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第31話 金も力も無さそうだし。

 都市国家パレードの使節一行が地球世界を訪問して半年が経過した。

 その頃、陽介の子供達は親はおらねどは育つ、とばかりに女の子11人でわいわいと過ごしていた。

 11人である。

 あの後、エメラダーの愛人の中で唯ひとり故郷に戻っていた、タバサの子供が単身パレードを訪れていたのである。

 エマナが長女として事情を訊くと、エメラダーが洋士に靡いて娘達を捨てた事を聞いたタバサが、エメラダーとの絆では無くなった娘を父親の元へと送り出したそうである。

 彼女たちの元へ、ほぼ物乞いの様な荒んだ格好で現れた女の子に姉妹達は激しく同情した。

 そして、このの為ならば不仲な姉妹達とでも協力して行ける、と全員の思いは一つになったのだ。

 その夜の内に姉妹達の間でジョゼット協定と名付けた淑女協定が結ばれたそうな。


「姉様ぁ。お父様ってどんな人なんダニか? うち、会ったことがないから分かんないダニ」


 元々痩せぎすだったのだろうが、ここに来るまで連日の野生動物との戦いでゲッソリしている女の子のジョゼットは一番年上の姉であるエマナに尋ねた。


「え? あ~、お父様ねぇ。優しくて良い人よ。日本て云う世界と交易する会社の経営する人たちのひとりでお金持ちでぇ。だけどスライムよりも弱くて情けないんだけど、そこが女の人にモテるみたいな?」

「え~? スライムなんて雑魚ダニ。うちもここに来るまでに何匹かスライムに襲われたけど返り討ちにしたダニよ?」


 ジョゼットは誇らしげに胸を張った。

 彼女は魔法に適正があったらしく、この歳で既に初歩の攻撃魔法を使っていた。

 旅を始めた頃には呪文だけを覚えた状態であったそうだが、野生動物に襲われて必死になっている内に使えるようになっていたそうである。

 陽介の実力を知ったジョゼットは何やらがっかりした様な顔をしている。

 自分が困難を打ち破って生き残ったというのに、実の父親と云われた人が自分より劣っているのを知ればがっかりするのも仕方がないのだが、問題はそこから嘲り謗る様になってしまう事だ。

 なのでエマナは父親とジョゼットの為に助け船を出すことにした。


「お父様の国の箴言しんげんに『魅力があってモテる男には金も力もないだろう』→『配偶者となる男を見定める時には顔よりも資産や社会的地位を見るべきである』と云う物があります。お父様はモテるのにお金があるのだからいい男なのですよ?」

「愛がなくては人生を生きている意味がないって、前に本で読んだ事があるダニよ」

「う~ん。お父様は愛を持ってたんだけどねー。結婚相手があのひとだったのが不幸だったのよね」

「そうなんダニか? 分かったダニ。帰ってきたらうちの事見てビックリするかな? 喜んでくれるかな?」

「とにかくビックリはするともうよ。まだ帰国の連絡とか入っていないから、それまでに沢山食べて元気にならなくちゃね」

「分かったダニ」


 エマナがそう言うとジョゼットはニパッと笑って返事をした。

 さて、その頃の陽介は使節一行と共に日本に戻り、帰国の準備を進めていた。。

 演説の後にロビー活動をある程度進めて置いてから、あとは異世界交流基金の所員に任務を依頼していたのだ。

 さて、国連にて都市国家パレードの存在が受け入れられたのは長田陽介率いる頭脳集団シンクタンクがパレード側に付いたからに他ならない。

 トップがアクアマンデ王国に睨まれたからと云っても財団法人・異世界交流基金が異世界マテリアルを地球文明に利用できる技術のパテントは握っているし、鉱物資源の取引契約も彼らの名の下に行われているので再契約ともなると現政府の状況からして約10倍近く吹っかけられるだろうと見込まれているからだ。

 加えてPKFを派遣するとなれば日本とアセアンが独占している形の異世界交易の一角を崩す事が可能になるのだ。

 ここは陽介の思惑に乗った方が利益を上げられる、そう云う情報が陽介から流されていたのだ。

 さて、国連総会での演説の後、各国や国際企業と会談をしたプラム姫と陽介達は帰国の途に就いていた。

 陽介の攪乱戦術として洋士が地球で作ったシングルマザー達を大量にアクアマンデ王国に送りつけた件だが、流石に城内の後宮に収まる人数ではなかったので城下町の一角を後宮街として整備し、母親と子供達の合計千人程を住まわせ始めていた。

 あれから第二陣と第三陣が送られていたのだ。

 流石に世界を『股』に掛けて毎夜毎夜違う複数の女性達と逢瀬を楽しんできた男だ。

 命中率もほぼ百パーセントと並の男とは違う桁違いの能力を見せていた。

 現在はその全ての女性達に個別にプロポーズをして子供達と親交を深める作業に従事している為に、魔王討伐遠征軍の編成作業は進んでいなかった。

 更にプロポーズの際に仕込んだ子種が芽吹き続けている事もあり、国王外征の名目で動いている以上現段階での出撃は無いと考えられている。

 ハーレム体質を逆手に取った計画は順調に進んでいた。

 さて、帰国の途に就くと云っても次元通廊の向こうはアクアマンデ王国の王城から視認出来る位置にある。

 こちら側に来た時には不意打ちで突破したので何とかなったが、向こうに行く際にはそうも行かない。

 必ず戻ることは向こう側も分かっているので手ぐすね引いて待ち構えている筈である。

 出来る事なら穏便に戻れる様に取り計らう必要がある。

 その為に作戦を検討したのだが、自衛隊の護衛艦を隠れ蓑にする作戦が立てられた。

 名目は東日本大震災で処理しきれなかった弱放射能性瓦礫を大ユグドラシル大陸が浮かぶ大海洋へと廃棄する試験とされている。

 この世界は直径10万光年の球体の表面に広がった大海洋にぽつりぽつりと浮遊性大陸生物プランクトンが存在している。

 なので、天文学的な質量を持つH2Oを持つ大海洋への低放射線量廃棄物の投棄は環境上問題ないと考えられていた。

 もちろん、大陸に近い場所での投棄は大陸棚への残留と海流による最接近が考えられるのでビーコンを付けた筏に弱放射能性瓦礫を乗せて、その動きを観測する試験とされている。

 問題は大陸を取り巻く大海洋の海流のスピードである。

 大陸棚の上の海流は外縁島嶼により緩和されているのだが、大陸との相対速度が大きい大海洋海流は下手をすると船舶の巡航速度よりも早い場合がある。

 よって不用意に大陸棚の外周を離れると戻って来られなくなる可能性があったのだ。

 ならば戻って来られない事を逆手にとって地球上での廃棄や貯蔵に不都合のある代物を廃棄すれば良いと計画は立てられた。

 その為に無動力の筏の動きを観察し、ちょうど良いリリースポイントを確認した後に先行試験が行われる事になっていた。

 専用の筏を作成し、複数の作業船によって曳航の準備は進められていたのだが、その内の一つにロダンを土石に擬態させて運搬する予定である。

 因みに自動航行設備を備えた無人運搬船に高レベル放射性廃棄物を乗せて、充分以上に離れた場所で自沈廃棄処理する事も検討されているが、計画段階である。

 そして現在、陽介達は筏の内部に設けられたプレハブの生活施設、建設現場の飯場にある様な物の中で暮らしていた。

 筏の上部デッキにはロダンが廃土を装って積載されており、一見すると他にも数基ある筏の一つにしか見えないように偽装されている。

 数基の筏はパナマ船籍で日本人船長が運用しフィリピン人船員が働く普通の海運会社に所属する数隻の船にて曳航されていた。

 他にも水産加工船などが漁船と船団を組み、同時期にバン・シュワー湖に出航している。

 次元通廊を越えてAW-01世界に到着した時には一同に緊張が走ったが、現地側で王立水軍が周囲を囲んでいる等と言う事もなくすんなりと王城沖水域から離脱に成功した。

 しばらくそのまま進み、漁船や海運の船の姿が見えなくなった頃に陽介達は筏のデッキに姿を現した。

 十畳ほどの広さがあるとは云え、小名浜港に着く前々日からプレハブの部屋に籠もっていた四人は密閉された空間に飽き飽きとしていたのは仕方がない所だろう。


「くぁああああっ外は良いなぁ」


 陽介は大きく伸びをすると目を瞬かせた。

 大分疲れた様子の彼は燦々と輝く太陽を眩しげにしながら呟く。


「太陽が黄色いぜ」

「あら、太陽は元々黄色いですわよ?」


 陽介の呟きを耳聡く聞き取ったプラムは疑問に思ったのかそう問い返すが、チキンハートがその問いに答える。


「ああ、プラムはん。『太陽が黄色い』って云うんは徹夜をしてしまった時の定番の台詞やね」

「ああ、そう言う。陽介さんもお仕事なら仕事場でなされば良いのに」


 プラムは少し拗ねながら陽介に愚痴を零した。


「いや、こう云う細かい仕事は出来る時にやっておかないと貯まってしまうからね。せっかく暇なんだから書類仕事位はして置かないと」

「むぅ。せっかく可愛いネグリジェを買ったのに」

「あ~、あんまり刺激的な格好はしないようにね? 我慢するのが辛いから」

「しなくていいです。因みに何の書類ですか?」


 何か期待する様な様子でプラムは訊いてくる。

 正直第三者に流れても大丈夫なものばかりではあるが、一応内容を思い浮かべて問題が無いものを挙げてみた。


「そうだな、向こうの法人の決済書類の写しとか。パレードとの技術提携の契約書の写しとか、まあ、色々かな」

「私たちの婚姻届は無いんですの?」

「むぅ、結婚届かぁ。今の立場は都市国家パレードへの亡命希望になるのかなぁ。娘たち十人とエマさん達の戸籍もどうにかしないといけないし」


 何とか誤魔化せないかと話を逸らす陽介であったが、口に出してみるとそれをどうするのか思い悩んでいた事を思い出した。

 陽介が不慣れな事に頭を悩ませていると、チキンハートが疑問に感じたのか聞き直してきた。


「戸籍とか有ったかいな? 住民票だけやないの?」

「あれ、無かったっけ?」


 戸惑ったような陽介の顔を見て片眉を上げたチキンハートはつらつらと述べた。


「これはゲームの時代の設定やけど、冒険者は基本的に根無し草やさかいに拠点になる冒険者ギルドに登録してそこで税金とかしとったで?」

「貴族は定紋院が管理していますね。今は王族になったので王籍院に移籍しましたが、早速降嫁する事になるなんて嬉しい誤算です♪」


 まだ正式に決まった事では無いのだが、彼女の中では既に決定事項になっている様だった。

 るんるんと鼻歌を謡いそうな雰囲気で上機嫌にそう言った。

 だが陽介は牽制する様に悲観的な事を言う。


「亡命が認められても一般市民じゃないかな? 娘たちはともかく僕は貴族って柄じゃないし。やっぱり考え直した方が良いって」

「あはは陽介様往生際が悪いですよ? 私はどこまでも着いて行きますから。無職になって貯金もなくなって生活保護を貰いながら職業安定所ハローワーク通いになっても私が支えます。絶対逃がしませんので」


 そう言った時のプラムの目はメラメラと燃えていた。

 むしろ逆境よドンと来いとばかりの勢いである。


「とても心が痛い決意表明をありがとう。まあ、そうならない様に頑張る訳だが」

「正直に言ってしまえば国連との橋渡し役の陽介様をそんな位置に置く事はありえません。最低でも功績を以て貴族の一員にはなれるかと。もしもゴネるようなら私が何とかしますし。うふふふふ」

「その笑い方、なんか怖いよプラム姫。まあ、なるようになるさ。さて、見つかると事だし、そろそろ部屋に戻ろうか。外洋に出るまであと数日掛かるし、のんびりしようかね」


 このバン・シュワー湖は波の荒い外洋から隔絶している為に瀬戸内海か琵琶湖の様に湖面は静かである。

 なので筏も揺れが少なく、非常に穏やかな航海であった。

 巨大なクレーターであるバン・シュワー湖には幾つもの大河が流れ込んでいるが、流れ出ているのは外洋に繋がる幅一キロ深度一キロのティグスワ河のみである。

 これもクレーターが出来た時に同時に出来た物で、宇宙空間から飛来した巨大隕石が大陸に接触した際に下端部が大地を抉って生じた地形である。

 その為に定規で引いたように真っ直ぐな河はほぼ整流で流れており、水流に乱れがない。

 河の上層部は流れ込んだ河川の淡水が流れ出ているが、下層部は外洋の海水が淡水とは混じり合わずに外洋とバン・シュワー湖を行き来していた。

 これも河の水が乱流にならずに抵抗が少ない事が原因となっている。

 その様な河の為に、湖ほどではないが渦巻く河に飲み込まれる心配もなく外洋へと航海は続いた。

 ここまでは少ないながらも帆船の商船が外洋の沿岸航路を通る為に、目撃されると困ることから商船のまばらな外縁諸島へと航海を続けた。


「ここからが本物の海ですか!?」

「ああ、まだ河口から出たばかりだから周りの水は淡水だけど、この辺はもう海だね」


 プラム姫が筏のデッキから外の景色を眺め、その広大さに心を奪われた様に感嘆の息を漏らした。


「へぇ~、わたくし海と云う物を初めて見ました。おぉ~、無限に広がる大海原ですね」

「うん、地球だと大地が球体だから水平線が丸く見えたり、帆船のマストから見え出したりするんだけどね。ここは限りなく平坦な世界だから遮蔽物がない限り何処までも見えるんだ」

「へぇー。ん~遠くに見えるのは島ですか?」


 陽介に何処までも遠くが見えると云われたプラムは目を凝らすと空と海の境界線の辺りを凝視して薄っすらと浮かぶ灰色の影を視認した。


「おお、良く見えるなぁ。この大陸を取り囲むように点在している外縁諸島だね。大海洋の波は物凄く荒いけど、外縁諸島があるお陰で大陸沿岸の波は少し穏やかなんだってさ」

「天然の防波堤ですか」

「そうそう。こうして見ると広い世界だなぁ。僕もじっくりと見に来た事がなかったから驚きの光景だよ」


 この世界は限りなく平坦な為にレーダーも水平線の向こう側を見るために超水平線レーダーを使用しなくても遠くの海域にいる船舶の確認が出来る。

 だが、逆に目視でも気象条件によっては百キロ越えの距離の船舶が見えてしまうのだ。

 認識さえ出来れば何が起こっているのか観察されてしまう為に、空気中の視認度が低くなる霧や降雨がなければ彼らはこの筏から飛び立つことは出来ないのだ。


「そうだ。この世界特有の景色が夜になったら見えるから、もう一度見に来ようか」

「ちょっとしたデートですね♪」

「ああ、そうだね。いったん戻ろう。遠くの方に船が見えるし」

「はい」


 夜になって月が輝く頃、陽介とプラム、そしてチキンハートとシエルがデッキに上がってきた。

 海面には月の光が波に反射してキラキラと輝いている。

 余談だが、太陽と月は常時真上にいる為に水面にその姿が映り込むのも自分の目の真下になる。

 なので水面が波で傾き反射角度が変わった時だけ光が反射して見えるのだ。

 さて、ほぼ人工の光が無い海原の真ん中で、外縁諸島の一部にはポツリポツリと街の灯りが見えた。

 船団の船舶は地球製なので国際基準で定められた標識灯を表示しつつ航行をしている。

 周りを見渡してもお約束的な海賊の姿も認められないし、離れた海域に夜光虫が群れているのみである。

 だが、陽介は外縁諸島の島と島の間を指さしてプラム姫に説明した。


「凄く遠くにボンヤリとした赤い明かりが見える?」

「ああ、はい。何か薄暗い夕陽みたいな・・・・・・」

「うん、あれが他大陸の上に輝く別の太陽なんだ」

「へー、ってええっ!? 他大陸ですか」

「そう、この世界の大陸って超巨大な浮遊生物プランクトンらしくて、大海洋の海流に乗って漂っているらしいんだけど、偶に大陸同士が接近して交易が行われたり、戦争になったり、移民したり、時代の節目になる事が多いらしい」

「ほぇ~。あ、そうか、大陸同士の距離とか変わるから普段は別の大陸へは移動出来ないんだ」

「そう言う事」

「でも太陽で位置が分かるなら前もって準備が出来るから大丈夫ですね」

「ただ、魔族に支配された太陽のない暗黒大陸とかもあるんで油断は出来ないけどね」

「暗黒大陸!」

「そ、ほぼ確実に戦争になるから。発見したら戦いの準備は必須だな」

「はぁ、じゃあ安全な大陸に逃げ出す準備も必要だと思うんですけど」

「偶々距離が近い他大陸が存在すればね。存在しても先住者がいたら困るし、大概は遠すぎるのがネックになるかな」

「地球の船でも駄目ですか?」

「う~ん。原子力船なら長期間航行しても燃料は持ちそうだけど、食料とか持たないだろうし。でも火星有人ロケットよりは実現可能かな」

「火星って星ですか?」

「む、そう、宇宙空間を秒速数十キロで飛行してって云っても分からないか。確かNHKの教育番組のDVDかヂスカヴァリィのDVDがあったから、それを見て貰うとして。他大陸との交易は接近してきた時にするのが一般的らしいね。歴史書にはそう言う事が書かれていたよ」

「なるへそぉ。でも戦争になるのは嫌ですね」

「基本的に近くにいるのは過去に接近した事のある大陸らしいから文化的には似通っているらしいし、交渉が上手くいけば戦争にはならないんじゃないかな。まあ、文明の程度によっても変わってくるだろうけどね」


 今まで異なる世界の間に翻弄されて来た陽介は、そうなった場合には争乱が起こるんだろうな、と確信しながら口には出さなかった。

 さて、船内生活を初めて早一週間が経過した。

 広いとは云え一部屋の中に四人が詰め込まれていたのではどうしてもストレスが溜まる。

 ポータブルDVDで映画を見たり読書に勤しんだりして女性陣はストレス発散をしていたが、それも徐々に退屈に感じ始めていた。

 陽介はと云えば仕事をこなしながら合間合間に小説やマンガを読んだりしていて、意外とストレスにはなっていなかった。

 しなきゃならない事『書類仕事』をさぼりながらしたい事『読書など』をしているからだろう。

 心の持ちようだろうが、女性陣の場合はしなきゃならない事が『暇つぶし』であり、無理にでも暇を娯楽で潰さなきゃならない境遇よりも、気楽に娯楽を楽しめたのが陽介の勝因だろう。

 例えそれが娯楽でも、しなきゃならない義務となると純粋に楽しむ事は難しいのだ。

 という訳で暇を膿んでいた女性陣はひとり涼しい顔をしている陽介を逆恨みした。

 曰く『ひとりだけ楽しそうに過ごしやがって、こうなったら私たちがあなたを使って楽しませて貰う』と陽介を寝台に引きずり込んだ。

 それにより女性三人による攻撃が行われ、陽介は濃密な時間を過ごす事になったのである。

 激しい運動により女性陣はすっきりとした気持ちで眠りに着くことが出来た。

 やはりある程度は身体を動かして運動しないと、どうしてもストレスは発散出来ないのだ。

 特に身体の新しい使い方を覚えたばかりのプラムは襲い来る快楽の波にすっかり呑まれてしまい、陽介のみならず止めに入ったチキンハートとシエルも巻き込んで組んず解れつの大運動会を開催した。

 すっかり艶々になった女性陣であったが、徐々に高くなって行く波頭による揺れに気分悪くする事こそ無かったものの、ベッドの上でだったら激しく揺れても大丈夫なの、と毎晩の様に強請ってくるので今度は陽介の方が寝不足と精力の低下から来る疲れでグロッキー気味になってしまった。

 今までは満足させるのに手間が掛かったものの一人を相手にすれば済んでいたのだが、この密室で彼を貪っているのは三人の女性である。

 ひとりは若くて体力が有り余った娘さんと、もうひとりは機械の身体を持ち快楽中枢の制御に長けた女性、そして連日の様に男を相手にしていた元売春婦もやっていた魔女である。

 一夜経る毎に陽介の精力は見る見る内に限界まで擦り減っていった。

 外縁諸島海域に達するのが一日でも遅れていたらそのまま療養生活に入っていたのではないかと思われる。

 とは云え、旅に終わりは必ず来る。

 一隻だけ船団から離れた陽介達を乗せた筏を曳く船は、明るくもなく暗くもない空の下で停船した筏の上からロダンを発進させた。

 流石に前日には遠慮したのか体力を回復させた陽介とプラム姫、チキンハート、シエルを乗せたロダンは力強く羽ばたくと空高く舞い上がった。

 直ぐに明るくなった空は快晴で、時折低く立ちこめた雲が眼下を通過する物の見晴らしは非常に良かった。


「絶景かな絶景かな。いや、久し振りのこの世界もいい物だな。空気とかが美味しい気がするよ」


 陽介は久々の開放感に心が浮き立ち、手で傘を作って周囲の景色を見渡す。

 それに対応してプラム姫が答えた。


「そうですね。地上から立ち上るマナの濃さが絶品です。地球も全然使われていないマナが立ちこめていましたが、少し澱んでいましたから。いつもリフレッシュされているこの世界の方が良い感じです」

「そうなんだ。僕には魔法とか使えないから分からないんだよね。他の五感に例えると何になるのかな?」

「え~と、手に取る様に見える臭い、でしょうか。ハッキリとは言えないんですが」

「ああ、それは仕方がないって。僕には対応する感覚器官がないんだから。それでチキンハートさん、あと何時間くらいでパレードに着きますかね?」

「ちょ、ちょっと待ってん。アバターと勝手が違って、手綱が使いづらいんやわ」


 騎竜用の鞍は元々身長3メートルのオーガーのアバター用に作られていたので、未だに元の身体のままのチキンハートには相当大きかった。

 新しく取り付けた座席に跨がって手綱を握っているのだが、リーチの違いからか大分使い勝手が悪いようだ。

 しばらくバタバタとやっていたが、何とか感覚が掴めたのか落ち着きを取り戻すと陽介に答えた。


「あー、そうやな。この位置からやと二、三時間位やないかな」

「相変わらず早いなぁ」

「そらそうや、空の大怪鳥ロダンは元のゲームでは最強のモンスターやってんで?」


 チキンハートが自慢げに胸を反らすと、すかさずプラム姫が突っ込みを入れた。


「あら、敵の空中戦艦も相当強かったではなかったかしら」

「むぅ、あれは、モンスターやあれへんもん。古代の発掘兵器なんてベタな設定の物を使いよってからに。敵の親玉の趣味も最悪で『神罰砲ジャッジメント』とか云って、ゲームバランス最悪やねん。何やっちゅうて一発撃つのに味方を犠牲にしてんやで? やっぱ、カルト教団にいた所為やろなぁ」

「知り合いなのか?」


 チキンハートが苦々しく云うものだから陽介は心配して訊いてしまう。

 ムッとした顔になり、不機嫌そうにチキンハートは告げた。


「あんな人、うちの家にはいません。無関係です。っちゅうかリアル割れする様な情報は基本的にしないのがうちのギルドの鉄則やし」

「今の格好は?」

「これは、アバターの解除が出来た方が嬉しいプレイヤーもおるやろうし。うちはみんなの責任を持つギルド長やからな、隠し事は出来るだけせえへんの。でもプライベートは別やで? もっとうちの事知りたかったら婚姻届にサインして貰わなな」

「なるほど。そこは置いといて」

「置いとかれた?!」

「その、敵って云うのはゲームの時の敵、つまり人間側の冒険者ギルドって事だよね? その敵についての情報とか、入ってないの?」

「あー、今のところ何もないで? キャンペーン終了の時には引き分けで終わって、その後この世界に来てからは消息不明や。正直言って来てへんとええのんやけど。あのアホどもの事やから、正義の名の元にっちゅうて状況を弁えずに武力介入して来そうやし」


 チキンハートが苦り切った顔でそう告げる。

 だが、その情報だけでも厄介そうな組織と親玉だと伺い知れた。

 正直、現在のアクアマンデ王国の事だけでも頭が痛いのに、正体不明の組織のことまで考えたくはなかった。

 だが、考慮には入れて置くべきだと陽介は思った。そしてそれは杞憂ではなかったのだ。


 雑談を交えた会話をしている内に、ロダンは都市国家パレードの上空へと到達した。

 相変わらず雲をも遮る広大な障壁が張り巡らされており、外敵、つまり周辺諸国の武力侵攻を防いでおり、また、この世界側の魔獣の侵入も防いでいるようだ。

 何故ならば、障壁の外側に軍隊が踏み荒らした地面と宿営地跡や攻城兵器の使用を試みた痕跡が散乱し、魔獣の死骸があちらこちらに転がっていたからだ。

 幸いにして軍隊側の死者は無かったようで、戦死した兵士の死体や血痕などは見当たらない。


「向こうの世界に行っている間に、色々と接触があったみたいだ」

「せやね。あっこに転がってるモンスターは見た事あらへんな。この世界のモンスターやろか」


 チキンハートが指さす先には幾つもの首を持ち、ズタボロにされた鈍色の鱗を持つ大型トカゲが倒れ伏していた。


「あれは、シエルは知ってる?」

「ん、うん。知ってるよ。所詮あやつは魔物の中では最弱の存在、我らの中では下っ端に過ぎぬわ」

「小芝居はいいから。名前と種類を」

侯爵マーキスヒドラ。キングヒドラに比べるとふたつかみっつは格下の多頭竜かな。人間の軍隊でも倒せるけど、それなりに相手にも損害を与える筈、だけど、障壁は越えられなかった、か」

「そら、モンスター側とは云え、プレイヤーに襲いかかってくるモンスターもおるさかいに備えは必要やん」

「人間同士でも戦争するもんな。おっと、ゲートが開いた」

「ホンマや。ほな、降下するで? しっかり掴まってや」


 チキンハートが宣言するとロダンは降下コースをとり、城壁の外の緑地帯へと着地した。


「ありがとなロダン。ゆっくり休んでな」

『いえ、我が主の為ならば』

「喋ったでぇ!!?」

『元より喋れますが封印されておりました、制限が解けたのか先日より喋れるようになりましたので』

「はぁ、左様か。何はともあれこれからもよろしゅうな」

『はい、我が主の命ずるままに』


 ロダンがこうべを垂れて畏まると、そのまま大地の小山へと姿を変えた。

 突然の出来事にビックリ顔のままになっていたチキンハートはブツブツ言いながら顎に手を当てて独り言を呟く。


「ロダンと話し合いやらせんとイカンな。色々とせんといかん事が山積みや。陽介はんも国王陛下に挨拶せんといかんのやろ?」

「ええ、わたくし達の事を認めて貰わなければなりません。そうですわね、陽介さん」

「分かっている。覚悟は決めているから大丈夫さ」

「ならば良しですわ。迎えが来たら皆さんで王宮へと向かいましょう」


 そうプラムがまとめて待つこと数分、城門の向こうから高級な造りの馬車が姿を現した。

 六頭立てで黒塗りの艶出し塗装の箱馬車が彼らの前で止まると扉が開き、中から一人の偉丈夫が姿を現した。

 彼らが送り出された壮行会や打ち合わせの時には見たことのない人物である。

 彼はプラムを見ると目を輝かせて腕を大きく広げて大声で言った。


「久し振りだねプラム姫。こうして試練を果たして約束を果たしに来たよ! さぁ、こちらに来たまえよ」


 その男は髭を蓄えて鎧に身を包んだ身の丈190センチほどの武人である。

 唯一変わっているのはプラム姫と同じく翡翠色の角が二本生えている事だろう。

 ただ、プラム姫の様に真っ直ぐ一本ではなく、途中で枝分かれした鹿の角の様な形状をしている。

 エネルギッシュなオーラを振り撒いているが大らかな雰囲気を持った落ち着いた人物のように見て取れた。

 彼の顔を見たプラム姫は途端に目を潤ませて頬を紅潮させると手を顔の前で組みながら震える声で問い掛けた。


「マリオン様っ! よくぞご無事で。地下の迷宮へと試練に挑んで3ヶ月も音信不通で。私は、貴方様は既に食料も尽きて絶望的だと諦めておりましたのに」

「はっはっはっ、確かに地下迷宮にて虜囚となり、私自身帰還する事を諦め掛けた事もありました。しかし、決して挫ける事無くチャンスを待ち続けて遂に相手の隙を突き試練を果たす事が出来たのです。さあ、貴女の父上には既に許可を貰っております。約束通り婚姻を結びましょうぞ」


 マリオンと呼ばれた男は満面の笑みでプラム姫へと手を伸ばし、プラム姫はチラッと陽介を見て逡巡したのかその手を取るのを躊躇った。

 そしてニッコリ笑ってマリオンに向かってハッキリと言い放った。


「喜んでマリオン様の元に嫁ぎますわ。ああ、こんな喜ばしい時が来るなんて思いもしませんでした。思えば幼き頃から貴方様の元へと嫁ぐこの時を一日千秋の思いで待ち続けてきました。今回わたくしが交渉の旅に出たのも貴方様の生存が絶望的になったからでありますのよ。もうどうにでもなってしまえ、心よ砕けろ、身体よ犬畜生の慰み者にでもなってしまえ、と激しい絶望につつまれてしまったのです。でもでも、マリオン様は私の前に帰って来て下さった。こんなに嬉しい事はありません」


 そう言うとプラム姫は目の前のマリオンに飛びつき、厚い胸板に抱きついた。

 それに応えてマリオンも強くプラムを抱きしめる。

 引き離された恋人達の熱い抱擁はふたりだけの世界を作り何人たりとてもそこに干渉する事は能わなかったのだ。

 ふたりはギュッと目を瞑りお互いの感触を味わった。

 プラムはマリオンに気付かれない様に後ろ手で陽介に向かって手を振りジェスチャーで『シッシッ』と追い払っていたが。

 呆然と目の前の光景を眺めていた一行はハッとして陽介に注目する。

 幾ら振られ慣れているからとは言え、つい先ほどまで結婚しようと話し合っていた相手がコロッと心変わりしたのだ、その心中たるや如何ばかりの物か。

 だが彼は薄く笑いを浮かべて手を叩き始めた。


「オメデトー、プラム姫サマ、オメデトー」

「ああっ! 陽介はんが壊れかけとるっ?! はやくはやく、何とかせんといかんて」

「あちゃー、これは流石に私でもフォロー出来ないわねぇ。ここはひとつ私の身体で慰めて」

「ダアホーッ! 何いきなり脱ぎ出そうとしとるんやっ。陽介はん陽介はん。しっかりしいや、うちが着いとるで。うちだけが陽介はんの味方や、うちだけやでぇ、うちだけやぁ」

「オレノ味方ハ、ちきんはーとダケ? チキンハートだけが」

「あ、流石にこういう時は本名で呼んでんか?」

「ちきんはーとノ本名ハ・・・・・・なんだっけ?」

「前に言って・・・・・・ないな。鳥山こころやで。こころって呼んでな?」

「うむ、了解した。それからどさくさに紛れて洗脳しようとしないように。分かったかな、ココロさん」

「あ、正気に戻らはった? いやぁ、人生最大のボケやってんで? あはは。まぁ、あれはああ云う女やったって事で気にせんのがええわ」

「もう慣れた。自慢じゃないが俺の人生はこんなんばっかりだからな。しかし、大丈夫なのかな? 突然さっきの奴に襲われたら俺、死んじゃうよ?」

「あー、せやね。一発どころか一晩中ハッスルしてたなんて知られたら、結婚相手の純潔を奪った憎い相手として逆上するかも知れんね」


 ちなみに馬車だがプラムを乗せた時点で走り出し、現在この場にはいない。

 どうやら先ほどのマリオン青年が個人的にプラム姫を迎えに来ただけのようである。

 もともと荷物などはほとんど無かったので彼らは徒歩で王宮へと向かった。


「良くぞ帰参した。ナガタ殿、シエル殿。してチキンハートギルド長は?」


 王宮へと向かうと準備していたのか、既に謁見の用意が整っており、すぐさま謁見が行われる事になった。

 広間に通されるとプラム姫は既にマリオンと共に戻って来ており、人目を憚らずにラブラブフィールドを形成して王様の側に控えていた。

 王が陽介に問うと、陽介は顔を上げてそれに答えた。


「こちらに控えている女性が冒険者ギルド長のチキンハートです。現在は化身アバターを解いている為に本来の姿に戻っています」

「何と。それは奇な事よ。しかし、我が娘にチキンハート殿との婚約を結ぶ様に言いつけて置いたのだが。幸いにもマリオンも試練から無事戻って来た事だし、修羅場にならずに済んで良かったわな」


 王様のホッとしたような呵々とした笑いが広間に響いた。

 どうやらこの王も長い事試練に大迷宮に潜ったまま戻る気配の無かったマリオンの事を諦めていたらしい。

 だのに彼がひょっこりと戻って来たので、プラムに命じていたチキンハートの妻になれ、と云う指示が果たされていなかった事に安堵したのだ。

 ホッとした空気が流れる中、陽介は一人戦慄していた。

 こういう場合、たちの悪い女性の場合だと『本人の意思を無視して性行為に及び、結果自分の純潔が失われた』等と嘘ではないが本当ではない事を言いふらし、自分が被害者であると申し立てる場合があるからだ。

 現在の陽介は地球側との政治折衝を取り持つ役目を持っているが、この国にとっては外国人であり役目に比べて立場が低い。

 よって簡単に切り捨てられる可能性が高かった。

 もしもプラムがその様な事を企てていたら、自分もこの国も冒険者ギルドも酷い目に遭う事は間違いない。

 だが、自分のコミュニティーの維持を最優先するタイプの女性の場合は、それ以外に甚大な被害が及ぶ事を考慮せずに躊躇無くそれを行うだろう。

 出来るだけ目を合わせないようにしながら参列者の様子を伺うが、不穏な雰囲気はない。

 ホッとした所に王から声が掛けられた。


「して、国際連合での結果はどうであったのかな?」

「はい。プラム姫の演説の効果も高く、国際社会にこの国の現状と対応を正しくアピールする事に成功しました。それにより各国へと個別に折衝した結果、国連安保理でのPKF派遣の有無を問う投票で賛成多数、理事国の拒否権発動もなく、無事に可決しました」

「ほう、それは僥倖である。色々と手間を掛けたのだろう?」

「ええ、ざっと金額にして50億C位は政治工作に使いましたし、その他諸々で」

「ちょっと待たれよ、5億C(coin)? だと?」

「いえ、50億Cです。円建てで2500億円位でしょうか。国連加盟国の常任理事国の政治家にロビー活動したり、加盟国に便宜を図ったりで大分使ってしまいました。しかし、この国の持つVR技術や鉱物資源を活用すれば直ぐに取り戻せます。その為の受け入れ体制も準備中ですし。ああ、ちなみにもっと良い条件を提示してくる組織もあるでしょうが、私の属している組織が一番有利な筈ですので惑わされないで下さいね」


 陽介の組織からしても2500億円と云うのは大きな金額であるが、より以上の技術と新たな事業に対する投資と考えれば決して損な取引だとは考えられてはいなかった。

 そして、言外に別の組織と手を組んだ時には資産の回収を行うつもりであると云う意志を込めている。


「それはナガタ殿の個人資産なのかな?」

「いえ、財団法人・異世界交流基金の資産です。現在はアクアマンデ王国との交易に関わっていますね」


 正直に話した陽介であったが、流石に聞き逃せ無かったのか、王は語気も鋭く聞き返す。


「敵と繋がっていると?」

「いえ。我々としては戦争をしている両国に手を貸すよりも、平和裏に手を繋ぐ通商圏相手の方が交易は栄えますので、戦争の回避は必須なのですよ」

「ほぅ。武器を売れば儲かるのではないのかな? その様にして栄えている国もあるだろうに」

「我々の組織の理念は異世界交流を正しく行う事にあります。力があるからと云って軍隊を用いて相手を征伐したり、武器や安い商品や食料を送り込んで相手の産業を壊滅させる経済戦争はお呼びじゃありません。相手と自分に利益をもたらす環境を作り出して経済活動を活性化させ、観光資源を構築し、安全に旅行出来る程に治安を向上させる。それが出来れば素晴らしい事ではないかと。まぁ、そんな事を目的として活動しているだけの事です」

「随分と理想的な話だが、話し合いだけでは物事は解決しない。それは分かっているのだろうかな?」

「当然の事です。強盗には警察、軍隊には軍隊、暴力にはより以上の暴力で威圧して、暴力を振るう事へのリスクを感じさせ。実際に戦う前に抗う気を無くしてしまうのが最良ですから。戦後日本の歴史を反省すれば、軍事力は抑止力となり、実際に戦争を起こすリスクを減らす事が分かります」

「ふむ、それで国連決議に基づいてPKFを派遣して貰い、アクアマンデ王国が我々に襲いかかるのを防ぐと」

「その通りです」

「上手く行くだろうか。この国にいる冒険者の中で戦闘職についている者は約900人。軍隊は50人足らず。敵の数は」

「推定5万人近い歩兵が予想されていますね」

「五万、か。大凡50倍の戦力だな」


 その言葉に広間に詰めている貴族らは顔を青ざめさせる。


「冒険者ギルドで聞いた城塞都市の機能を発動させれば、時間は稼げます。結果的に援軍になるPKFに侵略者の対応を任せるのが最善だと、我々の頭脳集団(シンクタンクは計算しました」

「なるほど、つまり方針に変更はなし、と云う事で間違いはなしなのだな」

「ええ、幸いにしてここの冒険者ギルドの冒険者達は敵対ギルドとの戦闘で対集団戦闘に長けていますので、地の利を生かして戦えば、勝てはせずとも負けません。システムを利用すれば可能です」

「うむ、良く分かった。契約の件は事態の終結後に結ぶ予定に変更はない。お互い無事に生き残れると良いな」

「全くです。では私はこれで」

「後日、また連絡会を開くのでその時にでもまた頼む」


 王の言葉を聞き、陽介とチキンハート、シエルは退出した。

 広間には貴族連中がたむろし、今の話題について論議を始めていた。

 そんな中、陽介達と共に行動していたプラム姫が両手と膝を床に着き、何か衝撃を受けた表情で呆然と床を眺めていた。

 その横に片膝を着いて介抱しているマリオン青年が困ったように周りを見回している。

 王は末っ子の変わった行動に眉を顰めて思わず声を掛けてしまった。


「で、プラムは何をしているのだ? 絨毯の上とは云え、膝を着くと汚いぞ?」

「えーと、陽介さんってそんなにお金持ちだったのですか? 何か貴族っぽくない随分と貧乏臭、吝嗇家な格好していましたけど」

「ああ、あんまり服装に拘らない様だな。それに服飾文化も異なる事から我々の判断基準では評価は難しいと思うぞ」

「そんなぁ。ああ、逃した魚は大きかった。痛恨の判断ミスだわ」


 ずーんと顔に斜線を引いて落ち込むプラムにマリオンは何をそんなに落ち込むのかと疑問に思ったが、自分の愛する娘に対する疑惑など沸いて来よう筈もなく、ただただ心配そうにしていた。

 


6/26加筆修正実施。

加筆、暗黒大陸について。追加。

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