第17話 試作品公開テスト
異空戦騎 パラレルワールド大競争
第17話 試作品公開テスト
現代戦は航空戦からはじまる。
戦場の行方を差配するのは情報であり、地上を行く軍隊が苦手とするのは航空戦力である。
よって航空支配、航空優勢と云った概念に従い戦闘機が配備され、その戦力の元に早期警戒機や地上監視機、偵察機が配備されている。
それらの情報を元に攻撃機が現場に飛び立ち、敵戦力にダメージを与えるのだ。
よって駐屯地に設営された滑走路からは頻繁に偵察機や早期警戒機が離着陸を行っている風景がみられることになった。
航空戦力と云えば竜騎士か天馬騎士しか無かったこの大陸では飛行機と云う存在は新鮮な物であったので、騒音を物ともせずに割と好意的に見られていた。
空港から飛び立つ航空機の大半は、実用化なった無人機でありロボット化によって無線で操縦せずとも敵地を走査し、戦力を追尾し、敵の攻撃を交わし、反撃した。
既に航空測地によって大陸の過半は地図データーが起こされており、有人操作に寄らずとも地図データーだけで目標に到達出来る様になっていた。
ただ、この世界特有の事情が唯一航空機の運用に制限を掛ける事になってしまっていた。
高度一万メートルから上空は『天界』と呼ばれており、実在する神々の活動領域として占拠されていたのだ。
実際、気象観測隊がラジオゾンデを飛ばしても、高度一万メートル以上のデーターは得られず、侵入を阻まれて居るものと考えられている。
基本的に天界と地上界の者が邂逅を果たすべき場所としては古来より、大陸中央山脈の最高峰である海抜一万二千三百四十五メートルの峰の麓の天界入り口周辺に限られており、そこ以外での接触は禁忌とされて来た歴史を持っているのだ。
さて、そう言った制限を掛けられていても航空機の有利さは変わらずに、戦場を支援する強力な支配力を発揮していた。
騒音の小さな無人レシプロ偵察攻撃機によって昼夜問わずの嫌がらせ攻撃が続けられていたし、時には大規模な攻撃機の編隊による絨毯爆撃が敢行されていた。
その際には敵の飛竜や巨大蝙蝠とF15戦闘機、F3戦闘機による大規模航空戦も実施されていたのだ。
特に巨大蝙蝠は夜間飛行に優れ、超音波による索敵能力はAWACSによるECMが効かないと云う利点を持っていたので対処に苦慮する事になったのだが、幸いな事にステルス機であるF3の形状は巨大蝙蝠の探査波をも反らせる事が出来たので長距離戦闘に於いては勝利を勝ち取る事が出来た。
さて、陸上戦闘に於いては突撃銃を標準装備し迷彩服にボディーアーマーを着用している現代型の歩兵戦力と連携して作戦を行う各種戦闘装甲車両の戦力は、通常のファンタジーの様な平原での決戦ではほぼ無敵を誇る。
ただ、魔物の中には特殊な体質を持つ者も多く、銀の武器によってしか傷つかない、魔法攻撃以外の物理攻撃では傷つかない、月夜の晩には傷つかないと言った特性を全面に押し立てて攻撃を仕掛けてくる事が多かった。
確かに小銃による射撃が命中しても一時的に損傷しても直ぐに元に戻り再度攻撃を仕掛けてくるタフな魔物も多かった。
だが、無数の小銃弾を集中して浴びたり、大型の火砲の直撃を食らえば、死なないが身体がバラバラに吹き飛ぶのだ。
更に魔法の武器や魔法を使える騎士や戦士達を戦力に組み込み始めた事で近接戦闘に於ける対耐魔法攻撃に有効な戦力として活躍し始めた。
これはPKFの活躍を見て自分達のアイデンティティーを疑い初めていたこの世界の戦士達にとって、自信を回復する切っ掛けとなった。
しかし、魔法騎士や魔法戦士の数はそれほど多くはなく、歩兵が魔法生物から身を守る為には威力の大きな火器を携帯する事がもっとも有効な手段と言えた。
それは装備の重量の増加を意味しており、体力自慢の歩兵達にとっても大きな負担となって行ったのだ。
ここで急遽注目が集まったのが、以前に陽介が開発企画を推し進めていた『普通科(Infantry)支援(Support)人型(Doll)筐体(Body)』ISDB=イズドブ、又はイストプである。
元々ゴーレムとロボットの複合的な作りをしている為に、人間の様な疲労は無く重量物の運搬に適していた。
ISDBは歩兵とチームを組み、チームの人間のサポートを目的として行動する。
陽介がゴーレムを部品化してロボットの様に使える様にと計画してから数ヶ月、既に開発チームは陽介の手から離れてしまいお堅いお役所仕事として開発が進められていた。
陽介の手の内にあった頃は、元々が美少女フィギュアの可動化から始まっていたので女の子っぽい物であったのだが、その後はフルフェイスのヘルメットみたいに顔の造形や表情などは必要のない物として排除されて簡素化されていった。
陽介の元に偶に届く報告書にはほとんどデッサン人形の様なのっぺりとしたツマラない画像が添付されていたのだ。
よって、先行量産試作機がお披露目されると聞き、駐屯地へと足を運んだ陽介が期待をしていなかったのは有る意味当然だった。
段々になった観客席の前の方に座って、魔王の軍勢に対応する為の装備に身を包んだ部隊のお披露目式はそう言った感じで始まったのだ。
「ヨースケの作ったゴーレムは何番目位に出てくるんだっけ?」
最前列の車椅子用の席に佇むゾハラがパンフレットを読みながら隣に座る陽介に訊いてきた。
ちなみにパンフレットは日本語版と大陸共通語版の2種類が用意してある為に現地の人間が読んでも問題はない。
もっとも文明的な違いが大きい為に理解が追いつくかは別であるが。
陽介はゾハラの言葉を聞いてパンフレットの目次を指で示しながら口を開いた。
「ここ、ISDBって書かれてる奴。ちなみに純粋なゴーレムじゃないから」
「ふーん、変な名前。どうしてこんな名前にしたの?」
「俺が付けた訳じゃないしな。何かのイニシャルだと思うけど」
そう陽介が言うとゾハラはパンフレットを流し読んでから疑問点を聞き返した。
「うーん、こっちの冊子には書かれていないなぁ。なんて意味?」
「ISDBのIは歩兵って言う意味のインファントリィ、Sは補助って言う意味のサポート、Dは人型って言う意味でドール、Bは筐体って言う意味でボディー。続けて言うとインファントリィ・サポート・ドール・ボディーだけど、日本語で付けた普通科支援人型筐体をそのまま訳したみたいな感じかな」
「ふーん、もうちょっと格好の良い名前を付ければ良かったのに。イグザベールとかギャモンとか」
「ギャモンはどうだろうか。っとそろそろお披露目みたいだ」
陽介が広場の横の小屋に目を向けると、シャッターが開いて、中から人影が出てきた。
最初に出てきたのは迷彩服の上に魔法の防具を装着した魔法剣士の姿だった。
ギラリと剣呑な光を放つ大振りの刃が辺りを威圧する。
輝きが通常の鋼よりもわざとらしい程に目に付くのは魔法の武具だからだろう、コンセプトとしては現地の魔法戦士を現代戦に適応出来る様に装備の変更と訓練を実施している。
何故かは分からないが、地球から来た人間には魔法の素養が無い様であり自衛隊の人間が魔法の武具を利用して戦闘を行う事が出来ないのだ。
よって魔女娘を始めとする魔法種族との戦闘で有効な魔法武具の使用は現地人に任せるしかない状況が続いている。
マンガにヒントを得て人間の脳波に似た電磁波を発するグローブを以て制御する案を実験によって確認したところ、魔法武具が微妙な反応を見せる事までは確認出来たが、まだ制御までは出来ていないのだ。
それはともかく、魔法の防具の下に着込んだ迷彩服であるが、戦争法に準拠して自衛隊とは異なる形状の物になっている。
もちろん高い防御力を付加すべく、ケブラー繊維などの防刃防弾繊維を用いた防御力の高い服になっている。
今ひとりは長弓を背負っている事から弓兵だと判断できた。
こちらはより動き易さを重視している様で、防具は迷彩柄のボディーアーマーである。
本来は革鎧を装備しているのだが、彼が元の鎧トカゲの革鎧よりも諸外国の軍警察で使用されているボディーアーマーに惚れ込んでしまったので、取り寄せて使用していた。
「変わった鎧と迷彩服だけど、普通かな、この世界の普通の魔法戦士と弓兵だ」
「でも、質はこっちの方が良いみたい。質を上げて共同作戦とか」
「と云うよりも、普通の戦士や騎士をこっち寄りにして『動ける様に』訓練をしたって感じかなー。俺には無理だけど」
「ヨースケは運動神経無いからねー。スライムにも負ける位」
「それはスライムよりも運動神経が無いと言っているのかな?」
「さーて、どうでしょう」
ふたりの戦士は観客席の前まで歩き軽く礼をすると、その後観客席に背を向けて離れた場所に立たされている標的の案山子に向かって攻撃を始めた。
魔法剣士が気合いを込めて剣を振り下ろすと、白い剣圧がほとばしり、標的の案山子が纏っていた防具を弾き飛ばす。
同じく弓兵が掲げる長弓は機械弓に魔法を付与した物で、精霊と契約でもしているのか百発百中の凄腕である。
如何にもファンタジー的な第一陣であったが、続いての第二陣はサイエンス的な代物だった。
多数の銃火器とロケットを仕込んだ多砲塔戦闘車だ。
「うわっ、見て見てヨースケ、あんなに一杯大砲が付いてるよ。凄く強そうな予感」
「あー、うん。凄く強そうに見えるんだよね。でも色々な軍事物の本を読むと欠陥品としか思えないんだけど」
「え、なんで?」
「俺も詳しくはないんだけど、受け売りで良いなら」
「説明ヨロシク」
「ハイハイ」
過去に於いて多砲塔戦車は技術者にとっての夢であった時期があった。
一台の戦車にたくさんの大砲、一台で沢山の敵を倒せそうなイメージが沸いて来る。
だがしかし、実際は夢は夢でも悪夢の代物だった訳だが。
その原因は複数存在した。
まず、砲塔の一つ一つに弾込めと照準発射等の運用する為に人間が複数人数必要であり、砲の数が五つあれば総人数が13人以上も必要な事。
只でさえ狭い車内はギュウギュウ詰めになり、構造も複雑化する事となり重量が増えて構造が脆くなる。
更に砲塔一個一個の重量の為に装甲を犠牲にする事になり、戦車としては極めて薄い装甲しか纏えない。
薄い装甲には銃弾でさえも危険であり、飛び込んだ銃弾が車内に満載された火薬類に当たる可能性が非常に高い事。
折角切り詰めた装甲にも関わらず重量過多であり車両の速度が鈍重も良い所であった事、場合によっては戦場で全く動く事無く撃破されてしまう例も多数。
また、車体に積める砲も数が多い為に口径を小さくせざるを得ず、手数は多くても有効な打撃を与えられないので対戦車戦闘は事実上不可能な事。
そして最大の要因は数多くの砲塔を一元的に運用するのが極めて困難であった事だ。
当時の技術者の頭の中の理想では、進撃する多砲塔戦車が次々に砲を撃ち放ち周りに存在する目標を次々に撃破して行く、であったのだろうが、装甲に囲まれた戦車の中からは外の情報が遮断されている為に何処に敵がいるのかほとんど分からない。
その為に車長が周囲を監視し、的確に指示をすれば良いのだが、当時の技術ではその為に必要な努力は人間の限界を超えていた。
結局周りが見えずに鈍重な歩みで敵の位置も捕捉出来ないまま反撃に遭うのが常態となった為に廃れたのが多砲塔戦車である。
だが現代技術はそれらを克服する技術を獲得していたのだ。
高度に進化した自動装填装置と自動照準装置、周囲の敵を捕捉する為の対人対車両レーダーにレーザー照準装置に監視カメラ群、そしてそれらを統合制御するコンピューターによって、搭乗する人数は通常の戦車と同人数の三人に抑えられている。
大戦期ならば射撃の為には車両を停止させなければならなかったが、現代では安定した射撃装置によって走行しながらの射撃が普通に行われている。
戦闘前や戦闘中に車長がコンピューターに設定した多数の目標に向かって、個別に制御された多数の砲塔の中から最適な物による攻撃を行う事が可能になっていた。
もっとも、あくまでも対歩兵戦闘用の小口径の砲と機関砲しか積まれていないので、現代戦では使い所の少ない、魔王の軍勢との戦闘にしか使えない欠陥兵器なのだが。
それはともかく、車体の各所に配置された機関砲塔は個別に設定された目標に向かって指向し、一斉に射撃を開始、撃破すると次々に目標を変更し瞬く間に用意された30個の目標は撃破された。
第二次世界大戦の頃より、対空戦闘用の機関砲や高射砲を地上に向けて射撃する戦法が陸上戦力に対して多大な戦果を挙げる事があるが、目の前で行われた演習はそれを効率的に向上させた物であった。
白煙が上がる演習場では観客達がその威力に驚き、絶句する者、口をあんぐりと開けっ放しにする者が多く見られ、特に王国関係者に多く存在していた。
「す、凄かったねぇ。バリバリバリバリーッ、ドカドカドカーンだって、これがあれば魔王の軍勢も恐るるに足らず、って事じゃないの?」
「いや、俺も予想外だったけど。機関砲じゃ数を倒すには向いてると思うけど、上級魔族には効かないみたいだし、そもそも魔女娘とかの対策にはならないっしょ。今回のお披露目は白き悪魔とかの対処法だった筈だし」
ゾハラの言葉に陽介は反論するが、ゾハラは直ぐに気が付いた事を口にした。
「え? 冊子には対魔王軍用の最新試作兵器のお披露目って書いてあったよ」
「真剣でか? ちょっと見せて……あ、本当だ。なんだかコッパズカシいんだけど。~って日本語版と書いてある事が違うじゃん」
「そうなの?」
陽介はやり場のない恥ずかしさに赤面していたが、次のチームがISDBである事を聞くと直ぐに立ち直ってオペラグラスで細部まで確認しようと目を皿のようにして建て屋の中に向けて視線を向けた。
次に出て来たのは兵員輸送車(APC)である。
装輪式のAPCは目の前まで来ると停車し、後部ハッチを開放した。
途端に中から六つの人影が飛び出して来て、周囲に小銃を向けながら周囲の警戒を始めた。
その人影は小柄で、中学生位の女子の様な体格をしている。
身につけている戦闘服はうっすらとした緑色をしていたが、よくよく見ると通常の普通科隊員が装備している形とは大幅に違って見えた。
レオタードの様に身体にピッタリとした素材であり、身体にピッタリしていてラインがハッキリ見えるからこそ『彼女達』が人間ではない事を物語っていた。
髪型は肩胛骨程まで伸びており大まかに結われ、顔はあどけない少女を象っており、首筋はスラリと、肩幅は広過ぎず、胸部装甲は何となく有る気がする程度、体重を支える為か腰部は幅広く、腕部と脚部はホッソリとしているが付け根にリング状のアタッチメントが見えている。
色々とバリエーションがあるのか、殆どレオタード状の物だけを着けている者もいれば、如何にもロボっ娘的な装甲やスラスター状の装備を装着している者まで様々である。
要するに陽介に届けられていたデッサン人形の様な簡素化されたデザインは何処に消えたのか、と問い正したくなる代物であった。
だが、最大の特徴は腰部に付けられた大きなリボン状の存在だろう。
和服の袋帯の様にも見えるそれにはハードポイントが付き、数名の物からは副腕である小型のアームが伸びていて重量のある装備や銃器が装備されている。
彼女達は周囲を警戒し終えると標的の有る方向へと姿勢を低くしたまま接近し、障害物の陰に身を潜ませる。
直ぐにAPCから大振りな重装甲服、と言うよりはもはや倍力軽装甲服と読んだ方が良い様な装備に身を包んだ普通科隊員がふたり出て来た。
迷彩柄が施されている重装甲服のふたりは小銃を構えながらISDBの情報から近隣の情報を得ていた為に迷う事無く遮蔽物の陰へと隠れる。
重装甲服を着込んだ隊長は、専用の指揮装置が組み込まれたヘルメットの内部に装備されているHMDに表示されたマークに視線で敵味方を識別印印可すると突撃攻撃隊形準備を指示する。
若干距離が有る為に、六体の内の三体に四足歩行を指示し、残り三体に支援攻撃を指示した。
四足歩行での突撃攻撃を割り振られた三体は突撃銃を腰の副腕に装備させて、手を地面に当てて、膝を着けずに四つ這いの姿勢になった。
この時、人間の構造上障害になるのは首と頭の位置によって視界が水平より上にならないと言う事だ。
人間に出来る対応としては首を思いっきり上に上げるしかない訳だが、生物ですらないISDBは補助入力デバイスであるカチューシャや補助腕部のカメラを用いることで顔を地面に向けたまま前を見る事が可能である。
しかしその状態であっても、副椀によって前方へ小銃は向けられており戦闘は可能だった。
標的から隠れた位置で準備を整えると、指揮官がGo サインを出す。
支援攻撃役の三体が障害物より身を乗り出して小銃を乱射し、敵の攻撃を封じたタイミングで突撃役の三体がクラウチングスタートを連続して行う様な動作で駆け出し、あっと言う間に標的に肉薄する。
腰の副腕で構えた小銃が三点バーストで火を噴き、標的をズタズタに破壊した。
直ぐに援護射撃は停止し、回り込んだISDB3体は立ち上がりつつ小銃を主腕に持ち替えて標的が再起動しないか警戒している。
何しろファンタジー世界では倒された対象がゾンビー化して襲い掛かって来る事例も存在していたので、その手の反応を組み込んだ警戒行動も必要だったのだ。
最後に指揮官が敵の状態を把握して、状況は終了になった。
いままで黙ってそれを見ていたゾハラが口を開く。
「あれが陽介が作ったゴーレムなんだ」
「アイデアだけだけどな。機械で人間を再現するのは凄く難しいんだけど、この世界のゴーレムとか機械人形は器用に動くから、日本の材料とか技術を使えば凄い物が作れるんじゃないかって思ってさ」
「ふーん、でも機械にするならゴーレムじゃなくて機械人形の方が良かったんじゃないの?」
ゾハラはこの国で普及している魔法の人形の2種類を揚げてみた。
確かに完全に魔法によって構築されているゴーレムと、機械の部品を組み合わせて作り上げられ機械人形では機械人形の方が科学的に再現し易そうだと思える。
だが、陽介は頭を掻きながらゾハラの疑問に答えた、それは陽介が科学の目から見てどうしても克服出来なかったオカルト的な原理が原因だったのだ。
「あー、それなんだけど、どうして機械人形が動くのか全く理解できないから応用のしようがなかった」
「ゴーレムは?」
「原理は分からない、でも身体が制御出来るなら筋肉を模したゴーレムで作った人工筋肉も制御出来るはず、そして身体の制御核を量産出来れば行けるって思った」
「機械人形も同じ様なものじゃないの?」
「あっちは全体で一つの完成形になっているから弄くれないんだよ。機械人形の皮膚の下には螺子と歯車と発条がぎっしりと詰め込まれていて、発条が巻かれると歯車が回って身体が動くんだけど、どうやって制御しているのかサッパリ分かんないし」
「お伽噺でダンジョンの主の機械人形に追い込まれた勇者が投げた羽根が機械人形の鼻から入って、歯車が一個壊れた所為で動きが止まって絶体絶命のピンチから逃れられたって云う展開は定番だし。機械人形は全体で一つの精密機械だから、ふうむ確かに分からないか」
詳しい事は分からないが、とにかく複雑過ぎて理解が及ばないという事を理解したゾハラは、陽介が不満を持っていた様に語った事と実際に見た物が異なっていた事に疑問が浮かんだ。
「そう言えば、あのゴーレム娘達」
「ISDB」
「そのISDBだけど、確かのっぺらぼうになるんじゃなかったの?」
「うーん、それは俺も気になったんだけど、何で元に戻ったんだろうか」
「それは視覚心理戦を考慮した結果ですよ」
突然後ろの席から話に割って入ったのは、如何にも科学者らしく白衣に身を包んだ眼鏡の青年だった。
突然声が聞こえてきたのでギョッとしてその青年を凝視してしまう二人だったが、陽介はそれが誰か判別すると苦笑を浮かべて挨拶を交わす。
「こんにちは、ご無沙汰してます。楠木敬太郎さん」
「結局、最初のコンセプトに戻っちゃいました。兵器に表情は不必要だと思っていたのですが」
「味方からすれば無表情で黙々と敵を倒したのと同じ表情で隣に立っていたり飯を作ったりされたら不気味に感じるかもって思いましたから。あ、ゾハラ、こちらがISDBの開発主任の楠木さん、それでこちらのセントール族の子がゾハラです」
我が意を得たりとばかりに陽介は意気高くなり、揚々と自説を述べた。
だが、自分の連れのゾハラと急に現れた楠木の間に面識がない事を思いだし、それぞれに相手の事を紹介した。
「これはどうも、国立科学研究所の楠木です。よろしく」
「あ、私はセントール族ゾハルの娘ゾハラです。で、視覚心理戦てなんですか?」
「はい、味方に対する心理的緩和策と敵魔族の嗜虐性刺激策を兼ねた頭部形状の造作と表情の作成の事ですね」
「??」
ゾハラは楠木の難しい言い回しに理解が追いつかず、疑問符を顔に張り付けた様な表情を浮かべる。
それを見て苦笑を浮かべた楠木は、一般向けのプレゼンテーションを思い出しながら分かり易く説明を試みた。
この際、専門的な正確さは必要とされない。
「分かり易く云うと、強力な力を持つ『人間以外』が共に戦う場合、何の表情もない存在と笑顔をした存在では掛かるストレスが違ってきます。また、魔族という存在は老若男女の内、若い相手、幼い相手、そして男性よりも女性に嗜虐性を抱く傾向があると分かりました。そこでISDBの頭部形状を女性を模した物にすれば敵を引きつける事が期待出来るのです」
「つまり見た目で敵味方に与える影響を考えるって事?」
「はい、古の哲学者ピットス・エージンは云いました。『可愛いは正義』『可愛いから許す』『人は若くて可愛い娘に弱い』、工業製品を作るには人間工学を設計に取り入れなければなりません。今回も駆動する人型機械という点ではのっぺらぼうなデッサン人形が最適なのは確かなのですが、実際に現場で使える物は人の形状を模した物であった、という事が分かったのです。更に云うと胸の形状はアレ以上大きいと味方に与える悪影響が大きく敵に対する効果が低いと判断されました。何事も適材適所だと云うことですね」
「なるほどー。実に納得の行く事ですねー」
色々と抜けはあるだろうが、ゾハラが納得したと宣言したので今度は陽介の疑問点を楠木にぶつけてみた。
「楠木さん、ISDBの装備なんですがエム……じゃなくてロボっ娘っぽいのが見受けられたのですが」
「ああ、まあ、簡単に云えば趣味ですね」
「趣味ですか、じゃあ仕方がないですね」
「まったくです」
うんうんと頷く陽介と楠木を見て、やはり異世界人は変わっているなと改めて思うゾハラであった。




