インターミッション 父と娘達の会話集
異空戦騎パラレルワールド大競争
インターミッション 父と娘達の会話集
常々双子の娘達は不思議に思っていた。
自分達の転生先の父親である長田陽介と云う人物についての事である。
一見して凡庸とした男性であり華やかな所はない、むしろ地味と言って良いだろう。
この王国の副王である母親の華やかさと比べると、なんでこの地味な男性が華麗な母親と結ばれたのか疑問に思わざるを得ない。
もちろん、この父親の精子と母親の卵子が組み合わさって自分たちが出来上がったのだから感謝すれども厭がる道理はない。
もしもY遺伝子が組み合わさっていたら転生先は男になっていたし、父親が違えば生まれてきたのは丸っ切り別人なのは当然のことだ。
私達が私達として存在出来るのは奇跡的な偶然であり、両親の出会いが違っていれば、結ばれた日が違っていれば、時刻が違っていれば、体位が違っていれば、フィニッシュが違っていれば、回数が違っていれば、体調が違っていれば、それは自分に似た別人であって自分ではない事を前世の知識で知っていた。
数億分の一、そういう確率で自分たちはここに存在する、それが奇跡に匹敵する幸運でなくて何だというのか。
まあ細かい事はともあれ、二人は前世の知識を以てそういう見解を有していた。
そんな凡庸とした男性であり、一介の民間人でしかない父親は、実は現役の冒険者であったと知った。
まあ、王家に関わってからは危険が危ないと言う事でペーパー免許を貫いているのだが、とても強そうに見えず、そして実際に強くないらしい。
陽介の協力者であるセントール族のゾハラ小母ちゃんがちょくちょく言っているのだが、父親の戦闘力はスライム以下だそうだ。
しかも戦闘証明済み。
前世のRPGでは定番の雑魚敵だっただけに、それを聞いた時にはふたりとも実にガッカリしていた。
だが、彼は日本人なので『色男、金も力も無かりけり』と云う諺が当てはまりそうなのだが、実はそこそこ金を持っているのだ。
王家の王配なのだから国からお金を貰っていて当然と思う向きもありそうだが、民の税金を使っている以上、必要経費以上の物は出ないし、貰えるのもお小遣い制なのだ。
実際、自分たちのドレス代の方が高い、そう先日云っていた。
だが、実際はある程度の貯蓄を持ち、尚且つ収入もあった。
王配の立場を利用してリベートを取っているのだろうか?
政治家不信の前世の感覚からそんな不遜な事をも思ってしまったのだが、分からなければ訊けば良いのだとばかりに二人は父親に問いかける事にした。
午後三時頃、おやつの時間にかこつけてふたりは陽介の書斎の扉をノックした。
「お父様、おやつとお茶をもってまいりましたー」
「ハーイ、どうぞ」
「しつれいしまーす」
ガイアがドアーを開けて、エマナが茶器と菓子を載せたトレーを押して部屋の中に入った。
「お、珍しいなふたりがお茶当番かい?」
「今日はお父様に聞きたい事があったのでお茶とお菓子をもってましたー」
「わ、エマナ、素直すぎだよ」
「ふむ、さて、女の子が興味を持つような事かな? そういうのは余り詳しくないんだが」
「いえ、お父様って冒険者だったんですか?」
「ああ、そちらの事か。確かに、冒険者ではあったよ。っと、お茶は父さんが淹れようか、熱くて危ないからね」
「ぶー、ボクがやるんですー」
「気を付けてな」
「えへへ、がんばります」
「次はガイアがやるんだからね」
「はい、お父様の分」
「ありがとう」
「はい、ガイアの分、とボクの分」
「ありがとうエマナ」
「それじゃあ『戴きます』」
「イタダキマス。ってお父様の国の言葉?」
「うん、日本て云う遠く離れた国なんだ」
「ふうん、他大陸にあるの?」
「いや、この世界には無い、凄く遠い所なんだ」
「帰りたい?」
「帰ろうと思えば何時でも帰れるさ、僕の心の中にはね」
「そうなんだ」
「だけどまだまだ帰りたいとか思わないな。大切な家族がいるからね」
「えへへ」
「うふふ」
「それで冒険者だったね。もしかして冒険者に憧れてるのかな?」
「ちがうよー。ボクはケンカとかしないもん」
「ガイアも」
「そうだね。それにふたりとも女王様になれるかも知れない。冒険者になるのはちょっとむずかしいかな。それにお父さんに似ていると戦いはちょっと弱いかも知れない」
「お父様弱いの?」
「弱いなぁ。ヒノキの棒と布の服で襲ってきたスライムと戦ったんだけど、手も足も出なくてね。ゾハラ小母……お姉さんが弓でスライムの核を撃ってくれなければ死んでたかも」
「そうなんだぁ」
「お母様は?」
「グウェンディロンかい? んー、僕は見た事無いんだけど、神殿で姫巫女をやっていた時に修練を積んでいて、ダンジョンに潜ってコボルトとかゴブリンとか、一人で叩き潰して回ってたって云ってたから。強いんだろうなー。ケンカをしたら叩き潰されます」
「姫将軍だー」
「へえー、お母様強いんだ」
「もしかしたらふたりとも凄く強くなれるかもね。でも、自分より弱いからと云って暴力を振るうのは悪い事だからね。話せば分かる、とは云わないけど、話さなければ分からない事もあるんだ。最初から決めつけるのは良くない事なんだよ」
「「はい、お父様」」
「ふたりともいい子だなぁ。お父さんは嬉しいぞ」
「えへへ」
「でもお父様弱かったのになんで冒険者をやっていたの? ガイアなら怖くて出来ないかも」
「うーん。お父さんは学校の帰りにいきなりこの国に飛ばされて来たみたいで、何も持ってなかったんだ。それで冒険者になれば町の中の雑用の仕事が貰えたからね。色々と町の中の仕事をして来たんだ」
「へえ、じゃあ冒険とかはしなかったんだ」
「あはは、冒険者なのにね。でも、冒険者の人たちに役立つ事はして来たんだよ? 例えば、馬車の馬に使う馬具を馬が疲れないような物を調べて冒険者ギルドに提案して商業ギルドで作って貰ったり、板バネって云うのを使った小さな馬車を作って貰って提案したり。お陰で発明料を貰えたんだ。お陰で助かったよ。ゾハラお姉ちゃんの家の小部屋を借りて下宿していてお金が無くてね。いつもクークーお腹が鳴ってたんだ」
「お父様可哀相」
「でもお父様が発明したの?」
「ああ、それはこれで調べたのさ」
陽介が机の壁側に布を掛けていた出っ張りを指さし、布を避ける。
すると若干色褪せたノートPCが置いてあった。
ふたりは目を見開いて絶句した、今までふたりはこの家の中でほとんどの日々を過ごしており、日本から来た文明の利器を目の当たりにしていない。
転生者たるふたりは、未だ以てこの世界が純然たるファンタジー世界である事に疑念を抱いていなかったのだ。
「これは僕が元の世界から持ってきたノートパソコンと云う機械でね。色々調べられるんだ。幸いに百科事典がインストールしてあったお陰で助かったよ」
「あ、そうだったんだ。道理でみしっ」
「もー、エマナったら直ぐに知ったかぶりするんだからぁ。お父様、こののーとぱそこんはまだ使えるんですかぁ」
幾ら何でも電池が切れてるよね、と思いつつ媚び媚びの態度で聞いてみる。
「ああ、使えるよ。ちょっと起動してみようか」
「えっ、すごーい、絵が動いてるぅよぅ」
「(焦って語尾がブレまくりなんだけど、あと肘鉄が痛すぎ)」
「(うっさい、仕方ないじゃない)」
「ええと、内緒話かな? もしかして退屈だった?」
「そんなこと無いでし、っつぅ。ひたかんが」
「大丈夫かい? おっと起動完了っと。何を出すかな。そう言えば、あれがあったか。僕が前に撮影したスライムの映像はっと、ほら、これがスライムだよ」
「うわっ、ねとろねとろしてじゅるじゅる動いてる、気持ち悪いー」
「全然可愛くない」
「まあ、巨大なアメーバーみたいなもんだし。あ、アメーバーって云うのは目に見えない位小さな生き物なんだ」
「これと戦ったの?」
「そう、叩いても突いてもヒノキの棒じゃ効かなくてねー。イヤんなっちゃったよ」
「これはずーっと使えるの? のーとぱそこん」
「うん、そこがこの世界に来て最大の発見かな? 雷力石って云う魔法の掛かった石があるんだけど、その上に誘導充電電池を置くと充電出来る事を発見してね。それまでは太陽電池でチビチビ充電してたから便利だよねー」
「すっげ。流石ふあぅんっ」
「そっかあ。その雷力石があればのーとぱそこんがずっと使えるんだー。よかったねお父様」
「ああ、心の支えだったからね。ところでエマナが悶絶しているんだが」
「えへへ、また知ったかしそうだったから」
「別に少しくらいなら可愛い位だと思うけど」
「そう言うのはダメなんですー」
「ガイアは厳しいな、教育ママゴンになっちゃうぞ」
「えーと、それは魔獣なのお?」
「あー、ピンク色の肌をしたメガネを掛けててくるくるパーマの直立蜥蜴かな? 見た事はないけど」
「ふえー、そうなんだー、怖ーい」
「(ぶりっこし過ぎだろ、ガイアの方が怖いよ)」
「(うっさい、エマナだってさっきから失言ばっかりして。私たちが双子じゃなかったら喋る前に口止めなんて出来なかったんだからね)」
「まあ、この世界では電気が発明されていなかったから、その時は全く役には立たなかったんだけど。あとは、そうだな、冒険者向けにお風呂と香水を普及させて、下着を販売する様にした事かな」
「お風呂?」
「香水?」
「「下着??」」
「うん、こちらの世界に来て困った事が幾つかあったんだけど。やっぱり生活習慣がね、ずいぶん違ったんだ」
「なんだか冒険者の人にお風呂って似合わなーい」
「うーん、エマナも冒険者の人たちってずっとお風呂に入らないで冒険している感じがする」
「うん、その通り、一生の内に一回でもお風呂に入った事があるのかって聞いた事があったんだけどね。生まれた時に産湯には浸かったぜって言われた事があるよ」
「身体は真っ黒なの?」
「うーん、確かに薄汚れてたんだよね。身体も服も。凄い美人のエルフのお姉さんでも年に数回沐浴はしているって言ってたかな。で、皆凄い臭うんだよね。着た切り雀だし、下着も換えないんだよ。プーンってさ。それがちょっと耐えられなかった。心が、折れそうだったよ」
「お父様」
「いや、服の値段が高いってのも問題だったんだ。下着もね、立体裁断だから布を沢山使ってしまうからどうしても値段が高くなっちゃうんだ。手間も掛かるし」
「この服高いの?」
「エマナのかい? うん、正直言って高いね。冒険者の人や町の人にはちょっと買えない位に高いよ」
「エマナもっと安いのでも」
「お金がある人が沢山お金を使わないと、良い物を作っている人が貧乏になっちゃうんだ。そうしたら良い物が作られなくなっちゃう。君たちはそれを知っていて、それを使わなくちゃならない。それが悪い事だとしたら買い与えた親の責任さ、君たちは遠慮なく使う事。分かったかな?」
「はーい」
「分かった」
「で、話を戻す前に、冒険者が臭うと困る事と助かることの二つがある。分かるかな?」
「えーと?」
「臭いのが良いの?」
「さて、何でしょうか?」
「冒険に行ってて臭うと……魔獣が気付く!」
「気付いて逃げちゃう」
「気付いて寄って来る」
「うん、両方正解だね。でも、出来れば気付かれないのが一番だ。そこを冒険者ギルドにアピールして見た。お風呂で汗を流して、最低でも下着だけは換える事で臭いが少なくなって魔獣に気付かれなくなるかも知れませんってね」
「へー、じゃあお風呂を作ったんだ」
「湯船にざっぽん?」
「うーん、最初は予算が無くてね。小屋を作って火鉢を置いたら酸欠で危ないんでストーブで蒸し風呂にして見た。小屋の中で汗を掻いて貰ってそれで風呂上がりに冷たい飲み物をキューッと飲むと凄く気持ちがいいし。そして簡単に作れる下着を売って貰ったんだ。フンドシって言ってね、長い布と紐で作るんだよ。普及したのは今はまだ一部の町だけだけど、ただ誤算だったのが、年頃の娘さん達が身軽で良いからってフンドシと胸帯に軽装甲の鎧だけで闊歩し出したのがなぁ。目の毒だった」
「お父様は、スケベなの?」
「う、お、男は少し位スケベな方が正常なのさ。それに男がスケベじゃなきゃ困るのは女なんだから、これで良いのだ」
「どうして困るの?」
「う、あ、う、好きな男の人が出来てアピールしても、スケベな気持ちがなければ自分に見向きもしないんだよ。それだと女の人が困っちゃうのさ」
「本当?」
「本当?」
「人類学的には真面目さ。嘘じゃないよ、本当だよ」
「目が泳いでるわ、エマナ」
「鼻の頭に汗を掻いてるわ、ガイア」
「えっへん。それはともかく!」
「誤魔化したわエマナ」
「そうねガイア」
「ともかくだ。そうして清潔にし出してから魔獣に気付かれにくくなったんだけど、逆に清潔にし過ぎて感づかれ易くなってしまったんだ。そこで、今度は臭いを付けるようにして見た。最初は森の泥を擦り付けていたり、糞を袋に入れたりしていたらしいんだけど、ちょっとね。そこで冒険者ギルドに持ち込まれていた素材の中から廃棄処分にしていた薬にならない内臓があるんだけど、そこにあった臭腺を貰ってきて匂い袋や香水をギルドの職人さん達と一緒に作ってみたんだ。最初は冒険者用に作ったんだけど、何か最近、上流階級の間で流行ってるんだよね。アレ。予想外に大儲けしているからって、技術料が大分入って来てるんだ。お陰でお小遣い以外の収入が出来て助かってるんだよ」
「(間違いなく異世界トリップ物の主人公だわ)」
「(そうね。異世界転生物としてはどうすれば活躍できるのかしら)」
「(難しいわね)」
「どうしたのかな?」
「「私たちもお父様みたいに人の役に立ちたいんです」」
「でもどうしたら良いのか分かんないの」
「うーん、大人になるまでの間に色々と『知る』事が大事かな。知識と知恵は何処に行っても必要だからね」
「「はい、お父様」」
「あ、もう夕方になってる」
「もうすぐ夕食ね」
「お風呂に入んなきゃ」
「お父様一緒に入る?」
「今日はエマさんと一緒に入る日なの」
「エマさんすっごくバインバインなのよ」
「お湯に浮くの」
「お股の髭がスッゴくこ……」
「エマナ様、ガイア様お風呂の時間にございます。お迎えに上がりました」
「あ、う。はい」
「お早くどうぞ。それとも、抱き抱えて差し上げましょうか?」
「「今すぐ行きまーす」」
「お屋敷内で走らないっ!」
「「ごめんなさーい」」
「あはは、迷惑掛けるね」
「いえ、メイドでもありますが、乳母でもありますから。あ、そうそう」
「なに?」
「良かったら是非ご一緒に。わたくし、脱いだら凄いんですのよ」
「だから~、からかうのは止して下さいとあれほど言ってるじゃないですか」
「非道いですわ。グウェンディロン様が副王の任に就いていた時にはあれだけお互いに貪り合った仲だと言うのに」
「……ちょっと待って。彼女、シーンさんは君が紹介してくれた高級娼婦だったのでは……」
「ええ、旦那様の性欲を発散出来て、ついでに私の性欲も満足させられたのですから、一石二鳥ですわね。お金じゃ買えない位の高級娼婦ですわよ、おほほほほ」
「あ、その妙に高慢知己な笑い方は」
「あの当時は王配になったばかりの旦那様を付け狙うご令嬢方が多くって。ああ、お化粧で大分印象が違って見えていると思いますけど、面影は残っているでしょう?」
「何てこった。グウェンディロンにバレたら」
「グウェンディロン様なら知っているから大丈夫です。わたくしならば秘密の厳守も完璧ですし、勝手に子種を持って行ったりはしませんからね。ただ一つ誤算だったのは、命中弾が出てしまったことでしょうか。まあお陰でアルケー様ナネニー様マメミム様にお乳を差し上げられたのは幸いでしたが」
「リィナちゃん?」
「ええ、旦那様の娘です。可愛いでしょう? 声を掛けて上げて下さいね」
「ううむ、それはいいんだけど、どう接して良いのやら」
「さぁ、それは父親である旦那様次第でございますので」
「うおぉぉぉ。悩むぜって云うか何故俺の周りはこんなんばっかりなんじゃあああ」
扉の向こう側で。
「何かとんでもない事を知ってしまったんだけど。どうするガイア」
「どうって可愛い妹が増えて嬉しいなって事じゃないの? エマナ」
「大人の余裕、かぁ。前世での経験も入れれば二十代だものね。でも、実感ないんだよなぁ、知識はあるけど」
「あくまで前世は前世、今生きている私達はエマナとガイアだよ。エマナ」
「なら年相応に無邪気に・・・・・・苛める?」
「それとも可愛がるか、ね。だけど、苛めカッコ悪い」
「ボクだってだよ。まあ、女王の娘やその愛人の娘みたいにツンケンしていないから良いんだけど」
「リィナから見たら私達だって同じ様に見えてしまうのかもだし」
「それは、ちょっとイヤだし。まあ子供は親を選べないし、結論、可愛い妹ゲットだぜ」
「イエーイ。やったね。じゃあリィナちゃんもお風呂に誘おうか」
「うん、良いね」
こうして父親の謎をある程度解明したふたりは意気揚々と風呂場に向かった。
だが、これから起きる激動の時代にふたりは力を合わせて乗り切る事が出来るであろうか。
それは又、別のお話である。




