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第28話 魔女娘 +番外編 魔法子女シンディー・アンカーの戦い

 異空戦騎パラレルワールド大競争


 第28話 魔女娘


 更に数ヶ月が経過した。

 あの後、何故グウェンを始めとした一般人が洋士の魅力にハマったのに、エマ、ゾハラ、子供達は大丈夫だったのかが話の種になった事がある。

 エマは「私の女に火を点けて、そのまま逃げ出した所為だ」と陽介を非難めいた目で見たし、ゾハラは発情期が来ていなかった所為だろうと推論を述べた。

 そうなると分からないのが子供達である。

 洋士の惚れられっぷりは年齢に関係なく女性に有効である事が分かっていたので頭を捻っていたのだが、そこでエマナが衝撃の告白をした。


「ボク、前世の記憶があるんです。前世では男の子で、その所為じゃないかと思ってたんですけど……ガイアは女の子でしたし。きっと違いますね」

「前世、男の子。ふぅ~む、TS転生物?」

「えっと、恥ずかしいけど、そう、です。日本人で延岡旭って云う名前でした」

「ほう、今度調べてみないといけないね。ガイアは?」

「私は転生逆ハー物だと思っていました。でも、お父様が異世界トリップ物の主人公みたいだったので、諦めましたけど。名前は日向茜でした」

「なるほど。腐女子じゃなかったのが幸いだな」

「あ、ガイアは……」

「フンッ! ああ、どうしたのエマナ、急にうずくまって。お父様、エマナが気分を悪くしたみたいなんでベッドに連れて行きますね~♪」

「……ああもあからさまだと突っ込みが追いつかないな。前世が男だったからではない、となると前世の記憶があった所為なのか?」

「だったら他の子に訊いてみたら?」

「ふむ、子供達、前世の記憶ってある?」

「「「「「「「ありませーん」」」」」」」

「となると、僕の子供だからって線なのかな? 小さい頃から先輩とは近くにいたから、知らん内に抗体でも出来ていたのかも」


 そんな感じで結論は保留したが、未だに結論は出ていない。

 それから6ヶ月、未だにアクアマンデ王国が討伐軍を派遣して来てはいないが、それは陽介の指示による妨害工作が効き始めた事による物が大きかった。

 現在の状況はアクアマンデ王国とオミスインフ公国がモンスターパレードの有る城塞都市に対して敵対し、自衛隊がPKFとして協力する事によって長距離偵察や監視が迅速に行われていた。

 そこで陽介は冒険者ギルド・モンスターパレードに対して護衛と移動手段の提供を依頼し、3人ばかりの人員を乗せる事の出来る翼竜と竜騎士を借りて隠密に自衛隊に対して接触を開始した。

 最初はバン・シュワー湖にて海洋調査をしているヘリ搭載型護衛艦に白旗を掲げて接触し、現在のアクアマンデ王国が敵視している新しい『魔王の軍勢』が元日本人の異世界転移によって現れた集団であり、アクアマンデ王国と日本国に対して敵対はしていない事を伝えて手紙を手渡した。

 後に正式に交渉することを約して、自衛隊によるモンスターパレードに対する関与を中止して貰う狙いだった。

 実際に偵察行自体は続けられたが、自衛隊の役割が日本国国民の生命と財産の安全を目的としていた為に、PW-02世界と目される異世界であっても日本人を相手に不利益を与える気は無い様であった。

 それまでPKF戦力を当てにして魔王討伐軍の編成を急いでいたアクアマンデ王国は、突然に非協力的になった日本国に対して不信感を強めたが、自衛隊の事情を鑑みた勇者ひろしの取りなしにコロッと意見を変えて、自国の軍を中心に再編成を行い始めた。

 だが、勇者自身の考えは基本的に変わっていなかった。

 前の世界で勇者としての務めを見事に果たしたひろしは、自らの力を誇示し、自らを必要としてくれると明言したこの国の王家の人間を愛していたのだ。

 主観としては数多の女性と付き合っては振られ続けてきた訳だが、そんな自分を引き留めてくれた女王をはじめとした王族の女性達に必要とされる存在である事を誇示するべく、敵を自分自身の手で打ち倒す必要があったのだ。

 まず彼は姫巫女であるポメラと共に、敵の根拠地である城塞都市へと向かいアクアマンデ王国の国王として宣戦を布告した。

 それまで女王と副王による変わった王制を敷いていたアクアマンデ王国であったが、王家と貴族による勧めによって王家の四人を娶り、彼を国王として強固な体制にするべく国家改造を始めたのである。

 それは2代目国王が男性であった事の焼き直しの様にも思えたが、現在の勇者人気の元では大した問題になっていなかった。

 勇者が一人メラを連れてたったふたりで敵の根拠地へ向かうと言う彼を残りの妻達は引き留めたが、勇者の力は伊達ではないと護衛を連れずに出発してしまったのだ。

 腕試しだと言って、鉄道を使わずに荒野の道無き道を行き、襲い来るモンスターを打ち砕き、山を越え谷を越え、大河を越えて彼はやって来た。

 魔王討伐の旅の時にはパーティー一行と一緒ではあったが、こことは異なる異世界で魔王を倒した事が経験になったのだろう、戦闘も危なげなくこなし、険しい山野を駈け巡る事でボロボロになりつつも城塞都市の前に辿り着いたのだ。

 ポメラは別行動で鉄道と馬車を使って快適な旅路であった。

 城塞都市を囲む障壁の前に佇む彼は、勇者の装備に身を包み、堂々たる態度で相手に望んだ。


「私は勇者にしてアクアマンデ国王たる池面いけづら洋士ひろしである。魔王よ、その眷属悉くを我が勇者の力の前に滅ぼす事をここに誓う!」


 聖剣を城塞都市に向けて彼はそう言い放った。

 そこに顔を出したのがオーガーの体をしたチキンハートと長田陽介であった。


「お久しぶりです、先輩」

「むぅ、何故お前がここにいるのだ、長田陽介っ! さては国を裏切って魔王についたのだな。この卑怯者め」

「落ち着いて下さい。どうしたって云うんですか。先輩らしくもない。冷静になりましょうよ。僕はアクアマンデ王国の外交の為にここに来たのであって」


 訥々と自分の事情を述べる陽介であったが、その言葉を打ち切るように洋士は声を上げた。


「貴様の所業を聞いて憤慨しているのだっ! 我が妻グウェンディロンが悲嘆に暮れていたぞ、お前との間に出来た子供達が何者かに殺され、お前が失踪したとな。この悪魔め、貴様の言う事など聞く耳持たんわ」

「それは誤解です。何で自分の子供を殺さなくちゃならないんですか。それとグウェンディロンを我が妻と言うのは?」

「彼女はこの俺が幸せにしてみせる。先日俺の子供を妊娠した事が分かったと知らせがあったのだ。俺の子供を産んでくれるのだぞ、こんなに嬉しい事はない、男ならばキチンと責任を取るべきなのだ。成人するまで育て上げるのが男の責任だ。お前には分からないのだろうがな」

「いや、ふむ、そうですか。子供を産ませた責任はキッチリと取る、そう言ったのですね?」

「当然だ。パートナーたる者の幸せは責任を持って成し遂げる。その為にこの魔王の根拠地は破壊させて貰う」

「ここには一般市民も数多くいるのです。短慮は止めて下さい」

「人質のつもりか、だがな、ふふ、悪魔の眷属に成り下がった者達は消毒せねばならない。全滅だ」


 何かに取り憑かれたように喚き立てる洋士に辟易した陽介だったが、洋士の後ろにたっていた第四女王のポメラ・ラ・アクアマンデが青白い顔をしてフラツいているのを見てそれを指摘する。


「それはダメです先輩彼らは日本の……。むむ、後ろに控えているポメラが気分悪そうにしていますが、大丈夫でしょうか」

「なに?! ポメラ! ポメラ大丈夫か」


 洋士はすぐさま駆け寄るとポメラの腰を抱きしめて彼女を支える。


「勇者様……ちょっと気分が悪くて、吐き気が止まりませぬ」

「むぅ、まさか長田が呪いを!?」

『オレは魔法を使えませんてばよ~』

「いえ、もしかするとお姉さま達に続いておめでたかも知れませぬ」

「おおっ! なんと幸先の良い。こうしてはおれぬ、直ぐにでも王都に戻らねば。陽介っ! この場はポメラに免じて引いてやる。覚悟をして置けよ!」


 そう言い放つと池面洋士はポメラをお姫様抱っこにて抱え上げると、一目散に手前の町まで駆けていった。

 物凄い勢いで走り去る洋士を見て陽介は頭を掻きながら呟いた。


「どうしたんだ先輩は。尋常じゃなく舞い上がってるな。で、どうでした? ステータスチェックの方は」


 陽介が隣に立ったまま口を挟めなかったオーガーのチキンハートに訊く。


「大当たりやで、状態異常が二つもついとるわ。ひとつが『fall in love fragrance』でもう一つが『魔王の呪い』やな。説明文だと『fall in love fragrance』は匂いをかいだ異性を自分に惚れさせる奴らしいわ、本来は媚薬の名前なんやけど、自分でフェロモンとして分泌してるもんで状態異常扱いになっとうみたいや。『魔王の呪い』の方は、魔王を倒した相手の魔力を善から悪に変質させるって勇者を魔王化させるって意味やんか。それで惚れ薬効果が増大したんやな」

「あの性格はそれの所為かぁ。うん、状態異常の解除薬は作れますよね」

「勿論やけど、こりゃあお高くつきまっせぇ。日本円で一億万円や」

「一億円と一万円ね、了解。流石に手持ちじゃ足りないんで小切手でヨロシク」

「……えーっと、本当に出せるんか? ゴロが良いんでちょっとフッカケてもうたんやけど」

「それ位なら何とか。只それじゃあ僕の手出しばっかし増えちゃうんで、商談と行きましょうか」


 陽介はチキンハートに向き直るとにっこりと笑った。

 後日、こんなに大きい見返りを取られる位ならタダにしときゃ良かったわ、とチキンハートは呟いていたそうな。

 数日後、商談を終えてチキンハートが燃え尽きた頃、ホテルに帰って娘たちと戯れていた所へギルドに頼んでいた依頼がひとつ達成されたと連絡があった。

 女王組とグウェン組に分かれて仲が微妙な子供達であったが、ようやく帰ってきた陽介が仕事で直ぐに出かけるとなったら心を合わせて行かないでと懇願して来たので激しく心を引かれた。

 だが、陽介はひとりひとりの頭を撫でて説得してから冒険者ギルドへと顔を出した。

 ギルドへ顔を出すと現時点で唯一の大口依頼人である陽介は直ぐに応接室へと案内されて席に座った。

 暫くするとギルド長のチキンハートが頭から湯気を立てて(エフェクトの一種らしい)、それから副ギルド長のガンツが説明に現れた。


「お待たせしました長田さん」

「結果はどうでしたか?」

「はい、ご依頼の白き悪魔と呼ばれる魔女族の女性の居場所を特定しました。バン・シュワー湖の北方に位置する地方都市のアボ市の市街地に潜伏している模様です。残念ながら住所の特定までは出来なかったのですが七日に一度、町中で暴れて正義の魔法少女、もとい魔法子女と魔法対決をしているそうです。ご確認を」

「ふうむ。確かに、了解です。依頼達成と言う事でサインはここですね?」

「宜しくお願いします」


 ガンツが差し出してきた書類にLAMYの万年筆でさらさらとサインを書き込む陽介。

 だが、既に次の段階へと頭が行っていたのか、次の依頼をすべく口を開いた。


「ほいほいっと、それから次の依頼の為にスキルチェック出来る人員と移動用の翼竜のレンタルをお願いしたいのですけど」

「はい、既に話は通してありますので。何時でもいけます」

「うーん、次の出没は何日後の予定ですか?」

「えーと、ちょっと待って下さいね」


 そう言うとガンツは書類をメクって数字を確認する。


「このペースで行くと明日でしょうか」

「余り時間がないな、今から移動するとなると、現地に着くのは何時頃でしょうか」

「夕方ですね。と云っても太陽は真上にある訳ですが。慣れないですよね」

「ああ、流石に十年以上もいると部屋の照明みたいに動かないのが違和感無くなってきますよ。では直ぐに移動したいと思いますので準備して貰えますか? 僕も着替えて準備したら直ぐに戻ってきますので」

「分かりました。20分後位を目処に用意をしておきます」

「お願いします」


 陽介もこの世界に来て色々とトラブルに慣れたのか、こう云った手続きをスムーズにこなせる技量が身に付いてきた。

 それはともかく、ホテルに戻ると直ぐにクローゼットに行き、この世界の一般的な服に着替えてギルドへと戻ってきた。

 裏庭に中型の翼竜と飛行眼鏡を掛けた竜騎士、そしてコボルト・マジシャンが待っていた。

 翼竜用の鞍に腰掛けて鐙の長さを足に合わせて姿勢を正すと、竜騎士の合図に合わせて翼竜は羽ばたいた。

 最初の一回目と二回目はアイドリングで翼の負荷を見て、三回目で大きく翼を打ち下ろした。

 グンッと一度垂直に持ち上げられ、一瞬の浮遊感の後に更に持ち上げられる。

 高さが20メートル程になった所で羽ばたきの向きが変えられ、翼竜は前進を始めた。

 勿論羽ばたきによって推進力を得ているので、加速中は上下に揺さぶられ続ける事になる。

 それは台風が近付いている海で中型の連絡船に乗った時のような激しい縦揺れの反復運動である。

 正直酔いそうな陽介であった。

 それはさて置き、夕方前にはアボ市付近に到着し、近くの林に野営する事にした。

 自衛隊が発行している地域の戦闘情報等が書き込まれている地図(極秘資料)によると、この林付近には危険な野生動物や魔物は確認されておらず治安も悪くない、と記入されていたので翼竜を隠すカモフラージュ用の迷彩天幕を張り、同行の2名と共に陽介は夜番の順番を決めた。

 明日、敵の親玉らしき者と接触する予定の陽介は疲れを溜めない様に最初の夜番を担当し、次いでスキルを使うコボルト・マジシャンが、最後に竜騎士が明け方まで担当する事になった。

 何事もなく夜は過ぎる予定であったが、陽介の担当時間に腐葉土の下に潜んでいたスライムが襲撃してきたので二人を起こしつつ、手持ちの短剣にてスライムに攻撃を加えた。

 だが陽介の攻撃は効かずに呆気なく反撃を喰らってスライムの伸びる身体によって拘束されてしまう。

 無我夢中でナイフを振るってスライムの核を破壊しようとしたのだが、柔軟且つ強靱な身体に阻まれて攻撃は無効化されてしまった。

 そのまま接触する肌から生きたまま消化されそうになったのだが、完全に目を醒ました竜騎士の振るった槍によって核を打ち抜かれて、スライムは絶命した。

 ベトベトになった衣類に辟易とした陽介だったが、市中潜入用の普通服に着替えて朝までふて寝した。

 翌朝、竜騎士に現場を任せると開かれた城門から市内へと陽介とコボルト・マジシャンは潜入し、朝市に出ていた屋台で串焼きとパン、スープを購入して公園の噴水横のベンチで時間を潰した。

 ベンチに座りながら、日本から安価な製紙と印刷機が入った事から広まりつつある新聞紙を広げ、国内情勢と諸外国の情勢に目を光らせながら町中情報にもキチンと目を通す。

 国内情勢と社説では、相変わらず勇者である池面洋士が王家の四姉妹を娶って国王に就任した是非を巡って激論が交わされている。

 王国2代目にやはり男性の国王が立った時には国内情勢が乱れた事もあり慎重派が幅を利かせていたが、勇者に直接謁見した識者達は大絶賛を繰り広げていた為にそちらの意見が徐々に拡散している様だった。

 同時に勇者が沢山の女性に手を出している事も書かれていたが、そちらの方は元々緩い性的倫理のお陰で目立ってはいない。

 現在、ミリティア達四人を対等の正室して迎え入れており、その他に後宮を整備して手を出して妊娠した女性に関してはその女性を王室に迎え入れても大丈夫な資質を持っているか調べる為に、勇者と一日のデートをしてから後宮に入る手順を踏んでいると伝えられていた。

 他にも、一度勇者と致した女性は他の男性には目も呉れなくなるらしい、と云う噂が出始めている様である。

 奥さんを勇者に取られたと語った男性の記事では、夫婦共に勇者の種が欲しかったらしく、勇者が奥さんに興味を示した事を幸いとして勇者に一晩の相手にと貸した所、そのまま帰ってこなかったと配偶者が語ったとされている。自業自得的な面が大きいと思われると記事には書かれていた。

 諸外国情勢の方はと云うと東西南方向に関しては大した変化はないが、北方の元魔王城のあった地域、つまりモンスターパレードのある城塞都市への軍派遣が急がれていると書いてあった。

 最後にこの都市の記事が書かれた地域面を読む。

 公園近くにあるパブ喫茶のウエイトレスがハキハキした性格で人気者である、とか鉄道敷設の公債売り出し等が書かれているが、紙面の半分を使って魔法子女と魔女娘の戦いが特集されていた。

 先週の騒動は、手下を使ってネズミ講で金を集めていた魔女娘の悪事を魔法子女が暴き、自棄になった魔女娘が公園の上空で魔法子女と対決し、撃退したものの逃げられた、と書かれている。

 先々週は露天で掘り出し物だと言って偽物のダイヤモンドを格安で販売、市場価格を混乱させた上にその偽物がモンスターの卵であり家に持ち帰ったモンスターの卵が宝石箱の中の宝石を食い荒らした上に巨大化合体して町中で暴れて公園脇の広場で魔法子女の砲撃魔法で仕止められた、との事。

 同じく新聞を読んでいたコボルト・マジシャンが魔法少女物のストーリーにしては斬新過ぎると憤慨していたのを横目で見て、陽介は苦笑を漏らした。

 資料によると騒動は広い市内でも大体この公園周辺で起こっているらしく、このベンチで待機していれば恐らく白き悪魔と目される魔女娘と接触が可能であろうと陽介は考えていた。

 実際は彼の思惑とは別の結果になる訳だが、後の事である。

 夕暮れ、カラスがカーカー鳴く頃になっても何も起こらなかった。

 結局ずぅっとベンチに座って新聞を読んで、雑誌を読んで、大道芸を見て、クレープを食べて、酒なんかもちょっと舐めてしまった。


「結局何もなかったなぁ」

「ですねぇ。これからどうします?」

「事件を起こして発覚して解決だから一日位ズレたりするのは当たり前だろうから、う~ん、一日延滞する。そこの食事が出来る店に入って夕飯にしようか。竜騎士さんには弁当でも持って行けば大丈夫かな」

「延滞料金は8割になりますが? 宜しいですか?」

「しゃああんめぇですよっと。そこにあるパブ喫茶のウエイトレスさんが美人で有名らしいよ、新聞に載ってたし」

「ああ、確かにありましたねぇ。ボンキュッボンで尚且つ美人で意気軒昂と三拍子揃っているとか」

「お知り合いになりたいねぇ」

「このアバターにした過去の自分が憎らしい」


 軽口を叩きながらパブ喫茶に入るふたりに気付いたのか、噂の美人ウエイトレスが笑顔を浮かべて近寄ってきた。


「いらっしゃーい。おふたりさん? そっちのテーブル席にどうぞ!」

「ありがとう」

「ございます」


 豊かな頭髪を腰の辺りで縛り、広い襟刳りの服を身に纏ったウエイトレスは店内中程のテーブルを指さしてそう言った。

 席に着くとふたりはメニューを読むが、コボルト・マジシャンはこちらの文字が読めないので陽介が適当に肉料理を頼んだ。


「しかし、聞きしに勝るボディーライン、実に男好きのする姿態だな」

「巨乳なのに無駄な肉が付いてないなんてマンガの中だけだと思ってましたよ。どんなスタイルなんですかね。ちょっと調べちゃおうっと」


 コボルト・マジシャンは相手の情報を読み取る事の出来るスキル・チェックをウエイトレスに掛けてみた。

 これは魔力を用いた物でないので、相手に気付かれる事は無い、だが仕草で相手に悟られる可能性がある事から慎重に彼は指を振るった。


「おいおい、気付かれないようにな」

「あはは、大丈夫……うへぇ。ビンゴ」

「大当たり? なにが」


 陽介が急に緊張し出したコボルト・マジシャンに訝しがっていると、彼はメモ帳にペンを走らせると陽介に手渡した。


「仕事は達成しました。スキルチェックで読みとれる情報は書いて置きましたので、私は竜の所へ戻っています。気を付けて」

「! 分かった。連絡を待っててくれ」


 彼が差し出した紙片にはこう書かれていた。


『ウエイトレスの正体は・目標である白き悪魔である。名前はエルシ・マゴナ。種族は魔族の魔女。通称は白き悪魔。下町のソエル家に寄生中。B85W72H92Fカップ』


 油断してリラックスしている所に突然、目的を遂行する羽目になった陽介は気が動転しそうになったが、当のウエイトレスが料理をトレイに載せてやって来たので深呼吸をして気を鎮めた。


「お待たせしましたぁ♪ あれ? ここにいた可愛いワンちゃんは?」

「本人が聞いたら激しく落ち込みそうだから、余り言わないで上げてくれないかな。エルシさん?」

「……どうやって私の秘密の名前を知ったか知らないが。命はいらないようだなニンゲン」

「ちょっと待った。君の父親が言っていた事で話がしたい。提案があるんだ」

「ふむ。とにかくここでは話は出来んな。金貨二十枚は持っているか?」

「あるけど?」


 そう返事をして陽介は蝦蟇口の小銭入れからキンキラに輝く金貨を取り出し、20枚を数えて魔女娘に手渡した。


「ひーふーみーよーいつむーななやーここのとおっと、うむあるな」


 途端に相好を崩すと大きな明るい声で店長マスターに言った。


店長マスター、シエルちゃん金貨二十枚でお買い上げでーす。これ場所代ね」

「ほい、金貨五枚確かに。裏の連れ込み宿が空いてるよ」

「はーい、じゃあねみんな、また今度♪」


 そう言うと彼女は陽介の腕を取り店の裏口へと導いた。

 扉が閉まると店内から悲鳴にも似た声が響いてくる。


『うわぁ~、こんな時間から勝負を掛けてくるかよ』

『金貨20枚なんかだせねぇっつの』


 裏通りから直ぐの所にある裏寂れた宿屋に入り、宿屋の主人が鍵を渡してくる。

 彼女は慣れた様子で鍵の番号を確認すると料金を支払い、階段を登って二階の角部屋へと入っていった。

 バタンと扉が閉まるとニコヤカな雰囲気だった彼女は表情を一変させ、入念に鍵を掛け、更に遮音防壁を展開する。


「さて、これでお前がどんなに悲鳴を上げようとも誰にも聞こえないし、そもそもここでは誰が死んでも関心なんか持たない。煮るのも焼くのも私の思うママという訳だ」

「そう威嚇しないで貰いたい。エルシ・マゴナさん」

「ちっ、フルネームで私の真名を呼ぶな。分かっているとも、魂の名前を握られると云う意味はな。私の事はシエルと呼ぶが良い。さて、他に何を知っているのかな?」

「白き悪魔として知られている魔女娘であり、前魔王の娘。恐らくは現魔族の元締めでもある、のかな? それとB85W72H92Fカップ、なかなかの物です」

「う、何を、言って、いるのかな。それよりも要求は何だ。ここまで調べて置いて直接ふたりきりで顔を見せると言う事は私が動かざるを得ない状況を既に構築していると云う事だろう。例え私が倒されても第二第三の魔王がお前達人間に立ちはだかる事だろう」

「いえ正直言って僕が生き延びる為に必要な手段を探しているだけ何でそれほど対策は練っていないんですけど。ですが僕は、魔族を束ねる政治家としての貴女に、魔族と人族の共存の道があれば共に歩んで行きたいと、それを考えて貰いたいのです」

「はは、人間との共存? 人が太陽がなければ暮らせない様に、魔族は太陽があると地上では暮らせないのだ。だから我々は人を滅ぼし、地上を手に入れる為に手を張り巡らせている。地の底が我々の故郷であるが、地底の生活は地獄に等しい。快適な環境を魔族の民に与える事こそ我ら魔王に連なる者たちの悲願なのだ」

「つまり、目的は魔族に生存環境を与える事であって、人を殺す事は手段に過ぎない、つまりはそう云う事でしょう? ならば私も一緒に魔族が快適に過ごせる環境を考えたい。殺し合う必要が無いのならワザワザそんな戦争なんて云う面倒な事をする必要はないでしょう」

「ふん、理想主義者か貴様は? だが言いたい事は分かった。しかし我らとて生きている、狭苦しいダンジョンでは息が詰まるのだ。それにお前の言う事が真実かどうかなど、どうして判断出来るのか」

「駄目ですか?」


 陽介がションボリしながらそう言うと微妙な顔をしながら白き悪魔、シエルは考えたが、何かを思い出したのかポンと手を打つ。


「ひとつだけ、嘘を付けない儀式があるのだが。お前は恥ずかしい事でもやってのける自信はあるのか?」

「恥ずかしい位であれば、やりましょう。恥ずかしいですが」

「分かった……じゃあちょっと準備があるからそこのベッドの上で寝ていてくれ。ポーションを調合する時間が必要なんだ」


 そう言うと彼女は化粧室に入ると、扉を閉めた、かと思うともう一度開いて顔だけ出した。


「私が良いと言うまで決してこの扉を開かない事。もしも開けてしまったら命はないぞ」

「あいよ。大丈夫、小さい頃から物語で扉を開けて幸せを逃してしまったなんて話を聞かされて来たから、そんな失敗だけはしないさ」

「トイレに行きたくなっても我慢するんだぞ」

「うっ、出来るだけ早く頼む」

「ふっ。ではな」


 警告をして再度扉を閉めてから約四時間が過ぎた頃、漸く扉が開け放たれた。

 汗塗れになった彼女は百ミリリットル程の薬瓶に入れたポーションを振りながら、ベッドの前の机にそれを置く。


「何だ、寝ててくれれば良かったのに」

「バカ、そんな事が出来るか。色々な意味で」


 同じくベッドに腰掛けた彼女は小さいガラスコップに異常にケバい色合いのポーションを入れると、陽介の目の前に掲げる。


「これが嘘を付けなくなる儀式に必要なポーションだ」

「何か毒々しい色をしているが、大丈夫なのか?」

「ふむ、そう思うのも仕方がないな。何しろ毒入りだ」

「それを飲めと?」

「私も飲むからな、ちゃんと魔族にも効くものだから安心し賜えよ」

「どこにも安心する要素が見当たらないんだが」

「まあ、下手をしたらふたりとも死んでしまうからな。命を懸けるのはイヤかい?」

「ここに来た時点で命は懸けている。直接逢うのは僕の誠意のつもりだ」

「ふぅーん? なかなか良いね、好意を持てる覚悟だ。では、全裸になりたまえ」

「んなっ!?」

「なんなら脱がして差し上げようか? いやいや遠慮はいらない、金貨20枚も貰ったからな、それ位はサービスの内だよ」

「自分で脱げるわい」

「ふむ、では私のを脱がせるかね? 自慢だがなかなかの物だと自負しているよ」

「なぜ全裸になる必要が?」

「ふむ、心を直接触れ合わせて心で会話する儀式があるのだが、素肌の接触する面積が広い程有効なのだよ。他意は無い」

「本当に?」

「儀式が始まれば嘘か本当か分かる様になるさ」

「了解した。信じよう」

「クックック、では私から」


 そう言うが早いか、ワンピースをするりと脱ぎ捨てて扇情的な下着を見せつけるような仕草で脱ぎ去って行く。

 思わずそれを見届けてしまった陽介は慌てて~中略~後略。

 隣り合って座ったふたりであるが、シエルは陽介にしなだれかかり、その体温に久しくご無沙汰な陽介は過敏に反応する部位を必死で宥め付けていた。


「では、私が半分飲むから、もう半分は君が飲むのだ」

「分かった」


 陽介が了解すると微笑みながらグラスのポーションを半分含んだシエルは飲み差しのグラスを手渡してくる。

 覚悟を決めた陽介がぐいっと飲み干すと、突然意識が途切れた。

 気が付くと真っ暗闇の世界に陽介はたった一人で立ち尽くしていた。


『こりゃあ、コロッと騙されたのか?』

『失敬だな君は。魔族の契約をなんだと思っているのだ』

『おお? どこから声が』

『精神の世界ではひとつの領域にはひとつの心だけが存在出来る原則を持っている。魔力と生体反応を同調させた状態で私たちは同時にここへ来た。つまり、私たちはいまひとつの心を共有している状態な訳だな。自分を完全に騙すのと同じだけ私、じゃなくて私たちを騙すのは難しい訳なのだ』

『例えば?』

『私はお前が大嫌いだ』

『嘘だな』

『当然だな、好意を抱いた相手以外とこんな事はしないよ、何しろ私は乙女だからな』

『嘘じゃない?!』

『失敬だな、怒るぞ長田陽介』

『すまない。ところで魔力は分からないんだが、生体反応を同調させると言うのは?』

『ああ、つまりこう言う事だ』


 シエルが指を弾くと目の前に肉の身体の現状が表示された。


『ええ?! 何やってんだ?』

『心外だな。連れ込み宿で男女がする事と言えばひとつしか無いだろうに。おお? 意外とテクニシャンだな、長田陽介』

『余計なお世話だ。グウェンディロンを満足させるのは大変な努力が必要だったんだよ』

『結局勇者に寝取られてしまった訳だがな。おい、そんなに落ち込むな、私まで引きづられてしまうでは無いか。まあ罪悪感を抱く必要はない。何しろ理性をこの世界に連れて来てしまったからな、身体に残った野性の赴くままに行動させれば当然こうなる。媚薬も混ぜて置いたしな』

『こんなに激しくしているらしいのに何も感じないとは。残念というか』

『それもそうだな。薬が切れたら理性込みでやってみよう。きっと気持ちよいぞ? 魔族の快楽は天井知らずだからな』

『赤玉が出ちまうよ。サキュバスに襲われた事があるから知ってるが』

『な、あぅ。本当だな。筆下ろしの相手がサキュバスだったのか。しかもライフ・ドレインを喰らって最中に相手は死亡と、だとすると、そうなると、ふぅむ』

『で、現状はともかく交渉の内容だが』

『ふむ、陽介の提案は理解した。了解した。そうしようか』

『隠し事が出来ないからと言って、それはどうだろうか。略し過ぎだろう』

『これでも完全にひとつにならないように努力しているのだぞ? 混ざり切ったら戻れないからな』

『怖い事だな』

『これから運命を共有する相手と言えどな。うむ、早めに元に戻ろうか。そろそろ危ない』

『口調が同じになって来てるものな、僕はエルシだったか陽介なのか』

『切断』


 プツン、と来た時の様に意識が途切れた。


 ふと気が付くと、ふたりは荒い息を吐きながら重なり合って寝台に横たわっていた。


「ゴメン、腰が抜けて陽介の上から降りれないわ」

「あー、軽いから気にしないでも。所で人間と魔女は種が違うから子供は出来ないんだったっけ?」

「ええ、起源からして違うし、そもそも有機生命体と魔法生命体は生命の基盤からして違うからね。エッチな事をしても気持ちが良いだけで妊娠のリスクは無いわ。まあ、陽介みたいに身体の内部に魔族の因子が潜伏している場合は別なんだけど」

「興味深い話だネ」

「行き場を失ったサキュバスの因子が十年以上の間陽介の中に潜伏して魂に馴染んだ後に魔族と交接すると、陽介の情報を含んだ因子が相手の魔族に流れ込んで妊娠するのでした」

「確率は?」

「パンパカパーン、おめでとうございます。次世代の魔王の父親に決定しました。ご感想は?」

「なんてこったい」



 番外 シンディー・アンカーの戦い。


 シンディー・アンカーは魔法子女である。

 魔法子女とは王立特殊魔法部隊に属する特殊装備を身に纏った魔法戦士の通称である。

 彼らは幼さ故の魔力の高さを単一の魔法に特化した魔法装備を用いて魔女娘等の魔族を相手に戦い、歴代の装備を継承する。

 それらは高価であり、限られた資質を持つ者にしか適合しない為に適合した装備を問答無用で使用する事を強要されるのだ。

 王立特殊魔法部隊はそれら魔法子女の装備の管理と魔法子女の育成、そして部隊の運用を行う部隊である。

 ここにシンディー・アンカーは所属していた。

 シンディー・アンカーは魔法名である。

 身に纏う砲撃決戦飛行型兵装は、母親が少女であった頃に使用していた装備を受け継いでおり、可愛い系のフリフリのピンク系の装備であり、典型的な魔法少女の装いであった。

 現在の部隊長は母親が少女であった頃に母親の指揮者であった父親が就任している。

 今日も魔女娘が定期的に出没しているアボ市の支所で待機していたシンディー・アンカーに父親から出動命令が下る。


「シンディー・アンカー、アボ市中央公園にて魔女娘の召喚した魔物が暴れている。直ちに出動せよ」

「嫌だよ父さん。どうして僕が戦わなくちゃならないんだよ」

「シンディー・アンカー、それが魔法子女として選ばれた資質を持つ者の使命なのだ。早く変身しろ、でなければかえ」

「お疲れさまでしたー♪」

「……変身だ」


 部隊長の命令が下ると、シンディー・アンカーの変身アンクルが光り、強制変身モードに推移する。

 変身プロセスはプログラムされた通りに実行され、装着者の意志は介在しない。

 クルクルと身体を回しながらポーズを決めて甲高い声で宣言する。


「奇妙奇天烈摩訶不思議、悪の魔族を打ち砕く、私がやらねば誰がやる。愛と正義と悲しみの、プリティー戦士の登場ですって、うぎゃああああ! なに勝手に変身させてんだよ」

「それが魔法子女の運命さだめなのだ。プリティーに戦え、シンディー」

「シンディーなんて名前じゃないでしょ、僕の名前はシング、僕は男だよっ!? なんでプリティーに戦わなくちゃならないのさ」

「今のお前は母さんの若い頃に似て実にプリティーだからだ。どこからどうみても可愛らしい女の子にしか見えないからだ」

「ぐぅっ、気にしている事を」

「第一、今まで一度も男だと思われた事は無かったではないか。隣の幼なじみの女の子、リナレーもシンディー・アンカーの大ファンだそうだが、私がシンディーの正体は実はシングなのだよ、と教えたところ『馬鹿な事言ってんじゃないわよ、冗談は髭だけにしてよね』とけんもほろろに」

「なに暴露してんだよ。町を歩けなくなったらどうすんだよ。引き篭ニートにでもなるしかないよ。どーすんだよ」

「次に口答えしたら小遣い20%カットだ」

「うぐぅ、卑怯だよ」

「卑怯で結構。損害無しで敵を殲滅出来るのであれば、喜んで卑怯の限りを尽くそうではないか」

「開き直った。分かったよ、まったく父さんは父さんなんだから」

「なに?!」

「シンディー・アンカー出撃します」


 遠距離からの魔法の砲撃で敵は一撃で沈んだ。

 強いぞシンディー・アンカー、頑張れシンディー・アンカー。

 みんなが君を見守っている。


 終劇

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