表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
28/51

第22話 決戦当日と、それから5年の歳月が流れた。

 異空戦騎パラレルワールド大競争


 第22話 決戦当日と、それから5年の歳月が流れた。


 遂に決戦の時が来た。

 時に西暦2026年皇紀弐千六百八拾六年、西暦2020年のG8に於ける召喚事件から6年の歳月が流れていた。

 この戦いは日本が主導して戦争が行われていたのだが、他の世界ではこれほど手間の掛かる方法を採らずに自国の軍隊を積極的に用いて敵を殲滅させており、ほとんどが魔王の討伐を終了していた。

 決戦の後は音信が取れずに次元通廊が閉鎖されたままになっているので、もしかしたら魔王討伐が終われば役目は終わったとばかりに通廊が閉鎖されるのではと心配されていた。

 だが、それを心配して手加減するのは戦力からも状況からも許される物ではなく、決戦の時は近いとの認識で一致していた。

 日本主導によるAW-01B世界の戦争計画では、現在までの所は前線での敵を押し返すだけの散発的な戦闘が行われているだけであり、この世界に手を出して以来戦力の増備に努めていた。

 自衛隊を始めとするPKFの武器弾薬の備蓄から陣地構築、前線基地の構築、搬用道路と鉄道の敷設等のインフラの構築、そして現地の軍隊の近代化指導と共同訓練による戦力化、これらが実用の域に達するまで待ったのだ。

 『戦争』の開始はそれから3ヶ月後に始まった。

 基本的にアクアマンデ王立陸軍とオミスインフ公国軍が前面に立ち、新型兵器である新38式小銃の威力によって大ユグドラシル大陸の西部域へと進出していた魔王の軍勢を押し戻し始めたのだ。

 これが可能になったのには幸運な理由もあった。

 東部域での戦争が激化し、こちらは分かり易く組み易い相手であったのでそちらへと予備戦力が振り分けられていたのだ。

 僅か3ヶ月で西部域に存在する小国や諸侯、数十の組織の戦力と合同で北上を果たし、遂に魔王の城がある北部領域へと足を踏み入れていた。

 西部諸侯の戦力は日本との接触が無かった為に旧来の中世的な近接武器しか装備していなかったが、少数の魔法使い達の奮闘と王立陸軍による適切な援護と、PKF部隊による兵站線の維持管理により物資が不足する事もなく電撃的な侵攻が可能になったのである。

 直接的な支援は王国のプライド維持の為に準備だけで終わっていたが、間接的な支援はPKF部隊の活躍も多かった。

 現在は魔王城攻略の為の軍隊が前線後方で待機しており、電撃作戦にて東部へと攻め行っている魔王軍の援軍が戻って来る前に城を防備する敵兵力に当たり一気に城を攻め落とす方針だった。

 その為の航空戦力による予備攻撃が現在進められようとしている。

 明けの明星が輝く頃、後方基地の上空では空中で大きく旋回し、部隊が離陸し終わるのを待つ攻撃機、そして戦闘機の部隊が最後の空中給油を受けて出陣の時を待っていた。

 相手の航空戦力は生身のドラゴンである事から航空優勢は確保出来ていると考えられていたが、巨大コウモリや飛竜ワイバーン、それにUAVに被害を出し始めていた風竜などの存在も驚異であったので、撤収していったロシア軍が乗組員込みで置いて行ったTu-95爆撃機などは後方基地に退避中である。

 魔族との戦闘は光溢れる日中に行うのが魔族の体質的に人間側が有利であり、今回の作戦もそれを考慮して計画された。

 もちろん魔族の大陸征服事業に欠かせないのが魔王の障気による闇の領域の拡大であり、魔王城の周辺は昼尚暗い暗黒の領域と化していた。

 よって各種車両には照明器具が増設されていたし、照明弾も各部隊で用意されていた。

 高度一万メートルの天界との境界ギリギリの高度を取り、編隊を組んで飛行して来た攻撃機及び戦闘爆撃機の第一陣は無数の照明弾を投下し、通り過ぎていった。

 これらは無誘導であったが、精度を期待しない攻撃であったので原始的な水平爆撃を敢行、照明弾は高度500メートルの敵陣の直上にてパラシュートを開き煌々と強力な光を地上に照らした。

 攻撃が始まった事を理解した魔王の軍勢は直ぐ様に陣形を整え、迫り来る人間の軍に対処するべく『鶴翼の陣』を敷いてこれを迎え撃つ。

 とは云え、体格も大きく異なる種族が陣形を組もうとしても難しい。

 その対応として足が遅く打たれ強い種族は中央部分に、足が速く攻撃力に優れた種族は側面に配置されていた。

 魔族の兵の数も尋常ではない程に膨れ上がっていたので、旧来の騎馬戦闘や歩兵相手にだったら有効であったのだが。

 だが、その数の優位性も自衛隊には効かなかった。

 砲兵陣地より飛来した無数の榴弾が、密集して列を成す魔王の軍勢の真っ直中に命中し、着発信管によって破裂した砲弾は破片と衝撃波を周囲に撒き散らかして行った。

 その他にも後続の攻撃機隊が放ったクラスター爆弾と後方20キロに位置する多連装ロケットシステム(MLRS)によって広い面積が吹き飛ばされて魔王城へと続く回廊が形成された。

 深淵の森林と言われた迷いの森は人間達を待ち受けていた魔族の集団毎吹き飛ばされて、クレーターだらけの更地へと姿を変えてしまったのだ。

 今回ばかりはPKFの部隊も前面に出て攻勢を掛けていた。

 各国のMBTや戦闘車両が砲塔を周囲へと旋回させて、森から飛び出してくる魔物達を掃討して行く。

 周囲を取り巻く歩兵達も小銃を構え、掃討し切れない小型の魔物の掃討やリッチーなどの魔法生物に対してショットガンを用いて銀の銃弾を打ち込んで殲滅していた。

 流石に敵の本拠地だけの事はあり、神話級のモンスターも出現して来たのだが、RPGやカールグスタフ等の携行ロケット砲や支援砲撃や支援爆撃、そしてMBTの主砲による飽和量攻撃によって簡単にとは行かなかったが、ズタボロにされて倒れ伏した。

 そうして魔王城前面での攻防戦は激化し、魔王軍の主力部隊もほとんどがそこで防戦に努めなければならなくなったのだ。

 そして勇者は舞い降りた。


 高度5千メートル、魔王城の上空。

 現在は空中にドラゴンの姿もなく、敵機の姿はクリアーであるとAWACSによる報告があった。

 彼らの乗るC-2輸送機はF-15J数機の護衛を受けて静かに目標上空へと進入する事に成功していた。

 勇者・マエダと聖女ミリティア、その他数名はISDBイストプ数機と自衛隊の特殊部隊と共に落下傘装備の最終確認と武器の点検を行っていた。

 一度降下を始めてしまえば忘れ物があっても引き返すことが出来ないのは当然の事なので慎重を期す必要があった。

 青いメタリックカラーの勇者の鎧の上に落下傘装備を纏った前田槍次郎は開かれた扉から眼下に見える戦火に眉を顰めて気を引き締める。


『あそこで光る戦火の光と共に幾人かの尊い命が散っているのかも知れない。私達が魔王を滅ぼさなければそれはいつまでも続くのだ』

「終わらせなければならない、この戦いを」


 前田がそう言葉を漏らすと、周りにいた勇者の仲間達が肯く。

 自分が言葉を漏らしていた事に気が付き苦笑してしまった前田は、だが大きく肯き返した。


「前田さん、無線の調子はどうでしょうか」


 勇者達の様子を眺めていた特殊部隊の隊長が前田に言葉を掛ける。

 それに気が付いた前田は耳元のレシーバーのON-OFFスイッチを再度確認するとOKと返した。


「諒解です。これより前田さん達、勇者のチームのコールサインを前田さんはブレイブアルファ、ミリティアさんはブレイブブラボー、白き魔女さんはブレイブチャーリー、白騎士さんはブレイブドラゴン、ゲオルグさんはブレイブエコー、アンゲさんはブレイブフォックストロットとコールします。私はサポートゴルフ、以下部下達はサポートホテル、サポートインディア、サポートジュリエットです。宜しいですか?」

「分かりました、訓練通りですね?」

「ええ、下手に変更すると混乱しますから。では降下準備を」

「うぅ~緊張するぅ」


 サポートゴルフが促すとブレイブフォックストロットが緊張して呻き声を上げた。

 彼女用のパラシュートの手配に手間取った所為で訓練回数が少なく、未だに緊張が取れないのだ、それにどんなに訓練を行っても本番の緊張を無くすことは出来ない。

 ブレイブエコーがブレイブフォックストロットの腰を叩き、そんなに緊張するなと声を掛けるが、ブレイブフォックストロットは目をキョロキョロとさせて挙動不審な様子を見せている。

 ブレイブアルファは彼女に訓練の成果を見せる良い機会ではないか、と声を掛け、ブレイブフォックストロットは俯いて「そうでしょうか」と呟く。

 背の高さこそ3メートルもあるがメンタリティー的には思春期の女子を模して作られた機械人形が元であるだけあって、なかなか難しい物があるようだ。

 それはさて置いてサポートゴルフが促すと、全員が降下ポジションへと移動した。

 まずサポートゴルフホテルが先導し、ブレイブアルファから順にフォックストロットまでが降下、殿とはぐれた時のサポートにインディアジュリエットが最後に降下する。

 上空の気流は魔王城を中心に渦巻いており、自然に目標に引き寄せられるように降下は続けられた。

 流石に魔王の城だけあって独特の雰囲気を醸し出している訳だが、その独特の雰囲気のひとつに唐突に光る雷と言う物がある。

 登山をしていて雷に遭遇した事のある人なら理解出来ると思うが、自分の目線とほぼ同じ高さを稲光いなびかりが走る光景というのは、なかなかに恐怖心を煽るものだ。

 幸いにして直撃を喰らった者はいなかったが、直前に雷が走った場所を通った時にオゾンの匂いを嗅いだ者は背筋に恐怖が走るのを止められなかったという。

 近付いてくる魔王城を真上から見調べると、上空を警戒している魔族の姿はなく、中庭に整列した魔族達が防衛線に向かって出撃していく姿が映った。

 今代の魔王は思いっ切りが良いのだろうか、とブレイブアルファは訝る。

 高度を下げて開傘すると黒闇の空に溶け込む色合いの落下傘が開き降下速度が落ちる。

 目標は裏寂れた裏庭が目印である。

 番兵の姿もなく篝火の焚かれている様子もない。

 闇の眷属たる魔族故の特色なのだろうが、一般人にとっては厄介な性質だった。

 だが、幸いにも自衛隊から供与された赤外線の映像も加味されている、光量増幅機能を持つ暗視眼鏡ノクトビジョンを装着していたのだ。

 その映像によって一行は、昼間のようにハッキリと見える暗闇に包まれた魔王の城の内部を駆けて行った。

 事前偵察によって航空写真から大まかな構造を把握されていた魔王城にはファンで空中浮遊する球状の自律小型偵察ユニットと情報の記録と電波中継を行うゴキブリの様な自律小型多脚ユニットがバラ撒かれて情報の収集に当たっており、様々な事が知られていた。

 既に隠し部屋の位置から浚われた人間達の牢屋までの城内構造の情報までである、その中には魔王のヘソクリとおぼしき本棚まで判明していた。

 今回の潜入も事前に配置してある自律偵察ユニットを監視装置として活用しており、警備兵の網をくぐり抜けて魔王が座る王座がある謁見の間へと急いでいたのだ。

 だが、この警備の様子からすると魔王の側も勇者の進入を誘っていたようである。

 勇者は謁見の間の扉を開き、内部へと突入する事となった。

 勇者の仲間達からブレイブブラボーチャーリードラゴンエコーフォックストロットと自衛官であるサポートゴルフホテルインディアジュリエットは扉の前で別れ、別行動を取っていた。

 偵察されて得た情報を王立陸軍に確認させた所、宮廷魔導師から気になる情報を得ていたからである。


 床には用途の分からない魔法陣が描かれ、暗黒の静寂に包まれた謁見の間にソレは居た。

 ソレは奇をてらった姿形ではなく、極めてオーソドックスな形をしていた。

 身長は三メートルを超えており、頭には複数の捩じくれた大きな角が生えており、黒々とした肌には何らかの文様が浮かんでいた。

 それは喋らずとも雄弁に自らを誇示しており、実に堂々とした魔王であった。

 それは右手の肘を左足の膝に付け、顎を手の甲に載せて勇者の来る方角を見やっていたのだ。

 勇者が単身その場に乗り込んで来ると、魔王はニヤリと嗤い、玉座から立ち上がった。


「良くここまで来た、勇者達よ。歓迎してヤろうではないか。フゥーハハハッ!!」


 その瞬間、背後の窓の向こうで稲妻が輝き、逆光で魔王の表情が見えなくなった。

 負ける事など微塵も考えずに魔王は不敵に嗤い、立ち上がる。

 右手には前田元総理の身長よりも巨大な剣が握られており、黒光りしたソレは魔王が握る事で屹立して見せた。

 だがそれに怯える事もなく、勇者は口を開く。


「ここまでだ魔王、これまでのお前の非道、もはや腹に据え兼ねる。征伐してくれるわ」

「ほほぅ、神々の玩具おもちゃが良く吠えるわ。所詮しょせん神々(あいつら)が暇潰しにやっているレースの駒に過ぎないお前が、私の何を否定出来るというのだ」

「魔族を主導し平和に暮らしている国々を攻め立てたではないか。その罪は万死に値する」

「我らとて住み良い環境を求めているだけなのだぞ、地底が起源とは云え地下世界は狭く危険な場所なのだ。為政者として私は一族郎党を平和に暮らせる場所へと導く義務がある、それはダメだと言うのか? 」


 魔王は歳の若い勇者への心理的攻撃を込めて揺さぶりを掛けてくる。

 だが、思春期の正義感に溢れた相手ならともかく、老練な政治家には通用しない。

 どうやら魔族的には十代の若者も五十過ぎの人間も区別がし辛いのか、それとも百歳以下は思春期と云う魔人族の常識に従ってしまっているのか。


「良いかな? 法律には先住権と云う物があってだな、元の住民が所有する財産権を不当に拾得しようとするのは犯罪なのだ。どこか別の所でやり給えよ」

「ここら辺、一光年にある全ての移動大陸には既に生命体が棲み、そうでない物は既にどこぞの魔王に支配された暗黒大陸となっている。光の射さない暗黒大陸は作り出すしかないのだ」

「だから知的生命を蹂躙しようというのだな」

「勿論だ。そもそもこれは魔族と貴様等の戦いではない」

「? なんだと?」

「地下世界のエネルギーの混沌より生まれた我ら魔族と、宇宙の彼方の星間物質のエネルギーから生まれた神々との間の戦いなのだ。神々(やつら)は地上界では実体が保てないからな、地上に棲む生命を傀儡にして地上を支配しているのだ。自らは動かずにお前達を駒として操っているのだぞ? その理不尽さをどう考える」

「神々は地上に存在できないのだろう? ならば地上の事は地上の者に任せるのは当然の事じゃないかね。そもそも神々が地上に住める環境を整えてくれているのだからギブアンドテイクの関係ではないか。何の問題もないな。何処に理不尽さがあるというのだね?」

「ええい、ああ云えばこう云う、お前は政治家か!?」

「うむ、国民の代表として選ばれて国政に参加する事25年。野党相手に理不尽な舌戦は鍛え抜かれているわい」

「うぬぬ。だが知るまい。神々(やつら)は今回の戦いを魔王討伐の名を借りた掛けレースにしているのだぞ?」

「? どういう事かな?」

「ふふふふふ、これを聞いてしまえば最早後戻りは出来ぬぞ。基本的に神々は退屈な日々を過ごしている、百億年単位で存在する神々に寿命は無いに等しいし生活にはエネルギーさえあれば困らない故にな。奴らが地上に関心を持つのは退屈を凌ぐ為に過ぎない。そして地上で捧げられる自らへの信仰心が快楽になるが故の事。しかし、それはそれで退屈を凌ぎ切れないのだよ。そこで偶に異世界からの訪問者を受け入れ、競わせる事で賭事をするのだ。今回は私を討伐する事だな」

「だが、この世界には私だけが召喚されたのだが?」

「そう、この『世界』はな。可能性世界パラレルワールドの事は聞き及んでいるだろう」

「概念の説明は受けた」

万眼まんのまなこの神は人間にはひとつしか認識出来ない世界を同時に十個も観察する事が可能なのだ。奴が観察する可能性の世界それぞれに勇者を召喚させる事によって同じ条件で競わせる事が出来る。神々は自らが掛けの対象にしたそれらをサポートし、最も高い点数を得た世界を勝者にし、それ以外を敗者とする。勝者には願いを叶えて貰う権利が与えられ」

「敗者には?」

「そのまま忘れられる。万眼神が観察しなくなれば、それは存在しないのだからな。後始末するまでもない」

「むっ、こんな事をしている暇はない、直ぐに皆を日本に返さなくては」

「先ほど『これを聞いてしまえば最早後戻りは手出来ない』と云ったであろうが。既に通廊は閉じられた。十に分かたれた世界それぞれに存在する者達はひとつを除き消え去る運命にある、さて、私も含めたこの世界は生き残ることが出来るのであろうかな?」

「むむぅ。報告で他国の通廊が閉鎖されているとあったのはこの所為であったのか。だが、そうとなれば足掻くのみ。魔王っ! 容赦はしないっ!!」

「当然結論はそうなるな。良かろう、既に覚悟は出来ている。私が勝てばこの世界は滅ぼされ、負けても滅ぼされないとは限らない訳だ、だが、最後まで足掻かせて貰うぞ」


 随分と長い問答であったが、自らの運命を知ってしまった魔王としても喋らずには居られなかったのだろう。

 だがしかし、全ての世界で魔王が勝利すれば良いだけの事。

 魔王は右手の剣を握りしめて、勇者に向けて構えをとる。

 同じく勇者も勇者の剣を掲げ、魔王を迎え撃つ。

 魔王が大声を上げながら大きく剣を振り被ると勇者も盾を構えてそれを弾き返す。

 その隙を逃さずに勇者は魔王の左胸に勇者の剣を叩き込んだ。

 ぐっ、とくぐもった声を漏らすが、直ぐに唇を引き釣らせて嗤いを漏らす。


「ふははははは、私は命を隠して来た。ソレを見つけない限り私は不死身なのだ。イタタタタ」

「むぅ、もしかして自室の本棚の上段右から三番目の辞書に挟んであるカードの事か?」

「なぜソレをっ!!」

「こんな事もあろうかと、調べて置いたのだよ」

「裏切り者が居るとでも!?」

「さあて、そう言えば白き悪魔には散々世話になった気はするな」


 もしも魔女娘の白き悪魔が聞いていれば濡れ衣だと抗議を上げていただろうが、彼女は今戦場にて嗤いながら活躍している、それを聞き届ける事は出来なかった。

 だが魔王はそこで驚天動地の発言を行った。


「オノレェ、我が娘に裏切られるとはっ、悔やんでも悔やみ切れぬわっ」

「なん、だと、娘だったのか。あんなに可愛いというのに」

「不満か? ふふ。だが、最早どうでも良い。我が命に代えて勇者よ、お前を倒す」

「だが断る。見よっ! 陽光反射光束(ゾンネンシャイン・レフレクスィオーン・シュトラール)っ!!」


 勇者は兜とその下に被っていた物を脱ぎ捨てると呪文を発動、頭部からハゲしい閃光を放った。

 流石に魔王となると多少の光にも耐性がある物だが、太陽の光そのものの直撃を受けるとなると属性的に脆弱であり、眩しげに目を細める。


「ぅおっ、眩しい」

勇者斬ブレイブスラッシュっ」


 あまりの光量に武器の構えを解いてしまった魔王に勇者は走り掛かり、上段からの斬撃を与えた。

 鋭い斬撃は魔王の四本の角の内、一本を断ち落とす。

 魔族にとって角とはシンボルであり、力の象徴である。

 それを落とされた魔王はヨロメくと数歩後ろへと下がるが、忌々しげに勇者へと視線をやる。

 そして気付いたのだ、勇者の変わり様に。


「勇者ぁ、貴様……かつらだったのか、その頭は。フサフサした白髪だと思っていたが」

「ふふ、ハゲだと知れると女性票が10%は下がるからな。例え仲間だとしてもこの秘密は守らなければならぬのだ」

「勇者様っ! お待たせいたし……」


 遅れて入室したミリティアが右手に一枚のカードを掲げたポーズで前田の頭部を凝視したまま動きを止めてしまった。

 絶望的な沈黙が室内を包み込む。

 だが魔王は彼女が掲げるカードを見つめて愕然としてしまった。

 そのカードこそ、厳重に保管された筈の命を隠したカードだったからである。


「何故、お前がそれを持っているのだ」


 魔王が問いかけるが、ミリティアは前田の頭部を見つめたまま反応を返さない。


「あの部屋の扉にはパラディンの魂を用いて強化した絶対防護の呪いが掛けられているのだぞ?! それに棚にはドラゴンのブレスでさえも耐え切れる加護が掛けられているのだ、人間如きの魔法で破れる筈がないのだ」

「それには私が答えよう」


 そう言って部屋に入って来たのは、自衛隊のサポートゴルフである。

 彼は破壊工作に用いる道具箱を床に降ろすと目出し帽のまま魔王の前に立ち、ホルスターの銃を確認してから話掛けた。


「確かに扉には歯が立たなかったであろうとも、だがC4を用いて壁を爆破して内部に突入したので何の問題もない。また、ドラゴンのブレスに耐える加護もテルミット火薬の超高温には歯が立たなかった様だな? 」

「壁を壊して入ったというのか? 非常識にも程がある」

「残念ながら我々の世界では常識だよ」

「ドラゴンのブレスは溶岩の温度に匹敵するのだぞ?」

「テルミット火薬の温度は2200度を超える。耐火煉瓦だって溶かしてしまうのだ」

「人間にそんな知恵があるものか」

「人間だからこそ好奇心の赴くままに知らない事を知ってしまうのだよ。魔王、人間の寿命は短いが貴様達魔族よりも濃くて輝いているのだ」

「むむぅ、だが我々の」

「魔ぁ王ぅぅぅっ!!」


 魔王がゴルフに問い掛けようとした時、固まっていたミリティアが地獄の底から響く様な声を出して魔王を威嚇しだした。


「魔王、貴様が勇者様に髪の毛が抜ける呪いを掛けたのだな? その行為、万死に値する」

「何を言っているのだ。勇者のそのハ・・・」

「敬愛する勇者様にこの様な仕打ちをするとは、例え神が許してもこの私が許さないっ!」

「ゲは私の所為ではなく、天然の」

「それ以上口に出す事は許さん。問答無用っ!!」


 そう言うと彼女は手に持ったカードを指で引きちぎった。


「うぐぁあああああっ!!」


 苦しげに胸を掻き毟ると魔王は血を吐いた。


「ふはははは、やはり悪知恵は人間には適わぬな。だが、ただでは死なぬ、次の為に、次の次の為に」


 突然事切れた魔王の鼓動の停止と共に、魔王城を振動が襲う。

 高い天井に溜まった埃がパラパラと降り注ぎ、次第に揺れと音が大きくなって行く。

 良くある展開ではあるが、定番とは良くあるから定番なのだ。

 このままでは城の崩落に巻き込まれると判断した勇者はその場にいた全員に指示した。


「イカン、全員脱出を、うぐぁああっ」


 だがその途端、勇者は叫び声を上げて立ったまま硬直し、顔を歪めた。


「勇者様っ!」

「まさか呪いか?!」

「魔王の攻撃が今頃になって効いてきたのかも知れない」


 ゴゴゴゴゴと、城の基礎が崩壊する重々しい音が響く中、沈黙と共に全員が勇者に注目する。

 彼は緊張した面もちのまま何とか口を開くと、弱々しい声で言葉を絞り出す。

 それは先程までの勇者然とした凛々しい物ではなく、年齢に相応しいしわがれた物であった。


「腰がギックリ逝った、痛くて動けん」

「……アンゲ、勇者様を抱えて行け。お姫様抱っこだぞ」

「は~い。ああ、私をお姫様抱っこしてくれる男の人はいつか現れるのかしら」

「それは難しい所だな」

「うへぇ~い」


 慌てて謁見の間から外に飛び出すと、魔王の自室から浚われた人たちの方へと向かったサポートインディアからジュリエットの2名が駆けてきた。


「この城は危ない、直ちに退避を」

「ああ、だが浚われていた人質達はどうなった」

「鍵を破壊し、中にいた騎士達に武器を渡して直ぐに先導して逃げるよう云ってきてあります。一応牢内の全員が退避したのを確認しました」

「ならば良し。脱出だ」


 こうして駆け足で城から脱出した一行は、丘の上から崩れて行く魔王の城を眺めながら戦いの終わりを実感していた。

 その雰囲気に流されたのか、前田元総理はぽつりと呟く。


「あの魔王が最後の存在とは思えない、きっと第二第三の魔王が現る。我々はそれに備えなければならないのだよ」

「勇者様……その言葉はこの前お城で上映した……」


 ミリティアが空気を壊す突っ込みを行うと前田元総理は顔を赤らめた。

 だが、どうしても言ってみたい台詞だったのだ。自重出来なかったのだ。


「それに、ぎっくり腰になってしまっては、備えるのも、ねぇ」

「うむ、魔王を討伐した所為だろうか、いきなり力が抜けてしまいおってな。変に力が入ってしまった所為でギックリ逝ってしまったみたいだ、面目ない」

「それは仕方がない事ですから」

「しかし、このままでは勇者稼業も引退だな。新たな勇者が必要になったら、召還し直すのかな?」

「魔王さえいなくなってしまえば、その必要はないかと」

「ふむ……魔王との戦いの中で奴が気になることを言っていたのだが。この世界の命運が神々の賭事だと云う話を聞いた事があるかね?」

「……はい」

「そうか、確かに神々という超常的な存在ならばあり得る事だ。そもそも私の世界の科学者たちも地球に複数の、そして同一の世界が接続したと云う状況は極めて不自然だと考察されていた。それが意図的なものだとしたらむしろ納得が行く」

「左様ですか。何時なのでしょう。その賭事が決定するのは」

「それは寧ろ神に仕える姫巫女の仕事ではないかと考えるが。なにがしかのお告げは無いのかね?」

「残念ながら今の所は」

「そうか」


 彼がそう言うと、ちょうど上空からヘリコプターが降下してきた。

 戦場の決着も、魔王が滅びた事によって魔族の軍勢が散り散りになりPKFと王立陸軍の勝ち戦が決定した。

 見上げた空は魔王の障気が晴れて日の光が射し込む。

 まるで映画のエンディングの様な情景である、むしろエンディングテーマが流れ出さない事の方が不思議な感じがする位だ。



 こうして悪の魔王は滅びて大陸の平和は守られた。

 ありがとう勇者、そして勇者の仲間達。

 流石正義の主人公は最後に決める事が出来る存在だ。

 これにて物語は 完 。



 こうして異空戦騎パラレルワールド大競争の幕は落とされ………てはいなかった。


 魔王との戦いから五年と半が過ぎた。

 決戦で活躍した? 勇者・前田は腰痛が酷くなり、王家の秘法を以てしても違和感が拭えなかった為に引退を表明した。

 長田陽介は29歳になり、この歳で王家の人間との間に六人の子を設けた。

 実にめでたい事である。

 次期王家の担い手である子供達の生活費と教育費は彼女の実家持ちである為に子供達の子育てに何の不安もないのは良いのだが、父親としての威厳や何かが全く無い事に忸怩たる物を感じていた。

 だが、通廊が閉鎖されて元の地球との繋がりが断ち切られて約六年、それまで備蓄された資材や人材によって再生産可能な物はこちらの世界でも作られていたし、代用可能な物は変わって使われていた。

 こちらの世界の研究者達も新しい概念を知り、それを用いた物作りを行っていたので新しく文明が生まれつつある雰囲気が醸し出され、それが社会の活力となっていた。

 中には陽介が実家から持ち込んだマンガの資料本や同人誌などに書かれた空想の戦闘マシーンを再現しようと頑張っている研究者も居たりして、陽介がアドバイス的な解説をした時もある。

 そんな環境で生活が続き、今日はエマナとガイアの七歳の誕生日である。

 エマナもガイアも子供らしからぬ大人しい性格をしていて、手間の掛からない子供ではあった。

 知性と理性も大人のそれに匹敵するレベルであり、本当に子供なのかと不安気になる事もシバシバであった。

 だが、それでも身体は小さな子供であり、王家の血を引くだけあって可憐な子供達である。

 一卵性の双子ではあったがエマナはボーイッシュで活発な性格をしていて、ガイアは外観そのままの可憐な性格を・・・・・・時折年齢を疑ってしまう腹黒さを見せていたが、ある意味女性らしいと言えなくもない。

 さて、七歳までは神の内、古来日本ではそう言って子供はられてきた。

 これは医療が現代よりも頼りないものであった為に死んだのではないと神の世界に帰っただけだと納得する為の風習であった。

 それは脆弱な身体を持つ子供らが七歳までに死別する確率が高かった事に起因する訳だが、それはこの国に於いても似た様な理由で七歳から神の仲間から人として認められる風習が存在した。


 誕生日おめでとう。


 父親である陽介の口から、その言葉がこぼれた時である。

 魔王の討伐から五年と半が過ぎて、このAW-01B世界のジャッジメントが始まった。



 もう一寸だけ続くんです。


 西暦2020年 G8

 西暦2021年早春 陽介19歳転移

 西暦2022年   陽介一年経過20歳ミリティア25歳 グウェン17歳

 西暦2022年6月18日+α 尖閣事変

 西暦2022年秋 第8話 雷力石

 西暦2023年春 第9話 陽介視察行 機械人形 第10話 21歳

 西暦2023年夏 第11話 駐屯地候補地

 西暦2023年夏 第12話 勇者の帰還

 西暦2023年晩夏(一ヶ月経過) 第13話

 西暦2023年初秋 第14話 北方戦線交戦

 西暦2023年晩秋(3ヶ月経過) 第15話 エマナ、ガイア誕生 両親訪来

 西暦2024年初春 22歳 第18話 ロシア撤収。

 西暦2024年晩秋(10ヶ月経過) 第19話 エマナ、ガイア一歳 アルケー、ナネニー、マメミム誕生 EU諸国撤収

 西暦2025年晩春(6ヶ月経過)23歳 第20話 エメラダー懐妊。グウェンディロン副王就任。 西暦2025年夏(数ヶ月) 第21話 新38式小銃配備 王立陸軍駐屯地から鉄道で戦地へと出征。

 西暦2026年冬(3ヶ月+3ヶ月)24歳29歳21歳 第22話 反攻作戦開始までに3ヶ月、魔王城へ至るまでに3ヶ月経過。

 西暦2031年春 魔王が滅んでから五年と半が経過。エマナとガイアは七歳。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ