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第32話 帰国

 冒険者ギルド・モンスターパレードの都市国家パレード本部は一時騒然となった。

 長田陽介と共に帰還したチキンハートが化身アバターを解いて生身で現れたからである。

 しかも身長3メートルの巨大な体躯から見かけは普通の女性に変わっていたのだ。

 求心力と云う点ではオーガーのままの方が遙かに優れていただろうが、その生身の経歴が有無を云わせなかった。

 陸上自衛隊(JGSDF)特殊(Special)擬体化(Cyborg)部隊(Force)。

 各地に於ける都市戦闘に於いてテロリストを鎮圧してきた精鋭部隊であったからだ。

 彼女はその部隊のエンブレムを着けた白黒のベレー帽を被り全員集会の場にて名乗りを上げていた。


「各員注視! 既に知っているだろうと思うが、冒険者ギルドのギルド長チキンハートである。現実社会に於いてはJGSDF・SCF部隊所属の鳥山こころ少佐である」


 そう言うと彼女は広間に集まったギルド員にゲーム内での肩書きと今までネットマナーにて守られてきたリアル情報を告げた。

 予想通り彼女の肩書きを聞いたギルド員達は唸りを上げた。

 このゲームに参加している人間は軍事に関するマニアも多く、余り表に出てこない部隊の名前を聞いて驚きの声を上げてしまったのだ。


「今回我々は、私達とは異なる歴史を持つ西暦2032年の地球に行き、国連総会にて都市国家(City State)パレードの国連加盟とPKF派遣を要請し、これを受理させた」


 彼女の説明に良くやったなぁと感心する一同。

 勿論、表舞台で活躍したバレードのプラム姫と裏で活躍した長田陽介の活躍があったればこそである。


「また、これまで不可能だったアバターの解除キーを手に入れたので、希望者は申請するように」


 そう告げられると純粋に喜ぶ者もいれば戸惑いを浮かべる者、我関せずとばかりに平然と聞き流す者もいて、人それぞれ異なる反応を示していた。

 中には質問をしたそうにしていた者もいたが、チキンハートはそのまま話を続ける。


「今後、冒険者ギルド・モンスターパレードはCSパレードの軍事支援を行う予定である。緊急クエスト扱いになるが、是非とも各員には奮って参加して貰いたい。以上だ。何か質問のある者」


 彼女が最後にそう告げると、そこかしこから手が上がる。

 彼女は無作為にひとりの女性を指名した。

 トンガリ帽子を被った魔女のアバターである女性は恐る恐る質問を投げかける。


「えーと、アバターの解除が出来るって話ですけれど、それって又アバターになる事が出来るんですか?」

「うむ、まだ試してはいないんだが、カーソルは表示されている。ちょっと事情があって私は現在アバターに戻ることが制限されている。誰かに志願して貰いたい所だな」

「分かりました。ちなみにアバターの解除と着装は自由にして良いんですか?」

「そうだな、現在ギルドの方にはアバターしか登録されていない、よってアバターを解除した状態でギルドを使用するには解除後の姿と氏名も登録する必要がある。それが済めば個人の自由に任せる。自己責任に於いて行ってくれて結構だ。疑問点がなければ次の質問に移る」

「はーい。関連質問です」


 チキンハートの言葉にすかさず手を挙げたのは狼の顔をした獣人のアバターの男性だった。


「何かな?」

「アバター解除後の本人の性能は元の身体に準拠するのでしょうか」

「元の身体そのままだな。ただし、VRウィンドウは表示されているので、スキルの一部は使用出来る可能性がある。要研究だ」

「分っかりましたぁ。後、アバターでした怪我や何かは引き継がれるのでしょうか」

「ふむ、それも要研究だな。アバターなら余裕で耐えられる怪我でも人間に戻ったら即死では困る。結果が出るまでは不用意な解除は慎むべきだろう」

「了解しました」

「では次の質問は」


 云うが早いか複数の手が上げられる。

 株主総会ではないので無理に早く終わらせる必要はないのだが、VRMMOの廃人クラスの集合である、その興味が尽きる事はないだろう事は今キャンペーンに於いて重々承知しているチキンハートであった。

 次に指名したのは妖精族のアバターを選んだ性別不明のプレイヤーである。


「では緑色の髪の妖精族の方」

「やりぃ! えっとねぇ、なんでこの城塞都市をNPCの物にしちゃってんの? プログラムなんだから魔法で洗脳して兵士に仕立てちゃえばいいのに」

「あー、確かに彼らはNPCに相似した存在だがNPCその物であるとは証明出来ない、更に云えば生物学的に彼らが人類に類似した知的生命体であることは確認されている、この世界がゲームの続きではない以上、彼らの権利は保障されるべきだと結論付けられた」

「結論付けたのは誰?」

「冒険者ギルド上層部会議とオブザーバーの長田陽介氏だな」

「根拠は?」

「身体検査とチューリングテスト、それから多世界解釈の実地理論から導かれた」

「多世界解釈は分かるけど、実地理論て何さ」

「この世界には番号が振られていてAW-01世界。この世界に繋がっている日本を含む地球の世界がPW-01世界となっているが、数年前までこのAW-01世界の他に類似した世界がありそれぞれAW-01A~Iと呼ばれていたらしい。結果的にAW-01B世界のみが残った為にAW-01BがAW-01となったらしいのだが、その時代に色々と調べられたとの事だ。詳しくは資料がないので不明である。ちなみに我々の元の世界はPW-02世界と仮称されている」

「オブザーバーの長田陽介って誰?」

「現在敵対勢力と化して仮想敵国となっているアクアマンデ王国の前王配で、外交官としてここへ送られた後に政変によって切り捨てられた、十二人の娘を持つ子持ちの男性だな」

「うわ、子供多過ぎだよ。まあ、良く分からないけど本物の人間な訳だ。それはそれとしてギルドで支配しないの?」

「CSパレードに住むのは本物の人類種なんだよ? 支配したら保護する義務が発生するでしょう。単純計算で五倍の人数を防衛し、職業を安定させて、食料を与える。そんな苦労をギルドが背負い込むよりも、自分達が支配すると云っている王侯貴族に任せた方が負担が少ない」

「そうかぁ、僕たちに負担が掛かるならしょうがないか。それで敵対する予定のアクアマンデ国ってどんな軍隊をもってるの?」

「長田陽介氏の内部情報によると多連装単発式小銃の新38式歩兵銃を装備した歩兵が支援火器の砲撃の元で散兵戦術によって浸透して来る戦術を採用していたらしい。だが、現在国連のPKFが引き上げている為に支援砲撃は魔法による砲撃に戻っているそうだ。曲射が難しいそうなので塹壕による戦術も効果的だな」

「質問、敵との戦争はどの様な方法で行うんですか? ゲームならともかく現実で死ぬのは嫌なんですが」


 チキンハートが戦争に対する説明を始めると、側頭部から羽の生えた亜人が質問する。


「勿論だ。現在我々はアクアマンデ王国と交渉して平和裏に事が済めば良いと思っているのだが、如何せん頭の堅い国王の為に戦争になるのは避けられそうもない。よって城塞都市にある機能、ギルド間戦争のプログラムを起動させてHPがゼロにならない様にする予定である。また、外周の城壁を迷路化し地下迷宮に繋がる入り口を数カ所設ける予定だ。ただし、外周迷宮だがな」

「なるほど、即死はないって事ですか。しかし、外周迷宮ってドーナツ状になってて入っても反対側に出口があるだけですよね」

「お誂え向きじゃないか?」

「はあ。上層階は雑魚敵が多いですから、あまり障害にはならなそうですね」

「そうだな。まぁ、トラップ班の腕の見せ所と云った所か。モンスターハウスをどれだけ用意するか、モンスター捕獲のクエストも常時募集中だぞ」

「はぁ。で、いつまで戦えば戦争が終わるんですか? 戦争は始めるのは簡単だが、終わらせるのは至難の業であるって聞いた事がありますけど」

「国連のPKFによる介入を待つ。地球とこの世界を繋ぐ次元通廊というゲートを越えて来るので、ある程度の時間は必要だが必ず来る」

「何で来ると分かるので?」

「我々の持つVR技術はまだ地球に存在しない。その基本技術のオープンソースの提供と、各種魔法マテリアルの交易等だな。他にもあるが、これはまだ情報秘とさせて貰う」

「オープンソース部分だけですか?」

「根幹部品は我々が製造してブラックボックスとして提供する予定だ。幸いにして分子回路の製造技術は錬金術師によって再現可能だからな。我々はこの世界にいる場合は有利さを保てる。地球に移住も将来は可能だろうが。我々の知る娯楽は何もないツマラナい世界だったよ」

「ゲームの操作がジョイスティックとか?」

「ああ、原始的な直接接触式のマンマシーンインターフェイスしか無かった。電話がスマートフォンだぞ?」


 チキンハートの言葉に聴衆の間だから失笑がコボレる。

 彼らにとってはスマートフォンと云う物は半世紀以上も前に流行った化石の様な古びた代物でしかなかったからだ。


「やはりVR技術による技術の飛躍的跳躍が第二次産業革命の肝だったな」

「ああ、それは納得できます。ゲームの中なら不便さを楽しめますけどね」

「うむ。そういう訳で、今後の方針は今説明した通りだ。色々と質問が残っているだろうが、メールか掲示板の方へ頼む。これから我々には苦難が待っているのは確かだ。だが、挫けたらそこで終わりだ。生き汚くても良い、原因が分かれば元の世界に戻れる可能性も無い訳ではない、決して諦めずに頑張ろう」


 チキンハートが締めると誰からともなくときの声が上がる。

 今までの彼らは現状と先行きが不明な状態であった。

 だが、何を成せば良いのかが分かれば何をすべきか分かる。

 徒労感と無気力感に空回りした日々は終わったのだ。

 という訳で翌日より冒険者ギルド(AG)モンスターパレードの面々は城塞都市のトラップ化と、モンスターハウス用のモンスターを捕獲しに地下大迷宮へと潜る日々が始まった。

 する事はプレイヤーキラーとして自分がされたら嫌な事を再現するだけである。

 ゲームではマナー違反の反則プレイとしてしなかった逃げ場のないハメ罠や致死罠が外周迷宮に設置され、外周の城壁も迷路化されて迎撃ポイントが設置されていった。

 更に外周迷宮の周りを掘り下げて1層分10メートルを掘り出して城壁代わりとし、数ヶ所ある迷宮入口に厳重な門を設けてここからは中に入れまいと意志表示する。

 当然それは罠であり、そのまま中に入ると迷宮の中をさまよう事になっている。

 都市全体を覆っている障壁も攻撃を受けるとどこまで保つか分からないので、上空からの攻撃阻止に注力する様に変更された。

 製造職の作るネタ武器もガチ武器も用意され、準備は着々と進められて行く。

 一方、アクアマンデ王国の国王になった池面洋士も未だ数十人残っている女性達への面談デートとプロポーズと初夜をこなしながら軍備の構築を押し進めており、一般人から徴兵した歩兵部隊の訓練を押し進めていた。

 彼らの武器は主に槍であり、歩兵銃ではない。

 これは使い方の習得に時間が掛かる事もあるが、新たな新38式歩兵銃の購入が滞っている事にも原因がある。

 新38式歩兵銃はライセンス生産による国産化を推し進めているが、生産性の低さや精度の問題から歩留まりが悪く高コスト化を招いていた。

 又、日本側も以前から急な軍備の増強に懸念を示しており、更なる発注には応じていない。

 訓練用に新38式歩兵銃のモデルガンは納入されているが、実銃は新規購入が制限されていた。

 その頃、洋士の妻となった四人の女王達はそれぞれひとりずつ子供を産んだ。

 仕込んだ時期がほぼ同時だった為に出産の日も三日とずれなかったとの事。

 全員珠の様な男の子である。

 勇者の血が王家に掛かっていた祝福のろいに打ち勝ったのだ。

 これ以降、今まで女児しか生まれなかった反動の様に王家には男児の出生が相次ぎ、王家から庶子や臣籍に移籍しても三代は男児しか生まれない家系となる。

 子孫も洋士の血を引いているだけあり女性にモテたので、一世紀も過ぎると王都は無駄に美形な男性ばかりの男臭い都となるのだが、それは後の事。

 現在の洋士は跡継ぎの男子がこんなに沢山生まれた事に喜び、城下に王子の誕生を公布して一週間はお祭り騒ぎが収まらなかった。

 国民皆大喜びで喜色満面の笑みを浮かべて浮かれていた。

 母親達を除いて。

 前回の盟約更新からそろそろ半世紀が過ぎる。

 どうせ女児しか生まれないのだからと娘達を地下迷宮へと放逐したのが痛かった。

 このままでは王権の威信も揺らぐ事態になり兼ねないのだが、この問題は先送りされる事になった。

 この時点では未だ女児が生まれなくなるとは決まっていなかった為である。

 そうしている内にお祭り騒ぎも終わり、いよいよ戦いの準備は整ってきた。

 各地から集められた戦力は郊外に設営された基地に集結し、いつでも鉄道にて北へと移送する事が可能になっている。

 現地の前進基地では兵站線の構築準備が進んでいた。

 双方共に会敵する日が近付いて来ている事に緊張が高まりつつあった。

 パレード側は完全に待ちの状態であったが、アクアマンデ王国側は魔王復活を阻止する目的で完全な攻勢状態であったので、斥候部隊による偵察だけではなく航空戦力の飛竜部隊や天馬ペガサス部隊なども姿を現していた。

 それらはパレード側に捕捉されていたのだが、中には識別不明アンノウンの物も少数含まれていた。

 彼らは手前にある公国の軍ではないかと推測していたが。


 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 長田陽介は地球で行ってきた交渉内容を書類に纏めて国王へと報告し、ホテルへと戻って来た。

 帰国した当日はホテルの部屋に見知らぬ女の子がいたので、子供達が早速現地で友達を作ったのかと思い声を掛けようとして頭を撫でたところ、照れた顔をした女の子から声を掛けられた。


『うぇへへ。初めましてダニ。お父様』


 思わず撫でている手が止まらなかったのは誉めても良い所だろう。

 瞬時に過去を検索する陽介の脳裏に、エメラダーの愛人の一人が故郷に帰ったと云う話題が思い浮かんだ。

 あのかぁっ! と声に出さずに叫んだ陽介は努めて冷静に訊ねる。


「うむ、初めまして、ジョゼットだね。私が君のお父さんだ」(と思う)


 陽介はしゃがみ込むとジョゼットの目線に合わせてそう言った。

 彼女は嬉しそうに笑みを浮かべて陽介に抱きついた。


「あたいはここにいても良いダニか? 迷惑じゃないダニ?」

「迷惑なんてとんでもない。僕はいつでも……そう言えば君はどうしてここに? お母さんはどうしたのかな?」


 そう言うと彼女は一気に泣き顔になりしゃくり上げ始めた。


「うっうっうぅ~、捨てられたダニ。うぅうぅ母さんのお姉さんが勇者様と結婚したってえぐっ聞いたらうぅ、ウラを捨てて王様の所へ行ったダニ」

「むっ、そうか。大変だったね。これからは僕が君を守るから。泣いても良いんだよ。女の子だからね」

「うぇえええええええええええ」


 彼女は棒立ちになり顔を上に向けて泣いた、ガン泣きである。

 陽介は彼女を抱きしめてあやしたが、隠れて様子を見ていたらしい娘達がぞろぞろと出てきて言った。


「お父様がジョゼットを泣かせました。これはジョゼット協定の第二項に違反する行為です。てて加えて女の子だから泣いて良いとは男女平等の精神にもとる行い。当姉妹法廷はお父様に一日追放刑を宣言します。意見のある人は?」


 ガイアが宣言すると姉妹達は口々にその発言に同意する。


「異議なし」

「その通りです」

「いや、あれは慰めてるんだからありでは?」

「全会一致により刑を執行します。やぁっておしまい!」

「はい、お姉さま」

「聞いてよガイア」

「元男の言葉なんて知った事ではないのですよエマナ。罪一等減じて擽りの刑に処しますか?」

「あ~、まだ一日外出の方がマシかもね。父親の尊厳的な意味で」

「では改めて、妹たちよ、やぁっておしまい!」


 ガイアの宣言に従って十人の姉妹達は陽介の周りを取り囲んだ。


「え~と、どうしたのかな娘達」

「私達はジョゼが痩せこけてボロボロになりながらこのホテルに辿り着いた時に決めたのです。この子を決して泣かせたりしないと。お父様はそんな私達の決意を踏みにじった。これは万死に値します」

「落ち着きたまえ。このは安心して泣いているのであって悲しんでいる訳ではないんだ、話せば分かる」

「あ、死亡フラグ」

「問答無用っ!」


 ガイアは泣きじゃくるジョゼットを奪って抱きしめると、三つ子を始めとする八人は陽介の背中を押して外へ出してしまった。


「えぇ~? 中に入れてよ娘達。疲れる仕事がやっと終わったのに」

「ダメな物はダメなんですぅ。明日になるまで入れたげません」

「とほほ。君たちが一致団結して事に当たるのは嬉しいんだけどなあ。感情的になり過ぎないで、もう少し道理をだねえ」

「お父様なんて大っ嫌い。イーっだ」

「なん……だとぉ。っくぅ」


 ガイアが歯を剥き出しにして陽介を罵ると、精神的ダメージを受けた陽介は脚から力が抜けて廊下に手と膝を着いてしまった。

 オルズである。

 そんな陽介を余所にガイアは扉を閉めてしまったが、エマナだけが陽介の側に立ち心配そうな顔をしていた。


「父様、そんなに落ち込まないで下さい。ガイアもそろそろ反抗期になりますし、父親離れの時期なんです。私もフェロモン関係で父様の臭いに忌避感バリバリ感じますし」

「思春期なら生物学的には正常だよなぁ。うん、それは理解出来る。理解出来るんだが、ダメージが大きすぎるぜ。へへ」

「小さい達は年上の私とガイアの真似をしますし。ガイアは前世から女の子でしたから男の立場とか理解する気はありませんし。良い機会ですからホテル住まいも終了して家に住みたいなぁって」

「うーむ、住むだけならね。ただ、警備とか掃除洗濯諸々の事を考えると、安全が買える高級ホテルは捨て難いなぁ。コストはその分掛かるけどね」

「そうですか。出来れば個室が欲しいな、と思っているんですけど、贅沢ですよね」

「む、それは有るなぁ。一人暮らししてみるかい? シングルルームを借りて」

「あ、勉強とか、偶に一人になりたいなって時だけなんで。図書館は王宮まで行かないと無いですし。ギルドの図書室はギルド員じゃないと入れませんし」

「チキンハートさんに聞いてみようか? あそこなら青空文庫とかの無料図書が閲覧出来るし、未来の日本の本とかも置いてあるからなかなか興味深い知識が得られるかもしれないよ」

「それはいいんですけれど。チキンハートさん、女の人だったんですね。親しくしてたんですか?」


 何やらエマナはジト目で陽介を見遣った。

 別に浮気した訳ではないので焦る必要はないのだが、何故か動揺してしまう。


「私、てっきりエマさんと再婚するものと思っておりましたのに」

「エマさんか。彼女はメイドと主人以上の関係になるつもりはないってキッパリと言われたからなぁ。そう言えば姿を見てないな」

「エマさんなら今日はデートですって」

「おぅ、そうなんだ」

「はい。私達をここまで護衛してくれた、奥さんを勇者に結婚式当日に寝取られた騎士がいましたよね? あの方とデートだそうです。フルセットで」

「そうか。彼女も幸せを掴む時が来たか。素晴らしい事だな。結婚式にはお祝いをしなくては」

「意外とダメージを受けていないんですね? てっきり『あっちのも良いけど、エマさんも俺のモンじゃぁ』って思っているのかと」

「マンガの読みすぎだ。前世で。僕はモロ○シでもヨコ○マでも無いんだよ?」

「あはは。ニブチンの朴念仁のハーレム主人公でも無い訳ですね? 理由もなくモテる事もないと」

「君は自分の父親の事をもう少し信用すべきだと思うね。第一、僕がそんなにモテるわけ無いじゃないか」

「あー、そうですねー。母とは神託でくっついただけですし、女王達とは人工授精の提供元ってだけの関係でしたし。エマさんは業務の一環としてしか関係を持たなかったそうですもんね、エマさんから性教育の時に聞きました」

「うむ。何を言っているのか良く分かりたくないが、概ねその通りだ。泣いても良いかな?」

「存分にどうぞ。それで誰かに愛の告白をした経験は無いんですか? 参考までに聞いて置きたいんですけど」

「グウェンディロンと結婚した後は彼女相手にしていたとも。その他の女性に手を付ける予定はなかったからね。僕は一途なんだよ」

「はーん? ふーん、ほ~ん。そうなんですか、流石私達のお父様です。江戸時代の日本みたいに性風紀の緩いアクアマンデ王国で良く我慢できましたね。私が前世の時にはヤりたい盛りの男子でしたから、こんな所にいたら娼館に通い詰めになりそうな気がしましたけど」

「はっはっは、相手は一人いれば十分だからね。そんな事はしないさ」

「ゾハラさんとはなさらなかったんですか?」

「ゾハラと? いや、それは無いな。第一、種族というかサイズというか、色々違い過ぎるじゃないか」

「うーん、この世界が物語でお父様が主人公だとしたら、ゾハラさんはヒロインポジションにいるキャラクターかなと思ったので」

「キャラクターとか言うんじゃない。気分を悪くするぞ? 確かにこの世界に飛ばされてきて最初に出会ったのは彼女だったし、一番付き合いは長いけど、最初からその線は無いからね」

「そうですか。まあそうなっていたら私達も生まれる事も無かったでしょうから、私的には良かったんですけれど。で、チキンハートさんとは関係を持ったんですか? 持ったんですね? そうですか、分かりました。私からとやかく言う気はないので」

「どうしてそう思うのかな?」

「魔力の繋がりが父様とチキンハートさんとシエルさんの間に出来ていたので。そう言う関係なのかなって思いました」

「ふむ。僕には魔法は使えないんだが」

「確かに父様にはほとんど全く欠片もなく魔力がありませんが、まとわりつく位はしますから」

「うむむ、はい。薬を使われて非合意でされたよ。そう言えば、娘達は魔法は使えるんだよね?」

「はい、私達は王家の血を引きますから、普通の魔法も特殊魔法も使えますよ。小さい頃からイメージトレーニングは欠かしませんでしたから。折角剣と魔法の世界に来たのに魔法が使えないなんて勿体が無さ過ぎます」

「ああ、そう言えばこの前リビングに置き忘れていたノートに私の考えた最強魔法と」

「うわわわわわわわっ忘れて下さい。永久エターナル凍結フロスト絶対アブソリュート地獄ヘルとか知りませんから」

「うむ、黒歴史と言う奴だね、大丈夫、永遠氷結完全奈落(エターナル・フロスト・アブソリュート・ヘル)なんて僕は知らないから」

「はううう。恥ず。えーとえーと、あっそう言えばこの前母達が子供を産んだってニューズで読みましたけど」

「うむうむ。話題の転換にはちょうど良いネタだね。ギルドの諜報部隊が仕入れて来た雑誌や新聞じゃあ、その話題で盛り上がっているね。確か、全員、王子様だって話だけど」

「そうなんです。それが問題なんですよ。それについてお話ししたいのですけど。会議室とか借りて貰えますか?」

「そんなに機密が必要な話なのかい?」

「はい、王家の秘密です。私だけあのひとから聞きました」

「分かった。フロントに行って予約を入れてくるから、準備をして来たまえ」

「はい、父様」


 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 会議室にて夕方までエマナと話し合った陽介は、その内容から如何に今後の方針とすべきかを検討し始めていた。

 今までは単純に王家の祝福のろいを使用した政治形態で長い間王国が栄えてきたので、それを解決する必要がないのではないかと陽介は考えていたのだ。

 だが、話を聞くと常時王家に未婚の女子がいる環境を整える為だったと理解出来た。

 そして、現在ここにいる姫君達以外に未婚の王女はいないのだ。

 周辺地域の事も考え、なによりも自分の大切な娘達の命を絶対に守らねばならない。

 取り敢えず現在の状況が好転する要因にはならないだろうが、と陽介は考えたがその後の状況を構築するのに使えるだろうと構想を練り始めた。

 自分と娘達だけの事を考えるのならば地球に亡命するのが楽と言えば楽なのだが、この地に生まれ育った娘達はそれを承知しないだろうし、状況も許してはくれない。

 よって陽介は自分に出来る準備を始めた。

 それは以前に陽介が開発を進めさせていた、と或る兵器の準備も含まれていた。

 それを使う状況になったら気休め位にしかならないだろうが。

 決戦の時は近付いて来ている。

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