第24話 新たなる。
異空戦騎パラレルワールド大戦争
第24話 新たなる。
次元通廊は無事に開通した。
AW-01B世界側に残っていた艦船を用いて地球側へと警戒しながら移動した結果、以前と変わらず福島県小名浜港へと繋がった。
直ぐに政府に連絡を取って帰還の報告とPKF人員の受け入れ作業を行う様に指示し、そして同時にこの地球が自分達の地球である事を確認した。
実はAW-01世界が認識された時に認識番号の割り振りが決定されたのだが、平行世界にはAWを、可能性世界にはPWを頭文字として付ける事とされていた。
AW-01世界の場合、あからさまにおかしかったので末尾に識別番号が付いていたが、本来ならばAW-01,AW-02とそれぞれに識別番号が付けられるべきだったのだ。
もしかしたらこの地球も自分達のPW-01世界ではなく、PW-02世界なのかも知れないと警戒をしていた。
幸いにも乱数で付けられた漢字仮名アルファベットアラビア文字顔文字混じりの一億桁の暗証番号は完全に一致した、彼らは帰還を果たしたのだ。
さて、進駐していたPKFの帰還作業が進む中、前田元総理を中心として国連での事実説明が行われた。
今回の異世界PKFは国連決議に基づき行われた訳だが、G8+1国は一部の国を除きそれぞれが自分達の通廊を有して異世界へと進出していた。
だが、神々から直接説明を受けた内容によるとそれらの世界は滅ぼされており、進駐した軍人達が戻ってくる事は最早無いのだ。
流石に残ったAW-01B世界に自分達の世界で行った約定を履行せよと迫って来る国はなかったが、本当に異世界に自分達の送り出した人々が残っていないのかを調べる為に国連が主導して調査団の派遣が決定したのだった。
また、キリスト教の布教による滅亡と云う要素も見逃せない事で、駐屯地内での信教の自由は認められた物の現地への布教は積極的に禁止されることになった。
否定的な要素ばかりを上げたが、肯定的な要素もあった。
異世界人の地球への移動が可能になったのだ。
これはエマナとガイアの願いが叶えられた、と云う側面も大きいのだろうが科学者達の推測によると、幾つもの可能性世界が同時に神々によって補足され続けていた為に、どれかひとつの世界の人間が次元間を移動しようとすると何らかのバランスが崩れて次元間移動が出来なくなったのではないかと考えられていた。
それはさて置き、異世界人である。
俗に言うヒューマンもミトコンドリアDNA等による分岐の時点を計算すると十数万年となり、過去に於いて何らかの接点があった物と推測されていた。
その他の亜人と呼ばれる人々に関する地球側の関心も高く、セントールのゾハラが王家に関係する人間として初めての外交団の中に入っており、人の形以外の人間と云う事で日本のみならず諸外国でも有名人となった。
やはり翻訳魔法を使わずに素で日本語が喋れると云うアドバンテージが生きた形になったのだ。
とは言え問題になりそうな事も何度か起こった。
深夜のテレビの生放送を行う番組で、異世界の紹介を行うので亜人間の代表として出演して貰いたいと出演依頼があったのだ。
大勢の人間の前に出るからと盛装をして行ったのだが、顔以外がすっぽり隠れる衣装はプロデューサー的に不評であり、提案としてワイシャツだけ等はどうだろうかと言ってきたので、人間に例えると全裸にブラジャーだけなのは倫理的に問題があると反論を返した。
番組自体は司会の人間はお笑い畑出身で出演者もバラドルや真面目な学術畑の人間は居らず、基本的に華やかさと笑いで盛り上げるタイプの番組構成だった。
やけにメルヘンチックな格好をした自称ファンタジー研究家がギリシヤ神話などに出てきたケンタウロスの伝説を紹介したのだが、医学の祖のケイローンを『アナタの祖先の』と言ってしまいそれに反感を覚えたゾハラが「我が系譜にはその様な者は居らず」と百代の昔に遡って名前を挙げ連ねて見せたりもした。
だがその番組内で起こった一番のトラブルは番組の最後の方で最も人馬一体の境地に近いと自負している一番人気の競馬の騎手が登場し、馴れ馴れしく笑い掛けてから彼女の馬体の背中に手を延ばした時の事だろう。
その騎手の行動に驚き腹を立てて顔を赤くしたのを『好意的に』取った彼が合図すると、舞台袖で待機していたADが高級そうな鞍を持ってきてゾハラの許可無く背中に乗せようとしたのだ。
いきなり鞍を着けられそうになり、驚いたゾハラはADを蹴り飛ばした。
彼は乗馬クラブに通うほどの馬好きで、これほど賢いのなら当然の様に大人しく鞍を着けられるだろうと思っていたのが裏切られたので、思わず逆上して彼女と一緒に行動していた陽介に文句を付けた。
「危ないなぁっ! 蹴り癖が付いてんじゃねぇか! お前こいつをキチンと調教しろよっ! 馬は人を乗せるのが役目だろうが」
人を人とも思わないADの言葉にゾハラは頭に来たらしく口をアワアワさせている。
その様子をみていた番組進行がプロデューサーに問いかける。
「あれ止めなくて良いんですかぁ? かなり興奮しているみたいですけど」
「丁度良いじゃねぇか。ここで問題を出してくれればアイツ等を叩く材料が出来るしな。むしろ望む所って奴だろ?」
「また編集と嘘字幕ででっち上げですか? また上から睨まれますよ? もっと上手くやれって」
「分かってるって。ちゃんと上手く真実を放映するからよ。おれぁマスコミ人だぜ?」
「偏向報道はネットが炎上するんですけどねぇ」
「ハッ、ネットは敵だろ? 俺たちは気分でコロコロ変わるネットと違って一貫した意志でニュースを取り扱う本物の報道機関だからな、実際はどうアレ世間一般の凡俗にとっては俺たちが云う事こそ本当の真実だってのよ」
「それをやり過ぎて報道分野からバラエティー分野に飛ばされて来た訳ですけどね」
「うるさい」
奥まった編集室でモニターを監視していたプロデューサーと助手がそんな会話を交わしていた頃、スタジオではテンパったゾハラが中々に興味深い内容の言葉を放っていた。
「だ、だれが見も知らないあんたなんか私の背中に乗せるもんですかっ! 陽介だって未だ乗せていないんだからねっ!!」
「彼女はセントール族であって馬じゃない。セントール族にとっての背中は神聖な物であって、命を預けた相棒か恋人でもなければ乗せる事はない。なので……えっ!?」
ゾハラの発言に気が付いてしまった陽介は思わずゾハラの顔を見る、すると切羽詰まったゾハラは陽介の額にチョップをかまし陽介は悶絶した。
「相変わらず弱いなぁ、まあスライムと戦っても負ける位だもんね」
「馬主に逆らって反撃するなんて、なんて躾のなってない馬なんだ」
ADが吐き捨てる様に言葉を放つとゾハラの目が危険なレベルで吊り上がり、剣呑な眼差しでADを睨みつけると大声で叱りつけた。
「脚(‥)加減してやったのに、まだ懲りないの? 『我が気高きセントール族の末裔たるゾハルが娘ゾハラの名を掛けてお前如き二本足なぞたちどころに成敗して呉れるわ』覚悟っ!」
ゾハラがADの前で後ろ足立になり、2メートルを超える位置から見下ろすと相手はビビってしまい、床にヘタり込む。
「そこまっでぇっ!?」
「ぇうわっ!?」
さっきまで悶絶していた陽介は素早く立ち上がり、依然やったようにゾハラの前脚を両肩に乗せて受け止めた。
『はいし、どうどう』
『だから、馬じゃないもんっ!』
『マスコミは怖いんだぞ。今の映像も編集されて白と言った事が黒にされているかも知れないし。生放送だから大丈夫だとは思うけど』
『真実を歪めて報道するって事? 戦場じゃ流言飛語を飛ばして相手を攪乱するのは良くある事だ、って本には書いてあったけど。何を相手に戦っているのかしらね』
『俺には分からん。ともかくここは話し合いの場だから威嚇でも暴力を匂わせるのはダメだ』
『むう。向こうがルールを破らせるような真似をしてこちらがまんまとルールを破ったら思う壺って事か』
『そうそう。専門用語で誘い受けって奴らしい』
「分かったわ。ちゃんと落ち着くから、この肩車降ろしてよ」
「え、おぅ。どっこいしょっと」
「うゎ、オジサン臭いし」
ゾハラは前脚を床に降ろすとパカパカと足を鳴らせてADに歩み寄る。
「他に何か言いたい事ある?」
「ああ、もう放送は終わってるし、特にないな」
「……穿った見方をすれば本放送中に騒ぎを起こす事を見越して、ワザと仕掛けたって言っているみたいだけど?」
「へへ、さてね。それじゃあ出演者の方はあちらの楽屋へどうぞ」
「むむむ、イヤな感じ」
卑屈な笑みを浮かべるADに促されて楽屋へと足を向けるゾハラであったが、この騒ぎの中放って置かれた競馬の騎手が頭を掻きながら彼女に声を掛けてきた。
「やあやあ、随分と跳ね駒な女の子だったんだねえ。ジャジャ馬馴らしは得意なんだが、どうだい今度ひとっ走りしないかい?」
「私の背中には乗せませんから」
「今度競馬場を使えるんで俺の愛馬と走らないか誘おうと思ってね」
「競馬場……何処の?」
「中央高速の右手にある競馬場さ」
「ううむぅ。……でも、私は小柄な体格のセントールですから。誘ってくれたのは嬉しいんですが残念ながらサラブレッドじゃないんで。何年かしたらセントールの里からサラブレッドの連中を呼んでやって下さいな」
「ほほぅ、そんなのが居るんですか?」
「ええ、血統を鼻に掛けてツンケンしていて鼻持ちならないったらありゃしない。早いったって十分間も走れないし、私みたいに何時間も走り続ける事なんか出来ない癖に、自分達は選ばれたエリートなんだーって。もう」
「ははは、それはこっちの競馬界も同じだな、彼らは気が荒くてツンケンしている割には怖がりだからね、そこが可愛い訳だが」
「えー? 口が利けたら相当ウザいですよ?」
「幸い口は聞けないからね、でも馬の気持ちを誰よりも理解出来る君たちがいればもっと仲良くなれそうだろう? だからさ」
ふーん、と気のない感じで流したゾハラだったが、もしも出馬を承諾していたらサラブレッドに対する道産子みたいな境遇の彼女は競馬場のエキシビジョンマッチに出走させられていた所だった。
と云う感じで色々と厄介なトラブルも発生していた。
人型をしていない亜人と云う事では人魚の小集団が通廊を越えて日本近海に出没しているらしいと云う情報も寄せられていた。
HN・ダルグニィと云うオッサンが小名浜にある家に帰った時に小名浜湾に注ぐ藤原川で見た人魚の娘が、赴任先の瀬戸内海の赤穂埠頭に居たのを確認したと云うツイートを呟いていたのが最初の報告例だった。
こう云った感じで双方の生物種の交換が穏やかに行われていたのだが、実は向こうの世界にいる生物種の大半は平行世界にいる生物種が起源である場合が大半であり、人間もエルフもドワーフも、コボルトもワーウルフもギルマンも別の世界から導入されて広大な世界に広がりつつある生物種なのだ。
あの世界の固有種と云えば、大地の代わりになっている超巨大な浮遊生物位である。
舞台となっている大ユグドラシル大陸も数十億年を越えた寿命を持つ浮遊生物がその正体であり、大海洋を漂いつつ他大陸と接近したり潮の流れに逆らったりと自由気ままに生活しているだけなのだ。
その広大な面積の背中に目を付けた神々が平行世界から動物種を次元通廊を以て連れてきて繁栄させているのだが、はっきり言ってペットを飼っているのと同じ様な価値観で管理している。
なので他の神々が導入した生物種がブームになれば自分の管理している大陸種を誘導し、ブームとなっている生物を自らの大陸に勧誘するのが常である。
過去にブームになったのはエルフやドワーフであるが、最大のヒットになったのが人間である。
繁殖力が旺盛で活動的であり少々環境が変わっても適応して生き続ける事から大半の神々が採用していて、尚且つ数が増えすぎても身内で戦争をしてある程度数を減らす上に他大陸への移住にも積極的なので失敗が少ない事で神々の間では有名なのだ。
さて、アクアマンデ王国の使節の一人として参加した陽介であったが、何度かひとりで単独行動をしていた。
出来るだけ他人(特に女性)を連れて会いたくない知り合いがいたのだ。
池面洋士、陽介の先輩で小さい頃からの知り合いで、数多い男友達から付けられた渾名がエロゲの主人公である。
この男、やたらとモテる。
町を歩けば必ず新しい女性、可愛らしい女の子から熟女までを引っかけて仲良く歩いているし、かと言って女の子同士がかち合ってナイスボートな展開になるかと言えば和気藹々としているし、ある程度深い関係になると『私がこの素晴らしい人を独占するなんて出来ない、私から身を引きます』と言って勝手に離れて行くらしい。
本人は振られたと思っておらず、ちょっと仲の良い女友達感覚でいるのだが、現在続々とシングルマザーを量産中である。
モテない男からすると「憎しみで人が殺せたらっ!」と言う境遇なのだが、本人は実に気の良い奴であって男の友人も多いのだが、その友人の恋人達も池面に取られているのだ、しかし本人を前にすると何故か文句が言えない雰囲気を持っている。
本人に悪気が無く、注意しても本気にせず、ある意味実に質の悪い男、それが池面洋士である。
何故陽介が彼に会おう等と考えたのか、それは陽介が告白した女性が全て彼に靡いてしまった為に少々トラウマになっていたからだ。
是非とも彼にはこの世界に留まっていて貰いたい、絶対に異世界へは来ないで貰いたいと意見したいのだ。
基本的に洋士はフリーターであり、気の向くままふらりと海外に赴き、自由に生活をしている。
そして男友達を沢山作って現地で楽しく働き遊び、女性と遊んでは次の土地に行く、実に自由な男である。
もっとも、本人の優れた点は問題が起こった時に優れたリーダーシップをとってトラブルを解消してしまうと云った、実に最強主人公向きの男であったのだ。
異世界トリップ以来、陽介は彼に会っていない訳だが、彼の実家へは良く足を運んでいたのでフラリと顔を見せても彼の両親は快く家に招き入れてくれた。
洋士の後輩であり、突然行方不明になったと云う経緯もありその事で心配を掛けていた事もあったからだろう。
もっとも、マスコミによって異世界のアクアマンデ王国の王室に入った男としても有名であったので現在は昔の知り合いが有名人になり家を訪ねて来た的な喜びだろうが。
応接室に招かれた陽介だったが、残念ながら洋士に会う事は叶わなかった。
「行方不明なんですか? 先輩が」
「そうなのよ。いつもみたいにアフリカとか中東とか北欧とかにフラリと行ってるのかと思ってたんだけどね~、いつもだったら一ヶ月に一度は手紙かメールが入っていたから心配しなかったんだけど、もう半年も便りがないのよね。アレの事だから怪我とかは心配していないんだけど、どこかの家に監禁されているのかしらね~、息子の事ながら良い男だし」
「あはは、まあ心配はないかと思いますけど、先輩の事ですし。まあ、別の意味で心配にはなりますよね」
「あらあらうふふ、この前調べたら新しい孫が50人を越えていたのよね~、海外の娘は調べるのが大変でねぇ名簿に追加するのも大変で……流石に胃が痛いわ」
「ご愁傷様です。でも、多分あの性格は一生変わらないかと思いますよ。白髪頭になっても『あの人ロマンスグレーで格好いいの』ってモテモテでしょうし」
「分かってるけど、はぁ、早く落ち着いてくれたらいいのに」
「同感です。今まで何人の女の子に告白する度に先輩が好きだからって振られ続けたか、同輩が増えるのは流石に」
「ゴメンね陽介君。洋士とは付き合い長いもんね、小学校の頃からだっけ?」
「いえ、近所の公園で遊んでいた頃からですから、幼稚園の歳からですね。当時から女の子にモテモテでした」
「そうだったわ。これは将来はアイドルグループで活躍するものかと思っていたんだけど」
「昔から親衛隊とかありましたからね。今もまだあるんですか?」
「あー、あれね。今はシングルマザーの互助会になってるわ。毎年子供達の成長記録が届くのよ、分厚い冊子で」
「わ、それって先輩には?」
「それが女の子達は自分から身を引いたのだから洋士には知らせないで欲しいって懇願してくるのよね。訳が分からないよ」
「何てこったい」
もはやお手上げといった体で呆れてしまった陽介であったが、彼の現在の行方は家族でさえも分からず、陽介のお願いは届ける事が出来なかった。
不安が陽介の中に渦巻いていたが、流石に民間人が勝手にあちらに行く事は許可されていなかったのでその点は安心であったし、何なら王国に手を回して入国拒絶のお触れでも出して貰おうかと腹黒いことを考え出していた。
現在、王国周辺にトラブルの兆候はなく、日本との関係も良好で、人員も双方に行き来出来る様になったことから国交の正常化に取り組んでおり、交易の量も増え始めていた。
それにストップが掛かったのは更に2年の年を数える事となる。




