第27話 全員集合
異空戦騎パラレルワールド大競争
第27話 全員集合
陽介が城塞都市へと訪れてから約二週間が経過した。
現在この都市にはギルド・モンスターパレードの構成員、全員が元プレイヤーと呼ばれるVRMMOを遊んでいた者達が1000名ばかりと元NPCの獣人らが5000名ほどが居住している。
城塞都市の規模は五稜郭程の似た形の城郭を中心に緑地帯があり、周囲を市街地が取り囲んでいて、外周部は市街予定地といった感じで区画整理された空き地が広がり、高さ五メートル位の城壁が覆っていた。
城壁の外は境界まで真っ直ぐ続く石畳の街道の他は田畑と原生林が広がり、所々に入り口の無い塔が立っていた。
この塔の近くにいると天辺の換気口からドラゴンを始めとするボス級モンスターの声がする事から地下に広がる大迷宮へと繋がっていると言われている。
元々モンスター側に立った都市であった為に日の光が苦手な種族の為に地表よりも地下大迷宮の方が床面積が広い事が特徴になっていた。
元のゲームでは各地に存在していた地下迷宮へ地下街道が延びており、迅速に軍事力の展開が可能になっていたのだが現在は塞がっている。
調査した所、彼らのスキルや高位魔法は地下迷宮の各所に存在するボス級モンスターの力を借りて行使する物であり、領域の外では使用出来ない事が判明した。
通常の魔法はこの世界に満ちているマナを用いて使用する事は可能な為に、遠隔地でも低レベルな魔法の行使は可能であったが。
現在までの所、この城塞都市に接触を試みた者は存在せず、その間に陽介は現状の把握と説明を行い、今後の展望と方法を話し合った。
最初、この都市はギルドの自治都市なのかと考えていたのだが、聞くと設定ではNPCの貴族の支配下にあると言っていたので、慌てて貴族の館に出向いた経緯がある。
何でもゲーム時代は極初期にイベントがあるだけで、後は祭りの時に物資を支援する位しか出番がないので忘れていたらしい。
幸いにも交易都市にして地下迷宮を糧にした冒険都市でもあったので冒険者ギルドが勝手に動くのは仕方がないと言い、寛容に見逃して貰ったのだが今後は色々と相談に来て貰いたい、と釘を刺されていた。
自称プレイヤーにとってNPCとは反応に乏しいコンピュータープログラムとしてしか認識の対象にあらず、現在の様に活き活きとした反応に戸惑っているらしいのだ。
ゲームが現実になった今、冒険者ギルドだけが動いていた状態から貴族勢力、商工業ギルド、冒険者ギルドの三つの勢力が動いている状態に変化したので思い切った対応は取り辛くなったが、その分人材が豊富になった事が幸いだった。
懸念となる食料だが、今まで食料庫に備蓄されたアイテムとしての肉や保存食を開放しているので最低一年間は持つことになっている。
さて、魔王の居城があった事から余人の近付く事のない場所であったのだが、そこへ近付く六頭立ての馬車と数台の馬車、ひとりのセントール族の少女の姿があった。
冒険者に護衛されたそれらは周囲への警戒を怠らず、非常に厳重な警戒態勢を取っている事から城塞都市の方でも下手に手出しをすることが出来ずに見守っていた。
何しろこの都市の冒険者はゲーム時代には人間の冒険者と敵対していた過去を持つので、アバターがモンスターである以上モンスターを狩る冒険者の前に姿を見せるのは危険である。
障壁の前で馬車が停車すると護衛の冒険者が警戒の為に散開し数名の兵士が四隅を警戒して新三八式小銃を構え、騎士が降車して降車口を固めた。
安全を確認すると扉が開き、中からメイドの格好をした女性が一人降りて来た。
三角巾で左腕を吊り、何かしらを馬車の中に告げるとインターホンへと近寄る。
何かを考え深く頷くと釦を押す。
スピーカーからホワイトノイズが聞こえると、彼女は日本語で問い掛けた。
「もし、エマと申しますが長田陽介はこちらに居りましょうか」
『エマさん? どうしたんですか、こんな所まで来て』
「陽介さんっ! 追われています、私たちを入れて下さい」
『追われてって、誰に』
「女王陛下達と勇者様です」
『何故、……お願いします』
インターホンの向こう側で遣り取りが行われているのが聞こえ、数十秒で障壁にサッカーゴールよりも大きめの穴が開いた。
こう云う場合、内部工作を怖れ、審査してから内部へと通すのが一般的の筈だが、如何せんゲームでは兎も角一般人の意識で判断していた為に陽介の願いを聞き入れて馬車の一行を障壁内部へと引き入れてしまった。
と描写すると工作用員の潜入の様に思えるが、幸いにもその様な事は無く、再び閉鎖された障壁を見て一行はホッとしていた。
しばらくその場で待機していたのだが、城門の方から陽介と肌の黒いエルフ族や猫耳兵士達が駆け寄ってきた。
一行を大きく囲み警戒の色を隠さない警備側だが、一行は気を緩めて大きく息を吐いていた。
このままでは状況の把握が出来ないので、陽介はエマとゾハラへと歩み寄る。
「エマさん、何故こんな所まで?」
「会いたかった、陽介さん。もう私たちは王都には戻れません」
「一体何が……先輩、勇者が王族を引き連れてバルコニーから演説をしたら王都中の女性が勇者に惚れて暴動でも起きましたか?」
「えっと、勇者様を紹介する園遊会では勇者様に一目惚れ、と云うか発情した貴族のお嬢様方が繁みにお誘いになられる事、数十人に及びましたが。そうではなく、王家のミリティア様、エメラダー様、グウェンディロン様、ポメラ様の四名が勇者様に求愛しまして」
申し訳なさそうにエマは口にしたが、陽介は右手で頭を数回掻き毟ると、吐息を漏らして諦めた。
「やっぱり、予想通りかあ」
「これまでにも同じ事が有ったのですか?」
陽介の言動には突然突きつけられた焦りの様な物は感じられず、諦めの境地みたいな感触を受けたのでエマは思わずそう問い返していた。
「僕と先輩は小さい頃からの知り合いで、僕が好きになった初恋の人から数えて俺が告白したりした女性は皆先輩の物になりましたが、それが何か?」
「お辛かったのですね」
「もう慣れた。流石に嫁が、その実姉に寝取られたと聞いた時には、俺は誰が相手でもNTRされるのかと、絶望したけどさ」
「えぬ・てぃー・あーる……ですか?」
「日本語で寝取られる、の頭文字を取った言葉だよ。それで、なんでこんな所に」
「はい、コブ付きでは彼に嫌われる、と姫様達を城の地下宮に捨てましたので拾って逃げてきました」
「娘達を?! そこまで先輩はパワーアップしているのかよ。はっ、そうだ、け、怪我は無いのか、大丈夫なのか?」
「ご安心を、近衛に連行される姫様達が地下に入る前にゾハラと一緒に襲撃して奪還しました。現在馬車居られます」
「よかったぁ~。ありがとう、でもエマは良く無事だったね。下手をするとエマも先輩に夢中になってしまう可能性があったんだけど。先輩には会わなかったのかい?」
「はい。実は勇者様には面通りしましたが、私もゾハラも親しくしなかった事に逆に興味を持たれたらしく、スキンシップを伴って言い寄られましたが素気なく断ると更にしつこくなって、お陰で王家の四姉妹には酷い嫉妬の目で見られまして」
今まで仲良くやっていた人間関係が、たったひとりの闖入者によって掻き乱されて行く状況を苦々しく思っていたのか、エマは眉間に皺を寄せてそう言った。
エマの言葉に自分たちの国にいた頃の先輩はそこまで酷い特殊能力は持っていなかった筈なのに、考える。
「一緒に処断されそうになったと。先輩のフェロモンパワーと云うかニコポパワーはどんだけパワーアップしてるんだ? 確かここの前にいた世界で勇者をやった時に自分の特性をアップさせる修行をしていた、とか聞いたけど」
「取り敢えず姫様達を宿屋か何処かに案内したいのですが。ここまで馬車で強行軍でしたので、ずいぶんとお疲れの様子で」
「ああ、そうだな。一応、護衛の方達の武装チェックと確認だけはして置いて貰わないと、難しいかな」
「そうですね。皆の者、武装を解除し身元の確認をして貰え!」
メイド服には似つかわしくない覇気溢れる声にキビキビと護衛の騎士、兵士、冒険者達は従い剣や槍等を鞘にしまい、地面に置いた。
「おお、凛々しいエマさんは初めてだ」
「ええと、彼らを雇う時には冒険者の格好をして変装していましたので。冒険者の時の私は『雷鳴のシーン』と云う名前でそれなりに有名ですから。惚れ直しました?」
感心した様に云う陽介に照れて見せたエマは軽く逃避行の時の苦労を口に出して、尚克つ秋波を送って見せた。
と、そこへ一段落したのを確認したのか、オーガーであるチキンハート現冒険者ギルド長が恐る恐る近寄ってくる。
巨大な要注意するべき魔物が接近してくるのに驚いた護衛達が浮き足立ったが、それを陽介が制する。
「彼はここの責任者のひとりだ。心配はいらない、見た目はオーガーだが、中身は憑依した人間だ」
「VRMMOトリップを平易に云えばそうなるんかいね。ここの冒険者ギルドの責任者や、矢面に立つのはワシら冒険者ギルドなだけでこの都市の責任者は別個に居ります、そちらは安全が確認されてから必要が有ればご案内します。それででんな、ステータス確認をしてもええやろか」
「ステータス確認?」
エマは不思議そうな顔をしたが、陽介も同様だ。
実は陽介が来た時には秘密裏に行っていた行為で、プレイヤースキルの中に相手とNPCのステータスを確認する物があり、それで自分よりもレベルが低い相手の能力値と正邪の傾向と特殊能力や種族を読みとることが出来た、相手に許可を貰えばレベルが上でも一部分ならば読み取りも出来る。
陽介の時には備考欄に【妻・複数】とあったので、審査したギルド員から『モゲてしまえ』と云う者多数が居たのだが、外部の情報を欲していたのでモガれずに済んだと云う経緯がある。
その不思議そうな顔を見て、何が疑問なのか合点が行ったチキンハートはプレイヤースキルについての説明を行った。
「相手のステータスを表示出来るスキルがあるんや、プライバシーの関係があるんで戦闘時以外は多用しない様にしとるんやけど。これであんた等が敵対しているのかどうか分かるっちゅうこっちゃ」
「すてーたす、と云うのは私の社会的立場、と云う事ですの?」
「あー、そうではなくてでんなー、陽介はん、この方はこの国の方で?」
「生粋のファンタジー世界の住人です。貴族出のメイドさん、と云うよりも侍女ですね」
「それじゃあゲームには理解が及ばんね。うーむ、つまり相手の力の強さとか、素早さとか体力、頑丈さ、善良か邪悪か、そう云う能力が分かる魔法があるんよ」
「それは他の人にも見えるのですか?」
「いや、本人にしか確認出来ん様になっとるで。せやから個人情報は秘密厳守やし」
「それをしないと内部へは入れないんですよね? ならばそれに甘んじましょう。さぁっ!」
胸を張り審査を促すエマにオーガーは面食らったが、傍らに控えていたコボルト・マジシャンにスキルの使用を指示する。
身長1メートル足らずの小柄な犬頭のヒューマンは犬耳をピコピコ動かすとエマを見つめた。
するとエマの横の空間を見ながらメモを取り始める。
この時、コボルト・マジシャンの視界にはHMDの様に能力値などが書かれた表が表示されており、彼はそれを見つめながらメモ帳に大まかな特記事項を書き付けていた。
ちなみに日本語である。
コボルト・マジシャンがメモをオーガーに渡すと能力値が省略されたエマのステータスが記されていた。
「えーと、何々。【氏名】本名****・***** 通称 その壱・エマ、その弐・シーン。【家族】伴侶・長田陽介、娘・リィナ【正邪】グッド、潔癖【能力】魔法剣、メイド道、マッド・アルケミスト。最後が気になるなぁ。陽介はん、大丈夫なん?」
「あー、多分魔法学園都市に留学していた時の物じゃないかと。ペットの品種改良でキメラ魔法を使いこなしていたらしいんで」
「それだけでマッド・アルケミストにはならんで? 最低でも人体実験をせんとこの称号は付かへんもん。動物実験までやったら只のアルケミストや」
彼の指摘に陽介は冷や汗を流して目をさまよわせたが、当人のエマ自身が答えを口にした。
「昔ちょっと、妹達とふたりの母親達が性教育をしていた現場に踏み込んでしまいまして、思わずキメラの魔法を打ち込んでしまったんですよね。さっきのスキルチェックにも有ったように【潔癖】でしたので」
「なんやそら、それでどうなったん?」
「四人分の女体が絡まり合った状態でひとつに溶け合ってしまって、一見すると蜘蛛女みたいなクリーチャーになってしまったんですが。当人達は幸せそうでしたよ? アヘ顔でイキっぱなしでしたから」
その様な事を淡々と述べるエマにチキンハートは戦慄を覚えた。
「怖っ!」
「だ、大丈夫です。反省してそれ以来そんな物騒な事はしていませんから。ね?!」
「ええ、ただ城を脱出する原因もなったんですが、勇者様のベッドメイキングに部屋を訪れたら、ミリティア様からポメラ様までの王族四人が勇者様のご寵愛を独占しようとして、ベッドの上で破れたネグリジェ姿のままキャットファイトをなさっていたんで、思わず呪文を唱えそうになってしまいましたが」
陽介の方をチロっと見ながらそう云うと、やはり陽介はショックを受けながら俯いてしまう。
いままで先輩に取られ続けてきたとは云え、恋人関係になる前に振られ続けてきた訳である事から、神託による物であったとは云え夫婦関係にあった相手がころっと靡いてしまったのには心が痛かった。
「…………グウェンディロンも?」
「ええ、貴方の奥様であったグウェンディロン様も勇者様の魅力の虜になり、すでに何度も勇者様のご寵愛を受けております。技術も精力も有り余っている勇者様は四人を平等に取り扱い毎日の様になさっておいでですので、ご懐妊も間近かと思いますが」
「ぐぉおおおお。先輩の恋愛無双っぷりは分かっちゃいるが一ヶ月も持たないとはなぁ、はは、笑ってくれて良いぜ」
「あれは洒落にならないレベルですよね? 何か魔法でも罹っているのではないですか?」
「あー、僕の世界には魔法はなかったから分からないなあ。魔法も使えないし……おお、そうだ、スキルチェックがここにあるじゃないかっ!!」
そう云うと陽介は先ほどのコボルト・マジシャンの肩をグッと掴む。
その異様な迫力に彼、コボルト・マジシャンをアバターにする元人間はヒキツった笑いを浮かべて後退るが陽介はそれをさせない。
「まあまあ、陽介はん、彼も嫌がってますし、放しとくんなはれ。もしも依頼が有れば冒険者ギルドへと依頼の方をどうぞ。適価でお受けいたしますで」
オーガーのチキンハートが揉み手で陽介を諫める様に言うと、陽介も自分が興奮し過ぎていた事に気付き直ぐに手を離した。
この時点でチキンハートは陽介の存在価値を数段低く評価し直した。
特に王家に睨まれている侍女や姫達が来たのは減点だ、これでは必要もないのにアクアマンデ王国と敵対しなければならないではないか、その様な考えが脳裏に浮かぶ。
実際には元魔王の城の跡地に出てきただけで殲滅対象になっている訳だが。
「むぅ。了解です。そう云えば、グウェンディロンでさえ堕ちたというのにエマさんは大丈夫だったんですか?」
「ええ、忠告通り余り顔を合わせない様にしましたし。それに出掛けにあんな事をして火を点けられては他の物に目が行く訳もありませんしね。その所為かどうか、珍しく自分に靡かない私が珍しかったのか、勇者様に本気で口説かれましたけど、その所為で女王達に恨まれまして、逃げ出さずには居られなかったんですよね」
「ふむ、事態は深刻だな。しかし、実の娘を邪魔だから捨てるなんて事・・・・・・あ~うちの国のニュースでも結構頻繁に育児遺棄とか虐待とかあったか。あれは男好きな男性依存症で俗に云うビッチの所業かと思っていたのだけど」
「王家のハーレムで種元を入れ替える必要がある時には前の種で出来た子供を捨てて、新しい種に一新する風習がありますので、その所為かと」
エマは三角巾で吊った左腕を撫でながらそう云った。
生物界でもハーレム制を築く生物種では往々にして同様の子殺しが行われる場合がある。
これも又、自らの遺伝子を拡散し継承する生物的本能の発露としての一側面であるが、新たなハーレムの主が、ではなく母親がそうしているのは珍しい。
この場合は情夫を受け入れる為に障害となる前夫との間の子供、それに発生する母親としての本能よりも女として男を求める本能が勝った為に発生したストレス、それが子供を消去する事で発散しようとして現れた行動であろう。
王宮地下の迷宮にはそうして放逐された子供達が合計数百名ほど姿を消している。
暗く静かな地下迷宮は外部からの侵入者を狩るモンスターやトラップだけでなく、その様な役目も持っているのだ。
「無事なんだね、エマナもガイアもアルケーもナネニーもマメミムもシーラも」
「はい、それに女王の愛人の娘のベンテとラムランとラーラとエルも無事です、一緒に保護しましたから」
「そうか。ところで彼らは大丈夫なのかい? 救国の勇者に敵対するというのは騎士や兵士としては矜持に反する事だと思うのだけれど」
「はい、アレクこちらへ」
「は、騎士アレクサンドルです。先日長年付き合ってきた幼なじみとの結婚式に招いた勇者に嫁さんを式場で寝取られてしまいました。性に奔放なのは民草だけに許された特権であり、我々貴族は厳格な姿勢で以て明るい家族計画を推進する必要があると教育されているというのに。花嫁の控え室での彼女と勇者の情事を目の当たりにしてしまった私は、今回の護衛に参加する決意を固めました」
「おお、ナカーマ」
「はい、陽介殿。仲間です!」
激しい怒りを内に秘めた騎士は陽介と堅く握手を交わす。
「次、キャエサーこちらへ」
「はい、キャエサー・ウリス軍曹であります。王宮で侍女を勤めている私の大事な妹が勇者にぞっこんになり、『幸せな結婚よりも勇者様の子供が欲しいの』と言い出したのであります。自分は小さい頃に両親が亡くなったので周囲からは小さすぎると言われながらも兵士に志願して、必死で稼いだ金で大事に育ててきたMY☆妹がシングルマザーの道を選ぼうとは。俺は妹の花嫁姿を見る事だけが生き甲斐だったというのに! そう言ったら『キモっ!』の一言で片づけられました。勇者と付き合うと性格も影響されるのか、随分とフリーダムな女の子に変わってしまって・・・・・・。こんな事になったのも性格が自由過ぎて下半身が無節操すぎる勇者の所為であります。この国は神殿を始めとして奔放な性倫理を持っておりますが、あれは限度を超えております。以上」
キャエサー軍曹は敬礼を陽介に送り、陽介も同じく答礼をする。
「次、冒険者『晴朗の風』チームリーダー、ロナルド・マクダニエルこちらへ」
「やあ、初めましてロナルドです。実は僕たちのチームは依頼を受けた時にはメンバーが10名もいたんだ。けど、勇者たちの襲撃を受ける度に女性メンバーが『ここは私に任せて先に行って!』『私のことは忘れて皆は護衛の方を優先して』『皆の事は忘れないよ』と言ってひとりづつ敵に突撃して行ったんだ。そうして気が付いたら男性ばかりの7名チームになっていたんだよ、犠牲になったのはこのチームの中に恋人がいる人ばかりだったから、チームの皆が落ち込むのは仕方ないよね。でも不思議なんだ、襲撃してくる回数が増える度に相手の人数が増えているんだ、しかも犠牲になった筈の女性メンバーに似ているんだよね、不思議だね。ははっ」
赤毛のやけに白い顔をした唇の厚いロナルドはそう云って手を叩いたかと思うと両肩を叩いておもむろに両手を上に上げた。
それは激情のままに激しい力が込められており、盛り上がった筋肉が躍動感を伴ってキビキビと動いていた。
そのジェスチャーにどういう意味があるのか陽介は訊いてみたが、『ついやっちゃうんだ』と自分自身でも良く分からない癖であると言っていた。だが陽介の見た所、『お手上げ』を強調する仕草のようである。
「この様にここにいるメンバーは今代の勇者に対して非友好的な感情を有している者ばかりなので、工作要員であるとは思えません」
「なるほど、確かに言う通りかも知れない。あれ、そう言えばゾハラは?」
「先程までは最後尾にて殿を務めていましたが」
そう言ってエマはキョロキョロと周りを見渡すが、程なくしてゾハラは見つかった。
ダークエルフ等の警備をしている亜人勢に周りを囲まれて注目を浴びているゾハラの姿が見られたのだ。
何故か自分にも分からない理由で注目を浴びてしまったので、対処のしようも思いつかずにオロオロとしているのが何気なく可愛い。
しかもゾハラが動く度に感嘆の息を漏らすのだ。
「おぉ、見たまえよ、この自然な挙動。小生は初めて異世界に来たって言う実感が沸いたよ。結局セントール型のアバターは運営もサードパーティーも開発出来なかったぽいしなー」
「試作品のムービーを見た事あるけど、前足の動きは人のままだし、後ろ足はタイミングズレで見てられなかったしな。あれじゃコントに出てきたウマだよ」
「あのー、あんまりジロジロ見ないでもらえるかな? 恥ずかしいし」
「おお、喋った」
「喋ったでござる」
「ねぇ、陽介、これら踏んでもいいかな」
「ご褒美でござるな」
「うんうん」
ダークエルフ型のアバターに身を包んだプレイヤー達がセントール族であるゾハラに付き纏って感想を述べるが、自身が普通にしているだけで変な注目を浴びるというのは非常にストレスだ。
ゾハラが日本語を理解出来なければ訳の分からないことを囀る連中がジロジロ見ているだけで済むのだが、言葉が理解出来ると鬱陶しさも倍である。
思わず【踏む】と云う選択肢が浮かんできたのも仕方がないだろう。
「怪我をするからダメだろ。それより子供達を助けてくれたんだって? ありがとうな」
「何言ってんだか、あの子達が生まれた時からずっと見守ってきたのよ。助けないなんて選択はあり得ないでしょ。例え相手が『大統領だってぶん殴ってみせるぜ』」
「本当、助かったよ。まさか先輩の惚れられっぽさがここまで相手をトチ狂わせる領域にまで達していたとか考えられなかったからなぁ」
「しかも手が早いみたいだし。招かれた結婚式の花嫁相手で、誘われたからって手を出すなんてあり得なくない?」
「俺的にはあり得ないけど、モテるのが普通だと思っているイケメン的にはあり得たんだろうな」
遠い目で感慨深そうにしている陽介。
彼の脳裏には先輩が色々な女性とお付き合いをしている場面が思い浮かんでいた。
『そう言えば俺が初めて見た男女の濡れ場は、小学校の時に隠れん坊をしていた時に倉庫の裏で先輩が近所のお姉さんを後ろから攻め立てている所だったなぁ』
当時は良く分からない事だったが、エッチなことだという事だけは知っていた。
「それはそうと早く宿屋に行きたいんだけど。流石に私も疲れたし、子供達は特にね」
「そうだな。ギルド長、町へ通っても問題はないですね?」
「はいな、今は外からの冒険者もおらへんからホテルも閑古鳥が鳴いておって、歓迎して貰えまっせ」
「それは早く何とかしなくちゃいけませんねぇ。うーむ、お姫様達ばかりだから僕が借りている下宿宿って訳にも行かないか。どこかお勧めのホテルはありますか?」
「VIP専用と言う訳やあらへんけど、エンペラホテルと言うのが格式もあってええと思うねんけど。おぜぜもかかりまっせ」
「うーむむむ。メイドさん、って訳じゃないですけど、子供の身の回りの世話を頼める人ってギルドで頼めますかね?」
「商業ギルドやな。見目麗しいとか贅沢言わなければ直ぐに集まるかと思いまっせ。元NPCやけど」
「別に働ければPMだろうがADだろうが構わないですが」
「ほぅ。異世界ではそんな感じでっか。ピュアー・マンとアンドロイドね。この世界では元NPCも肉の体を持っとるんで普通の人間やからあんま言わん方がええと思うで?」
「分かりました。それじゃあエンペラホテルへ出発しましょう」
陽介が合図すると六頭立ての馬車と護衛の馬車が石畳の街道を城塞都市へと向かって動き始めた。
徒歩の者もいる為にその歩みはゆっくりとしたものであり、城壁までの距離があった為に少し時間がかかった。
城門は既に開かれていたが、その先の街道の両側の歩道には物見高い野次馬が鈴生りになって見物しており、初めての外部からの使節(陽介は単身で来た為に知らない人は全然知らない)に興味津々の様子である。
この時点で最も目立っていたのは矢張りセントール族のゾハラである。
人型を離れた亜人と云う存在にプレイヤーも元NPCも驚きを以て迎えたのだ。
もちろん中には護衛の騎士や兵士の持つ武器や制服に興味を引かれる者も多く、中には馬車の形式や牽引する馬の種類に興味を引かれた変わり者も数名いたのだが。
六頭立ての馬車は街道の中でも最も背の高い建物、三階建てのホテルの正面に停車し、そのまま待った。
陽介はエマを携えてホテルのロビーへと足を踏み入れてカウンターへと向かう。
「いらっしゃいませお客様。本日はお泊まりでございましょうか」
「はい、えーと亡国の姫君達が11名」
「いけませんよ陽介様、リィナは付き人として扱います」
「俺にとっては同じ娘なんだが、分かったよ。一番良い部屋を十歳児以下10名と大人2名」
「私なら姫様達の世話がありますので従者枠でお願いしますね」
「大人1名と従者が……」
そこまで口にして、今回の人数を把握していないことに気付いた陽介は口籠もってしまった。
それに気付いたエマはにっこり笑って主導権を握る。
「私の方で言いますわ、旦那様」
「頼む」
「では纏めて。ロイヤルスイートに大人1名小児10名、付き人2名とスイートに護衛騎士が6名、等級を下げて兵士達は10名と冒険者が7名ですね」
「奥様、もし宜しければ兵士の方達と冒険者の方達は両隣の宿屋の方をご紹介いたしますが」
「あら、うふふ。そうね、警備の方は」
「恐れながら奥様、当ホテルは帝都に存在した最高級ホテルの系列で御座います。例え暗殺者が忍び込もうとしても、感知術式、防衛術式、そして訓練された警備員によって完璧なガードを御提供いたしますので、是非ご安心してご利用下さいますよう」
「分かりました、宿泊期限は取り敢えず一週間ほど滞在する予定で。その都度更新します。後ひとりセントール族が居るのだけれど、部屋はあるかしら」
「ほう、それはお珍しい。分かりました、お部屋をご用意させていただきます。お支払いの方は?」
エマは一瞬陽介から預かったクレジットカードが頭に浮かんだのだが、ここでは使えない事に気付き口籠もってしまう。
だがそこで陽介が背広の胸ポケットから薄い箱を取り出すと小型の金の延べ棒を取り出した。
刻印は日本銀行となっている。
「これは使えるかな?」
「むむぅっ! 始めてみましたが、最高等級の代物ですな。申し分御座いません。当ホテルをご利用いただき有り難うございます」
カウンターに立っていた男性、このホテルの支配人が頭を下げる。
陽介とエマが表に出るとホテルの玄関から六頭立ての馬車まで赤い絨毯が既に敷かれており、使用人がずらりと並んでいた。
陽介はその迫力に気圧されてしまうが、エマはスタスタと馬車へと近付き、扉を開けて中へと声を掛けた。
「リィナ、こちらへ」
「はい、お母さ、あっメイド長」
「背筋を伸ばして顎を引いて、そう、その姿勢でね」
「はい、メイド長」
リィナはエマに呼ばれて一足先に馬車を降りるとその側に控えた。
陽介は相変わらず厳しい指導っぷりだな、だけどリィナも無事で良かった、と思いつつ馬車の正面に立ち彼のお姫様達が姿を見せるのを待った。
「「お父様」」
そろそろ10歳になろうとする長女と次女の双子、ボーイッシュな雰囲気の長女のエマナとお淑やかな次女のガイアは揃って馬車から降りて陽介に抱きつく。
「良く無事で来たな。エマナ、ガイア」
「「お父様」私たち捨てられちゃった」「だけどエマとゾハラが助けてくれたの「怖かったけど、お姉ちゃんだから私たち」」
「うん、頑張ったんだな。偉いぞ。二人は僕の誇りだ」
「「えへへ」」
陽介が両手で二人の頭を撫でていると、馬車の扉から三つの頭が顔を出す。
「「「おとうさま」」」
全く同じ顔と雰囲気を持つ三つ子はしかし、頭髪の色が赤青金髪と異なっている為に区別しやすい。
ダッと馬車から飛び出すとタックルするように陽介に飛びかかる。
「グハッ」
「「「おとうさまおとうさまおとうさま」」」
「通常の三倍の破壊力か」
「「「大丈夫?」」」
「ああ、愛情が重いな。元気だったかアルケー、怪我はないかナネニー、痛いところはないかマメミム」
「「「はい、おとうさま」」」
「それはよかった、3人の無事な顔を見られてうれしいよ」
「「「でへへ」」」
「でへへは止めなさい。っと」
陽介が3人の頭を順番に撫でていると金髪を縦ロールにした如何にもお姫様と云う女児が腰に手を当てて立ちはだかっていた。
「結局のところ、あなたがわたくし達の父親だったって事なのね」
キッと目を吊り上げて陽介を睨みつける女王の娘シーラ。
デレデレと娘達がまとわり着いているのを見て気分を害したのか、目を細める。
「まったく、お母様はわたくしがグウェンディロンお母様との間に出来た娘なのだって云っていたのに。こづくりのじつえんだって言って愛人の方達と愛し合っている所まで見せつけられたって言うのに、嘘だったんですね?!」
「あぁ~、あの人達は、ねぇ。ちょっと特殊な趣味が」
「幾らわたくし達が小さいからって言って不自然なこと位分かります。だけど大事なお母様の言う事だし、貴男が父親なのですかって訊くと怖い目で見るし。空気を読んで貴男の事なんか嫌いですって嘘を付かなくても、もう良いんですよね? お父様……?」
「ああ、そうだねシーラ。正真正銘、嘘偽りなしに僕の娘だよ」
「うへーん、ぱぱぁ~。怖かったよぅ~」
シーラはそれまで強がっていたのが決壊したのか、幾分幼児っぽくなりつつもエマナとガイアを押しのけて陽介に抱きついた。
「「むぅ、まあしょうがないっか」」
「はいはい、落ち着いて。もう大丈夫だから、ね。僕がついているよ」
「うへーん」
「「「「良いなあお姉さま」」」」
馬車から聞こえてきた声に釣られてそちらを見ると四つの個性的な女の子達が指を啣えて陽介とシーラを見つめていた。
陽介が手で招くと四人は恐る恐る近付いてくる。
「ほら、こっちへおいで。自慢の耳が垂れているよベンテ」
そう言って近くにいた獣人の血を引く猫耳少女の頭を撫でる陽介。
「ラムランの二本角も少し色褪せているね、疲れが溜まっているんだろう。ゆっくり休まなきゃいけないよ」
次に鬼族の血を引く光分散質を持つ無色透明な虹色の髪をした女の子の角を撫でつける。
「ラーラの耳も手入れをしないと艶が落ちている、お風呂に入って良く洗わないとな」
元々垂れている犬耳を持つ少女の耳を撫でつけて陽介はそう言った。
「エルは顔色が少し悪いな、ハーフエルフは体力が弱いからゆっくりと眠らなくては」
少々疲れた顔をしているハーフエルフの少女の顔を正面から見つめて、顔を真っ赤にしたのをそう誤解する早とちりな陽介。
側に控えるリィナも含めれば十一人の姉妹がここに集まっていた、もうひとりだけ消息不明の兄妹がいるのだが、把握されている全員が無事にここに集まった。
陽介は何とか全員を落ち着かせると、ホテルの玄関へと向かう。
ずらりと並んでいる使用人が歓迎の挨拶をする中、驚きを出来るだけ顔に出さずに陽介達はホテルの中に入っていった。
その場に残ったエマは騎士達と兵士達冒険者達に指示を出して解散させる。
これから待つ、苦難の日々に備えて。




