表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
44/51

第36話 決着

 先週、先々週と更新が途絶えて申し訳ない。

 ストックが尽きて執筆スピードが間に合わなくなった、つまり遅筆なのがいけない訳です。

 済みませんでした。

 その時、円形の戦場フィグリドが静止した。

 上空にて防戦側の大将と乱入側の大将が一騎打ちに及び、拡声の魔法にて聞こえてくる会話の内容は兵士たちに筒抜けであった。

 現在の戦場は対峙していた二つの軍勢の陣地に第三勢力が乱入した事により特にアクアマンデ陸軍側に混乱が発生しており、構築したばかりの塹壕線の背後からの奇襲によって現場の兵士たちは少ない情報を掻き集めて対処している最中だったのだ。

 アクアマンデ側は状況が混乱した当初はこの攻撃はパレード側の後背部からの奇襲攻撃かと考えていたのだが、兵士が全員人間種であった事や装備の違いから第三軍の物と推測し、敵首領による『犯行声明』から確定情報と目された。

 アイムジャスティスは少数精鋭主義であるらしく、少人数のチームによる魔法剣戟や魔法攻撃によってアクアマンデ陸軍は多大な犠牲を出していた。

 それとは別に全身を覆う甲冑の重騎兵による突撃による被害も大きく、こちらは第三軍の中でも首領直属の精鋭部隊であると考えられている。

 犯行声明の際に敵首領は空中に浮かぶ木造船の舳先に立ち姿を見せていた。

 その姿は匂い立つような美貌とウットリするような耳触りの良い声で、それを聞いた兵士たちを魅了していた。

 無骨な環境で鍛えられた男性ホルモンの塊の様な兵士たちにとってみれば、その妙なる声だけでも背筋に走る物があると云うのに、魔法で空中に拡大投影されている薄衣を纏った女性の姿には魅了されずにいることが難しかった。

 それが今自分たちを殺しに掛かってきている謎の武装集団の首領だとしてもだ。

 よって、最初の敵対勢力であり『魔王の軍勢』と目される敵対集団のリーダーが発した言葉に彼らは頭が真っ白にされてしまったとしても不思議ではなかった。

 兄貴ブラザーである。

 と云う事は米英なら男兄弟、日本語ならばお兄さんである。

 つまり、この目の前にいる超美人な女性は『男性』だと、そう明言しているのだ。

 こんな状態で冷静でいられるだろうか、いや、無理。

 幸いな事に動きが止まってしまった彼らが一方的に蹂躙されることはなかった。

 目の前にいる第三軍の兵士たちも動きを止めて首領の方を見ていたからだ。

 今現在普通に行動しているのは、首領直属の騎士隊、通称『黄薔薇騎士団』だけである。

 黄薔薇騎士団は少し離れた所で整列すると面体を上げ、首領の虚像を背景に、声を揃えて大声で宣言する。


『こんなに可愛いが女の子の筈がないじゃないか!』


 男女比率9対1の中には筋肉質で髭面の暑苦しい男性騎士からクールで美形の男性騎士まで様々なタイプが居るが、それらがほんのりと顔を赤らめて宣言する様は非常に気持ち悪い。

 彼らは一般ギルド員からギルド長の念入りな面接を受けて騎士団に入団するのだが、面接の後には人が変わったようにギルド長を崇拝して他の女性に見向きもしなくなった者ばかりであった。

 その事から、ギルド長の事を一般ギルド員は『魔性の女/傾国の美女』と呼びならわしていたのだが、その称号も今日ここまでのようだ。

 発掘戦艦の舳先でチキンハートの呼び掛けを聞いたコーロはしばらく声を失っていたが、キッと怒りの表情を浮かべた後に大声でチキンハートを糾弾した。


「21世紀初頭と違って、性転換手術で卵巣や子宮とか女性機能を得たんだから子供だって産めるわ! 元男だからって差別しては駄目なのですよ」

『せやったら何で自分は男性機能を残してんのや? 女になりたかったんとちゃうんかい』

「私が成りたいと願っていたのは『アダムカドモン』、最初の人間アダムからイヴが取り出される前の原初の人間、完全なる人間、神の模倣たる本物の人間です。純粋であり、完全であり、最も神に近い存在なのです。なのでみんなは私に従い、それの為に命を捨ててまでの献身を見せる事こそ神に従うと云う事なのです。それがサタンによって堕落させられたこの世に対する神の御心なのです」

『偉い都合の良い話やないか。本人は随分とご乱交だったみたいやったけど!』

「若い頃の間違いも、真理を得る為の試行錯誤です。人間は父と子と聖霊の様に初めから備わっている訳ではありませんので」

『せやったら他の人間や亜人種だって同じやろ?』

「あっはっは、何を云うかと思えば、汚れた悪魔の血を引く者達など、最初から考慮するに能わずよ。自ら望んで汚れた者となった我が妹ならばこそ、我が手によって引導を渡してくれよう」

『相変わらず厨二病が治ってないんやから。行くで陽介はん、いきなり横からしゃしゃり出て迷惑行為をするマナーの成っていない元プレイヤーにはお仕置きや』

『了解。下から一網打尽を狙っている洋士先輩にも注意はして置いてね』

『ほー、さよか。分かったで、そっちにも注意やな』


 チキンハートは手綱を引き絞り、ロダンを上空へと遷移させた。

 航空戦である以上、相手よりも高い位置に着ける事により、位置エネルギーによって重力を利用するのは定石である。

 発掘戦艦・無敵インヴィンシブル号もそれを追従するが、木造の戦列艦を模した構造のそれは急激な機動に着いて行けない。

 何となれば、発掘戦艦は火力を中心に据えて作られており機動性は二の次であるからだ。

 それに対してロダンは機動性を優位としており、火力は口腔から吐き出す火炎弾のみであり、次いで足に抱える事の出来る投下物があるだけで火力は貧弱と云える。

 それでも地上の中隊を全滅させるだけの威力を持っているのだが。

 さて、空中で因縁の対決がなされている間、地上に於いても状況は動いていた。

 直接的な要因はチキンハートによるコーロの男性発言である。

 冒険者ギルド・アイムジャスティスに於いても絶対的な忠誠を誓う騎士団はともかく、一般ギルド員は絶世の美女であると堅く信じていたので、彼女がネカマであったと云う事実に大きく動揺した。

 それまでの積極的な進軍速度は低下し、確保した塹壕等を拠点としてそこに籠もり、防戦を始めたチームの数も多くなってきていた。

 それに対してパレード側は方針に変化はなく、城壁を盾に防御を継続中である。

 アクアマンデ王国は掻き乱れた戦線の建て直しに奔走しており、現在はパレード側の立て籠もる城壁内部への積極的な攻撃は控えていた。

 ただ、戦意が喪失したかと云えばそうではなく、元々持っていた戦意と、パレードが第三軍の攻撃を凌いでいる為にこっちに負担が掛かっている事に対しての理不尽さと、凄い美人が現れて盛り上がった所がガッカリなオカマだった事に対しての怒りが燃え上がっていた。

 ただ、全体としては混沌とした状態に落ち込んでいる。

 アイムジャスティスはこう云った戦況に慣れている為、機動性の高い軽騎兵で移動中の小隊を隔離してから攻撃したり、防御力の高い重騎兵で攻撃をいなしながら騎兵突撃で損害を強いたりと、嫌な戦い方をして相手を辟易させていた。

 そんな状況に変化が現れ始めたのが戦闘が始まってから四時間後ほど経過した頃である。

 低く響く音が戦場に鳴り響く。

 ほとんど耳に聞こえない音の正体は、離れた位置から広がった航空機のターボプロップエンジンの爆音の中から減衰し易い高周波が飛んだ物であり、低音部だけが届いたのだった。

 最初に気が付いたのは自衛隊の航空基地周辺に住んでいた兵士のひとりだった。

 戦闘中ではあったが彼は顔を上げて耳を澄ますと、それが慣れ親しんだ爆音である事に気が付いた。

 途端にアイムジャスティスの兵士が射掛けて来た矢が直ぐ側に刺さったので、ヒェーッと悲鳴を上げてから塹壕に頭を下げて近くの上官に報告を入れる。


「軍曹殿! 上空から航空機の爆音が聞こえて来ます」

「む、航空機と云う事は自衛隊か? 国王の方針で自衛隊に援軍を依頼しない事になっていた筈だが。本当に航空機なんだな?!」

「はい、自衛隊の駐屯地近くの出身です、何年も聞いて来たから間違いありません。ターボプロップ機のエンジン音です」

「ほう、と云う事は戦爆機ではないのか。偵察機かな?」


 顎に手を当てて首を傾げた軍曹は長い軍隊生活で得た知識を元に推測を試みるが、如何せん判断材料が足りな過ぎた。


「目視で確認するまでは分かりませんが、援軍……ですよね?」

「正直分からん、新しい国王は頑なな性格をしているらしいからな。自衛隊の援軍が駆けつけても拒絶しかねんし」

「そんなぁ」

「そんな顔をするな、とにかく何かしらの状況の変化はあるだろ。いつでも対応出来るようにしておけよ」

「了解です」


 未確認ながら航空機が現れたと云う話は直ぐに塹壕に潜む兵士達の間に広まり、不安に駆られた兵士達は救いの手を求める様に空を仰いだ。

 この時、密かにパレード側は城壁内部に限った範囲に雷管不発の呪いを発動させた。

 これはパレード側に不利な状況をもたらす物にも思えたが、チキンハートに支持を受けたモンスターパレード・ギルドは決行していた。

 現在、城壁を挟んで内部にパレード、外部にアクアマンデとアイムジャスティスがあり、それぞれが三つ巴で攻撃を繰り広げている状態である。

 だが、前日より付近に潜んでいたシールズの偵察部隊によって状況は把握されており、攻撃目標を識別するのに十分な情報がバン・シュワー湖の真ん中に遊弋するアメリカ合衆国海軍と海兵隊の部隊司令部に届いていた。


 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 国連安保に基づいて組織されたPKFの今回の目的は、異世界AW-01に存在する都市国家パレードを敵対勢力の侵略行為から守ることが主眼となっていた。

 その為には戦力差を相手に認識させて早期に停戦させる必要があった。

 だが、現代戦で用いる兵器は遠隔操作で相手に気づかれず対処される前に相手を無力化する事で味方の損失と敵の継戦能力を奪う事が前提となっている為に、知識を持たない相手では攻撃されている事に気づかない可能性が高かった。

 スマート兵器ではスマート過ぎて相手を怯ませる事が難しいと判断されていたのだ。

 よって、スマートに敵兵力を無力化する現代兵器と威圧感に溢れた旧式兵器の二段構えで部隊は構成されていた。

 主戦場である都市国家パレードの領域には迅速な展開が可能な現代型の海兵隊が進出してきており、従戦場であり次元通廊のあるアクアマンデ王国の首都には旧式兵器である戦艦ミズーリが沖合に停泊し海兵隊の上陸を支援していた。

 因みに今回の出動は国連安保理にパレードが依頼していた決議に基づく物であり、地球側の侵略ではない、とされている。

 日本政府もなかば自衛隊の存在を無視している新国王である池面洋士に政治的に不信感を募らせており、条約を盾に駐屯地周辺の自衛隊の警備地区以外への進出をしない事を明言していた。

 実際には情報のやり取りを行って双方に被害を出さない様に支援していたが、表向きはノータッチである。

 そして現在、沖合1キロの水域で巨大な大砲を王城へと向けた巨大な戦艦ミズーリの視覚的威圧効果は予想された以上に絶大な物があった。

 これはアメリカ合衆国がAW-01Aで得た教訓を元に、現代兵器の知識が少ない相手に対する対応を検討した所、大時代的な砲門外交による恫喝が効果を上げると分析されていた為に採られた手段である。

 魔法文明は精神を拠り所とする為に精神的な物が戦力に与える影響が大きい。

 魔法が必要以上に大きい視覚効果エフェクトを持つのも魔法の呪文がやたらと仰々しいのも戦場で応援歌を歌うのも、相手の精神を威圧し萎縮させる事で精神的に物理的に相手を威圧する事が出来るからである。

 その為に見た目で強そうな印象を与える兵器の代表格である戦艦に白羽の矢が立った。

 既に現役引退をして久しい戦艦ミズーリがアメリカ合衆国政府の決定によってボイラー等の機関部や一部兵装の近代化改装を経て現役復帰を遂げていたのである。

 正直、中古の巨大タンカーにミサイルランチャーを並べても威圧感は出せるであろうが、戦う為に作られた『戦艦いくさぶね』に存在する抜き身の刃の様な殺気がない為に、わざわざ老嬢を現役復帰させていたのだ。

 現在周辺水域には航空機=竜騎兵を警戒してか空母ではなく戦艦を護衛対象にしたイージス艦が警戒をしている。

 一見すると航空母艦に見える強襲揚陸艦からはホバークラフト推進のLCACとヘリコプターによって揚陸作業が進んでおり、既に王都の王立軍駐屯地等の軍事拠点の制圧は大方済んでいるようであった。

 現在軍の主力が都市国家パレードの制圧に向かっていた為に抵抗らしき抵抗もなく目標を制圧クリアーし、王城も白旗を揚げて開門し使者の受け入れを行っている所である。

 その迅速な行動に国王への連絡をする間もなく、戦場では本拠地陥落の知らせを知る由もない洋士は奮闘を続けているのであった。

 だが、その洋士率いるアクアマンデ王国陸軍にもPKFの手が伸びようとしていた。

 プレデター等の無人偵察機による偵察行動によりある程度の配置を掴んでいたアメリカ合衆国海兵隊は最初の攻撃を開始する。


 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 都市国家パレードの上空で空中戦闘を開始しようとして、より優位な高度を取ろうとチキンハートは大怪鳥ロダンを強く羽ばたかせた。

 生物特有の柔軟さで進路を変えたロダンは発掘戦艦に近付き過ぎないように螺旋を描いて高度を上げ始めた。

 現に発掘戦艦から舷側に固定された大型弩バリスタから撃ち出された槍のような矢と魔法矢マジックミサイルが誘導されて向かってくるが、重力に負けて地上へと落下して行く。

 だが優に200メートルほどは高度を上げてくるので油断は禁物であった。

 そうして順調に戦闘準備を整えるチキンハートであったが、彼女の持つ『危険察知』のスキルが南の方角からの脅威を感知した。

 空中戦に於いて必須のスキルである『鵜の目鷹の目』を用いて目標を確認すると、彼女はパレードのギルド本部へと連絡を取った。


『私だ』


 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 少しばかり時を遡る。

 バン・シュワー湖に遊弋するアイザック・アジモフ級航空母艦、CVN-099・コードウェイナー・スミスから発艦したF-35CライトニングⅡ・統合打撃戦闘機JSFは格納式弾倉にクラスター爆弾を装備していた。

 彼らは戦闘態勢に入っていなかった王都に対しては被害を出さない様に全戦力を用いて手加減していたが、戦場で実際に戦闘行為を行っている相手に自重する積もりはなかった。

 座標位置を入力された火器管制システムは機体の進入方向と高度、進入角度を誘導し、目標に接近したパイロットは操縦桿の安全装置を解除した。

 戦闘用航空機の無人化が著しいこの時代に於いても最初の戦闘の引き金は危険を冒しても人間が判断して引くべきだと考えられている。

 自衛隊からの情報で都市国家の高度1000メートル以上にはエネルギー障壁が張られている事を警告されていた為に低空飛行を余儀なくされたF-35CライトニングⅡは弾倉扉を開き、パイロットは引き金を引いた。

 火器管制システムはクラスター爆弾の投下許可が下りた事でロックを解除し、適切なタイミングでクラスター爆弾を投下する。

 戦場の極めて低空を音速を保ったままのスピードでフライパスしたF-35CライトニングⅡは、そのまま上空に昇って航空母艦へと帰還していった。

 投下されたクラスター爆弾は機体からある程度離れた所で減速用のパラシュートを開傘してF-35CライトニングⅡから十分に離れると、弾頭のカバーを吹き飛ばして内蔵された多数の小型爆弾を飛散させる。

 空気抵抗によって広く拡散した小型爆弾は遅延信管を使用する必要がない事から全部が着発信管であり、不発弾防止の観点から不発時の不活性化機能も含めた高性能の信管を使用したことにより着弾時の姿勢に関係なくほぼ全部が爆散した。

 楕円形に、テニスコート十数個分の広さに広がった小型爆弾の爆発は、地面に伏せて戦闘を行っていたアイムジャスティスの冒険者達も塹壕に伏せていたアクアマンデ王国の兵士達も構わずに吹き飛ばす。

 冒険者の中にはACアーマークラスの高い鎧を身につけていた為にヒットポイントの低下がほとんど無かった高レベル冒険者も居たが、爆弾が爆発する直前に低空を音速でフライパスしたライトニングⅡの衝撃波でひっくり返った所だったのでダメージは大きかった。

 そして広範囲に広がった小型爆弾は確率的に城壁の内部へも数個が飛散していたが、雷管不発の呪いは信管にも及んでいた為に全てが不発となっていた。

 被害は弾頭がぶつかり屋根に穴が開いた家が出たことだが、そもそも戦闘によって城壁周辺の家屋には被害が及んでいたために文句を言ってくる住民も居なかった。

 今までの戦闘が子供騙しのように思えるほどの被害が戦場にもたらされた。

 一瞬にしてヒットポイントがゼロにまで持って行かれた兵士や冒険者達が光の粒になって消滅して行く。

 それこそイキナリ横合いから殴り飛ばされた様な不意打ちを喰らった兵士達は呆然として状況把握も忘れ、爆音が去って行く空を見上げた。

 アクアマンデ王国の本陣はクラスター爆弾の直撃こそ避けられたものの、衝撃波による打撃と後の爆風による被害が甚大で、魔法の鎧を着けていなかった参謀や連絡将校達は軒並み全滅しており、池面洋士と数名の将軍が生き延びていたのみである。

 洋士は打ち付けた頭を手当てしながら立ち上がり、本陣を見渡した。

 数台が並んでいた野戦無線機は何処かへと吹き飛んでいて姿が見えず、生き残った将軍達の他の軍人達の姿は無くなっていた。

 その被害の大きさに洋士は頭を白くしながらも努めて冷静になろうとしたが、頭上から空中戦の砲撃音が響いてくると居ても立っても居られずに地下に設置した掩体壕に駆け込んだ。


「くっ、自衛隊が我らを裏切ったと云う事か。だが見ていろよ、この戦いに決着をつけたら取って返して駐屯地を襲撃し復讐して見せるぞ。何だったら此奴こいつらから弾丸の発射を阻害する魔法を奪って手も足も出せなくしてやってもいい。ふふ、いつまでも我が国の中に軍隊を駐留させ続けてでかい顔をしているが、間違いだったと後悔させるのだ」


 そう恨みの言葉を呟いて掩体壕の斜面を駆け下りて行く。

 現代の空軍に倣って地上では無力な航空戦力は地下壕に格納していたのだ。

 そこには天馬ペガサス翼竜ワイバーン鷲馬ヒポグリフ等、数頭が繋がれていたが、その内の一頭に歩み寄ると綱を解いた。


「行くぞガルーダ、出陣だ」


 洋士が声を掛けると鷲の頭に獅子の身体、そして力強い鷲の翼を持つ怪物、鷲獅子グリフォンは力強く声を出す。


「うむ。敵は強大だが、私とお前のタッグなら負けはしないさ」


 洋士はグリフォンの手綱を取って鞍に跨がり、掩体壕から姿を現した。

 その勇姿を見た将軍たちは彼に駆け寄ると口々に褒めそやす。


「おお、流石は勇者陛下、凛々しく雄々しい御姿ですな。戦いに行かれるのですな」

「うむ。この戦いは我々の物だ。突然現れた第三者や第四者の物ではない。決着は私がつける。皆には生き残った兵士たちの再編成を命ずる」

「了解しました。ざっと見たところ三千名は戦えるでしょう。城攻めの最低人数は健在なれば、勝利も我が手にありましょうぞ」

「頼もしいな破魔将軍アレクセイ。王都の鎮守府とは未だに連絡が取れないのか?」

「御意」

「そうか。だが我々はどんな犠牲を払っても魔王の軍勢を倒さねばならないのだ。では頼むぞ」

「はは。我が勇者陛下の為に」


 うやうやしく礼をする将軍達を見下ろしながら洋士はグリフォンを駆り天空の戦いに参戦すべく虚空を駆け上がって行く。

 それを見上げる将軍達は呟く。


「破魔将軍、か。小さな頃は魔王と直接戦う軍団の将に憧れていたが、近年の軍の近代化と魔王討伐以降は廃止されたからな。まさか復活した役職に就ける事になるとは思いも寄らなかったが、嬉しくもあり滑稽でもあり」

「勇者陛下は懐古主義の嫌いがある故にな。自衛隊の影響を受けた近代化で無くなった役職の復活に前向きでいらっしゃる。古き伝統に理解を示して下さっているのだから」

「そうだな。伝統には理由がある。悪いようにはなるまいよ輜重将軍。さて、現在生き残っておる部隊はお主の麾下の輸送部隊がほとんどなのだから部下の掌握と再編成は任せたぞ」

「おう。任された。どんな激戦地でも物資を運び込む事の出来る優れた技量を戦闘に発揮するべき時が来たのだからな」


 将軍達は豆粒ほどに小さくなった洋士の姿を見ながら戦いの継続方法を検討する。

 非常に強いカリスマで軍も民も引っ張って行く力強い勇者の後ろ姿には憧憬にも似た憧れが湧いてくる。

 正直言って彼が何を考えて行動としているかは理解できなかった。

 彼以外の人間が同じ事をすれば鼻で笑うか唾棄するかであったろうが、彼のような大人物であれば理解出来る事でも普通の人間である凡百の者に理解出来る筈もなかったので、何の疑問も持たずに付き従うことが出来るのだ、と彼らの大勢は決まっていた。

 こうして、出陣した10万人の中で未だに戦闘力を保っていた輸送部隊所属の3000人がかき集められて、魔王の軍勢と考えられているこの城塞都市に巣くう魔族の一団の殲滅を押し進めて行く事が決定した。

 通常三割の兵力が戦闘不能になると全滅と判定されるのだが、勇者のカリスマによって残存する兵士達の闘志は意気軒昂であり、全く臆するところがなかったのだ。

 これも勇者が有する、味方の志気を鼓舞する能力であり、全軍の意思を統一して困難に打ち勝つための力なのだ。

 その為に彼の指し示す方針に疑念の余地もなく、それを実現するためにのみ思考が向けられていた。

 勇者の味方となった者は、無意識に彼が望む事を自らが犠牲となっても成し遂げようと思えてしまう。

 そしてその事実に対して疑問を持たれる事がない。

 彼のナポレオン・ボナパルドの様に国を擦り潰してでもそれが出来る者、それが英雄、勇者と云う存在なのだ。


 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 発掘戦艦の上空、太陽の方角を占有した大怪鳥ロダンは口から怪光線を発射して相手の様子を窺った。

 ゲーム時代より幾度と無く交戦してきた相手であるだけに反応は予想できたが。

 輪っか状の光の輪円筒は亜音速で発掘戦艦に接近し、張り巡らされたバリアーに弾かれて消失した。

 空かさず反撃の砲弾が舷側の青銅砲から打ち出されたが、放物線を描いて飛来する球状弾を回避するのはロダンにとっては目を瞑っていても出来る様な容易な事である。

 ロダンの攻撃は命中する物の被害を与えられないし、発掘戦艦の攻撃は当たらない。

 基本的に勝負が付かない相性の悪い相手であった。

 しかし、チキンハートにとっては発掘戦艦の攻撃が地上に向かなければ目的を果たしている事になるので現状は問題となる物ではなかった。

 先ほどアクアマンデ側とアイムジャスティス側が展開している領域で攻撃があり、直下の低空を航空機が通り過ぎて行った事から、パレード側の思惑通りに事が進んでいる事は確認できた。

 しかし、戦場では何が起こるのか分からない、気を抜く事のないチキンハートは周囲の警戒を怠らなかった。

 その為だろう、魔導動甲冑のセンサーが反応する前にチキンハートは地上から接近してくる機影を確認した。


『陽介はん、グリット12-15から接近して来る機影が見えるんやけど。分かる?』

『グリッド12-15っとこれか。地上から、え~と。拡大、画像処理で明確化』

『陽介はん、VRは思考制御なんやから口に出さんでも操作出来るんやで?』

『慣れてないんだから、口に出してはっきりと意識しないと、巧く出来ないんだよ』

『あー、まぁ初心者はなぁ。て、それより、これってグリフォンなんやけど』

『乗ってるやたらと派手なメタリックブルーの鎧は勇者の鎧だから、洋士先輩だなぁ。正義の名の下に征伐しに来たんだろう』

『ほー、さよか。しっかし、なんであないに自信満々で断言できるん? 少しは相手の立場に立って考えたら分かるやん』

『自分が正しいんだから考えるまでも無く、相手が間違っている、ビシッ、って感じかな』

『はた迷惑な奴っちゃなあ』

『それで済めば良いけど。先輩がココロさんに関心を持ってるみたいな事云ってたし、モンスターパレードを屈服させてココロさんと姫を嫁に加えるつもりなんだろうなぁ』

『う、うちにその気はないで?』

『期待してる。さて、先輩はこっちの上空を取るルートで上昇中で、無敵インビンシブル号はこちらを追尾中。どうしようか』

『せやね。上は神界やから進入禁止やし、ここの天井は一万メートルか、後500メートルやし、上昇は止めてさっきの艦載機が飛んできた方向へ行こか』

『南か。多国籍軍の連絡周波数は、っとコレか』


 陽介は脳裏に無線の画面を呼び出すと、最初に印を付けていたコードで呼び出しを掛ける。


『ハローハロー、マイネームイズ ヨウスケ ナガタ。アイムファイン アンドユー』

『ヨウスケはん、自動翻訳機能が付いてるからわざわざ中学一年生レベルの英語を喋らんでも』

《アイムファイン って随分と堅苦しいご挨拶をありがとう。こちらアメリカ合衆国海軍、AW-01世界派遣多国籍軍旗艦の航空母艦CVN-099 コードウェイナー・スミスだ。ようこそ長田陽介。君の連絡を待っていた》

『あ、これはどうも。えー、現在の状況ですが』

《こちらでもレーダーで捕捉している。君たちの乗っている飛翔生物ロダン、全長50メートルの飛行物体UK01、全長4メートルほどの小型飛行物体UK02の三点だ》

『あ、はい。UK01は発掘戦艦インビンシブル号で所属はアイムジャスティス、搭乗者はアイムジャスティスのギルド長のコーロ・デ・コキーロ敵対勢力です。UK02はグリフォンで固有名称は不明、搭乗者はアクアマンデ王国国王の池面洋士です』

《了解した。針路そのままで高度を1000メートルまで下げたまえ。ちなみに『雷管不発の呪い』は掛かっていないだろうね?》

『……耳が早いですね。えーと、大丈夫です、ね。はい』

《うむ、ではそのように》


 陽介は通信を終わると後ろにいるチキンハートに声を掛ける。


『だって』

『降下やとスピードが出過ぎて振り切ってしまうかも知れんけど、ま、セーブしながら行きますか。逆G掛かるから気ぃつけてな』

『分かった』


 云うが早いかふわっとした感覚の次に尾てい骨が下に引っ張られる気持ちの悪い気分が陽介を襲った。

 緩勾配で降下を始めると追尾してくる発掘戦艦と鷲獅子がスピードを上げて迫ってくる。

 チキンハートは優速を活かして距離を保ちながらわざと追尾させつつ距離を稼ぐ。

 発掘戦艦と鷲獅子はお互いにちょっかいを出しながらも主目的はチキンハートと陽介にありと、追尾を止める事はなかった。

 バン・シュワー湖の上空に至り、チキンハートはロダンの高度を1000メートルに固定して湖上の一点を目指して飛行を続ける。

 後方の敵機を警戒しているチキンハートとは別に、陽介は前方の水域を観察し続けていた。

 水平線がほぼ無い世界なのでレーダーには大分前から映っていたのだが、遙か沖に数個の点が目視出来るようになって来たので映像を拡大して確認すると、航空母艦を中心とした機動艦隊が湖水面に浮かんでいるのが確認できた。

 周辺上空には戦闘攻撃機のF/A-18スーパーホーネットが編隊を組んで警戒をしており、レーダーには映っていないがサンダーボルトⅡの機影が目視で確認できた。

 既に戦闘機による制空権に侵入し、迎撃ミサイルによる対応が行われていてもおかしくはない距離の筈だが、今のところロダンに向けた攻撃は行われていない。


《こちらCVN-099コードウェイナー・スミス。これより貴機は我が艦に着艦せよ。後続の敵は当方で迎撃する》

『了解です。任せます』


 とは言った物のロダンの全長は50メートル近くもあり、これが航空母艦に着艦するのは社○党の党首がベトナム戦争時に迷言した『B-52が実際に航空母艦から飛び立っている』のよりも難しそうな気がするのだが、チキンハートは気軽そうに請け負った。

 チキンハートの指図に合わせてロダンは急加速し、音速を超えた速度で一気に艦隊上空に侵入した。

 当然迎撃は無かったのだが、航空母艦の上空で一気に速度を落として空中に静止し、緩やかに飛行甲板に近づくと軽く翼で制動しただけでフンワリと着艦してしまう。

 長く伸びた首が艦橋の着艦管制官の側まで近付いて、ロダンにどう云った着艦指示を出そうかと悩んでいた彼は牙の生えた口腔を間近で見せられて目を白黒させていた。


『おっと失礼、驚かせるつもりはなかった』

「……いや、見事な着艦だった。コングラチュレーション」

『それは嬉しいな、フライトオフィサー』


 着艦管制官は目の前の大怪鳥ロダンが乱杭歯が並ぶ巨大な口腔を開き気さくな口調で喋り掛けてきた事に度肝を抜かれたが、目をパチクリとさせながらも相手の動きを褒め称えた。

 ロダンもこの空母の飛行甲板の支配者である男に逆らう気は無いのか、地の喋り方よりも戯けた口調を心掛けている様だ。


 さてその時、池面の載る鷲獅子は輪形陣の外周に接近しつつあり、艦隊指令はもっとも近い駆逐艦に艦対空ミサイルによる迎撃の指示を出した。

 VLSより炎と共に打ち出された近距離対空ミサイル一基はイージス艦より送られたデーターリンクによって目標を指向し空を駆ける。

 光と共に接近する対空ミサイルを視認した洋士は呟きながら聖剣を抜き放つ。


「無粋な。だが、その様な物が私に通用する等と思うな。はぁっ! 断空旋っ!!」


 洋士が振り抜いた聖剣が放つ剣気は三日月の様な閃光を放ちながらミサイルに向かって行き、白いミサイルの弾体を真っ二つに分断した。

 燃料が一気に燃焼し爆発した閃光が洋士を照らし、不敵に笑った彼の白い歯が輝きを放つ。

 その頃、もう一隻の飛行物体である発掘戦艦は木造の50メートル級の船体を揺らしながら、風を操作して輪形陣へと近付く。

 船首に佇むコーロは祈るように手を組むと精神を集中し始める。


「神よ、至高にして絶対なる神よ。貴方の使徒に聖なる守りを与え賜え。守れ聖壁、ジェリコの壁の如く。ハァアアッ イージスッ!!」


 舳先から発生した謎のエネルギー障壁は船体後方にまで伸びて行き、楕円状に蚕の繭の様に船体を囲んで防御を施す。

 ちなみに女神イージスの盾は 神話である。

 こちらへも対空ミサイルが差し伸べられたが、エネルギーバリアによって阻まれてしまい損害らしい損害を与える事は出来なかった。

 ここに至り、艦隊指令はイージスシステムの情報を元に目標を指示、自動割り当てにて護衛艦隊へと目標への攻撃指示を発する。

 艦隊の担当艦がVLSやミサイルランチャーを起動し、各所から白い噴煙をたなびかせた無数のミサイルが二つの目標へと向かって飛んだ。

 機動性が低く、鈍重で大きさが大きい発掘戦艦にはその大半が命中する。

 ミサイルが命中する度に術を行使するコーロに激痛が走る。

 失神しそうな痛みに食いしばった歯がギリッと鳴り、バリアーの維持に必要な聖なる力への集中が解けるが、すぐに気合いを入れ直して祈りを込める。

 その光景を艦上から眺めていたチキンハートが思わず呟く。


「うわーっ、容赦ないわー。けど、対空ミサイルやから威力は低いんかな。まあ、うちらの開発した『雷管不発の呪い<カース・オブ・アンエクスプローテッド・デトネイター>』があれば、現代兵器も無力化出来るねんけどな」

「その技術、実に欲しいね。我がアメリカ合衆国に」


 真っ黒のライダースーツの様な全身ツナギを着て立っていた陽介とチキンハートの後ろから豊かな髭を蓄えた怜悧な眼差しの西洋人の男が声を掛ける。

 ヒョッと陽介が驚きの声を上げるとチキンハートこと鳥山こころはクルリと後ろを向いて彼を見つめた。


「おおう、本物の軍人さんや。冒険者ギルド・モンスターパレードのギルド長のチキンハートや。この格好の時は未来世界のJGSDF・SCFの鳥山こころ元少佐でもええで?」

「私は統合情報局異世界担当のローデン大佐です。では少佐。カース・オブ・アンエクスプローテッド・デトネイターの情報を」

「あれは基本的にウチらの『専守防衛』に使用する代物や。売り物やおまへんでぇ。何しろ石器と棍棒で戦う世界大戦が第三次世界大戦になってまうでなぁ」

「売り物ではないと?」

「今回の売り物はVR技術やろ? クレクレ厨はネットマナー違反やで」

「はぁ、なるほど。確かに対価として頂く予定の物はそうなってますな。ですが、あなた方は日本人ですし、これ以上日本に有利な情報が渡るのは困るのですよ」

「アンタ達がウチに手を出さないんならな、何処にも売る気はおまへんで。日本にも知り合いが居る訳やなし。それともVR技術の代わりに欲しいのけ?」

「それは困りますが。取り敢えず他に技術流出がないのであれば良いのです。今回はそれで。あ、空飛ぶ木造船が被弾した様ですね」

「兄貴っ!?」

「兄?」


 チキンハートが振り向くと折れたマストが左舷から脱落し、船体から白い煙を吐いて高度を下げ始めた発掘戦艦インビンシブルの姿が見え、ちょうどのタイミングで直撃した時の爆発音がチキンハートの耳に届いた。

 腹に響く重低音と共に耳が痒くなるようなビリビリとした振動が伝わり、爆発の規模が大きかった事を教えてくれた。

 追撃の攻撃は無いようで、スルスルと発掘戦艦は海面へと落下していった。

 思わず目で追っていると湖面に接触し高さ50メートルにもなる水柱を上げてその姿が隠される。

 息を呑んで見守っていると流石の魔法製なのだろうか、水柱が消えた後にポッカリと浮いている木造船の姿が映ったが、あっと云う間にその船体を水面下へと没してしまう。

 それを見て怪訝な顔をしたチキンハートの横では陽介がもう一つの迎撃対象である洋士の姿を追っていた。

 鷲獅子グリフォンはその機動性を活かして縦横無尽に動く事で近付いてくるミサイルを幻惑し、近接信管が働く前に洋士が剣技で迎撃していた。

 艦対空ミサイルでは大振り過ぎ速度差が大きい為に、現在では直掩機による空対空ミサイルによる迎撃が行われている。

 一見すると素早く避けているようだが、生物的な制約により絶対的なスピードが足りなかった。

 第二次世界大戦機の様な亜音速にも至らない速度である為にサイドワインダーでも適わないような小さな弧を描いても追尾し切れずに見失う事もなく、離れた位置から少し方向を修正するだけで横から直撃されてしまい、回避する事は困難であったのだ。

 その為に最初の10発は見事防いだのだが、11発目が至近距離で近接信管を働かせ爆発し、爆風と破片が鷲獅子を切り裂いた。


「ガルーダァッッ!!」


 咄嗟に鷲獅子が飛行姿勢を変えてミサイル側に腹を向けた事と洋士の装備した勇者の鎧の防御力が、鷲獅子の身体を食い破って突き抜けてきた金属片を防いだ。

 お陰で洋士は無傷であったのだが、鷲獅子は爆風で無惨な状態になり即死していた。

 ワナワナと怒りに震えて激情に耐えていた洋士だったが、100メートルほど落下した時点で目を見開き呪文を唱える。


「オノレ、よくもガルーダをやってくれたな。もはや許さぬ。飛行魔術、鳳凰フェニックスっ!!」


 途端に勇者の鎧から炎が吹き上がり、全身を包み込むと徐々に形が鳥のように変化して行く。

 炎の鳥となった洋士を取り囲む火の魔法が大きく羽ばたくと、陽介のいるCV-099<コードウェイナー・スミス>へと突撃していった。

 それまでは敵の攻撃を吸収する性質からレーダー波を吸収していた為に空を飛ぶカタツムリ位の反応しか示していなかったのが、飛行魔術を発動した途端、10メートル級のレーダー反応と太陽並の赤外線(IR)反応をまき散らしだしたので照準が付けやすくなった事から駆逐艦や空母に搭載された近接防御火器が自動的に迎撃し始めた。

 自動砲塔やCIWSによる劣化ウラン弾やタングステン弾が無数に洋士へと殺到する。

 だがそれを強引に魔力の鎧で弾き飛ばしながら洋士は接近してきた。

 流石に甲板の上に乗り込んできた敵は撃てないのか、ある程度接近してきた時点で射撃は止んだ。

 するともはや自分を害する事の出来る物は存在しないとばかりに飛行魔術を解除すると、洋士は甲板へと降り立った。

 すぐさま自動小銃を構えたアメリカ海兵隊の小隊が陽介達を護衛ガードする様に取り囲み、銃口を洋士に向けた。

 洋士も聖剣を抜き放つと正眼に構え、油断無く周りを窺う。


「私はアクアマンデ王国国王の池面洋士である。大人しく降伏せよ、これは俺と陽介の戦いである。どこから沸いて出たのかは知らないが、邪魔立てをすると命はないぞ」


 眉間に皺を寄せてそう宣言する洋士に対して、携帯電話でどこかと連絡を取っていたローデン大佐が言葉を返す。


「アメリカ合衆国統合情報局異世界担当のローデン大佐だ。降伏せよ。もはや貴方の国は戦争に破れた。我々、国連安保理の議決に基づくPKF派遣多国籍軍はアクアマンデ王国の首都を制圧し、王城を奪取した。王家の人間も全員が投降している。各駐屯地の軍隊も都市国家パレード進駐軍も制圧済みだ。現在、我々に反抗する軍事力は貴方だけだ。繰り返す、降伏せよ!」


 ローデン大佐の言葉に洋士は驚愕し、陽介に罵詈雑言を投げかける。


「おのれ陽介、貴様の仕業か。卑怯者め、戦争とは無関係の我が家族を人質に取るなど、天も許さぬ悪行を成すとは。恥を知れ」

「そう言われましても。あ、武装解除して下さい。僕もグウェンディロン達が傷つくのは不本意ですし」

「全ては貴様の計画通りか!?」

「まぁ、大筋は。よく言うじゃないですか。戦いは始めるのは簡単だが終わらせるのは難しい。そして、戦いは始まる前に勝負は着いている。ですから出来るだけ被害が少なくなる様にアクアマンデ王国の主戦力をパレードに引き寄せて、ガラ空きの王都を国連に依頼したPKFに制圧して貰う。パレードの戦力は兵力1000名、対してアクアマンデ王国は10万名。パレードの少ない戦力を有効活用するにはこちらが囮になるのが最善の戦略だったわけです」

「こんな卑怯な作戦を使うとは。恥を知れよ」

「前も言いましたが、1000名の軍隊を10万名の軍隊で攻めるのは卑怯じゃないんですか?」

「戦いは数で決まる。相手よりも圧倒的な数で攻めるのは正当な戦い方だ。卑怯と言われる筋合いはない」

「では、相手の弱点を攻めるのも正当な戦い方ですよね?」

「否! 相手の家族を人質に取り脅迫するのは邪道! 戦いは戦場で決着を付けるべきだ。そして、正義が、勇者が勝利するのが正義なのだ」

「うーむ。取り敢えず武装解除を願います。今も戦艦ミズーリの主砲が王城に向いているのは確かなんですよ?」

「卑怯な。だが、一騎打ちの決着が付いていない今、それに応えるわけには行かない。今決着を着けてやる」


 銃口に取り囲まれながらも洋士は聖剣を陽介に向けて構えを取る。

 そこへチキンハートが割り込み、キッパリと言い放つ。


「いい加減にしとき。もう勝負はついたやろ。潔く大人しくするんや」

「む、俺の嫁、千飛んで九十八号じゃないか。今は君の告白を聞いている暇はない、後で可愛がってやるからそこをどくんだ」

「何を寝ぼけてんねん。アンタみたいな濁った目つきの男なんかお呼びやないんや。勝負はついたんやから、これを飲んでもらうで」

「それは?」


 洋士はチキンハートが取り出したポーションの瓶を眺める。


「陽介はんから依頼のあったポーションや。一億万円の超高級品やで。さあ、おとなしく」

「この様な逆境、既に経験しているわっ!! 俺は負けない。死ねぃ、陽介ぇええっ!!」


 大きく振りかぶり、魔法の呪文を唱え始めた洋士に向かい、陽介はチキンハートが手に持っていたガラス瓶を些か強引に受け取ると洋士に投げつけた。

 放物線を描いてゆっくりと洋士の顔面に向かうガラス瓶は、動作モーションに入っていた洋士の顔面を捉えてゴツッと云う鈍い音を立てて割れた。

 破片混じりの薬液は直ぐ様直接皮膚から吸収されて洋士の血肉へと作用を始める。

 一瞬で肌の色が紫色に変色すると純紫と赤紫と青紫の段だら模様に色合いが変化して行き、白い斑紋や瘡蓋様の皮膚が全身に浮かんでいった。

 その余りの変化にその場にいた一同は冷や汗を掻きながら見守っていたのだが、どろっ、とした感じで口鼻耳等から赤色透明な液体が溢れ出たかと思うと甲板の上に零れ落ちた。

 とても人間の身体から出てきたとは思えない大量の液体は、甲板の上に広く広がっていったのだが、突然中心部が盛り上がると高さ4メートルほどにまで巨大化した。

 一見すると王様赤色スライムみたいであったが、中心部に大きな核が出来たと思うと表面に巨大な顔が浮かび上がった。

 それは暫く目を瞑っていたが、くゎっ!! と目を見開くと大声で宣言する。


『我が名は大魔王アテン。イギィプ世界の創世統一神也。勇者ヒロシを呪いし我は、今此処に復活せり』


 航空母艦の甲板で神を名乗る魔王が復活した。

 それは屹立した不定形の身体を動かすと飛行甲板の中心へと移動して辺りを見回す。


『どぉーぅやら、ここは我の居た世界とは異なる様であるな。だぁがしかし、征服してしまえば新しい世界だろうが何だろうが我の物である事に違いはない。我は此処に宣言する。この世の全ては我、大魔王アテンの所有物であると。抵抗する事は許さぬが、しかし、我を封じる事の出来る勇者には最早何の力もないぃ。今、復活の時は来たれり!』


 魔王の呪いが抜けると共に能力を喪い、甲板に伏したままの洋士を後目しりめに大魔王は宣言した。

 薄い液体の身体は色が濃くなって行き、大きな核には光が走っている。

 大魔王の嘲笑は天を突き、周辺に立っていた陽介達は顔をしかめた。


「チキンハートさん、時間は?」

自殺タナトーシス時刻タイムまで、後5秒、4、3、2、1、時間や」


 チキンハートがそう告げると、それまで大魔王の肉体の中で光っていた粒子が輝きを失い澄んでいた身体が急激に濁り始める。

 するとそれまでギュッと締まっていた肉体が弛み始め、ゼリー状となり、そして液状へと戻って行った。

 強力な粘度により立ち上がっていた大魔王の身体はあっと言う間にグスグスになってしまい、その形を保てなくなった身体は崩れ落ちて行く。


『何だコレは? どう云う事なのだ!? 我が無敵の肉体が崩れて行くだとぉ?! うおぉおおぉおおおっ!!』


 絶叫と共に大魔王の身体は崩壊し、2分もしない内にその姿を消した。


「ポーションの効能は計算通りですね」

「当然やな。時限式で細胞内部に自殺タナトーシスプログラムと念の為の毒殺魔法を組んでおいたんや。流石に魔王の呪いだけあって強力やったからなぁ、危険やったけど毒素排出デトックス魔法で体内から魔王を取り出して、実体化させた後にもう一回殺してんやで」

「随分と手間を掛けたみたいですけど?」


 チキンハートが疲れたような顔をして言った内容に疑問を持った陽介が質問すると、彼女は肩を竦めながら答えた。


「仕方ないわぁ。勇者の力を吸収してんやもん。面倒やったけど、また誰かに呪詛を感染うつされても困るさかいにな、一度実体化させてから自殺っちゅう形で消えてもろうた訳や。流石の魔王も理の違う異世界で寄り代もなく存在するのは無理やったっちゅう訳やな」

「それで魔王本体の霊体ではなくて、身体の弱い液状生物スライムを創って壊した訳なんだ」

「まぁ、どちらかと云うと勇者から魔王を分離する方が難しかってんけどな。美容と健康の為に研究していた毒素排出デトックス魔法が役に立って助かったわ」

「必殺技じゃなくて健康法で魔王を倒した訳ですか」

「せやねん。威力一辺倒の必殺技はエフェクト表示時間が長い上に硬直時間が掛かるんや。せやから本当の意味で殺しに掛かる時には地味目な魔法を使わなあかんやん?」

「なるほど」

「ほおう? 魔法と云うのも色々とコツがある様だ」


 陽介とチキンハートの会話が一段落着いたタイミングを見計らってローデン大佐が声を掛けてきた。

 すっかり会話に夢中になっていたふたりはあわてて彼を見る。

 周囲を見回すと、元大魔王の粘液と近くに転がっている勇者・洋士、そして武装した兵士達が見えた。

 随分と注目を浴びていた様だったので、気を逸らすつもりで陽介はローデン大佐に喋り掛ける。

「あー、このネバネバは水で洗い流しちゃって下さい。邪魔になって」

「サンプルを取っても良いだろうか。何しろ純粋な魔法生物の死骸は珍しいものでね」

「ええ、構わないと思いますが」

「せやけど、単なる原形質しか取れへんと思いますよ。もしかすると毒素が残ってるかも知れへんけど」

「え?」

「や、念の為に時限式で毒殺する魔法を仕掛けてたやろ?」

「ああ、うん。で、洋士先輩があそこで粘液にまみれて倒れてるんだけど」

「あ゛」


 今気が付いたとばかりにチキンハートは倒れている洋士に目をやり、直ぐに明後日の方を向いた。


「や、勇者やし、平気なんちゃうんかなぁ~。希望的観測」

「なるほど、まあ、敵でしたし。仕方がないですよね。ローデン大佐、拘束して治療して置いて貰えますか?」

「ふむ、了解した。軍曹!」


 彼は身近に立っていた軍曹に現場の片付けを指示すると二人を連れ立って艦内へと入っていった。

 こうしてアクアマンデ王国対都市国家パレードの戦争は終結した。

 死者こそ少ない物の軍事的には『玉砕』に匹敵する被害を出したアクアマンデ王国の敗北は大きかった。

 政治的決着は洋士の回復を待って執り行われる予定であるが、二国間の軍事的衝突は終了したのだ。

 だが、そこに割って入った第三勢力の意図は分かっていなかった。

 自分の理想、戦争の根絶の為ならば戦争も辞さない最悪の武装勢力、アイムジャスティス。

 その精神的指導者の元男で、現在は両性具有のコーロ・デ・コキーロの暗躍は終わっていない。

 頑張れ、こころ。

 戦え、長田陽介!


「何の台詞や? それ」

「ああ、昔々の物語に出てきたナレーションの真似ですよ」

「ふぅん。そうなんや」


 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 その頃、水面下50メートルにて。

 攻撃を受けて歪んだ箇所から激しく漏水が噴出してくる。

 発掘戦艦の潜行機能を用いて撃沈を演出したコーロは、頭上に存在する敵艦隊の駆逐艦が使用している対潜聴音機に艦内雑音を聞き取られて攻撃を受けない様に沈黙を保ったまま応急修理を進めさせていた。

 現在はバン・シュワー湖の複雑な湖底流の流れに身を任せて敵から離れようと画策していた。

 圧壊音がしていない事に疑問を持たれるかも知れないが、見た目は木造船の為に機密構造があるとは思えないので現在は残骸と思われている筈であると考えていた。

 現に何度か駆逐艦から探査音ピンガーを打たれていたがリアクションは無かったのだ。

 現在の所、生き残った船員たちは各所で応急処置に当たっており、コーロと二人の幹部は艦長室にて対応策を練っていた。

 艦長室の奥、一段高くなっている場所に置いてあるカウチに寝そべり、気怠げな顔をしたコーロはヤニ下がる二人の幹部を前に口を開いた。


「被害報告を」

「ヘイ、平和行為実力行使部隊は全員未帰還でやんすが予定通り帰還の途に就いてる筈でやんす。現在漏水箇所24、襤褸布を詰め込んでやんすが早めに本格修理をしないと駄目でやんしょね」

「船員は表甲板で作業していた12名が犠牲になったでゲス。怪我人は大勢でゲス。ポーションも残り少ないので聖女様のご加護が必要でゲス」

「分かりました。神の尖兵たる彼らの魂に救いがあらん事を。安全圏まで抜けた後、浮上し我らの根拠地へと帰還します。アーメン」

「「アーメン」」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ