幸いかな。新たにアクアマンデから入植した人間はパレードの人間に恨みを持ってるのが多かったみたいでね。それを先輩の子供達が煽ったものだから、非道いものさ」

「そっかぁ……。じゃあお父様は世間の人が云うみたいに知ってて見殺しにしたんじゃないんだよね」

「当たり前だって。あれだけ頑張ったのに、あっさり見捨てられるほど人間やめてないよ」

「うんうん♪ それだけ知りたかったの、ありがと~♪」


 るんるんと立ち去ろうとしたガイアであったが、不意に立ち止まると眉を潜めて陽介に声を掛けた。


「その……でも、彼のことは残念です」

「ああ、僕もだ。知らなかったとは云え、なぁ」


 陽介は遠い目をして思い起こす。

 暫定政権が役割を終えて、パレード国が正式にアクアマンデ王国に併合された当日、名目上の国王であるプラム姫の長男、ペルシコが返還当日に暗殺されてしまったのだ。

 プラム姫が輿入れしてから産まれた彼には池面の名前を名乗ることは許されなかった。

 暗殺事件を間近で目撃した母親のプラムは顔を俯けて呟いたそうだ。


『これで私の人生の最大の汚点が(そそ)がれた。こんなに嬉しいことはないわ』

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