第25話 新新たなる。
ここから鬼畜ルート突入です。
異空戦騎パラレルワールド大競争
第25話 新新たなる。
魔王が滅んで2年の月日が流れていた。
この2年は発展の期間であった。
約六年に渡って地球世界との断絶を経験した訳だが、国内の状況を落ち着ける為と云う意味では悪くない物だったのだ。
日本を始めとする地球各国からはPKFを支える為の物資の搬入も多かったが、こちらで産出され始めていた鉱物資源の産業利用と初期の繊維生産工房も稼働し始めており、今まで庶民の手には入りづらかった機械製品や衣服の供給が増え始めていたのだ。
そうなると歴史的に今まで手作業で生産していた小規模工房は生産量もコストも太刀打ち出来ずに倒産が相次ぐ事になるのだが、日本側のアパレル業界から『完全手織り』のイメージと共に高級ブランドへの素材の供給や民族調の衣類が受けて割と高価な価格で取り引きされたので、それはそれで業界は潤ったという。
ともかく大量生産品が市場に出回り始めた事で、陽介が辟易していた一般人や冒険者達の着た切り雀も改善の傾向が見られ、下水道や公衆便所の整備もあって市街地の清潔度も格段に上がり始めていたのだ。
魔王が滅んだと云っても魔獣が出没しなくなった訳ではなく、相変わらず魔獣討伐の依頼は減っていない。
否、寧ろ魔獣の部位が香水や薬剤の原料として需要が高まったことから討伐の依頼は多くなっている。
もっとも冒険者達の実力が上がった訳ではないので、無茶をして依頼をこなそうとして怪我人が続出した事から、ギルドでは実力に則した依頼を受けるようにとお触れがあったのだが。
工業化も環境汚染と云う命題に対して一定以上の成果を上げてきた日本工業界が全力を以て取り組んだお陰で汚染物質の回収と汚染水の還元再利用の施設を大規模に設置している為に、この綺麗な自然環境の保全はかなり良好に行われていると言えた。
さて、最終決戦にてギックリ腰を起こしてしまった前田槍次郎は勇者を引退し、現在は鎌倉にある御殿にて静かに黒幕生活を送っている。
現在までに魔王の係累の消息は掴めていないが、魔女娘の白き悪魔は各国にて姿が確認されている。しかし殲滅、逮捕には及んでいない。
よって何らかの事態が進行している可能性が否めない為に、警戒だけは怠っていないのだ。
そして、次の勇者を呼ぶべきか、呼ばざるべきか、難しい判断が残されていた。
魔王の残した言葉、『次の為に、次の次の為に』、魔王自らの命を生け贄にして何らかの儀式が行われていた事は分かっている。
それが何なのか、皆目見当がついていないのだ。
魔王の城の跡にて、現在も調査は続けられていた。
異変が起こったのは魔王殲滅2周年記念のパレードの最中だった。
この世界、地平の丸みがほとんど無い平坦な世界故に明確な水平線が存在しない。
よって空気さえ澄んでいればどんなに遠くてもそれを見ることが出来る。
女王陛下と副王陛下、姫巫女ふたりと女王と副王の子供達が臨席する華やかなパレードの最中に突如、北方の方角、つまり魔王の城跡から巨大な光の束が立ち登ったかと思うと、大空のスクリーンに白き悪魔の姿が映し出された。
白い肌に白い髪、青白い服装に身を包んだ彼女はギロリとした眼で睥睨すると、荒々しい声で告げた。
『我らは魔王軍残党なり、魔王陛下の偉業を邪魔した愚かなる人間共よ。我らは異界より魔族の国を呼び寄せる事に成功した。もはや貴様等に勇者が存在しない事は知っている。大人しく我らの軍門に下り滅びるが良いわ。うわははははははははははは』
何処か虚ろな瞳でそう述べた白き悪魔の映像は薄れ、やがて消え去った。
パレードに参加していた者達、そして観客達はざわめきに包まれ、やがて騒然とした雰囲気に変わっていったのだが、そこへ女王エメラダーが場内と国土に設置された防災無線のスピーカー全てを使って声を流した。
『女王である。良く聞け国民よ。魔王を倒し、その戦力の大半を失った魔王の軍勢はもはや傀儡に過ぎない。正義を謳った我らこそ、この大陸の真の支配者であると言えよう。魔王は死んだ、何故かっ!』
~中略~
『もはや奴らに残された戦力は最盛期の数分の一に過ぎないのだ。敢えて云おう滓であると。その様なカスを相手に我らが負けよう筈がない。選ばれし我らこそが唯一この世界を謳歌出来るのである。心で負けるな国民よ。心配はいらない。勇者が強いのではない、我々全員が戦って勝利を勝ち取ったのだ。怖れるな国民よ。勝利は君たち全員の手の中にあるのだ。立てよ国民。勝利を掴むその日まで』
~中略~
『だが、まだ心配する者も多いだろう。勇者さえ居れば、と。安心し賜え、既に勇者召還の準備は着々と進んでいる。我々は万全の姿勢で戦いに臨めるのだ。もう、何も怖くはないのだ。重ねて言おう、もう何も怖くない』
防災無線によって初めて行われた全国土に渡る一斉放送。
突然ぶち上げた女王の言葉の勢いに乗り、魔女娘により不安の闇を心に抱いていた国民達は奮い立った。
『もう何も怖くない』
女王の告げたその言葉を合い言葉に、魔王の残党に対する敵愾心と克抗心は際限なく高まっていた。
魔王が滅んだ後、帰還の手段が無く6年間に渡る駐留を続けざるを得なかったPKFであったが、次元通廊の再開通と共に駐留を解除して帰国していた。
現在はアクアマンデ王国の強い要請を受けた日本国自衛隊と東南アジア諸国連合・通称ASEAN各国の部隊受け入れを行っており、自衛隊主導で治安維持活動を続けている。
一度は撤退したEUやロシア、そしてアメリカ合衆国も色を出して来ているが、オブザーバーと残留兵器の運用を行っており、それ以外は声明を出すに留めている。
と云う訳で、王国政府より自衛隊に戦略偵察の依頼がなされた。
実際には自衛隊だけで判断出来ない問題もあるので、日本国の総理大臣の判断の元、法律に基づいた判断が下された。
この時代、集団的自衛権が確立されていたのでそれほどの困難があった訳ではないが。
駐屯地の飛行場からRF-15偵察機が増槽を抱えて飛び立った。
飛び立ったRF-15は数十分の飛行の後に元魔王城周辺空域に到達、偵察活動を始めたのだがその空域に到達する以前からレーダーによる映像に異常な影が映っていた。
元魔王城の周辺数百キロに壁が出来ていたのだ。
接近して目視をしてもハッキリとは見えないが、流れてきた雲や降雨が空中で見えない壁に接触して流れ落ちるのを確認した。
確かに何かがそこにある。
壁自体は透明なので壁の内側を目視する事は出来た。
訓練で何度か魔王城跡を偵察訓練に使った事があったので、すぐにその違和感に気付くことが出来た。
高い城壁に囲まれた街が存在していたのだ。
城塞都市、その周辺は半分が小高い木々に覆われた密林となっており残りが畑の広がる田園風景となっていた。
機長は偵察用カメラをその土地に向けて撮影を行い、一周半ほどしてから帰還した。
そこで得られた情報は自衛隊の幹部によって王立陸軍の将校達と女王達政治スタッフに解説された。
一見すると人間が治める一地方都市の様にも見えるのだが、撮影された映像を確認すると獣人や亜人を中心とする人影がモンスター達を使役して田畑を耕す光景が広がっていた。
それだけならば亜人による国家であると考えられるのだが、その中には魔族の特徴である太い角の生えた鬼族、吸血鬼族、悪魔族、その他の危険種族も含まれていたのだ。
王国政府はこれを魔王の軍勢第2弾と断定し、即応体制を取るべく偵察部隊の派遣を準備し始めた。
指揮官は王立陸軍のレオナルド将軍麾下のD・プリオン大佐であり、軽装騎兵を中心とした部隊、そして現地に出現した組織との折衝役に王家で外務渉外訓練を受けた事のある長田陽介が任命された。
それを聞いた時に陽介は「どうしてこうなった」と頭を抱えたと云うが、国民の為に命を張るのが王家の人間であるとグウェンディロンに諭されて渋々折れた。
それを見たグウェンディロンは少し考える素振りを見せたが、にっこりと笑って「行ってらっしゃいませ陽介様」と送り出してくれた。
だが、出発予定日の前日に勇者の召還が行われる事になっていたので、その儀式に陽介も参加するべく簡素な服を着て神殿の一室へと赴いていた。
今回の巫術を主催するのは四姉妹の内の最年少、と言っても既に二十代になった姫巫女のポメラである。
参加人員は神殿の神官長と姫巫女のミリティア、女王エメラダー、副王グウェンディロン、姫巫女ポメラ、王配陽介、他に巫術の補佐である姫巫女十余人が参加している。
十分に成長したポメラは最初の頃の様に可憐な乙女と云う雰囲気を残していたが、艶やかさと抑えきれない色香が純潔を旨とする姫巫女の衣装では抑えきれずにいた。
ぶっちゃけエロっぽ過ぎる空気を振りまいていたのだが、陽介は空気を読んで義妹への関心を極限にまで抑える事に成功していた。
今回の召還に際しては日本政府から召還された人物に対して十分な説明責任を果たした後に、充分なバックアップ体制と勇者としての任務を拒否された場合の対応をきちんとする事を約束させられていた。
召還の儀式が始まり、広い室内に魔力が充満してゆく。
緊張感が次第に高まり、次元の壁を越えて何か巨大な魔力を有する人間の存在が知覚出来るようになった。
彼は仲間達との別れの言葉を告げ、帰還の魔法を試みている様だった。
それは成功率の低い物であるらしく、周囲で見守っている仲間達の心配そうな声が見え、悲しげな顔までが聞こえてくる。
だが、その術が完成する前にポメラの召還を呼び掛ける声が届いたのか、彼は此方を振り返った。
それは陽介が知る人物であり、彼も陽介の顔を見て笑い掛けて来た。
陽介の知る彼とは些か趣の違う装備に身を包んだ彼、池面洋士は向こう側で周囲を取り囲んだ女性陣から勇者様と呼ばれていた。
既に呪文を唱えるのを止めたのか、向こう側の女性陣は喜色を満面に浮かべていたが、洋士の構築した結界に阻まれて近付けない様子である。
空間が歪み、空間の壁が薄くなったのか、光の粒子が撒き散らかされてリング状の通廊が発生した。
此方側と繋がった薄い通廊を歩いて洋士は召還陣の真ん中に立ち、その瞬間向こう側とのリンクは切断された。
一瞬だけ映った向こう側に居た女性陣の顔は般若の集団の様であり、その恨みの顔は何故か陽介に集中していた様だ。
呪詛が世界の壁を越えて此方側へ届くのかどうかは分からなかったが、どうにも嫌な気分が陽介を包んだ。
それは或る意味散々体験して来た絶望感であり、諦めの境地であった。
陽介は心の中でこう呟かざるを得なかったのだ。
『ああ、終わったな、色々と』
そんな陽介を余所に、洋士はお気軽極楽な調子で陽介に声を掛けて来た。
「よう、陽介久しぶり。池面洋士ただいま地球に帰還せりってアレ? 何だか日本人らしからぬ人たちみたいなんだけど。どうユー事?」
「おひさしぶりですね先輩。お母さんに聞きましたよ? 何だか行方不明になってたって」
「ああ、うん。信じられないかも知れないけど、……異世界に召還されて勇者様なんて物を嗜んでいてな。魔王と大魔王と真魔王を討伐してたんだ。で、ここは何処なんだ?」
「ここは異世界の大ユグドラシル大陸にあるアクアマンデ王国の勇者召還の部屋ですよ。先輩」
「え、日本じゃないの? そうかぁ、じゃあ又ぞろ勇者の召還なのかな?」
「ええ、そ」
「ハイっ! そうなんです私の勇者様っ!」
いきなり召還されてきた勇者と親しげに話し合っていた陽介に面食らっていたが、自分こそが勇者様に最も近い人間なのだ、そう言う使命感と嫉妬の心に突き動かされてポメラは陽介と勇者の間に割り込んだ。
いきなりの闖入者にふたりは驚いた顔をしていたが、洋士は柔らかな顔をしてポメラに話しかけた。
「初めまして、察する所、貴女が俺を召還してくれた術者なのかな?」
「はい、勇者様。もしかして迷惑でしたでしょうか」
「いやいや、こんなに見目麗しい美人に呼ばれるなんて一生の内に何度もない貴重な体験、迷惑なんてとんでもない」
「まあ、勇者様ったらお上手ですわ」
「ああ、貴女には是非洋士と呼んで貰いたいですね。で、陽介、この方は?」
「あ、えーと。この国の王族の姫君で、四人姉妹の末妹にて姫巫女を勤めるポメラさんです。それでこちらの方々が、四人姉妹の長女にて姫巫女のミリティア様、次女にて女王のエメラダー様、三女にて副王のグウェンディロン……様、それから神官長のガラム氏、摂政のダラパニ氏と召還の儀式を手伝って貰った姫巫女の方々です。そしてこちらが今回勇者として召還された、私の学生時代の先輩にして異世界で勇者を務め上げた池面洋士さんです」
「どうもよろしく。池面です。いやぁ皆さん美人ばかりで嬉しくなってしまいますね。どうぞヨロシク、ニパッ」
洋士がにっこり笑うと女性陣の顔は上気し、ボウッとした虚ろ気な表情になる。
彼の持つ、天然のニコポの威力は正しく実際に見た人間にしか理解出来ない恐ろしさを持っていた。
これに何度苦汁を飲まされたのか。
陽介は腹の底から沸き上がってくる冷たい感情の固まりが爆発しそうに沸騰しているのを感じていた。
だが、もう遅い、彼がここに現れた時点で全ては終わっていたのだから。
陽介が長年を以て身に着けた諦めの心は、既に悟りの領域にまで達している。
取り敢えず洋士には王宮に部屋を用意してあったので、そこに泊まって貰う事にして陽介自身は屋敷に戻って明日の出発に向けて準備を進めた。
メイド長自ら荷造りを手伝ってくれたお陰でコンパクトに纏まった荷物を隅に寄せておく。
明日に備えて早く就寝したのだが、夜中に目が覚め、うっすらと目を開ける。
今まで寝顔を見た事のないグウェンディロンの寝顔が拝めれば良いなと思ったのだが、そこにあったのはベッドの傍らに立ち冷たい目つきで何かを思い詰めた様な顔のグウェンディロンの姿だった。
陽介は直ぐに目を瞑り、眠りに入って忘れる事にした。
明日は朝から出発である。
家族と食事を取る時間ぐらいはあるだろう。
NTRとか好きですか?
俺は大っ嫌いです。
なので書いてみます。




