第38話 敵国王城へと
ほとんど設定ばかりで、色々と気持ちの悪い話しも含まれた話なので読む際には注意して下さい。
そして一週間が過ぎ、都市国家パレードの使節団がアクアマンデ王国へと向かう日が来た。
今回は王族から国王とプラム姫とその随行員、冒険者ギルドからチキンハート元ギルド長と現ギルド長と事務員(男性)、そして長田陽介と子供達とメイド長のエマ、セントールのゾハラ、そして護衛の近衛兵10名と冒険者10名の計約40名が都市国家を出発した。
当初はアメリカ海軍のヘリコプターで移動を考えていたのだが、地理を理解する為に馬車で南下し、鉄道で特別列車を誂えて王都まで移動する事となっていた。
護衛20名を含めて約40名の移動ともなると馬車、荷馬車、騎馬がぞろぞろと列を成し、以前アクアマンデ王立軍が侵攻してきたルートを逆になぞって駅まで辿り着いた。
幅の広い軌道の上にディーゼル機関車、王族用の一等車、事務員や随行員が乗る二等車、護衛が詰めている三等車と馬車ごと馬を乗せた貨物車が並んでいた。
少し変わっているのはディーゼル機関車の鼻先に障害物除けと魔物対策の機関銃が着いている事だろうか。
冒険者向けの宿屋や武器具店や大陸冒険者ギルドの支所等の辺境独自の風景が広がる町並みの中に、ぽっかりと近代的な駅があるのがミスマッチであるのだが、辺境の終端駅と云ったら大体がこの様な感じである。
ホームはタラップを使って乗り込む洋式の低いホームとそのまま乗り込む事の出来る嵩の高いホームの両方が備わっており、嵩の高いホームは主に貨物の積み卸しに使用されていた。
そこに建てられている貨物倉庫には冒険者が集めて来てギルドに売却された魔物素材や特殊な鉱石が積み上げられており、、中央の卸市場へと貨物便で運ばれるのを待っている。
今回の随行には馬車や騎馬が含まれている為に、スロープを使ってホームに上がってきた馬車や騎馬はそこから貨物車や家畜運搬貨車に積載されていた。
ちなみに下半身が馬のゾハラは種別上、家畜運搬貨車に乗る事になって憤慨していた。
しかし高いタラップを登って客車に乗り込むのは難しいので仕方はなかったが。
関係者と随行員達はそれぞれの客車にタラップを使って乗り込んだのだが、普段から馬車を使っているために、それほど苦労せずに乗り込んでいた様だ。
陽介と娘達は一等車に乗せて貰い、出発の時を待った。
一等車に相応しい内装が施された車内で国王とプラム姫は一等車専門の執事に給仕され、室内を興味深げに眺めている。
客車自体は流石に一等車だけの事はあって、JRの協力の下に開発された衝撃吸収に優れたボギー車に静粛性の高い高性能な車体を備えていて、ディーゼル機関車が警笛を鳴らし出発しても、車内にはツンざく様な警笛も遮断されほとんど揺れずにいた。
広く取られた車窓からは人工物のほとんど無い広野が流れていて、この周辺が文明圏から外れた辺境の位置に存在する事が否応無く示された。
一方、馬車馬等が積まれた家畜運搬貨車には厩舎員が同行しており、急に床が揺れた事により興奮した馬達を宥めるのに苦労していた。
他の二等三等に乗り込んだ乗客達はプレイヤーと元NPCで反応が異なった。
だが、事前に映像資料を用いた説明を受けていた為に大きな混乱もなく、汽車の旅は始まった。
基本的に特別列車である為にノンストップでダイヤが組まれていて、都市近郊を通る時には広野に少しずつ畑が広がって行き村落がポツポツと見えて来たかと思うと一気に町並みが混雑してくる、と云う様に車窓の変化は大きく退屈しない旅となっている。
基本的に幹線は都市の外周部にある駅で市街地へとアクセスしているが、最初からアーバンラインとして計画されている都市や駅の反対側の開発が進んで路面電車共同の軌道が有る都市は幅広の幹線道路の中央を鉄道が走っている。
一見すると町中の道路を汽車が走っている様であり、日本では鎌倉や京都府の一部でしか見られない特徴のある光景だった。
現在都市開発が進んでいるとは云え、インフラの整備には資金が必要な為に道路建設と鉄道建設を纏めて行っているからだ。
文明的に馬車や大八車レベルの所へいきなり自家用車やトラックを持ち込んでも普及する筈もなく、公共機関の推進を進めていたのだ、陽介が政治のオブザーバーだった頃は。
道路の整備と鉄道の延伸は洋士が国王になってからは凍結されており、現状維持をするレベルの資金しか投入されていない。
彼はファンタジー世界にある種の拘りを抱いており、不便さはその不便を楽しむ物だ、と公言している。
いざとなれば何時でも豊かな生活を送れる余裕のある者は、崖っぷちでカツカツの生活をしている者の気持ちは理解できずにそう言ってしまうのだ。
実にブルジョワ的な考え方であった。
お陰で王都で始まり地方に波及し始めていた新規開発のベッドタウンと都市部を結ぶ都市近郊路線は廃止されつつあり、工業の中心も日本が資本投入していた工業団地が閉鎖され、昔ながらの職住一体型の工房が優遇されていた。
それで浮いた金は軍事費として王立軍へと投入して都市国家パレードの侵攻作戦を小手調べに、地球側への逆侵攻をも可能性として検討していたと噂が流れている。
その池面洋士も現在は虜囚の身であり、現在は陽介がいた頃に活躍し、最近は冷や飯を食っていた官僚達が暫定政権を運営している。
とは云え流石に世間に人気のある勇者・洋士と云えども、地方都市間を結ぶ幹線は庶民にもすっかり馴染んでいて今更廃止する事も出来なかったので、軍事利用最優先と云うことで整備は続いていた。
今回のパレード関係者の移動はほぼ全部鉄道によるものとされていたが、地方の幹線と云えど日本基準の高速鉄道ではないので一日では首都までの移動は出来ない。
大体地方鉄道のローカル線の鈍行列車並だが、それでも旧来と比べれば画期的なスピードと移送量を誇っているのだ。
そう云った訳で一行の乗った特別列車の初日の運行予定は次の様に計画されていた。
オミスインフ公国を抜けて南東に向かう幹線から南に延びている支線に入り、バン・シュワー湖の北岸にある都市・アボ市に特別列車を停車させて市内の宿泊施設に泊まる事になっていた。
この都市は以前に魔女娘と魔法子女の戦いが頻発していた場所であるが、ア・パ戦争の前から魔女娘の出没が止んだ為に現在は平穏さを取り戻している。
その頃から全国で確認されていた魔女娘による被害が激減している事から、やはり魔族と新しく出現した謎の獣人族の都市国家は繋がっていたのだ、と云う論拠の原因となっていたのだが。
まだ明るい内に駅のホームから降りた一行は指定されたホテルに入り、一夜を過ごした。
そこで陽介の三つ子のひとりがホテルを抜け出してちょっとした騒動を起こしたのだが、今は割愛する。
翌朝、アボ市駅から出発した特別列車はバン・シュワー湖湖畔線の単線をゆっくりと走り、途中で幹線と合流してアクアマンデ王国の王都へと到着したのは午後3時頃であった。
自衛隊の駐屯地近くにある終端駅は国内に延びている全ての路線に繋がっており、豪華絢爛な施設となっている。
一部路線は一般人が住まう市内に延びている路面電車区画と直接繋がっており、相互乗り入れが行われていた。
新規開発した都市近郊のベッドタウンと商工業の盛んな地域を直接結ぶ事で利便性を増しているのだ。
流石に王都周辺は開発が進んでいた為、洋士も王都周辺のベッドタウンの入植を阻む事は出来なかった。
これも最初から線路幅に余裕を持たせていた為に規格が共通となっている事が有利に働いていた。
これは陽介が日本じゃ線路幅が違って色々と不便だなと思っていた事と、実際に鉄道建設に協力した日本鉄道研究所の提案による物である。
豪華絢爛な駅舎の中には路線の末端が15面に及ぶホームに集約されており、路面電車に繋がっている駅舎外の0(ゼロ)番ホームと各地へ向かう3路線は特急と鈍行がそれぞれ2面ずつ有しているので合計12面の通常ホームが並んでいる。
残り2面の内、1面は軍人の出征送迎ホームであり都市国家パレードへの出征の際もここから数多くの軍人が軍用列車に乗り込んでいった。
最後の1面が、国外の国賓や貴族の歓送迎専用ホームである。
ここだけは専用の出入り口が用意されていて、迎賓館の玄関の様に張り出した屋根と柱が用意されていた。
実際にはほとんど利用のないこのホームに列車が入ってくるのを見た乗客等は『珍しいものを見た』と目線を向けて眺めている。
外地での運用が行われている大型で頑丈なディーゼル機関車に引かれて入って来た特別列車は客車のみでホームに停車した。
後部に引いていた貨車は一駅前にある貨物駅で切り離しており、載せていた馬車と牽引用の馬、騎馬は人員と共にそこで降ろしている。
現在は馬車の上に国旗を掲げながら中央通りをこの駅目指して移動中であった。
随行員が先に降り、一等車の前に整列するとプラム姫とパレード国王がそこへ降りて来た。
それを見た乗客はどこの国から来たのだろうかと、見慣れぬ亜人種の国王を見て小声で噂話をし始めたのだが、次の瞬間、彼らに対する興味は雨散霧消した。
同じ一等車の別の乗降口から陽介と子供達が降りて来たのだ。
子供達とその父親を見た乗客たちはハッと息を呑み込む。
駅構内全体に戦慄にも似た緊張感が走り、雑踏からザワッとした呻き声が聞こえてくる。
そこに姿を現したのは十年間も次世代の姫君達として崇拝の念を向けてきた、我らの愛すべき姫君達だったのだ。
その姿を忘れてしまう様な者は、この王家のお膝元である王都の城下町には存在しない。
ざわざわとした小声で彼らはたまたま隣に立っていた見知らぬ者同士で言葉を交わす。
「姫様なのか?」
「あの姿は間違いない、姫様方だ」
「しかし、姫様方は暗殺されたと」
「ああ、新聞に書いてあったぞ」
「いや、俺が聞いたのは父親である陽介様によってだとか」
「しかし、子煩悩で有名なあの陽介様だぞ。本当にそんな事がありえるのか?」
「あそこに陽介様の姿があるし、姫様方も以前の様に懐かれていらっしゃるじゃないか。何かの間違いだろう」
新たに国王へと即位したと宣言した勇者・池面洋士。
その即位を支持し、正妃になったと言い出した女王エメラダーと、第2妃で元白の聖女の長女ミリティア、第3妃グウェンディロン、第4妃で元姫巫女のポメラらの旧王家の発表した、『姫君達の暗殺事件』による全員の生存が絶望視されたと云う言葉に、城下の人間は絶望にも似た感情を味わっていたのだ。
「だが、母親であるグウェンディロン様や女王陛下が談話を発表なさっていたし」
「ああ、怒り心頭で言っていたな。勇者様に縋り着きながらだったが」
「と言うか、陽介様も殺されたとか言っていなかったか?」
「ああ、グウェンディロン様直々にな」
「何がどうなっているのか、さっぱり分からないじゃないか。これは迂闊に喜んで良いものかどうか」
「うむ、下手をすると王家に弾圧を受けるかも知れない訳か」
「官憲も最近は我々に対して厳しいし。何か陰謀が行われているとしか思えない」
群衆は心配事がなければ、彼女らの姿を見て素直に安堵の気持ちを雄叫びとして上げたかった。
だが、何故、肉親たる女王達がそれを秘して来たのか。
そして新たな国王として群衆の前で即位を宣言し、以後王国に君臨している勇者・池面洋士。
その彼に対して王族としての矜持も見せずにすり寄る王族の女達の姿に対する疑念。
更に英雄色を好む、と云う概念すら凌駕する王城直下の貴族街に出来始めた広大な後宮街の存在等々、何かが起こっていると云う激しい疑念が混乱を引き起こして、警戒した群衆は歓喜の声を上げる事すら出来なかった。
護衛の者達と共に貴賓門の近くにある貴賓室へと向かって行く異国の王族と、死んだと発表されていた姫君達、ついでに陽介を押し黙って見送ってしまう群衆であった。
だが、異常に静まり返っている群衆を心配したのか、並んで歩いていた姉妹達の長女のエマナが妹たちに言葉を掛けた。
エマナは全員に大きく手を振らせながら群衆に向かって大きな声で宣言した。
「皆ぁ~っ! 帰ってきたよっ!!」「シーン」
「おやっ?」
一瞬の静寂を経験したエマナは内心で『ありゃ? 滑ったかな?』と呟いたが、次の瞬間聞こえてきた怒号にも似た歓声に思わず耳を塞いでしまう。
「姫様っ! よくぞご無事で」
「姫様、お帰りなさいませ」
「姫様、大好きです」
「姫様、俺だって大好きです」
「姫(ひ~め)、姫(ひ~め)、姫(ひ~め)、姫(ひ~め)」
「おいっ不敬だぞっ、様を付けろよ様を、こんデレ助が」
「うぉおおおっ、姫様っ! 姫様っっ!」
群衆による姫様の連呼に圧倒されたのか、妹姫達はキャーキャー言いながら目を瞑って後退さる。
巨大ターミナル駅であるが故に、都市国家パレードの全住民を超える数の民衆が声を張り上げて『姫様』コールを連呼する事態に、パレード側の王族も絶句し、目の前にいる亡国の姫達の持つ格と云う物を見せつけられる思いであった。
この状況に護衛達は緊張し、辺りを警戒しながら皆を先導し予定通り貴賓室へと向かう。
手を振りながら出入り口の向こうへと消えて行った我らが姫君の壮健な姿に興奮冷めやらぬ群衆は口々に噂話に興じた。
曰く、姫君はあの王族に助けられて生き延びたのだ。
曰く、通りすがりの冒険者に助けられたのだ。
曰く、陽介殿が颯爽と暗殺者の手から娘達を救ったのだ。
曰く、いや、それはないな。
云々である。
群衆は三々五々と汽車に乗り各地へと散り今日体験した出来事の噂を広め、駅にしばらく残った乗客は後から来た乗客に、今ここで起こった出来事を興奮しながら語っていた。
ターミナル駅と云う立地から、姫様健在の噂は燎原の火の如く王都内へと拡散して行った。
そして、それを止めるべき国王と後宮はPKFの管理下にある為に、陽介寄りの官僚達は元より止める積もりもなく、翌朝には新聞の記事としてセンセーショナルに発表される事となる。
それはともかく、貴賓室で馬車を待つ一行は姫達の話題が上がったのだが、先日のアボ市にてマメミムがホテルから抜け出して出会った、海から来た男の子フュヤル君の話で盛り上がることになった。
彼は一族の伝統とやらで盟約を果たしに陸へと出て来たのだが、約束の場所に誰もいなかったので町をさまよっている所だとか何とか。
マメミムを巻き込んだちょっとしたトラブルの後に、大きなメガネを掛けた本好きの少年は、桃色珊瑚を宝飾店に売り払った金で安宿に泊まり、文化事業によって出来たばかりの図書館に入り浸っているそうな。
その話題になった途端に自分がからかわれていると思ったのか、顔を真っ赤にしてプリプリして反論しようとしたマメミムであったが、タイミング良く知らせが入る。
「馬車が到着いたしました。皆様貴賓門までおいで下さいまし」
「! ・ぷぷ・ぃ。もう、そんなんじゃないんだからね」
「おお、ツンデレツンデレ」
「(怒)モウ、ソンナンジャナイノダカラネ!? お父様」
「ああ、ハイ」
本気で怒っているっぽいマメミムの目力に気圧されてしまう陽介は、一行の先頭に立ち貴賓門へと歩き出した。
外には護衛の騎馬とセントールのゾハラが周囲を囲んだ三台の馬車が並んでいて、一台目が陽介達が乗る大型の箱馬車、二台目が王達の乗る高級箱馬車、三台目が贈り物と女官達が乗る箱馬車である。
一台目は黒塗りだが簡素な造りで二台目は精緻な金細工が施された手の込んだ造りで三台目は普通の馬車である。
一行が乗り込むと、大通りに待機していた護衛達の乗った騎馬と幌馬車、荷馬車が三台の前後に並んで町中を王城へと向かって進み出した。
パレードをする時のようにゆっくりと進む馬車群は非常に目立っていた為か、沿道沿いにいた住民達の注目を集めていたのだが、途中の辻にPKFの治安維持部隊が検問を敷いていた為にそこで一旦停止した。
戦勝国であり、国連に加盟する国家の指導者である事が分かった為か、PKFの軍人達もニコヤカな顔で検問の通過を許可する。
だが、そこで足止めを喰らっていた時間があった為であろうか、町中に散っていった市民達が広めた『姫様ご帰還』の噂話を聞きつけて、沿道沿いは少しずつ混雑し始めていた。
換気がイマイチで息苦しかったのか、外の雑音を聞きつけたのか、陽介達の乗る馬車の左側の鎧戸が上げられてアルケーが顔を覗かせた。
するとそれを見た群衆達は「わっ♪」と歓声を上げる。
その反対側の沿道にいる群衆は「向こう側だけずるい」の様な感情を抱き、こっちにも顔を出して欲しいと懇願の声を上げる。
するとそれを聞きつけたナネニーが右側の窓を開けて顔を突き出した。
それまで不満げな感情が籠もっていた声は満足げな歓声に切り替わる。
窓が開けられた事で声がダイレクトに入る様になった馬車内では、歓声に興味を抱いた姫君達が一斉に数ヶ所あった窓を全部開けて11人が同時に顔を見せた。
やんややんやの歓声に姫達も気を良くして手を振り出す。
こうなると最早、パレードの主役は姫達の物となっていた。
実は主役であった筈の二台目の馬車から王とプラム姫も顔を出して手を振ったのだが、「誰? あのおっさん達」的な顔を向けられたので、ふてくされながら座席の背もたれに体重を掛けてもたれ掛かっていた。
城下町を通り過ぎ、王城の外側の外壁にある門の前にまで来ると、民衆はそこで沿道沿いに並ぶのを止めて分厚い門扉とトンネルの中に消えて行く馬車を大人しく見守った。
ここから先は許可を得た商人などしか一般人が入ることを許可されていない貴族街なのだ。
長いトンネルを抜けると、そこには黒い壁材を使った黒い町並みが広がっていて一般人の町並みのようにオレンジ屋根の白外壁とはかけ離れた印象を与えていた。
以前は使用人や御用聞きの商人達の姿がそこかしこに見えていた貴族街であるが、現在はその姿はほとんど見られない。
黒い石畳の上を馬車で進んで行くと、以前陽介達家族が暮らしていた屋敷の壁が見えて来た。
だが、そこは更地になっていて家屋の姿は無くなっていた。
元々はこの場所にあった屋敷で暮らしていた陽介とエマナ、ガイア、アルケー、ナネニー、マメミム達が呆然とそれを見ていると、敷地に立っていた男性が陽介に深々とお辞儀をしているのが見えた。
ゾハラは破顔し並足でその男性に駆け寄っていった。
陽介は思わず大声で彼の名を呼ぶ。
「ティアンム! セブ・アース・ティアンム!!」
それを聞きつけた元執事は停車した馬車に近付いて、馬車の前で片膝を着いて畏まる。
「旦那様、お久しぶりで御座います」
「ああ、久しぶり。それでこの状況は?」
「はい、旦那様が国の任務で出立され、数日後に姫様達がお城へ引っ越された後にグウェンディロン様が『ここには嫌な記憶しかないから見るだけでイライラする。記憶から消したいから取り壊すわ』と」
「むぅ~。俺や娘達の荷物は」
「そのまま屋敷と共に取り壊されました。が、思い入れのありそうな物はわたくしめが回収して保管してあります。後に時間を戴ければ」
「ああ、ありがとう。本当にありがとう。メイドの皆は」
「グウェンディロン様に連れられて後宮街へと移されました。その後は音沙汰ありませんが、風の噂でグウェンディロン様のメイドプレイに着き従って国王陛下の元へと赴いたとか」
「心配だな。ティアンムは」
「旦那様のお帰りを待っておりましたので。現在は無位無官でございます」
「確かティアンムはその筋の人間だった筈だけど。大丈夫だったのか?」
「ええ。まあ、既にこの身もロートルに過ぎません。気にする者もいない様で。まあ、裏の裏でございますからね」
「なるほど。もしも良ければ、また家に来て貰えると助かるんだけど」
「喜んで、ご主人様」
陽介が誘ってティアンムを馬車に乗せると、彼に小さい頃から世話になっているグウェン組がホッとしたような顔で寄ってきた。
「お久しぶりで御座いますお嬢様方。随分とご成長なされて、このティアンム、感涙の極みにございます。エマも、ご無事で何より、よくぞ皆様を護ってくれて」
「いえいえ。ティアンム殿が後方で攪乱してくれていなければ脱出すら覚束なかったところ。感謝こそすれ、される事などありませんです」
そうして一通り挨拶を済ませると馬車は王城への道を進み始める。
窓から見える景色を姫達は懐かしそうに見ていたが、城も間近に近付いてきた所で、見た事のない門が設置されていた。
皆が不思議そうな顔をしていると先ほど同乗してきたティアンムがそれを知っていそうだったので陽介が訊ねてみた。
少し難しい顔をしたティアンムは門の設置とその理由を話し始める。
そもそもは、陽介が大量のシングルマザーと洋士の子供を送り込んだ事から始まったらしい。
洋士は嫁が四人もいるにも関わらず、過去に自分を振ったと思っていた美人達を前に感涙していたと云う。
この時点で地球から送られてきていたシングルマザーが約700名、子供達も18歳を筆頭に男子約400名、女子約300名である。
最初は王宮に住ませようとしたのだが、流石に国王の血を引くとは云えどもアクアマンデ王国には何の関係もない相手であり、子供も庶子である事から貴族街の一角を借りて共同生活を送らせていた。
しかし、国王のお手つきであるとは云えども独り身の若い女性である事には変わらず、貴族街の男共にちょっかいを出される事が多かった事。
そして子供達も洋士の血を引いて男女の別なく美男子美少女であった事からちょっかいを出されていた事。
特に娘の一人が乱暴され掛けた事に激怒したのが原因で、城の周りから1000軒ほどの屋敷を強制徴収して外部の人間が入り込めない様にしたのが始まりだとか。
実際はその娘も兄弟達に助けられ、実は娘の方から貴族を誑し込んでいたのだが、やってしまった事は仕方がないとその施策は続けられた。
ただ、何しろ洋士の血を引いて無駄に美形揃いであり美少女揃いであり、洋士に似て男女の関係に積極的である子供達が母親が違うとは云え非常に見目麗しい兄姉弟妹と美人の義母に囲まれていた事から、自分たちの欲求不満が身内に向かない様に、自らの判断で間違いが起こる前に壁を越えて貴族街のあちこちでナンパを始めたのである。
最初の内は貴族に仕えるメイドや執事や下働きの者達たちを相手にしていて問題はなかったのだが、一ヶ月もすると未婚の貴族の子女は軒並み洋士の子供達に落とされている事態となった。
のみならず未亡人や若奥様にも手を出していて、流石に苦情の声が国王にも届けられたのだが、当の国王自身が色んな女性に手を出している事から父親として子供達を戒める事は出来なかった。
この様なゴタゴタがあって、結局は貴族の娘を身籠もらせた男子は婚約が決められて将来的に婿養子に出され、女子も同様になったのだが、実際はそれぞれが2~5人のハーレム、逆ハーレムを形成するに至った。
結局の所は貴族街に住む貴族と雇用人の若者が洋士の子供達の影響下に置かれて、次世代の貴族は従兄弟(男子しか生まれなかったので従兄弟)だらけになった為に孫の世代は城下町の民間人へと触手を伸ばして行くのだが、それはまだ先の事である。
ティアンムの話を要約すると、洋士の子供達が貴族のほとんどに手を出した為に、自分の嫁達の貞操を心配した国王が「自分の女に手を出すな」とこの壁の向こうは自分の女を住まわせる後宮街とした、との事である。
陽介はそれを聞いて「流石は先輩とその子供達だ」と納得したが、娘達は「特定の相手以外と浮気して結婚するだなんて不潔です」と憤慨していた。
陽介も成り行きとは云え複数の女性と関係していたので、視線をさまよわせて相槌を打って韜晦していた。
そんな説明と会話が馬車の中で行われていたのだがそれは兎も角、この門を潜らないとお城へは行けない為に門番に指示を出して開門させようと陽介は馬車を降りた。
ゾハラが横に付いた状態でてくてくと黒い石畳を歩いて門に近付くと、そこの門番に立っていたのは凛々しい女騎士が二人であった。
ただ、洋士の趣味だろうか露出の大きいビキニアーマー姿である。
ふたりとも体格はかなり大きく戦闘に向いた筋肉を付けているが、土台がメリハリの利いた凹凸であるので女性らしさはむしろ健康的に強調されていた。
ただ、開けっぴろげに開示されている下腹部に妊娠線などが見当たらないので、後宮に来たばかりではないかと陽介は考える。
正直、洋士に惹かれた女性は必ず性交渉を行う事になり、そうなるとほぼ十割の確率で妊娠するのだ。
後の研究で明らかになるのだが、洋士は前の世界で勇者として覚醒した際に生命力アップの加護を得たのだが、それは細胞レベルで強化されていて精子も又、例外ではなかった。
よって相手の体内で二ヶ月も生き延びる事の出来る洋士の精子は、熾烈な受精競争の後に確実に着底に至る生存能力を得たのだ。
現在、ここにある後宮街にいる側妃達のおおよそ12分の11、実に91.7%が妊娠中である。
洋士は妊婦相手に手を出す事はないので妊娠が発覚するまでの期間が洋士を相手にする事の出来る時間で約4ヶ月前後、常時性交の対象者は約90人が存在し、毎日複数人数を相手にしているので人余りは無い。
洋士は自然の営みの結果、子供が出来るのは当然の事として避妊も中絶も断固として拒否している。
その結果、妊娠確率100%と云う驚異の命中率により、妊娠期間が10ヶ月として側妃の数が約1,100人なので年子を計算に入れると年間約1190人の洋士の子供が生まれ続ける事になるのだ。
ハーレム勇者のハーレムエンドここに極まる。
それは兎も角、陽介は守衛のアマゾネスに問いかける。
「王城に用事があるのだが、開門願いたい」
「何者であるか?! 現在王城は国連停戦査察団によって封鎖されている。我々は後宮区の治安維持の為、王妃様の命に従い何人たりともここを通す訳には行かぬ」
「その国連が行う会議に出席する為に来たのです。この様なトラブルはそちら側の不利に取られますので、どうぞ速やかにお願いします」
「つまり、お前達が洋士様に楯突いた愚か者と云う訳だな?! この恨みを」
アマゾネスが槍を握る力を込め始めると、横に立っていたゾハラがそれを制止する。
「そこまで。それ以上はいけない。貴女はここを守るのが仕事でしょ? 勇者の大事な女達を怪我させたら役目を果たした事にはならない、つまり勇者に失望されると云う事。それでもいいの?」
「む、セントールの貴女が云うのならば、ええい、ならば通られよ。しかし、洋士の妻達に話掛ける事は許されない」
「承知しています。では宜しく」
凛々しくそう告げるとゾハラは踵を返して馬車に戻る。
それに感心して陽介はゾハラに声を掛けた。
「流石にセントールは信頼されているよなぁ。俺なんかてんでダメって感じだし」
「そこら辺は種族属性って奴だから、個人的には陽介は巧くやってると思うけど?」
「だと良いんだけどね」
馬車に戻った陽介は先頭の御者に指示して一行を進ませた。
開門したその内側は何不自由なく暮らす女達と沢山の子供達が暮らす独特の雰囲気を漂わせていた。
特に派閥が出来て内部抗争を起こす事が多い後宮に於いて、このお互いに平等を維持している空気は異様であった。
陽介はそれを見て考えてしまう。
|これが洋士に対する愛情が故の物であれば良いのだが、他人にも平等にと云う点が不信感を募らせる。
約1,100人もの女性が誰も抜け駆けを考えずに一人の男の元で平等に愛情を享受するなどと云う事はあり得るのだろうか。
大奥や中国皇帝の後宮などで発生した血で血を洗う女同士の凄惨な抗争から見れば、この光景は異常だ。
陽介がそう結論付けるのも無理からぬ所である。
道端を駆け回る子供達を『あらあらうふふ』と眺めていた母親達や続々と続く馬車や騎馬の群を見て『凄ぇーっ!』と指を指す少年達であったが、その正体が洋士を捕縛し自分たちの生活を脅かす敵国の使節だと門番から情報が流れると一斉に雰囲気を変えた。
流石に洋士が手を着けるだけあって、どの女性も一万人に一人クラスの美女、美少女ばかりであり、その子供達はプラス洋士の血を引いている為か百万人に一人クラスの美形ばかりである。
つまり壱千万人分の美人がここに集められてしまったと云う事だ。
彼女らが引き抜かれた社会での美人の平均値が洋士によって大幅に下げられたのは間違いないだろう。
さて、美人が怒ると怖いと云うが、それが千人単位ともなれば物理的なまでの心理圧力が陽介に襲いかかってきた。
ここに石でも落ちていれば投石が始まりそうな雰囲気であったが、完全に石畳で舗装された貴族街にその様な物はなく、視線で人が殺せたら死んでいるレベルの眼光で睨みつけられているだけだ。
そんな雰囲気の中、無事に後宮街を抜けて王城の玄関前の広場に馬車を停める。
ここには白塗りの装甲車に青い文字でUNと書かれた国連停戦監視団の部隊が展開しており、武装の上で警戒に当たっていた。
現在の王城玄関の警備にはヨーロッパよりドイツ陸軍とイギリス陸軍が担当しており、国際色豊かな多国籍軍を象徴している。
訂正、他の世界に手を出す余裕と執念のある国々を象徴していた。
その警戒の中、馬車から降りた一行は物珍しそうに王城の通路を歩む。
勿論ここに住んでいた娘達と良く通っていた娘達は除く。
他国の王侯貴族をもてなす為の広間に案内された一行は旅の疲れを癒やしながら、出されたお茶を啜った。
当然の事ながら毒探知のスキルを持った冒険者によって毒味は行われたのだが。
しばらく城の大きさや内装についてパレード国王やプラム姫から質問が陽介に投げかけられたが、城の事にノータッチだった陽介には答えられることはなかったので娘達とエマが歴史や伝統工芸について説明ついでに歓談がなされた。
すると少ししてから扉がノックされ、一人の白衣を着た研究者然とした女性が顔を出した。
因みに陽介を初めとしてアクアマンデ組の人間にその女性を知っている者はいなかった。
大体20台前半の容姿をした女性は細身で上品な素材をしているが、仕事疲れで髪は解れてヘロヘロとしている。
キョロキョロと一行を眺めていたが、エマを見るとパッと目を輝かせて歩み寄ってきた。
「えっとぉ今の名前はエマだったよね、久し振り。元気してた!? こっちはあのあと大変だったのよ?! もう、やりたい放題やって後始末もしないで逃げちゃうなんて、いけない娘ね! 」
「えっと・・・・・・だれ?」
突然目の前に立ち、自分の手を取ってはしゃぎ出した年若い女性にエマはキョトンとした顔をしてしまう。
「王宮で見かけた事はない・・・・・・わよね」
「えぇ~っ!? 酷いっ。私の事を忘れるなんて、たまりませんわん!」
「いえ、本当に覚えがありませんが」
「ふぅん、そんな事言っちゃうんだ。もう、ダメだぞ。私は貴女の<母達/妹達>なのに」
「えっ・・・・・・えぇええええっっっ!!」
「私たち四人を無理矢理魔法でひとつに融合させておいて逃げてしまうんですもの。中途半端に混ざり合ってしまった所為で身体は上手く使えないし、化け物呼ばわりされるし、幽閉されるし・・・・・・あ、だめ、何か段々腹が立って来たぁ、ふふふふふ、貴女も私たちと一つにならない? それはとても気持ちの良いことなのよぉ」
白衣の彼女は妖しい笑顔でエマの手首を強く握ると強化された筋力で強引に引き寄せて、首筋に舌を這わせた。
気が動転したエマは飛び退こうと脚で床を蹴るが、しっかりと握られた手首が離れる事を阻止している。
「ひぃっ、いやぁ、はなして、放してぇっ!」
半狂乱に近い心理状態になったエマを見てニンマリと笑った女性は、あっけなくエマを解放するとにっこり笑って言った。
「なーんてね、完全に私達が私に統合されるまでは恨み骨髄だったけれど、私は私、四人の誰でもないし、新たに生まれた私でしかないわ」
「えっと?」
「あぁと、つまりぃ、A+BはCであり、CはAでもBでも無い別個の新しい存在だって事なのよ。四人の記憶と魔力は受け継いでいるけど、私の意志は私だけの物なのですわん」
「あ、えっと怒ってないの?」
「怒ってるけど、なんて言うかなぁ。あー、貴女の母親達って女学校時代からルームメイトだって知ってました?」
「いえ、正妻さまは貴族の出でしたし、実母はメイドをしていたから庶民だとばかり」
「うん、で女学校でふたりは仲の良い親友だったんだけれど、ほらー、女学生って異性がいないと同性に走る事が多くてね。ふたりはSの関係だったって訳で、で私が卒業して実家に帰ったら即日旦那様と結婚させられてね。それで憤慨した私はメイドとしてお姉さまの、あれ? 私の嫁ぎ先に雇われて、旦那様の愛人、側室になって貴女を生んだのですけれども。そしたら旦那の奴新しい側室に夢中になりやがって、って話が長くなっちゃうから省略して、でまあ元々私達は愛し合っていたから一つになれて嬉しかったりする訳なの」
「そんな、お母様たちが変態だったなんて、気付かなかった・・・・・・」
ガビーンと云う効果音を背中に張り付けながらエマは黄昏てしまった。
突然現れた女性による告白劇により、室内にいるパレード国王を始めとする一行は怒濤の勢いで続く展開に呆気にとられてしまったが、気を取り直した陽介が話が途切れたタイミングを見て女性に声を掛ける。
「えっと、それでエマさんのお母さん、何のご用なのでしょう。現在私達は会議の準備の事前会談の待機中なのですが」
「ああ、それですわん。ちょっと現在、後宮の人員対策で雇われてまして、キメラに詳しいエマの手を借りたいのですけど」
「後宮の人員、削減ですか? 女官の数を減らすとか」
「ああ、いえいえ。後宮に入っている側妃さまの数がもう直ぐ1,100名を越えるって事で、流石に政府から予算削減を迫られているんですけど、国王陛下は誰も放逐するのは許さないって云うんですのよね」
「数多すぎだろ先輩」
「それでぇ、この国に来て知ったんだけど、こんぴゅーたーのハードディスクドライブ(HDD)が一杯になった時にはデーターを余所に移すか圧縮して空きを作りますよね」
「まあ、必要であれば、別宮でも作るので?」
「それじゃあ予算の削減になりませんし、国王陛下の言葉では『夫婦の営みをするだけで馬車に1時間も揺られては堪らない』と云われましたので、もう一つの方法、データーの圧縮をしようかなと思いつきましたのよ」
それを聞いた陽介は非常に嫌な予感がしたが、聞かない方が怖かったので聞き返す。
「もうひとつ、データーの圧縮と云うと・・・・・・」
「後宮にいる女性達って凄い美人ばかりじゃないですか、でも、どうしても自分に不満のある場所や理想の部位を持っている羨ましい身体の持ち主がいるとするでしょう?」
「ああ、はい」
「それで、例えば第504婦人が自分の地味な黒髪じゃなくて隣に住んでる第505婦人みたいな金髪が欲しいと希望した場合なのですけれど、第505婦人が自分の薄い胸とキメが粗い肌ではなく、第504婦人の爆乳と絹の様にきめ細やかな肌が欲しいと希望すれば、生体融合術を使って希望の要素を顕現した新しい身体に生まれ変わることが出来るわけなのですの。そして後宮管理としては二人分の費用を一人分に削減できると云う一石二鳥の優れた方法なのですよ。まあ、子供の数は変わらないわけなのですけれども」
「え~と、それって人権は?」
「ふたりがひとつになるんですから、ひとり分ですね。でも大丈夫、魔力は二倍ですよ! 寿命も伸びますし、何より若返りの効果が」
「そう云うんじゃなくて! 自分がなくなるなんて本人達は承伏しているのかと!」
「あー、ええ、普通はそう思いますわよね。でもね、国王のハーレムに入った奥さん達って、ある意味人間ではなくなってしまっているのよね」
「なんだって?」
流石に聞き捨てならない言葉を聞き、陽介は緊張する。
「監禁された後、個人で研究を進めてキメラ化した私達四人が完全に一つになった私になりまして学園都市に入ったのですけれども、そこの蔵書にあった日本から入った博物誌を読んだのね? そこで一番興味を引かれたのが『昆虫』の項目だったの。私の肉体融合は昆虫の蛹を参考にしたものだし。それでその博物誌の中に『真社会性』ってのがあって女王を中心に雌ばかりが自己を持たずに組織の歯車になる。そこは似てますよね。女王様じゃなくて王様だけど」
「それだけじゃ根拠としては薄い気が」
「だって千人の奥さんがいるのに嫉妬したり喧嘩したりしないで必要以上に仲良く暮らして、旦那さんが喜ぶ事だけを目的として人生を送っているのですよ? 普通ならライバルを蹴落として自分だけ寵愛を受ける様にする筈ですのに。こんなのは自由意志のある普通の人間ではないでしょう。私の見るところどうも彼女たちってハーレムを成立させる為に自我が制限されているみたいなんですよね。ほら、国王に惚れた瞬間からそれまでの人格が嘘みたいに変わった女を貴方は知っているでしょ」
「ああ、知っているよ」
どうにも嫌な感情が沸き上がってきた陽介は、近くで洋士の城に来た事でニコニコしている上機嫌なチキンハートの事をチラリと横目でみた。
「どうもねぇ、フェロモンと結婚指輪によって共感作用が強くなって、他の奥さん達の集団無意識と繋がってるみたいな感じなんですのよね。ですから同じハーレムの奥さん同士は異常に仲が良いですし、あの女達も国王陛下が喜んでくれるならもっと美人になる為に他人と合体融合して自分ではなくなってしまう事も全然気にしないみたい。これってもう普通の人間とは言えないですわよね」
「貴女はなんでそれに協力を?」
「それは私が身につけた生体融合合成技術が欲しいって云うんだから、魔法技術の博士としては発奮して頑張らなくちゃ嘘でしょ」
自慢げに胸を反らしてそう言うエマの肉親を見て、彼は彼女の歪な職人気質を揶揄するように告げた。
「そんな事して良いと思っているんですか?」
「私は事故とは言え四人が一つになって魔力が増えたり若返ったりでそれなりに恩恵を受けましたし、なにより仲間が増えるのは嬉しい事なのですわ。う~ん、それで最終的には今ハーレムにいる奥さん達全員がひとつになって千人分の魔力を持った、違いますわね、今も新しい奥さんが増えてますから、2000~5000人分の魔力を持った超人の奥さんを相手にして子供を作って、陛下は超人兵団でも作るつもりなのかな? とか思ってますのだけれども、どう思います?」
「勇者の考える事なんて理解できないよ。ある意味人間じゃないみたいだし」
「そうですよね。もしかしたら人間の上位種のエンペラー・サピエンスにでも突然変異したんじゃないのかしら? 神様の加護を受けた時にでも」
そんな荒唐無稽な話を振られた陽介は、だが、色々とやらかしてきた洋士のことを思いだし、それを否定することが出来なかった。
「あり得る。凄くあり得る。先輩の能力は常人の域を越えてるからなぁ」
「そうなったら一般人のお嫁さん不足が酷い事になりそうですけれどもね」
「それは、むむ、もしかしたら戦争に積極的なのって男の数を減らして女余りにしようとしたのか? いやいや、流石にそれは」
「まあ、そう言う訳ですので、エマは連れて行きますから」
「ダメです」
「ケチん坊っ!」
酷く怯えた様子で震えているエマを連れて行こうとする彼女の要請を陽介はきっぱりと断った。
後で調べて分かった事だが、どうも彼女の方法では一度に2人を一ヶ月掛けて合体させるのが精一杯で、エマのように多人数を合体させる技術がなかったらしい。
お陰で限られた人数しか施行される事は無かったのだが、後の世で後宮で行われた史上最悪の汚点として恐れられた事件はこの様にして行われていたのだ。
良くあるハーレム物を新しい形にしてみたかった。
女性が多数いても変に拗れずにハーレムが成立する前提を無理矢理こじつけて見たのが洋士の後宮。
ハーレム物の要素である次々に新しい女性と知り合い付き合うが、ハーレムの煩わしい点であるその後のケアーをしなくて済む様にしたのが陽介の寝取られ体質。
どっちも極端ですが、イマイチです。
もっと精進しなければ。
ではでは。




