第21話 決戦前夜
異空戦騎パラレルワールド大競争
第21話 決戦前夜
大ユグドラシル大陸の東部は主食を小麦とする中原文明と米を主食とする低地文明、そして過去に他大陸より導入された玉蜀黍を主食とする高原文明に大別される。
東部も北方に於いては山脈に雲海がぶつかり降雨も多く作物が取れやすいのであるが、中部から南方に掛けては乾燥した気候になっている為に、海抜が高い事から直射日光が強く乾燥に強い作物として他大陸との接触の際に持ち込まれた玉蜀黍が栽培されていた。
三者共に独特の文化を持ち、それぞれの国に於いて戦争をしたり交易を行ったりして歴史を刻んで来ていた。
だが、この度の魔王による侵攻に対しては一致団結して事に当たっていた。
前線に当たる北方諸国への兵士団の派遣と兵站物資の補給は後方に当たる南方の国々に於いて確実に行われていた。
こちらの魔法文明は西部とは異なり、魔法に対して鬼道、錬金術に対して練丹術と呼ばれる術式によって研究されており独自の発展をしていた。
神々の名前こそ聞き取りと書き取りの際に変化した物が用いられているので西部とは異なるが、信仰の対象となる天界に存在する神々は同じ存在なので捧げる感謝の形は違えども、等しく神々に受け取られていた。
さて、中原を支配する大国『満』は皇帝の勅令によって武将の燕小宝を征魔大将軍に任命し、兵団を編成させた。
その兵数は百万を数え、統一された武具と旺盛な志気によって魔王の軍勢に抗していた。
低地には数多くの小国が存在していたが、それらも魔王大戦中はお互いの国にちょっかいを掛けずに力を合わせて魔王に対抗すると盟約を結び、大は戦象部隊から騎鳥兵部隊までバリエーションの多い戦力を有している。
高原からは巨石文明に属するンクヮ帝国が体高五メートルにも及ぶ地上棲ナマケモノを飼い慣らした部隊が目立っていた。
東方の海上に浮かぶ海上交易と海賊と武者の列島からは絢爛豪華な戦船が将軍率いる武士団を乗せて、ジャンクの様な使い込まれた大船が主君を持たない浪人達の武者団を乗せ、列を成して大陸を目指す。
これらの激戦は、勇名なる者達が名誉と栄誉を掛けて命を削った大戦。
歴史に残る大戦争で咲き誇った英雄達の徒花であろう。
だが、それらは物語に関係なので割愛する。
それはさて置き、アクアマンデ王国である。
副王グウェンディロンの情報改革により透明性を増した王宮では文官達が書類を持って駆け回り、サインと判子で認可を貰った書類が現場を動かして行く。
特にここ数ヶ月は魔王の居城を攻略すべくPKFのみならず、アクアマンデ王国とオミスインフ公国の歩兵部隊も剣こそ帯びてはいるものの槍と弓を小銃に持ち替え、騎兵隊はポールウェポンやランスを小銃や機関拳銃に持ち替えた龍騎兵隊へと兵科を変えていた。
PKFが前面で持ちこたえていた長い期間は無駄ではなかったのだ。
訓練は多岐に渡ったが、元々身体が商売の兵隊さんである、小銃の取り扱いと散兵戦術の訓練は過酷な物であったが長期に渡る訓練にて分解清掃に至るまでの取り扱いを習得していた。
これにて近代戦を基準に統一された戦術で指揮出来るようになったので、PKFと合同で自らの国を守る力を得たのだ。
これまでの期間、強大な力を持つPKFに圧倒されていた彼らは自らの矜持を保つ為に色々な手を打っていた。
魔術師の使う魔法の効率化は明らかな成果が上がっていたし、魔法の武器を使う冒険者達はPKFの特殊部隊に引けを取らない実力を得るに至った。
だが、戦争は数だよ、と言う名言もあるように、一番の人数を誇る陸軍の歩兵達が自信を喪失したままでは軍という存在が意味を失ってしまう。
地球世界で生産された小銃は構造の簡単な連発式のボルトアクション銃を日本の工場で生産した物だった。
近代文明の製品に慣れていないこの世界の人間が不用意に取り扱っても暴発せず故障せずに使える単純な構造の物となると、過去の日本陸軍が採用していた三八式歩兵銃が候補に挙がる。
三八式小銃を参考に、自衛隊が採用する弾種と共通なものを利用する前提で、銃剣戦闘を多用するであろう事からとにかく頑丈な構造でありながらある程度は軽量であると言う矛盾した要求を新素材や部品形状の見直しで実現したのが新式小銃のNT38、正式名称はNew Type 38 rifle.である。
実際に自衛隊で試験運用が行われ、アクアマンデ王立陸軍の親衛隊で試験的に運用が成された後に問題点が無い事を確認し、大量生産が行われた。
それらが部隊に行き渡り、訓練が行われ、終了したのが先日の事だった。
三八式という時点で第二次世界大戦レベルどころか第一次世界大戦レベルである事は明白なのであるが、泥濘の中の戦場での運用が豊富であり、コンバットプルーフと云う点では38式は非常に経験豊富であった。
基本的な設計を流用し、不慣れな銃手でも運用し易いと云う点ではNT38の信頼性は高い。
王立陸軍のそれまでが中世ヨーロッパ時代レベルの武器であったのだから大幅な戦力アップである事は間違いない事実だ。
もちろん近代戦では支援火器は欠かせない為に素質のある者を選出してMINIMI等の運用を行っている。
流石に手が回らなかったのか、それとも王国軍である事の最後のプライドを死守したと云う事なのか、制服は旧来の楔帷子に部分鎧と云う出で立ちである。
これらは志気の維持という点では欠かせなかった為にPKF側も承認済みである、人の意識は早々変われないのだ。
そして最後に大振りのナイフ、通称はソード又はサーベルを下げて現在は閲兵式の最中である。
閲兵式には特別に臨月に近いエメラダー女王も列席し、新生アクアマンデ王立陸軍の勇姿を眺めていた。
女王の眼前で行われている行列行進は軍隊の基本である事から、徹底的に叩き込まれていた。
整然とした足並みで行進する歩兵達の肩には誇らしげに新品の新サンパチ式小銃が抱えられている。
この武器を以て故郷を蹂躙しようとしている魔王の軍勢を『自らの手で』撃退する事が出来るのだ。
今までは勇者の軍勢にそれらの役割を奪われていたが今こそ自分たち自身の手でそれを成す、これほど嬉しい事は無いと行進する歩兵達の顔は誇らしげに輝いていた。
歩兵隊の後には騎馬銃兵、龍騎兵が続き、その後ろには旧態依然とした重装騎兵が続いている。
抱えるランスには魔法文字が刻まれており、高く掲げられた穂先は歩みの旅に揺れ、重輓馬の様な巨馬は金属の固まりのような装甲に覆われている。
彼らの纏うフルプレートアーマーには元々厚い防御魔法が掛かっており、素材も魔法金属であるオリハルコン等で補強されていた為に貫通効果を高めたエンチャントを施されたランサーによる騎兵突撃の効果は装軌装甲車の体当たりに匹敵する威力が確認されていた、よって兵科によってはそのまま運用が続けられていたのだが、流石に通信機の装備などは行われている。
重装騎兵の中には大柄なセントール族の姿も見え、完全な人馬一体の妙を誇らしげに誇示する。
重装騎兵の装備は貴族が個人で賄うものであった為に色々とバリエーションが存在していた。
中でも重装騎兵隊長のチャー・アーブルが纏う赤い魔法金属の地金が輝くフルプレートアーマーは自衛隊隊員の間でも有名で、兜に通信機用のブレードアンテナを着けた時にはそれを見た隊員達から『あれが噂のチャー専用か』『三倍で動くのかな』として注目を浴びていた。
閑話休題、閲兵式は国民に対して国威掲揚を促す物でもあり、素人からすると剣呑な光を放つ今までの刃を持つ武器とは違う強そうに見えない見慣れない兵器ではあったが、それを扱う兵士達の誇らしげな表情に安心感を得たのも確かである。
兵士達の列に手を振りながら参道沿いの列に観察の目を向けていたエメラダーは余所行きの笑みを浮かべたまま傍らに座るグウェンディロンに語りかけた。
「どうだねグウェン、圧倒的じゃないか我が軍は。これだけの地球文明の兵器を持てば魔王軍と云えども今までの様には好き勝手にはさせないさ、そうだろう?」
「まあ、魔王に対してなら、確かに。地球でも兵器の類は輸入国の方が多いと聞いていますから、これでも問題はないかと。それよりも軍事教練が順調に行われた事が幸いでした。魔法具によって喋り言葉は通じる物の書かれた言葉は翻訳が必要ですから、私達の旦那様(だぁ~りん)が前以て共通語と日本語の翻訳をしていてくれたお陰です」
「ふん、まあそれについては功績を認めるに吝かではないが、私達とか云うな、単に次期女王候補の血縁上の父親と云うだけで王国に何らかの権限を持つ訳ではないし。べ、別に好きとかそう云うんじゃないんだからね」
「……ええ、そうですね。お姉さまが旦那様に恋愛の情を持っていない事は承知しています。自分が産む子供の血縁上の父親として認めて貰うだけで結構ですので、そんなに無理して気がある風を装わなくても良いんですよ?」
「ふむ、日本のマンガ文化を引用して見たのだがダメかな?」
「物語は物語ですし、実際に見たら単に嫌っているだけに見えますし、もし好意を抱いての態度だとしたら何て面倒臭い人間なのだろう、としか思えませんが」
「そうかあ。もしも有効であればグウェンを陥とすのに使えるかと思ったんだが」
「残念でしょうが私は一棒主義ですので、増してや他の穴なんかには興味は御座いません」
「じゃあ、次の子供を設けるときにはどうしたらいいのさ。言っとくけど、私は男とヤる趣味は持ち合わせていないから」
「アブノーマルな事を堂々と。使用済みの避妊具とスポイトを持参しますのでどうぞご自由に」
「そっかぁ、他にも自分の産んだ赤ん坊を抱きたいって言ってた娘がいたから、配って回ろうかなー」
「止めて下さい、後宮にあなたの愛人は何人いると思っているんですか?」
「ああ、後宮は解散するからそんなに人数はいないよ」
「え? 初耳ですが」
「今言ったからね。アンとシエスとティフとルイースは愛人のままにするけど」
「そうなんですか。あれ? シャーロットはどうしたんですか? あんなに溺愛していたのに」
「ああ、あの娘は妊娠したからって実家に帰っちゃった。まあ前から赤ちゃんが欲しい赤ちゃんが欲しいって毎晩の様に強請って来たからねー。女同士で子供が出来るわけ無いのに。あの朝もあなたに嫉妬したのか後宮に戻ったら直ぐに絡みついて来てさ、お陰であの娘も妊娠しちゃった訳だけど」
「えっと、何処の貴族の出身でしたっけ?」
「うん? ほら南のレアン大公国のお姫様だよ。まだ小さいのに結婚させられるのが嫌で逃げて来たお転婆さんを私が貧民街で保護したのが十年前の事で今は16歳か」
「手を着けたのは?」
「ご想像にお任せします」
「! そんなに幼い頃からっ!!」
「ちょっと待って、どんな想像をしたの?! 嫌、良い、大体分かった。流石にそんな無茶な事はしてないよ?」
「さて、しかし実家が大公国ですか。王配の庶子には王権の継承権は無いから良いですけど」
「本当にしてないよ!?」
「腹違いの姉弟兄妹には違いありませんからねぇ。王配の息子を旗頭に諸外国がこの国の王権を要求して来た事もありましたから、厄介な事にならなければよろしいのですが」
「本当ホント、本当だよーっ」
「女王様五月蝿い」
「がちょーん」
「はっぱふみふみ?」
「ああ、日本の芸はくだらなくて力が抜けるのが良いねぇ」
「そうですね」
些か退屈していたのだろうが、姉妹はニコヤカに笑みを顔に張り付けながら小声で会話していた。
自然に手を振る二人を見て雑談に励んでいるなど想像も出来ない程の演技力である。
二人が雑談をしている内に閲兵式の軍事パレードは終わりを見せた。
もっとも王立陸軍の行列はこのまま城下町から市街地を抜けてPKFの駐屯地へと向かう事になっていた。
駐屯地から前線の基地へ向かって簡易ながらも鉄道が延びているのだ。
設営には大手ゼネコンが関わったが、管理運営は現在新設された陸上自衛隊第101鉄道部隊が行っている。
大陸だけあって真っ直ぐに延びた線路の敷地は4線の設置が可能な幅があり、需要と状況が整えばオミスインフ公国への幹線として整備する事も可能になっていたが、現在はすれ違いが可能な単線である。
線路幅は90式MBTを運ぶ事も可能なように広軌となっているが、戦後は標準軌に改軌の上で線を増やす計画となっている。
走っているのはDD51に似た形状のディーゼル機関車に牽かれた貨物車と客車で、きわめて簡便な物だが、先頭と後尾にカウキャッチャー付きの装甲列車が接続されているのが特徴だろうか。
カウキャッチャーとはアメリカ式の蒸気機関車に付いていた障害物除けで、弁慶号等で有名なアレである。
何分鉄道は同じルートしか走れない上にレールに細工されると脱線事故を引き起こすので、軌道の警備はセンサーによる物と警備隊による巡回で執り行われていた。
更に旧陸軍の鉄道連隊が終戦と共に廃止されて以来、戦後の一時期に設立され既に廃止された自衛隊の鉄道部隊では必要が無く所有していなかった装甲列車であるが、現状のアクアマンデ王国の戦場に隣接する鉄道には備えが必要であると判断されて配備されていた。
盤路がしっかりしている事と広軌である事から路面に掛かる荷重が大きくても問題はないとの理由で装甲が施され、武装も対空戦闘兼対地戦闘が可能な機関砲とミサイルランチャーまで装備されている。
参考にされたのは西部劇などに出てきたシチュエーションで、アメリカ開拓期の列車襲撃を念頭に置いた物だ。
さて、戦場や駐屯地を走る戦闘車両を眺める機会のあった王立陸軍の将兵だが、実際に自分が科学の技術で走る乗り物に搭乗するのは初めての事だった。
欧米式の低いホームからタラップに足を掛けて1メートル程の高さの客車に乗るのもおっかなびっくりしながらだったが、馬車よりも格段に広い車内に驚き、泥だらけの兵隊が乗っても大丈夫なように頑丈だが柔らかめの合成樹脂製のベンチに閉口し、車掌による日本語のアナウンスには当惑し共通語のアナウンスで気を引き締めて出発に備えた。
牽引式の場合、運転手が慣れていないとガク引きになり車内が大きく揺れる。
広軌用の大きな車体と馬力を持つディーゼル機関車の扱いにまだ慣れていなかったのかガクガクガクと先頭車両から車体間隔余裕の分づつ衝撃が伝わり、車内も大きく揺れた。
馬車では味合わないその動きに動揺して兵達は浮き足立ちながら不安と共に驚きの声を上げてしまう。
大勢の不安の声に精強な兵達の不安が増大される、だがその時に車両の前の方に座る軍曹がどっしりと座りながら大声で叱りつけた。
「コラッオマエら、それでも女王陛下の栄光ある王立陸軍の兵隊かっ! こんな物はどうって事はないっ! 暴走する走亀に飛び乗った方がよっぽど難しいわっ。とっとと席に座れよ!」
鬼軍曹の怒声に恐縮したのか、ドヨドヨとしながらも兵達はベンチに座り込んだ。
それを見た軍曹は手元のしおりに目を遣ると、配備された拡声器を使って車内の兵達に指示を下した。
もっとも彼の地声は相当大きいので拡声器が必要とは思えなかったが。
「えー、それでは各自手元のしおりを~、揺れていて気分が悪くなりそうだな、要点だけ言うぞ。一番大事なのは、トイレは各車両に一室ずつあるからそれを使用するように、隣の車両に行ったりするなよ? それから席に備え付けのエチケット袋は~、つまりゲロ袋だな、いつでも広げられるようにして置く事を忘れるなっ! もしも間に合わずにブチマケやがったら連帯責任で人数掛ける地獄の特訓3セットだ。泣き言言っても聞かねえからな? 目的地までは~、おいおい本当か? 前線基地まで3時間だとっ!? とんでもないな、まるで昔に海賊の本拠地を強襲した時に乗せて貰った竜騎みたいに速いじゃないか。まあ、3時間ばかりゆっくりと外でも見ているか寝ちまえ。これによると遠くの景色を見ると気分が良くなります、だとよ。まあ俺たちみたいな船で戦場に殴り込む連中に酔いなんて関係ねえがな。それじゃあ騒がずに待機だ」
「うぃ~す」
「諒解」
軍曹が重苦しい雰囲気を緩和する為にざっくばらんとした言い方で車内の兵卒の緊張感を解したのだった。
ちなみに軍曹は2時間後に吐いた、原因は貰いゲロである、何とかエチケット袋は間に合ったようだが、下車後に臭いを漂わせて出てくる兵隊の数は相当数に上ったと言う。
普通は自動小銃を採用しますよね。
そんな非常識さがアイングラッドクォリティーと云う事で。




