第18話 勇者の鍛錬
異空戦騎パラレルワールド大競争
第18話 勇者の鍛錬
現在の戦線は北方への進撃を鈍らせていた。
ただ、情勢はPKFに有利である。
航空攻撃や巡航ミサイルによる遠距離攻撃は後方にある物資集積所の破壊を容易とし、魔王の軍勢の前線への兵站線が成り立たなくさせていた。
それを可能としていたのが無人偵察機(UAV)による濃密な偵察行動である。
だが、流石にそのカラクリに気付いてきたのか、被撃墜による未帰還機の割合が増えてきていた。
現在の無人偵察機の大半が高燃費だが比較的低速のターボプロップエンジンを搭載したプロペラ機である。
一機当たりの値段も安く、攻撃機としての機能を有する費用対効果の良い機体なのだが、全速力でも亜音速域に達しない上に航空戦を意図的に排除した設計になっている為に音速に近いスピードで格闘戦を行う敵戦闘機には弱いのだ。
だが、相手はファンタジー世界の産物である、その様な物が存在するのか疑問となる。
その答えは以下の様に答えられる。
この世界の魔王の軍隊は、第2次世界大戦前の地球よりも航空戦力で勝っているのだ。
それは零式艦上戦闘機や一式戦闘機よりも軽快に宙を舞い、P-51Dよりも早く、B29よりも打たれ強い存在、ドラゴン族の中でも飛行に優れた風竜である。
速度と格闘戦であるなら飛竜が優れているのだが、遠くまで届くブレスと第2世代MBT並の装甲力を持つ竜鱗に鎧われている風竜が無人偵察機に対して攻撃を始めたのだ。
実際の所、風竜の数は少なく、またドラゴン族の中でも気難しい気質をしていた為に有人戦闘機ならばともかく無人偵察機などは『羽虫』と呼んでいて眼中になかったらしいのだが、魔王直々に討伐に付く様に差配があり、渋々ながらも迎撃任務に就いている。
その効果は絶大で、これまでの様に気軽に偵察計画を組めなくなった自衛隊側の新たなる対抗策が練られ始めていた。
さて、前線が魔王の居城に近付くに連れて準備しなければならない事があった。
勇者である。
元々武術を嗜み勇者補正で強化されているとは云え、壮年以上になると身体は思うように動かなくなる物だ。
素人は勿論の事だが、むしろ若い頃に鍛えていて自分はまだ十分動けると思っている人ほど意識と身体のギャップが大きく、事故で怪我を負い易い。
ましてや戦場で戦いを行う勇者である、自動快復魔法があるとは云えどもギックリ腰が起こっては戦闘に支障を来す可能性が高いのだ。
よって現在は政治関係の活動は自粛して体力の保全に努め、魔人討伐での仲間達との連携攻撃の練習を行っている。
最近ではISDBを数体同行させて荷物持ちの様な事をさせていた。
また、前回の魔人討伐の旅で機械人形の戦乙女が呪われてしまい生身の女性に成ってしまった結果、大破壊力を持つ物理攻撃が半減してしまった。
白き魔女と白の聖女の魔法攻撃は絶大だが、単純な物理攻撃もやり方次第で絶大な効力を発揮するのだ。
と云う訳で現在勇者達が鍛錬をしている駐屯地の片隅にある演習場では前田元総理が勇者の装備に身を包み仮想敵であるマッドゴーレムに向けて勇者の剣を向けていた。
それをバックアップすべく3メートルの大柄な身長を持つお嬢さんであるアンゲ・リオネフが斬馬刀の様に巨大なグレートソードを構え、ゲオルグがバックアップし、白騎士と白き魔女が左右でフォーメーションを組んでいる。
そしてキャンプ道具などの野外装備を背嚢に背負い、いつでも取り出せるように左右の副腕に救急箱とポーション入れを装備したISDBが五体ほど待機している。
今回の訓練は魔王討伐の旅を想定したシチュエーションになっていた。
よって耐寒耐暑に優れた旅装のままで戦闘を行う事を強いていた。
これでもISDBに野外装備を運搬させた事で大分負荷が軽減されているのだが、大将戦でもないのに身軽になって行動する事は後々の事を考えると戒められなければならない。
ISDBが居なかった今までは人夫を雇って荷物運びさせる訳にも行かなかったので、大変に重宝がられていた。
その分の感謝が陽介の方にも来ていたので、作った甲斐があったと実感していたのだった。
その陽介だが、現在は勇者の訓練を見学に来ていた。
前述の様に前線の向こう側への航空偵察行が妨害されつつある今、下手に前線を進めると伏兵や迂回によって思わぬ挟撃を受けたり、敵の分厚い戦線に軽装備の戦力を当てたりする可能性が有った為に陸上部隊の軽装甲車両による偵察隊や偵察隊が運用出来る小型自動偵察機による地道な偵察が必要になったのだ。
勿論、有人のジェット戦術偵察機による高高度偵察行への迎撃は比較的安全なのだが、無人偵察機の様に頻繁に長時間の監視飛行は望むべくも無かった。
そうした訳で現在は両者ともに前線で睨み合っており、大きな戦闘も起こっていない膠着状態に入っていた。
ひとつ大きな変化となっていたのが独立国家共同体、ロシア軍が本国へと引き揚げた事である。
戦費の負担が大きい事と日本が主導権を握っていて戦後の参入権が小さい事を論っていたが、噂ではG8以来行方不明になっていた大統領が現れた、つまりロシア国内にも異世界へと繋がる通廊が開かれる可能性が高い、と云う話がまことしやかに流されていた。
その為に前線からロシア軍の姿が消えた訳だが、ロシア製戦車は形が西欧勢のMBTとは形状が異なる物が多かったので、戦力の低下を魔王軍側に知られてしまう可能性が指摘されている。
西欧勢はその噂が本当ならば、わざわざ極東にまで遠征しなくて済むのではないか? と考える者もいるようだが、しかし大半の意見はロシア国内に遠征する者は悉く破滅すると云うジンクスもある様に非常に慎重な姿勢を見せているに留まっていた。
今回の勇者たちの演習は、特別に披露する類の物ではなく、通常の鍛錬に属する物だったので陽介達が顔を見せたのはほとんど気紛れに近い物だった。
陽介は柵にもたれ掛かる様な姿勢で、ゾハラは王都へ来た時に使った軽馬車を曳き、グウェンディロンは安定期に入った事もあって気が塞がないように軽馬車のソファーでくつろぎながら勇者達の鍛錬を眺めていた。
通常の騎士達の鍛錬ではあり得ないような動き、飛んだり跳ねたり弾いたり、多彩な動きは見ていて飽きない物である。
特にグウェンディロンは自分の姉であるミリティアが、幼少期の可憐さを微塵も見せない苛烈さで攻撃を繰り返すのを嬉しそうに見つめていた。
「何かスゴイ嬉しそうだねグウェン」
「はい、ミリティア姉様があんなにお元気そうに動き回っているのを見ると嬉しくて」
「つまり、昔はお元気では無かったと」
「ええ、小さな頃からミリティア姉様は宮廷の中でも美しさが際立つ方でした。ですが、可憐な姿は華奢な肢体から印象付けられた物。屋内から出ずに読書や刺繍とお淑やかな少女時代を過ごされていたのです」
「へえ~、今の姿からは想像も出来ないけど。どちらかと云うとマッシブと言うかマッスルなダイナマイトと言うか」
「ええ、昔は、少女時代は華奢で可憐でお淑やかで、蘭の花の様なと詠われた手弱女で、貴族の少女達の憧れでございました。昔は、ああ、時は残酷で御座いますわね」
「いや、あれはあれで良いのでは? 確かにお姉さまと言うよりは姉御って呼びたくなる気がするけどさ」
「それは可愛かった頃のお姉さまを知らないから言える言葉です。昔は可憐で可愛かったのですよ? 昔は」
「昔は昔さ。現実を見て、それを評価するのが正しい物の見方と言うものだよ」
「確かに、華奢である事が虚弱さの裏返しであった昔のお姉さまよりも今のお姉さまの方が見ていて安心出来ますものね。でも……おや、ゾハラさんどうかしましたか?」
グウェンディロンは軽馬車を牽いているゾハラの様子が固まっているのに気付き、心配そうに声を掛けた。
何故か冷や汗を全身に掻きながら、緊張した面もちでゾハラは口を開く。
「あれだけ挑発して置いて、その言葉は如何な物かと思いますです、グウェンディロン」
「その心は?」
「ミリティア様が見てる」
バッとグウェンディロンが演習場へと顔を向けるとミリティアがこちらの方を見ていた。いや、見ていた等と云う物ではない、凝視、睨みつけていたと言う方が表現としては正しいだろう。
襲い来る土隷を物ともせず、片手間に振り払うその様子は般若の如し有様である。
よほど土隷にイヤな思い出でもあるのだろうか、訓練にそんな物を使うとは大した精神力である物だなあ、と陽介は思った。
勿論現実逃避的なアレである。
ふとグウェンディロンを見ると額から汗をダラダラと流している。
「これはいけない、グウェン、こんなに汗を掻いて体調が悪くなったのだな? 済まない、下手に連れ出すのではなかったな。うむ、早速屋敷へ戻ろうか、可愛い子供達も待っていることだしな。と言う訳でゾハラ、レッツゴー!」
「え、あっうん。大丈夫なの? アレを放って置いて」
「うむ、確かに義姉さんが物問い気にこちらを見ているのは確認したが、やはり嫁さんの体調が大事なのだよ。なに、可愛いと評判のミリティア様なら見逃してくれるさ」
「死亡フラグおめでとう」
日本との接触が長くなるに連れて、日本文化の流入も起こっていて、特に陽介に近しいゾハラなどはマンガやアニメに接する機会も多く、色々と知識を深めていた。
その為にこの様な受け答えも出来るように成っていたのだ。
現在のお気に入りは【セン○ールの憂鬱】と【観○少女】や【フ○ーツバ△ケ。ト】である。
陽介は無駄に素早く軽馬車に乗り込むとジトーっと絡みついてくる視線から逃れるべく軽馬車を出発させた。
後に屋敷にニコヤカな笑みと共にやってきたミリティアにグウェンディロンの代理として折檻されたのは云うまでもない。
ロシアはアフガニスタンにてアメリカがベトナムで受けた様なゲリラ戦に悩まされた経験がある。
ソ連時代からの伝統として圧倒的な機甲戦力と砲兵による火力で敵を撃滅してきた有る意味正統な軍隊が不正規戦を苦手としている事を身を以て知っているのだ。
一ヶ月前、大統領の執務室に唐突にG8以来行方不明になっていた前大統領が出現した。
アメリカの大統領や日本の総理大臣、中華人民共和国の総書記などの例からG8で行方不明になっていた国家首脳陣が召還魔法にて異世界にあるアクアマンデ王国に転移した事は推測されていた。
彼らがこの地球に帰ってくる為には戦略フラグの魔人討伐を立てる事ではないかと考えられていた。
恐らくその他のG8首脳陣も異世界のアクアマンデ王国の可能性世界に出現して戦っているのだろうと予想が出来る。
その点、ロシアは幸運であったと言える。
最近まで軍隊に在籍したアメリカ大統領や武道を嗜む日本総理大臣、人民解放軍にて優れた格闘戦成績を残した中華人民共和国共産党総書記に匹敵もしくは凌駕する戦闘力を誇る元スペツナズの前大統領の戦力は確かだったからだ。
そして恐らくは残りの先進国首脳は戦闘を続けているか、もしくは返り討ちにあったかしている物と考えられたのだ。
だが、ロシアも異世界を手に入れる機会が巡ってきた。
ここで躊躇う様なら今後の多世界間交易による激しい経済戦争に勝ち残ることは出来ない。
その為に、多国籍軍に出していた軍隊を引き上げさせて急遽異世界攻略軍を編成したのだ。
間違いなく他国はロシアが異世界へと繋がる通廊を手に入れた事を察するだろうが、多国籍軍を編成するに当たって戦闘経験のない自衛隊が主導権を握る事が出来たのは間違いなく自分の国の通廊であったからである。
自国内に次元通廊を持つ事が今後の世界のリーダーシップを持つ事に繋がるのだ。
その為に異世界の攻略にはロシア軍の総力を以てして行うことが決定している。
だが相手は魔法という科学文明とは異なるルールを持つ集団だった事から戦力編成には気を使うことになった。
AW-01Bの世界にて多国籍軍の一角として経験した敵戦力から、魔族と云う物が如何に不正規戦に向いているのかを実感していた。
だが、基本的に方陣を組んでの大時代的な集団戦を挑んでくる事を知っていた為にロシア軍のAW-01D世界に於いての戦略は次の様になっていた。
1・平原を進む敵の大集団が逃走出来ないように地雷原や石油を満たした堀、ナパーム弾などで包囲網を敷き、大火力を以て一気に殲滅する。小型戦術核の使用も考慮に入れる。
2・敵本陣である魔王城に対して戦略爆撃機にて奇襲攻撃を掛け、対要塞爆弾にて基部を破壊した上で戦略核を断続的に投下し、魔族の源泉である地獄の釜を焼却処理する。
以上のような計画になっていた。
冷戦も終わり腐りかけていた核兵器は維持するだけで多大な費用が掛かり、処分するには膨大な費用が掛かる、適切な場所で使用するのが費用対効果的に最適なのだ。
それが自国に被害を及ぼさないなら最適だ。
多少の放射線ならばチェルノブイリにて対応に慣れているという自負もあった事だし、放射能汚染区域には近付かなければ良いだけの事と高を括っていたのだ。
その様に立てられた作戦の準備は進められ、ロシア軍は大量の陸軍をAW-01D世界へと送り込んだのである。




