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第35話 決闘


 チキンハートが、光となって消滅したと考えられていた兵士達が生きている事を示唆すると洋士は衝撃を受けたかの様に身を仰け反らせた。

 そうして陽介をキッと睨みつけると怒鳴りつけた。


「卑怯者めっ! 貴様等は何処まで悪辣で卑怯なのだ。つまり貴様等が言っていることは、講和に応じなければ兵士達を皆殺しにすると言う事ではないか。人質を取って相手を脅すとは、やはり貴様等は悪に相違ない」

『ちょ、ちょいと待ちいな。どう云う考えでそんな結論になったんや、そんな事する訳ないやないか』

「ほう、どうだかな。口では何とでも言えるし、人質が本物かどうかも怪しい所だ」

『本物に決まってるやん、アホやないの?』

「貴様は本当に講和するつもりがあるのか? どうしても話し合いを続けたければ人質となっている親衛隊1000人を解放せよ。でなければこのまま攻撃を再開する」

『千人? こっちの兵力と同じやないかい。それも精鋭部隊やろ? 駄目や駄目、絶対駄目やって』

「ならば攻撃だ。総員、攻撃用意」

『ちょっと待ちぃ、待ちぃな。捕虜の返還の後に講和の準備に入る、それでOKやろ?』

「No! だ。先に言った通り一騎打ちを所望する。そして勝った方が負けた方に指示を出す。私の指示は決まっている。魔王の手先は全滅させるのだ」

『先輩、これでもこちらは国連に加盟した独立国ですよ? 地球と貿易する国家として、その対応は問題があります』

「ふむ、そうだな。いきなり絶滅させてしまってはそちらの技術を得る事も出来ないか。雷管不発の呪い、地球側に乗り込む時には大変に有効そうな技術ではないか?」

『先輩、アンタまさか』

「いやいや、お前達が地球に侵略する技術を持っている、故に地球に迷惑を掛ける前に我々が貴様等を絶滅させた、それが未来に於ける正しい歴史認識と云う物だ」

『先輩、随分と魔王の呪いに浸食されているみたいじゃないですか。地球にいた頃の先輩とは似ても似付かないですよ?』

「ふふ、何を言い出すのやら。魔王は貴様等であって私ではない。私の大事な人達に先に手を出した陽介、貴様に止めを刺してお前との因縁を断ち切るのだ」

『はて、僕は先輩に好意を抱いた相手を奪われ続けて来た記憶しかありませんが?』

「見解の相違だな。まあ良い。さあ、陽介、貴様との決着をつけるのだ」

『もう国家がどうのじゃなくて、個人の因縁を晴らすのが目的なんじゃないんですか?』

「それに何の問題がある。私が国王であり国家の象徴なのだ、その恥辱を晴らすのは国として当然の事だ」

『えぇ~? どうしてもですか? 俺はスライムよりも弱いんですよ? 弱い者苛めは格好悪いですよ? それに僕はこの国代表じゃないんでこの国の命運を掛けて戦う訳には行かないんですが』

「ならば、お前を犠牲乃山羊スケープゴートに差し出せば講和に応じよう。それならば問題あるまい」

『生命の保証はして貰えるんですか?』

「何事にも事故は付き物だよな」

『うわっ、やる気満々だよこの人。しかも悪い意味で。でも、それだったら俺が勝った場合の勝利条件は別に欲しいですね。勝負に応じただけで講和に応じるなら』

「むむ。仕方あるまい、どうせ俺がたおすしな。何だ? 云うだけなら問題ないぞ」

『こんな事もあろうかと準備して置いたポーションがあるので飲用して下さい。武器の使用は制限ありですか?』

「特にいらないだろう。武器無しでやると前の世界で修得した50の殺人技の餌食になるのは確実だからな」

『ハンデキャップはないんですね、分かりました。では準備をしますので』


 そう言うと陽介は城壁の上から姿を消した。

 勝負を受けたとは言え、陽介に必勝の自信はなかった。

 彼が防護服をしまってある倉庫へと歩いて行くと、避難所に隠れていた筈の娘達が走って来た。


「お父様っ!! 聞きました、敵の首領と雌雄を決するとの事」

「ああ、僕としては暴力なんかはイヤなんだが。講和の条件として僕との決闘を挙げてきてさ。君たちを守るためにも頑張らなくちゃとね」

「分かりましたこのエマナと妹達一同。元アクアマンデ王家の人間としても父様の事を応援しようと思います。王家を乗っ取った僭主との一騎打ちは武芸の誉れにございますれば、支援魔法は使えませんのでパレード王国の応援団のひとりとして微力を果たす所存」

「エマナ、無理して難しい言葉を使わなくても」

「お父様酷いです」

「あはは。しかし、娘達の応援があれば百人力だな」


 そう言って陽介は笑う。

 そのまま歩いて行く陽介の背中を見送り娘達は心配そうに身を寄せ合う。


「お父様、大丈夫かな? 死んだらイヤだよ」

「アルケー、アクアマンデ王国の女なら、出征して行く男衆を笑って送り出さなくては。大丈夫、この国に身ひとつで送り込まれて今まで無事だったんだもの。大丈夫、死なないもん。絶対大丈夫なんだから」

「エマナ、大丈夫大丈夫って言い過ぎだよん」

「でも本当に大丈夫なんダニか? お父様はスライムよりも弱いんダニ?」


 ジョゼットの指摘に姉妹達は口を噤んでしまった。

 その頃、洋士は指揮下の兵士達に命じて城門前の広場から障害物の除去を行わせて、決闘で使用する場所を作っていた。

 何しろこの城塞都市に足を踏み入れてからと云う物、ブービートラップの類により死傷者が続発していたのだ。

 ここにも何か罠が仕掛けられていても不思議ではなかった。

 円形に整えられた広場の周囲をアクアマンデ王国の兵士達が取り囲み物々しい雰囲気を放っている。

 パレード側はと云えば、城壁の上に冒険者達が鈴生りに並んでいて、それ以外の市民達も城壁近くの家屋の屋根に登り、観客席として陣取っていた。

 そこへ誰かが気が付き自分の家から吹奏楽器を持ち出し、蹴球競技の応援団の時の様に集まりだした。

 ざわざわと不安そうに広場を見つめる市民達であったが、蹴球チーム応援団の吹奏楽団ブラスバンドがギルドの歌の曲を流し始めると顔を見合わせながら苦笑しつつ、立ち上がっていつもの歌を歌い出す。


『♪ 我ら亜人の集まりなれど、勇気千万疑いなし。虐げられしこの命、守って戦う何処までも。如何に敵が強かれど、決して負けじと笑うべし。嗚呼、我らはモンスター、モンスター・パレード突き進め♪』


 歌っている内に気分が高揚して来たのか、それとも球技を見ている時の気分に浸っていたのか、隣と肩を組みながら大声で歓声を上げ始める。

 すると今度は蹴球応援団に負けじと野球応援団の吹奏楽団ブラスバンドがプロ野球中継で良く聞く曲を吹き始める。


『ぱーぱらーぱーぱらーぱーぱーぱー↑ かっ飛ばせーヨーウースケェ、ヒロシを倒せぇオウ!』

 ゲームの設定時に応援団の設定を野球とサッカーを参考にしたのか、もしくは日本のプレイヤーが教えたのか、良く耳にする応援歌が歌われ、国旗や防衛団や冒険者チームの旗が振られ出す。

 そして先程は使われなかったパーティーグッズのジェット風船が膨らまされ、曲が終わると同時に宙に放たれた。

 些か過剰なまでに盛り上がるパレード側の応援に王国兵士も大声を張り上げて国王の名前を連呼するが、まるでトラの球場に来たツバメの応援団のように一糸乱れぬ秩序立った歓声に気圧され、統一されていないが故に散漫な印象を与えてしまった。

 それを不服とした兵站部隊と共にいた鼓笛隊が慌てて合流すると曲を演奏し始めた。

 ここで行進曲を流すと実際に行進し始めてしまい兼ねないのでアクアマンデ王立陸軍歌の演奏である。


『♪ 敵が攻めてきて国土を荒らした時に<キーアム ミ トロルル ラ ランド インヴァディータ デ ラ マラミーコ>、♪君は黙っていられるのか<ヴィ ネ プル エストゥ シレンタ>。♪武器を取って戦おう<ミ バダロス クン チルミーロ>、♪敵の血潮をけて<カイ アスペルグ ペル ラ サンゴ エル ラ マラミーコ>、♪赤く染まった土地で凱歌を歌おう<ニ カントゥ ラ ヴェンコ カント エン ラ ランド、キーウ エスティス マクリータ ルージャ>。♪敵は全て皆殺し<マラミーコ トゥータ マサクロ>、♪身動きの取れない敵を殴殺し<ラ バタード アル モルト マラミーコ キーウ ネ ポヴァス エスティ パラリジータ>、♪平和を勝ち取ろう<ラ パーツォ カチトーロ>。♪我らは正義の軍勢<ニ エスタス ラ アルメーオ デ イェ ユステーツォ>、♪アクアマンデ王立陸軍也<アクアマンド レーヂャ アルメーオ ヤ>♪』


 そうして暫く相手に負けじと応援合戦を繰り返していた両軍であったが、白銀の剣と壮麗なメタリックブルーの勇者の鎧に身を包んだ池面洋士が姿を現せると王国側は歓声を上げて盛り上がりは絶好調を迎え、パレード側は『おおぅ』とその姿に呑まれてしまった。

 彼は右手で掴んだ剣を頭上に翳すと、炎の柱を顕現させた。

 洋士は陽介に魔法の素養が無い事を知った。

 なので決闘の際に攻撃力を増加させる魔法攻撃を行使する為に魔法の行使を制限する魔術を解除して来ていたのだ。

 その火柱を発生させる魔力と放射された熱に観客は畏れおののく。

 畏怖の視線を受けた洋士はニヤリと笑うと剣を地面に突き立てて城門を睨みつけ、陽介が姿を現すのを待つポーズを取る。

 あくまでも自分が挑戦を受けるのだ、と云う姿勢である。

 そこへ静まりかえった城門の上からトランペットと弦楽器の重壮な音色が響き渡る。

 流される曲は日本の代表的な怪獣映画の行進曲マーチでモンスター側に立つギルド・モンスターパレードで好んで使われる物である。

 ここにそれを記す事は叶わないが、彼らの時代では著作権が切れている為に堂々と使用されているのだ。

 それは兎も角。

 黒い艶消しの全身ツナギに黒いブーツ、手袋を装備し、脇にフルフェイスのヘルメットを抱えた陽介が城門の隙間から姿を見せた。

 陽介は牛二頭に曳かせた台車と共に広場へと足を踏み出す。

 彼が洋士の前で足を止めると、洋士は陽介の格好を見て鼻を鳴らす。


「どんな重装備で来るかと思えば、随分と軽装ではないか。それに後ろの荷駄は?」

「僕の武装は自分で着る事の出来る魔法の甲冑です。よろしいですね?」

「はは、俺に勝てるのであれば何でもするが良いさ」

「はい。では準備します」


 そう言うと陽介は台車に上り、そこに乗せられていたカーキ色に塗られた金属の塊、魔働動甲冑のハッチを開けた。

 一つ二つのタッチパネルがある以外は中腰の姿勢で身体を支える座席があるだけの内部構造になっている。


「お待たせ」

『ちょっとだけ待ってんけど。これン初出動やからね、ちゃ~んとサポートするで』

「よろしく」


 彼が入ると隙間もなくなる程密着した立ち座席に身体を滑り込ませる。

 すると陽介の両腋の下からスルリと2本の脚の様な拘束具が伸びてきて、ヘソの前でガッチリと固定された。

 彼の背中には人間の体温ほどの温度と柔らかさの緩衝具が当たっており、陽介はそれに付けられている治具に黒装束を固定すると、フルフェイスのヘルメットの面を降ろし、陽介は起動キーを呟いた。


「ダイブ・イン」


 彼の言葉を認識した電気回路は機体を待機状態から起動状態へと切り替えて行く。

 ヘルメットに仕込まれたVR装具が陽介の表層意識を読みとり、意識からダイレクトに信号のやり取りを始める。

 普通のVRRPGでは自分のアバターに意識が移るのだが、この機体の中にいる陽介の意識は魔働動甲冑の機体そのものに意識を移していった。

 起動を命じると、機体に内蔵されている魔術発動機が起動し、竜珠カーバンクルを覆う魔力石のプレートが回転し紋様が空間に働きかけて無属性の魔力を生み出し始めた。

 三次元では認識出来ない四つ目の方向からもたらされるエネルギーは、意志を司る大脳から発せられる微少な電磁波が四次元方向に形成した回路によって導かれて三次元に影響を及ぼす事が可能になるのだ。

 約三メートルのズングリとした金属製の人型機械には魔力の伝達を阻害する冷たい鉄(隕鉄を除く)を使えない為に琥珀、大理石、セラミックス、プラスティックやオリハルコンを用いて作った体格フレームを基幹として、玄室コクピット、魔術発動機とゴーレム製の筋肉帯と筋肉筒を繋ぐ魔力を伝達する液体金属を通す血管が配置されており、外装は分厚い金属殻の上に鎧を着ていた。

 この高性能の魔導動甲冑さえあれば、スライムにも負けるF級冒険者である陽介であってもS級冒険者の洋士に対抗出来るだけの戦闘力を得る事が出来るのだ。

 ただ、試作品故と云う事もあるのだが、値段コストはバカ高かった。

 これを組み上げた時点で500億円近く費やしているのだ。

 最初は補助アシスト機能付きの部分甲冑を作成しようとしていたのだが、戦闘のセンスがない陽介をカバーする為に全身を覆う倍力装甲服に計画が変更された。

 だが試作してみるとパワー不足が露呈したので人間が乗るタイプの追従装甲服パワードトレーサーに変更した所、魔力が足りずに頓挫した。

 そこへと或る魔法技術の資料が見つかった為に、魔力の供給源として竜珠カーバンクルを中心とした魔術発動機を作成し、それを搭載出来るサイズまで拡大したのがこの魔導ソーサリーモバイル甲冑アーマーである。

 正直、いままで試作した補助機能付き部分鎧も倍力装甲服も追従装甲服も普通の冒険者が使えば何の支障もなく有効に使える代物であり、搭乗者の魔力を有効に使って長時間の使用も可能であった。

 ただ単に陽介の魔力がゼロなのが問題なのであったのだ。

 これを作るまでに試行錯誤したお陰で技術的躍進を迎えた物も多く、全くの無駄では無かったが。

 技術的飛躍となった資料によって魔法技術の数理的な理解が深まったのが大きかった。

 それは例えるなら万有引力の発見に匹敵する代物である。

 これまでは『何が何だか良く分からないが、とにかくこうすればこうなるからこうしよう』と云う経験則に頼っていたのが魔法学であった。

 それを解決するきっかけになったのがモンスターパレードの資料室にいつの間にか紛れ込んでいた、表題「日本連合・連合議会SS級資料『極秘』初歩の神秘学」と書かれた書籍であった。

 それによると、地球の平行時空のひとつの世界に於いて何らかのトラブルが起こり、多数の平行時間線がモザイクの様に集まってしまった『時空融合』現象が発生。

 それによってひとつの世界に多数の世界の文明が集合し、衝突したらしい。

 特に日本列島は千を越える世界が融合した為に混乱の度合いも大きく、政府の対応も悪戦苦闘の連続であったと記されている。

 その結果、巨大ロボットと怪獣が闊歩し、魔法少女と変身ヒーローが悪の組織と戦うような御伽乃国ワンダーランドと化してしまったそうなのだ。

 だが、その世界の日本人にとってその混乱は逆に技術的飛躍のチャンスでもあった。

 この資料を作成したフィッツジェラルド博士によれば、魔力石に似た性質を持つ石英質の岩石を触媒に空間に働きかけ、超常現象を引き起こす事に成功。

 オカルト文明や魔法文明と云った常識的な科学者が忌避するような技術も参考に神秘学を形成し、その成果として『魔法』現象を数理的に解析する事に成功し、限定的ではあったが再現にも成功したのだ。

 更には工業的に利用が可能なレベルまで持って行く予定である、と記されていた。

 この資料を作成した時点では未だにそこまで行っていなかったのは確かだが、そこに記されていた資料を参考に魔術発動機マギエンジンの試作に成功した。

 これとVR技術を組み合わせる事によって魔法の使えない陽介でも魔力を気にする事無く魔法が使える事が出来るようになったのだ。

 それはさて置き、全身に魔力を循環した魔導ソーサリーモバイル甲冑アーマーは全身にある警告灯に余剰魔力を流して発光させ、軽く筋肉筒を動かして動作とフィードバックを確認した。

 そして全身から軋み音を上げながら魔導動甲冑は立ち上がった。

 身長3メートルの全身鎧の重戦士と云った風情の魔導動甲冑の姿は大迫力で見守る者達に強い印象を与える。

 慣れない陽介の操作に従ってぎこちなく直立する魔導動甲冑は荷台から5メートルほどの槍を持ち上げると構えた。

 しばしそれを眺めてしまった洋士は予想外の戦力に開いた口が塞がらなかった。


「おいおい、それは鎧じゃなくて戦闘ロボットじゃないか」


 洋士の言葉に陽介はスピーカー越しに反論する。


『一般人相手に決闘を強要する勇者の云う事じゃないでしょう。こちらはスライムよりも弱いって云うのに』

「そうか、だが、ドラゴンに比べたらどうと云う事はない。行くぞ」


 洋士は白銀の剣を頭上に構え、陽介は槍の穂先を洋士に向ける。

 白銀の剣が頭上に構えられ、キッとした鋭い目つきで洋士は叫ぶ。


「必殺! 紅蓮百裂斬クリムゾン・スラッシュ


 剣身から紅蓮の炎が立ち上り、周囲を圧倒する熱量が吹き出した。

 竜巻の様に渦巻く火柱は剣身の延長となり、洋士はそれを躊躇いもなく振り下ろした。

 生身で受けていたら跡形もなく蒸発していたであろう渦巻く炎は、魔導動甲冑の頭部に直撃し四散した。

 魔力を四散させる場を頭部の増加装甲の上に形成させて、緻密な構成の魔術をほぐしたのだ。

 一度発生した熱量は消えなかったが、十分に装甲で受け止める事が出来たのだ。

 兜から身体を嘗めて地面に達した熱気が陽炎となって地面の景色を揺らす。

 吹き荒れた熱風が収まると洋士は無傷の魔導動甲冑を眺めて呟いた。


「む、術式構成が甘かったか?」

『あっぶないなぁ、先輩、鎧を着ているからって無茶しないで下さいよ。生身だったら終わってますよ!?』

「何を言っている。無論、生身でも同じ技を使用していたぞ」

『殺傷は禁止だと決めたじゃないですか』

「む、事故だ。気にするな」

『どう見ても故意ですが、そうですか、では次はこちらからっ!』

「返り討ちにするっ!」


 陽介は槍を下手に構えると、気合いを入れて技名を叫ぶ。


弾丸連続射出バァルカァン!』


 構えた槍とは関係ない箇所、左肩の突起部にある20ミリ機関砲マシンガンより分速1000発の弾丸が撃ち出された。

 牛乳瓶大の弾丸が洋士に浴びせかけられた。

 不意を突いた形になった陽介の攻撃だったが、槍だけではなく全体を油断なく観察していた洋士はその攻撃に直ぐに気付いていた。

 彼は勇者として覚醒した時に得た、その超人染みた動体視力で命中する軌道を取っていた弾丸を斬り伏せ続けた。

 白銀の剣は決して軽い物ではなかったが、その鋭い刃は音速で飛来する巨大な弾丸の中心部を次々と捉え続ける。

 両断された弾丸は回転モーメントにより与えられた遠心力と剣身との摩擦によって生まれたベクトルによって彼の左右へと分かたれて地面を抉った。

 攻撃自体は僅か5秒に過ぎなかったが80発にもなる鋼鉄の塊を捌き続けたヒロシは息を整えつつ相手の出方を待つ。

 硝煙のツンとした煙が漂う中、残心を以て魔導動甲冑を観察を続けていたが、相手の動きが見えない為に緊張を露わにしながら相手の出方を待つ。

 煙が晴れると槍を構えたままの魔導動甲冑が待ち構えている。

 煙を見通す広領域帯カメラが装備されているので洋士の警戒態勢が崩れていない事を見て、自分から仕掛けるのを止めたのであった。

 双方の軍勢が見守る中、超人と云える勇者と、一般人でも勇者と戦える装備を身に纏ったただの人の戦いは続くかに思われた。

 そこへ突然響き渡る鯨波ときの声。


『えいえい』

『おーうっ!!』


 出陣の掛け声の作法通り、呼び声を弱く応声を強くする鯨波の声が戦場に木霊した。

 洋士と陽介は目の前の敵から目を離さない様にしながら、注意深く声のした方角を確認する。

 すると、城門の東の方角、障壁の外側に位置する空中50メートルに浮かぶ船の姿があった。

 陽介がこのAW-01世界に来て、航空力学の観点から見て空を飛ぶには非常識な代物は幾らか見てきたが、流石に全長50メートル近い木造船が空中に浮かび上がっているのは驚きであった。

 だが、それとは別の理由で驚いている人間もいた。

 陽介の耳元から聞こえてきたのは、チキンハートの震える声であった。


「発掘戦艦やん。こんなタイミングで来るなんて。いえ、あいつならこんタイミングを狙ってくる方が自然か」

「こころさん。あれって」

「あれがうちらん世界ゲームで敵対しておった人間側の冒険者ギルド『アイムジャスティス』の旗艦、発掘戦艦『無敵インヴィンシブル』号。私達の敵や」


 彼らが見守る中で発掘戦艦の下に旗が吊され、その存在を誇示すると船首に佇む美女が儚げな顔をしながら訥々と語り始める。

 魔法によって拡声された言葉は戦場に響き渡る。


『戦場で武器を取る兵士の皆さん、武器を捨てて平和の為に立ち上がりましょう。戦いは何も生み出しません、もしそれがあるとすれば悲しみと怨忌の声だけです。罪を憎んで人を憎まずと云う言葉もあります。今すぐに武装を放棄すれば私達も貴男方に罰を与えずに済みます。さぁ、平和の為に武器を手放す勇気を出すのです』


 ヒーリング・ヴォイスの効果を持った彼女の言葉は戦場で然したる魔力抵抗を持たない兵士達の心に染み渡って行く。

 流石にモンスターパレード側では慣れたものか抵抗に成功している者ばかりだが、王立陸軍の方ではフラフラと武器を手放し崇拝の表れか、両手を胸の前で組んで熱い眼差しを向ける者が何割か出ていた。

 身体のラインが露わになった聖装を纏ったコーロが慈愛の心を込めて自己紹介を始める。


『死すべき運命さだめのモンスターパレードの者共、そして初めましてアクアマンデ王国の兵士の皆さん。わたくしは人類の明るい未来を実現する為に活動する冒険者ギルド・アイムジャスティスのギルドマスター、コーロ・デ・コキーロでございます。お見知り置きを』


 薄衣のフレアスカートをチョイト摘んで膝を折る挨拶をすると、釣られて柔軟な胸部装甲が「たゆん」と揺れた。

 コーロは離れた位置にある発掘戦艦の船首に居たが、直ぐ横に拡大された空中投影スクリーンに映し出された画像によってその動作はその場にいた全員の目に焼き付いた。

 兵士達の大多数を占める男性諸君は生唾を飲み込み、コーロの姿に心を奪われていたのだ。

 何となれば、匂い立つような姿態に仕草、男心を完全に理解した者だけが成し得る媚態であった。

 これに匹敵するのは神殿の踊り巫女筆頭位のモノだろう。

 思わず陽介の顔もそちらに向きそうになったのだが、頭部を固定する拘束具の締め付けが堅く顔を向ける事は出来なかった。

 隣にいた洋士は器用に片眉を上げてコーロの映像を眺めると吐き捨てる様に呟いた。


「茶番だな」

『何がですか?』


 思わず陽介が聞き返すと洋士は鼻で笑ってコーロを睨みつけた。


「俺は女好きなんだ」

『はぁ、重々承知してますが』

「それ以外には興味はない。今興味がある女は、ギルドマスターのチキンハートとか云う女だな」

『神は言いました。人はパンのみに・・・』

『えひゃいっ!』

「突然変な声を出すなよ」

『いや、背筋がブルリと震えたもので』

「ふむ。向こうも立場上は俺の事を嫌がるだろうが、俺の味を知ればな。どんなに嫌がる女でも組み伏せて一時間もすりゃあ向こうから強請ねだって来るからな、イヤだイヤだもイイの内だ。なに時間の問題よ。陽介、アレは俺の獲物だ、先に手を出すんじゃねぇぞ?!」

『えっ? いや、それは』

「又か! 又なのか! 俺が本気で惚れた女は必ずお前が先に手を出しているじゃないか。嫌がらせにも程がある」

『神の奇跡は存在するのです。紙に滴ったインクのシミが偶然聖書の文章になる事があるでしょうか? いいえありません。つまり聖書が存在する事、それが神の存在を証明する奇跡なのです』

『ど、どちらかと云うと僕が好きになった女性を先輩が寝取り続けたって云うのが本当では?』

「もう一度言うが、立場の相違だな。貴様の中古品じゃ我慢が成らないから沢山の女性に手を出したが一晩経つといつも別れ話が出て振られてしまった、それは俺の自由奔放さを愛した彼女たちの優しさであり、誤解だと理解したが、それを知るまでは俺の心は傷つき続けた」

『神の王国では肉食動物も草食動物も満ち足りた心のままに平等に生きる事が出来・・・』

「とにかく、千人の女でも俺の乾きは止まらない。俺が本当の愛を手に入れるにはお前の存在そのものが邪魔なんだ。俺と俺の女達の幸せの為にも何があってもお前を倒す。それが世の為なんだよ」

『ダーウィンの提唱した進化論が間違っていた事が科学的に証明された今、真に正しいのは聖書の記述だと云う事は明白な・・・』

『理不尽過ぎる。でもこれ以上新しい女性に手を出さないと云うのは良い事ですよね』

「毎年、各都市毎に一番の美女を選んで俺の新しい嫁にする法案を提出したんだが。未婚も既婚も関係なく美人を選ぶんだ。これなら今のように毎月何人も新しい嫁さんが増える事もないからな、少しは落ち着いたと思ってくれても良いんだぞ」

『最後の審判の時は近付いています。審判の時には墓から死者が甦り、善良な者や敬虔な者達は神によって約束の土地へと誘われるのです。しかし、神を信仰しない物は地獄へと落とされて永劫の苦しみを味わい続ける定めにあるのです』

『何が未婚も既婚もだ。あんさんはどっかの政治家か?! 死ね、色ボケ』

「ほほぅ。つまりこの決闘はお前の死を以て完了すると条件を変えても良いんだな? 良し、了解した。安らかにあの世に逝け」

『先輩、今のは僕じゃないですよ』

「お前以外誰が居るんだ」

『それは私・・・』

『私の話を聞いて下さらないのですね』

「外野は黙っていろ」

『嗚呼何と云う事でしょう。人の口は神の功績を讃え他人との理解を深める為に存在するというのに、罪人つみびと達はそれを他人を傷つける為の剣としてしか使わない』

「さっきから何なんだこの宗教野郎(きち○い)は。訳の分かった様な分からない言葉ばかり垂れ流しやがって。俺は勇者として勝利を掴んでここにいる。立ち塞がる敵は全て倒して解決だ」

『野蛮な物の言い方です。暴力を以て他人を犯す者は暴力によって討ち滅ぼされる。神の御心を知れば心穏やかに七つの大罪の一つ強欲に犯されずに済んだというのに。これは償いきれない罪としても良いでしょう』

「今はこいつとの決闘の最中だ。黙って待ってろ」

『最早是非も無し。神よ彼の者を許し救いを与え賜え【神罰(jhw)】』


 破裂する様な音と共に稲光が走り、発掘戦艦から洋士達に強烈な雷が襲いかかった。

 決闘に用いられている城門前広場に神鳴りが轟き、強烈な稲妻が洋士と陽介に襲いかかった。

 自由電子の奔流が両者を焼き切る為に衝突する、すると洋士の纏う勇者の鎧に魔法障壁が浮かび、電子を地上へと誘導する。

 陽介の魔導動甲冑も魔力発散の方陣と共に足の裏からスパイクを地面に打ち込みアースとして電流の誘導に努めるが、非伝導体の鎧の表面を伝った電流は僅かな隙間の非絶縁構造体を食い破り、内部へと被害を及ぼした。

 過電流防止の回路も設置されていたが、一時的なダウンを余儀なくされてしまい、結果機体の動作不良が発生した。


【警告・機体動作不良・脱出 注・緊急VR解除を行います。急な眩暈にご注意下さい】


 ガキンっと云う音と共に前面ハッチの固定ロックが解除されコクピットが解放された。

 柩と云う名前が表す様に、人の形に合わせた緩衝材がパイロットを囲んでいて、全く隙間のない空間になっている。

 これもVR技術で操作する為にスクリーンや操縦桿が必要のない仕様であった為である。

 陽介が足元に注意しながら魔導動甲冑から出てくると、彼の胴体に手足をガッチリと絡み付かせ、背中にぴったりと密着していたチキンハートもそのままの格好で出てきた。

 二人とも艶消しの全身ツナギだが、チキンハートの方は身体のラインが隠されずに出ている為に非常に扇情的である。

 陽介は『おっとっと』等と声を出しながらその場に踏み止まると空に漂う発掘戦艦の方を見る。

 その後頭部の位置にチキンハートの胸部が位置しているので締まらないが、陽介的にはヘルメットを被っているので感触を楽しむと云った出来事は発生していない。

 洋士的には実に不満の多い姿であった。

 しかし現在の状況は洋士が陽介に文句を告げている余裕はなかった。

 空中に浮かぶ発掘戦艦からロープが垂らされ、地上へと冒険者ギルド・アイムジャスティスの冒険者達が降りて来ていたからだ。

 洋士は少しだけ陽介を睨みつけると、新たな軍勢に対抗する為に自軍の陣地へと駆けていった。

 決闘騒ぎによって有耶無耶となっているが現在も両軍の対峙は続いており、代表が決闘によって離れているが故に戦闘が行われていない状態である。

 そこへ突然現れた第三軍によって奇矯な演説がなされたかと思うと、両軍の代表へと攻撃が行われた。

 よって両軍は混乱する事となったのだ、目の前の敵から目を離せば直ぐに攻撃が再開されて手痛いダメージを受けるだろう。

 なので両軍、特に野戦陣地にいるアクアマンデ王国陸軍の動きは鈍かった。

 そこへ響いてきたのはまたもや発掘戦艦の上に立つコーロの声であった。


『両軍とも、軍としての誇りを持つのであれば直ちに武器を捨てるのです。軍とは民間を守るための牙です。今のあなた達は私利私欲にまみれた上層部によって騙されているのです。私利私欲の為に人の命を奪う、貴方達は何と罪深い存在であることか。しかし、神は許されます。神に似せられて創られた我々人間は神に愛されているのですから、人種に関係なく平等なのです。もちろん魔物の血が混じった亜人間は八つ裂きにして構いません。何故ならばそれは邪悪な血に汚された悪魔の眷属だからです』


 ちなみにモンスターパレードの構成員はほぼ全員が亜人であり、アクアマンデ王国も亜人が多数住む国である。

 彼等アクアマンデ人にとっては、亜人と呼ばれてはいる者達も昔から一緒に暮らして来た種族の一つでしか無く、寧ろ人間が亜人の一種であるとしか認識していなかった。

 よってコーロの言葉は理解できる下地が無く、急に言われても賛同出来る物ではなかった。

 AW-01A,D~等の世界では宣教師という生活の根本に入り込み洗脳かたりかけを得意とした存在が住民に浸透したからこそ差別意識が増大したが、敵対中の謎の武装組織のボスにそう言われて賛同するほど愚かではなかったのだ。


『皆さんの隣に災いをもたらす隣人が何食わぬ顔をして住んでいます。汚れた血を持つ悪魔の眷属です。奴らは自らを善良な隣人であると云う顔をして生活している事でしょう。でも騙されてはいけません。貴方達の見ていない所で悪魔の技を使って皆を不幸にしているのです。月のない夜に親類の方に不幸があった事はありませんか? 満月の夜に身体に変調があった人は? それらは全て亜人と呼ばれる汚れた血を持つ者達の仕業なのです。エルフの長耳? 猫耳? 犬耳? 羊の角? 下半身が四つ足? それらは決して愛でる対象ではなく異常で不吉な異形の象徴です。神の御手による純粋な創造物である人間を汚す悪魔の眷属なのです。神は仰られました、神は自らを助ける者のみを助けると。さぁ自らの手でそれらを滅ぼす事が神の望み、兵士の方々が持つ武器を振るう事が許されるのはそれら汚れた亜人達に対してのみです。さぁ、グズグズしていると審判が下されしまいます。一刻も早く殺すのです、さぁ、急いで、さぁさぁ』


 霊感商法は実体の無い事を事実であるかの様に装い、不安感を煽る事から始まり、こういう解決法がある、だから私達は正しいのだと信じ込ませて安心感と信頼を得て相手の心を掌握し、そして直ぐに対処しなければ不幸になると強迫観念を植え付けて自分の思う様に誘導するのだ。

 以前にそう云う組織にいた事のあるコーロはそう云った手口を多用する傾向にある。

 だが、本物の魔族の侵略に対して力を合わせて対抗して来た実績を持つ仲間である亜人種に対する信頼は揺るぐことはなかった。

 心を込めた説教が効果を見せなかった事に対して失望を隠せなかったコーロは溜め息を吐いて偉そうに告げた。


『あなた方は不幸な愚かです。真なる神の大いなる御心に触れることも出来ずに目の前の偽りに騙されている不幸な兵士達。あなた方を神の御元にる事こそが私に出来る最大の祝福だと確信致しました』


 彼女は右手に持つ聖銀ミスリル製の棍棒メイスを前方の戦場へと向けると、凛とした顔で宣言する。


『聖戦(Crcd)発動。父と子と聖霊の御名に於いて悪魔の眷属を殲滅せよ』


 儀式魔法『聖戦』が発動され、アイムジャスティスのメンバーに加護が付与される。

 華やかなエフェクトが消え、人間種によって統一されたアイムジャスティスの軍勢はコーロの命令に従い前進を開始した。

 軍隊の編成と違い、冒険者のチーム毎に3~6人の小隊を組み接敵防御、直接攻撃、援護攻撃、援護支援の役割を分担している。

 だがギルド直属の聖騎士隊は少し趣が違っていた。

 彼らは十字がデザインされている聖ローマ帝国時代の全身甲冑に身を包み、騎乗スキル持ちは軍馬やペガサス、ユニコーンに乗り、そうでない者はかちにて方陣を組んで本陣の周囲を固めていた。

 彼らはギルド長の意向のママに発掘戦艦の真下から戦線を接しているパレード城壁へと突撃を開始した。


 現在の状況は混沌とし始めている。

 元々争っていた都市国家パレードとアクアマンデ王国、それにモンスターパレードと敵対していた冒険者ギルド・アイムジャスティスが横槍を入れ始め、近日中には国連のPKFの停戦監視団が現れる予定である。

 彼らアイムジャスティスとその代表者のコーロ・デ・コキーロが何を考えてこの場に及んだのか、これからどうするつもりなのか全く不明だった。

 ゲームの時代に敵対していたとは云えども、この世界に時空融合を果たした事により状況は一変した。

 現実的な路線を取るのであれば気心の知れたモンスターパレードは手を携えるのに適しており、現在の行動もアクアマンデ王立陸軍によって侵略の危機にある彼らの手助けを考えたものかも知れない。

 だが、アイムジャスティスのギルドマスターを個人的にも良く知っているチキンハートは楽観視していなかった。

 何よりも先程の攻撃は、見慣れぬ物だとは云えアクアマンデ王国と、敵対していた我々の両者を躊躇いもなく攻撃していた。

 よってチキンハートはゲーム時代からの因縁があるアイムジャスティスの意志を確かめる為に接触を試みるべく行動を開始した。

 その為にも魔導動甲冑のパネルを開けて機体の様子を確認した。


「陽介はん、その回路の表示はどうなってる?」

「えーと、ERRかな」

「うん、回路が焼き切れたんやなくて、過負荷でトリップしただけやね。リセットして貰えへん?」

「ハイよ。Reset と」


 陽介がブレーカーのリセットスイッチを入れると周辺の制御機器にも灯が点り、コクピット内部のインテリアにもエアークッションの圧が掛かる。

 と同時に機体の制御中枢からの警告が聞こえてきた。


『パネルが開いています。機体を起動する場合は閉じて下さい。整備を続ける場合は整備モードに移行してから十分に注意して作業を行って下さい』

「ホイ、パネルの閉止。施錠良いか、良し」

「起動開始、タンデムモード。陽介はん、中に入れてや」

「了解、うっ狭くてなかなか入らないな。お尻が大きいからか?」

「うっさい余計なお世話やわ。そう、そこで突き上げる様にして、もうちょっと下や、陽介はんの雄型がうちの雌型に入るようにして、そこでぐいっと」

「なあ、言葉だけ聞いてると誤解されそうなんだが。コクピットに入るだけなんだけど」

「緩衝材が体型に合わせてある所為でかなりキツいし、さっき外れたカプラーがなかなか入らへんのやもん、早よ入れてん」

「ほら、よっと」

「うんっ! よっしゃバッチリ陽介はんのがうちに入ったで。インテリアの固定良し」

「コクピット閉鎖。起動開始」

「起動良し。VR制御装置起動や」

「ダイブ・イン」


 VR技術によって身体を制御する為の脳からの指令をVRギアが読みとり、身体側の管理制御を機体側に委ねた後に彼らの意識が魔導動甲冑へと転写される。

 タンデム状態の場合、メインパイロットとサブパイロットに優先権が振り分けられるが、陽介がメインパイロット、チキンハートがサブパイロットである。

 起動するとカメラの両脇に付いているLEDライトが光を発して起動状態を表す。

 陽介が機体を動かして直立させるとチキンハートがモンスターパレードの人間に対して指示を飛ばす。


『何やってんの!? 一般市民は直ちにシェルターへ避難。一部部隊は彼らを護衛して行ってや。モンスターパレードは敵ギルド迎撃戦準備や』


 未だに城壁の上に市民達がちらほらと姿を見せていた為にチキンハートは直ちに撤収の指示を出す。

 その指示とは別に、魔導動甲冑はそのまま城門から離れて少し離れた小山へと走って行く。

 ただ、小山への途中にアクアマンデ王国陸軍の一部隊が陣を張っていて非常に目立つ魔導動甲冑が見逃される筈もなかった。

 既に決闘で機関砲を使用していた事から銃器が使用出来ない状況、『雷管不発の呪い』が解かれている事も確認されていたので新三八式歩兵銃が狙いを付けていた。

 陽介は途中までは真面目に2本脚で走らせていたのだが、このサイズの人型だと膝間接に掛かる負荷が人間に比べて八倍近くも大きい事からより負荷の少ない移動方法に変更した。

 重量比で人間よりも滑り易い為、大きく設計した足の裏に無限軌道を下駄履きしたアタッチメントを取り付けて、動力による移動を可能としていたのだ。

 例えると動力モーター付きのローラースケートの様に見える。

 もともと魔導動甲冑は都市部での市街戦やダンジョン内での戦闘を前提としているので高速の長距離移動は苦手としていた。

 そのお陰でこの補助走行装置が取り付けられたのだが、人間とのサイズの違いと時速50キロメートル近くまで加速された機体に幻惑されて銃弾の命中率は非常に低く、被弾もほとんどなく接近する事が出来た。

 加速を強め、陽介は魔導動甲冑を陣の手前で踏み込み、ジャンプする事で突破を図った。

 同時にサブパイロットのチキンハートがG軽減のスキルを使用した為に機体とパイロットに掛かる負担がほぼ無くなり、スムーズに突破に成功した。

 大怪鳥ロダンに騎乗するチキンハートにはG軽減のスキルは必須であり、当然の如く取得していた。

 魔導動甲冑は小山の天辺に辿り着くと、右手を天に伸ばして叫ぶ。


『ロダン!』


 チキンハートの声に呼応して、休眠態勢にあった大怪鳥ロダンは目覚めた。

 アイムジャスティスに発掘戦艦『インビンシブル』号があれば、対抗するモンスターパレードには大怪鳥『ロダン』の存在があった。

 見る見るうちに盛り上がる土の小山は翼を広げた翼竜の姿へと変化し、首の根本に腰掛けた魔導動甲冑はチキンハートの意志に従って手綱を握った。

 その姿の恐ろしさに近くに布陣していたアクアマンデ王国の軍勢は陣を本陣の近くへと移動させ始めた。

 だが、現在のチキンハートはそれらに対して攻撃を仕掛ける意図を持たなかった。

 最も危険度が高いのはアイムジャスティスである事は経験から理解していたからだ。

 ゲーム時代のキャンペーンの終了間近には、モンスターパレードとアイムジャスティスの二大ギルド体制になっていたが、キャンペーンの初期には玉石混淆の大小様々なギルドが乱立していた。

 その中でモンスターに友好的なモンスターパレードと排他的なアイムジャスティスが勢力を伸ばしてきたのだが、アイムジャスティスが恐れられていた中でも特に悪名高かったのが、現在の様にふたつのギルド間で戦闘行為を行って双方が疲弊した頃に疲労度ゼロの軍勢を乱入させて両方とも支配下に置く手口であった。

 アイムジャスティスに組み込まれたギルド員の動きは洗脳でもされたかの様に乱れのない一斉行動に長けていた。

 整然とした騎士達による攻撃は激しい突破力を持っており、戦場を支配したのだ。

 特に天馬ペガサス騎士ナイトは障害物を物ともしない三次元行動で相手を翻弄する。

 現在アクアマンデ軍を牽制している城壁は意味をなくしてしまうのだ。

 よってそれに対処すべくチキンハートはロダンを高く空へと舞い上がらせた。

 もっとも、ロダンが急上昇する際に吹き下ろした気流は地上を激しく吹き荒らし、アクアマンデ軍に甚大な被害を与えたのは、憂さ晴らしも兼ねてチキンハートの計算に入っていたかも知れないが。

 城壁に立てこもるモンスターパレードの面々はゲーム時代に経験したアイムジャスティスの攻撃力を知っていた為に非常に強固な守りの体制を固めていたが、アクアマンデ側は騎士隊の突進に警戒した物の機関銃による防護が有効であろうと考えて機関銃陣地を構築していた。

 ロダンの眼下に広がる戦場に於いて、現在アイムジャスティスの騎士隊がアクアマンデ陸軍の本陣手前の陣地へと突撃を開始していた。

 史実に於いて騎乗突撃が機関銃陣地に対して非常に脆い事は歴史的事実として有名であったが、この魔法が存在する世界では些か異なる結末を迎えようとしていた。

 曳光弾を含む機関銃が接近してくる騎兵に向けて撃ち放たれた。

 軍馬毎覆う馬用甲冑は最高級の魔法障壁・物理を付与してある為に機銃弾に耐えてそのまま接敵したのだ。

 馬上の騎士はわざわざ騎士槍ランスを振るう事もなく、発動した魔法障壁の強度のまま兵隊に突撃チャージし、兵隊達は蹴散らかされた。

 コーロの発動した聖戦によって身体が強化されていた騎士隊は難なく陣を突破した。

 ただ、そこで発生した事態にチキンハートは目を疑った。

 明らかに死亡した兵士達の亡骸が横たわったままになっていたのだ。

 本来ならば戦いの前に発動させたギルド間抗争ルールによって、ヒットポイントがゼロになる前に身体が光に包まれて救護所に転送される仕組みになっていた。

 その領域として都市国家パレードの外壁内部が指定されていた、実際に地下迷宮の一角に転送された負傷兵達は武器や装備を除装された後に貫頭衣を着た状態で軟禁されている。

 つまりコーロの発動した『聖戦』によってモンスターパレードが発動したギルド間抗争の特殊ルール、デスペナ回避を解除させていたのだ。

 その上、騎士隊の後に続いている冒険者チームはゲームでレベル上げして手に入れたスキルや魔法で負傷兵に止めを刺して回っている。

 特に亜人種に対しては執拗な程に攻撃を加えているのが目に入った。

 これは明らかに先ほどのアイムジャスティスのコーロが宣言した亜人種族滅の実践である。

 となれば無抵抗になれば最終的には都市国家パレードの住民は一人残らず殺され尽くすと考えても間違いではない。

 それまでは『ゲーム時代の事は水に流して新しい世界で力を合わせて生き延びて行こう』と考えていたチキンハートの心を打ちのめした。

 彼らアイムジャスティスが異世界に出現してから今までどう生きてきたのかは分からない。

 だがこの世界に対して目を瞑り、ゲーム時代のままに行動しようとしても、既に状況は変わっている。

 死なない為には、そう、都市国家パレードも覚悟を決めなければならないのかも知れなかった。

 現在、アイムジャスティスの軍勢はアクアマンデ王国の軍勢と都市国家パレードの軍勢が対峙して動きを止めている戦線の横合いから殴りつける様に攻撃を仕掛けていた。

 これは彼らが弱小ギルドだった頃からの常套手段であり、そんなんだから掲示板で種楽とか云われるのだ。

 今もまた眼下の戦線で、予想外からの方向から予想外の軍勢が襲いかかって来た事で蹂躙されつつあるアクアマンデ王国の塹壕線が見えた。

 どんなに入念に構築した塹壕でも、流石に後背部から浸透してきた敵軍には脆いものだった。

 なので、上空からロダンの口から吐き出される業火ゲヘナの魔法で戦線にいるアクアマンデ王立陸軍とアイムジャスティスの冒険者軍を諸共に焼き払った。

 現時点に於いては両軍ともモンスターパレードに敵対しているから問題無いし、アイムジャスティスにられると本当に死んでしまうから構うまいと、進路上にある塹壕線を焼き払いつつ彼女はロダンを発掘戦艦の正面に浮かべた。


 空中で相対した大怪鳥ロダンと発掘戦艦インビンシブル号。

 ロダンに騎乗するチキンハートの乗る魔導動甲冑とインビンシブル号の舳先に立つコーロが視線を合わせて対峙する。

 チキンハートは拡声器のボリュームを最大にして相手に語りかけた。


『コーロ! アイムジャスティスのギルド長! 何故戦争なんかするんや!? この世界はVRゲームやない。本当の世界ことなんやで?』

「それが私の正義だからです。戦争のない世界を作る為に、戦争の為の力を持つ者達に戦争の虚しさを教え、軍隊を解体する様にし向けるのが私たちアイムジャスティスの理念。その為には戦争も辞さないのです!」

『相変わらずムチャクチャやな! 自衛の為の力も認めんとか、どないせいっちゅうんや』

「真摯に祈るのです。そして武器を持たずに自分がどれだけ貴方を愛しているのかを告白するのです。そうすれば相手も貴方の真心に触れて貴方を愛するでしょう」

『いや別に、ウチを愛してくれるんはひとりだけで十分なんやけどな』

「あなたは昔から頑なで、浮いた噂のひとつもありませんでしたからねぇ。私の様に広く愛を交わせば幸せになれますのに」

『両刀使いの浮気者にそないな事言われとうないわ。アホ』

「誰がアホやねんっ! おほん、いけませんよ、その様な他人を貶める様な言葉遣いは。とにかく、この戦争は悪です。悪は滅ぼさねばならないのです」

『そやからな、これはゲームとちゃうねんで? 現実なんやから、あんたもギルドの長としてギルドのみんなを率いらんといかんやん』

「ギルドの皆も私の意思表明に賛同して下さいました。『私たちの正義の為に』、戦い抜くのみです」


 暖簾に筆押しの様にチキンハートの言葉をかわし続けるコーロ、その両者を間近で見た陽介は二人の顔つきがかなり良く似ている事に気が付いた。

 髪型や化粧や目つきで印象は丸っきり正反対の印象を与えているのだが。

 陽介はそれに気が付いたら言わずにはいられなかった。


『何かふたりとも気配とか顔つきが似てるんだけど、親戚か何かです?』


 唐突にチキンハートのアバターが纏っていた筈の甲冑から男の声が聞こえて来た事にコーロはきょとんとした顔をしていたが、陽介の後ろにいるチキンハートは嫌そうな顔をしながら呻く様に告白した。


『あ~、大変誠に不本意ながら、私はアレの双子の妹ですわ』


 本当に嫌そうに顔を歪めてそう言い切ったチキンハートの刺々しい言葉にコーロは穏やかな口調で言葉を足す。


「そう。そして私がチキンハートことココロの双子の姉の」


 チキンハートはコーロの言葉を聞いた途端に堪忍袋の緒が切れたのか、戦場全体に響きわたる大声で突っ込みを入れた。


『いい加減にせんかい、兄貴アニキ!』

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