第16話 遠方より来たる
何を書こうか迷いながら書いていたら、前半はただの設定話になってしまいました。
後半から普通に話を進めています。
異空戦騎パラレルワールド大競争
第16話 遠方より来たる
自衛隊の参戦により北方戦線を押し戻し始めたアクアマンデ王国は魔王の軍勢を撃退した戦勝気分に浸っていた。
だが、PKF参加国の合同会議は荒れていた。
戦場に於いては魔女娘と云うドラゴンよりも強い兵士を確認し、それに対する対抗策が少なく。
政治に於いてはアメリカ合衆国による異世界開拓宣言が問題視されていた。
はっきり言ってアメリカと日本ではアクアマンデ王国に対する干渉の度合いが異なっていたのだ。
日本は過度の干渉を控えて王国に請われた分野に関しての支援を行っていたのだが、アメリカの方は、むしろ植民地化でもするのかと云う勢いでアメリカ政府は干渉を行っていた。
PKFに参加したヨーロッパ諸国は植民地の宗主国であった経験からアメリカのやり方に好意的であり、我々に主導権を握らせろと日本政府に圧力を掛けてくる程である。
アメリカの行っている物は次のようなやり方になっている。
軍事力は通常兵器による陸空軍の派遣とB52H爆撃機とB2爆撃機による核兵器を含めた戦略空軍の派遣が実施されていた。
政治的には食料援助の名の下に大量の玉蜀黍粉や小麦粉を格安で王国の市場に流していた。
宗教的にはキリスト教の宣教師が従軍牧師を名目に王国内部で大々的に布教を始めていた。
もっともここ迄はアメリカ政府による地球の諸国家に対するプロパガンダであり、不都合な点は黙殺されている。
実際には様々な問題が発生しており、その対処に追われていたのだ。
始めに布教を目的に入国した宣教師達の活動によって、好意的な目を持っていた王国の人間にキリスト教は受け入れられ始めていた。
だが、人間しか居ない世界に特化した宗教がホモ・サピエンス以外の人間種の居る世界に適応するのは難しく、当の宣教師自身が頭部に角がある山羊や羊や牛の特徴を持つ獣人族の人間を悪魔の化身と呼んで迫害し、民族浄化を試みた事を機に王国内の異人種毎の対立が激化していた。
現在の王都の一部では一時期のサラエボもかくやと言う状況である。
それでも王国を救ってくれたアメリカに期待した国民たちはキリスト教を受け入れ始めており牧師が開いた教会へと足を運ぶようになっていた。
それと共にこの地に根付いていた神々に対する信仰は薄れて来ており、神官達こそ頑強に抵抗していたが王国に対する加護の力が薄れて来ているのは事実である。
食料援助であるが、大量に持ち込まれた食料により魔王の軍勢によって焼け出された避難民の飢餓がなくなり、犯罪に走る難民が減った事で治安の回復が為され、パンの値段が下がった国民は喝采を上げた。
だが小麦の値段が一割程度にまで下落した影響により、農村ではそれまで商人に売り払っていた通常の価格では小麦が売れなくなり現金収入が絶たれた。
食糧の自給こそ問題は無かったのだが、現金がないと税金も払えず、必要必需品の購入が出来ずに生活が立ち行かなくなり、村を離れて流民となる者が多発した。
領主も金にならない農地を抱えていても損害が増えるばかりであり対応に苦慮していたのだが、アメリカのアグリビジネスのメジャー企業が特殊部隊の護衛を引き連れ、現金を抱えて領主の元を訪れていた。
目的は農地の取得である。
アメリカ式の機械化された大規模農場をこの地に開拓する事で生産された食物を地球世界に運び、だぶつく程の小麦を武器に地球世界の小麦市場を始めとする食料市場を支配する事を最終目的としていた。
領主にも税金が入り、両者とも損はない取引である。
もともとこの地で農民をしていた者達には酷い話だが、勝手に土地を捨てて流民となったのが悪いと一刀両断である。
その時点でも農地を耕していた農民に対してはどうしても人手が居る酪農分野の農場にて雇用する事としていた。
農場経営には地球世界から開拓者としてこの世界に入植した人間を当てる事によって、教育の手間を省き経営者に対する敵対を防ぐ事として、移民による開拓事業を押し進める計画である。
そして軍事分野だが、アメリカがイラク占領によって民間人に対する警戒を強めている事は知られているが、このアクアマンデ王国でも不審な行動をする人間は容赦なく射殺処理された。
元々アメリカでは自宅の玄関先に身元不明の人間が立っていたら射殺しても正当防衛として認められる事がある程度には銃器社会である。
ましてや未知の国で明らかに人間と違う種族の人間が知らない言葉で声を掛けたら、危険と判断して射殺するのも、そう言う習慣がある国ならあり得るかもしれない。
確かにこの世界には手作り爆弾などと云う物騒な代物は存在しないが、代わりに魔法がある。
それを見つけるのは爆弾を見つける事よりも困難で、宗教的な恐怖から過剰なまでに苛烈な警備体制を取ってしまっていた。
その様な情勢であったが、アメリカ政府によって発表されている情報は非常に好調であり、それを知ったPKF諸国も同様の手段に出なければ損害が出ると日本政府をつついてくるのだ。
何しろPKF各国で外交官を派遣出来るのは日本政府のみと決められており、何事にも慎重な日本政府が後の世に避難される様な行動を採る可能性は低かった。
となると各国はアメリカ寄りに立場を変え始める者も出て来たのである。
やはり勝ち馬に乗るのは国際社会の基本であり、アメリカが北南米以外の各国を拒絶しなければPKFへ派遣した軍隊を撤収させた国も出て来たであろう事は予想出来た。
この時の地球では異世界ブームとでも云うべき社会現象が発生し、日本とアメリカのみにその回廊が開かれている事から自分の国に回廊が発生しなかった先進諸国の間には不満が溜まっていたのは事実だった。
さて、この時期はPKFによる反撃作戦が成功し、アクアマンデ王国でもPKF各国でも戦場に関する関心が絶頂を迎えていたのだが、長田陽介は子育て戦争に参戦していて、それ所ではなかったのだった。
実際の所、彼の出番は日本政府が出張って来て自らの機関が動き出すまでの事前準備までしか手を出す事が出来なかった。
やはり官僚としては既に移民して現地の人間になっているとは云え、自省庁以外の人間に手柄を渡すというのは受け入れ難かったし、専門知識がない素人にウロチョロされるのは明確に迷惑だった。
アクアマンデ王国としても次世代の女王達の父親が政治的権力を持つのは不都合であった為、言わば窓際族的立場に置かれていたのだ。
王国の官僚、貴族達にしてみれば趣味でも持って小遣い暮らしをしていて貰うのが理想的な事である。
とは言え、今まで日本との交易でアドバンテージを取れる品目である雷力石や機械化ゴーレムの開発に手を着けているだけに、手を出すなとも言えない。
そう言う両者の思惑が合意に至ったのか、現在は役目を与えられる事もなく家庭に引きこもり状態である。
実際は勇者の手下としての拠点になっている為、現場サイドの人間から色々と相談事を持ち込まれてはいるのだが。
王都カーリヤにある長田陽介の屋敷に陽介は居た。
大ユグドラシル大陸に於ける魔王の侵攻に対して、地球の国連安保理決議によるPKF参戦から既に3ヶ月が経過していた。
現在は王籍から抜けているとは云え、グウェンディロンが王家の人間である以上子育ては専門の乳母チームに任せるのがしきたりであるが、陽介から日本の皇太子妃が子供を育てる時に伝統に従い乳母に任せるのではなく自らの手で育てたと言う事を聞き、乳母にも手伝って貰うが自分も子育てに参加すると決めていた。
実際は双子であった為に乳母の手を借りてもてんてこ舞いであり、陽介も度々手伝っていた。
父親として当然の事だと嘯いてはいたが、実際夜泣きがダブルで来るとイラッとした気分になる事がしばしばあったし、正直憔悴する思いである。
更に現在はグウェンディロンが妊娠している事が判明し、悪阻等が襲ってきている為に陽介の負担も増しているのだが、社会人なのに仕事もしないで子育てに従事している自分を見て、就職難で四苦八苦していた自分や同期を思いだし、何て恵まれた状況に居るのだろうかと慰めている。
周りの王宮関係者からすると何て性能の良い王配なのだろうと評価は高い。
この国の貴族関係者達が連携し、その気になれば降嫁した王族の血を引く王を立てる事も出来るのだが、建国後三代目に王を立てた時に国内で反乱が起こり、神殿は対立し、天変地異まで発生したので、政治的にはタブーとなっている。
そうして陽介の日々は子育てをして、オムツ洗濯やその他雑用はメイドさん達によって行われているが、日々を過ごしていた。
そうしている間にも自衛隊の方では最大の敵戦力である魔女娘についての情報の収集と分析が行われていて対策が検討されている。
これまで接触した魔女娘の数は少なく、『白き悪魔』が一番データーが揃っていた。
それによると、彼女らは人族の魔法使いではなく魔女族と云う純然たる魔族であり人類種とは全く別の種族であるとされていた。
基本的に物質に依存しない文明を築いている為に物質文明をバカにして毛嫌いし、魔法文明が最高であり物質文明に生きる者は間違っているから悪魔のやり方で滅ぼし尽くす、と云うのが基本的な考え方らしい。
だが、魔法による防護は強固であり、対戦車地雷が足下で爆発しても耐えられるだけの能力を持っているのが厄介であった。
今までのアクアマンデ王国では、人間の魔法使いである魔法子女による遠距離攻撃での反撃を行っていたらしい。
これは体内にある(とされる)魔法器官の出力ピークがローティーンに訪れるのだが、技術が伴わない為に単純な魔法を発動させる魔法杖を用いて砲撃魔法に特化した魔法子女として兵役に付いていた事実がある。
だが、多国籍軍としては少年兵の存在を認める訳には行かないので現在までの所では参戦の事実はない。
その代わりに接近戦、格闘戦に於いては魔法技術を活用した武具を着用した騎士や戦士の実力を認め始めており、一部では実験的に合同作戦や共同部隊を実戦参加させてもいた。
その様な状況の下、戦線はオミスインフ公国の北部まで押し返しており現在は逆侵攻に備えての戦力の再編成に時間を割いていた。
既に安全圏に入った公国の南部には難民の一部と農学の教授や農協の職員によって荒れ果てた田畑を化学肥料などを用いた科学的手法で快復させるべく派遣されており、最適な農法と種苗を格安で提供する予定である。
日本政府はこの時点に於いて既に様々な分野に対して対策を実施しており、陽介の活躍によるNAISEI的な展開は望むべくもなく、物語の盛り上がりに欠ける実に地味な存在と成りつつある主人公的存在であった。
それはさて置き、通廊が開かれてから5ヶ月が経過していた。
今までは自衛隊や多国籍軍、政府関係者に通廊使用を制限して来たが、マスコミや経済界の人間にも門戸を開放しはじめていた。
その中に二人ばかりの一般人が混ざっていた。
政府が仕立てた貨客船は大勢のマスコミ関係者と農業関係者や政府関係者の姿が目立ったが、何らかの役割を持った人間ばかりだった。
だが、その二人は目的はあったが役割は持たずに短い船旅の為に船室の一つに座っていた。
東京に在住の彼ら四十代の夫婦は上野駅からJR特急スーパーひたちに乗り、約二時間掛けて泉駅で下車しタクシーで小名浜港のいわき☆ららみゅうにて下車した。
「あなた、乗船所ってここで良いのよね?」
「分かんね。でもここに書いてあるのって観光フェリーじゃね? 誰か分からんかな。取り敢えず観光案内所で聞いてみっかね」
「観光案内所で分かんの?」
「それは聞いてみないと分からんね」
「もう、いい加減ね」
「仕方ない、タクシーの運ちゃんも知らなかったし、この書類にも書いてないんだもんな。とにかく集合時間まで2時間あるから探すしかないさ」
ふたりは場所を探すのに時間が掛かる事を覚悟していたが、観光案内所で場所は分かった。
やはり何人かがここに場所の確認に来ていたので既に何人か案内していたらしい。
関係者用のバスが港の第二埠頭から出ており、それに乗ると海に向かう橋があり、それを越えると埋め立て地を利用したポートアイランドになっていた。
あちら側の世界には未知の生物や細菌類が存在し、検疫が必要であったので、出来たばかりの埋め立て地を利用したのだ。
ポートアイランドには様々な物資が集結しており向こうに送られるのを待っていた、中には明らかに兵器が詰まったコンテナや外国語が記された貨物が多く、ここが世界中から別の世界へ繋がる最前線である事が雰囲気で分かる。
ここはショッピングモールが建つ予定であったのだが、その建築物を利用して事務所としていた。
もちろん各省庁や各国の事務所が集結している為に非常に雑然としており、初めて訪れる人間には分かりづらい状態である。
ふたりは何処に行ったら良いのか迷ったが、玄関近くにある案内所で聞く事にした。
「すいません、ちょっと聞いて良いですか?」
「はい、大丈夫です。何の御用でしょうか」
「えーと、この書類に書いてある場所に行きたいんだけど」
「ちょっと失礼します。外務省事務所ですね? それでしたら二階のF区画ですからそこのエスカレーターを上って正面に御座います」
「これはどうも、失礼しました。ありがとうございます」
「構いませんよ。お気を付けて」
二人は案内嬢に見送られてエスカレーターへと向かった。
「若い女の子にデレデレしちゃって」
「お前が聞けば良かったじゃないか。第一デレデレしていない」
「してたわ」
「してないわい。おっとここかな?」
二階に上ると壁際にデスクがズラズラと並んでおり、各区画がパーティションで区切られていた。
云われた通り正面に向かうと外務省出張事務所と書かれたカウンターがあり、数人のお堅い格好をした数人が事務仕事している。
二人が近づき用件を言うと、カウンターにいた男性職員が奥の防音を兼ねたプレハブ小屋に連絡が行き、中から一人の女性職員が出て来た。
スーツを身に纏い、細身の体格をした女性であった。
「初めまして、私は外務省の花畑小梅参事官と申します。失礼ですがお二人は長田陽介さんのご両親でお間違えありませんか?」
「はい、父の長田祐介です」
「母の長田みどりです」
「パスポートのご用意は?」
「ええと、こちらで……す」
祐介はパスポートをしまった鞄を開けて中を探すが見あたらない事に一瞬パニック状態に陥り掛けた、もしも家に忘れてきていたりしたら……。
だが、内ポケットに入っている事を思い出すと冷静に二通のパスポートを取り出して花畑参事官に手渡した。
花畑はパスポートの内容を一瞥し、トラブルを起こした形跡がない事を確認すると二人に返却した。
勿論、招待する以前に彼らの経歴は洗ってあり何のバックボーンもない一般人であり、本物である事も確認は取った。
「ありがとうございます。取り敢えずですが、現状を確認しますね。例の各国首脳神隠し事件の一年後に長田陽介さんもまた消息不明の行方不明となりました。前田元総理の地球世界帰還後に長田陽介さんの生存が確認されたと。それで異世界との国交樹立の際に外務省職員が現地にて確認を取った所、本人である可能性が非常に高い事が判明しました。残念ながら我々の世界の人間が向こうの世界への行き来が可能であるにも関わらず、向こうの人間はこちら側へと来る事が不可能である事が実験により確認されました。前田元総理は行き来が可能なのですが、長田陽介さんは現地の人間として識別されているらしく日本に帰還する事が不可能である事も確認されました」
「それって確実なんですか?」
陽介の父である祐介が確認を取る。
正直言って異世界と云う物ですら今までは映画の中でしか存在しない物であったのだが、それが実在する上に行方不明になった息子がそこにいるというのだ。
正直言って何らかの事件に巻き込まれて行方不明であると云うよりは生きている事が判明しただけでも喜ばしい事なのだが、何故に日本に帰って来れないのか。
向こうで生活の基盤を作ってしまって帰れないと云うのならば強引に説得してでも連れ帰る決意をしていた。
気持ちは良く分かるのだ、祐介も若い時分にはグァムで日本人相手の観光インストラクターをして外国生活を楽しんでいたし、嫁さんも遊びに来ていた女子大生だったみどりと知り合って付き合いだしたのが切っ掛けだったのだから。
だが、子供が出来て日本に戻ってきてから苦労して真面目に働いて、華やかしさが無くともそれが大事な事だと分かって来たのだ。
だが、物理的に不可能だと云われてはどうしようもないではないではないか。
どうにかならないのだろうか、そう祐介は思っていたが。
「残念な事ですが、今の状態での次元通廊の通行は不可能となっています。もしも彼が通ろうとすれば船から一人だけ水中に落ちるか、次元の狭間に消えるかですね」
「あら、あの子五百メートルしか泳げないんじゃなかったかしら。心配だわ」
「いや、そう云う事じゃないからね」
どうにもならなかった。
そしてその場で諸注意を受けて貨客船に乗り込んだ。
諸注意と云っても自然公園に立ち入った時と大して違いはないが、その土地独自の生物を地球に持ち帰ってはならない等の生物的な制約と現地は戦争状態なので治安は日本ほど宜しくないと云う注意だったが、日本ほど治安が良い場所なんて地球でも南極ぐらいしかないので比較の問題に過ぎないのだが。
貨客船は沖防と呼ばれる防波堤の内側にあり、現在沖防内の海域をフェンスとエアーフェンスで取り囲む工事が急ピッチで行われていた。
ここ最近、異世界由来と思われる正体不明の生物が小名浜湾内で発見されており、アクアマリンふくしまでは生物種の特定作業に大わらわとなっていた。
どうやら次元通廊で繋がった水を介して生物が行き来しているらしく知能を持たない生物種が往来しているようだった。
ただ、向こうの表層は淡水なので、近くの小川か藤原川に集まる傾向が見られたが、海水耐性のある生物も多いので帰化生物特別監視区域と云う事で緊急予算を組んで、工事を急いでいるらしい。
お陰で湾内での釣りが禁止されてしまった、どんな毒種生物が紛れているのか不明だからだ。
さて、船自体は極普通の装備で次元の海を渡る為の次元バリアー等のSF的な装備はされていない。
まるで湾内観光にでも出るかの様な気楽な感じで湾内の次元通廊へと向かい、突入した。
僅か30秒ほどで向こう側へと出た。
非常にあっけない感じだが、通廊内の次元壁はプラズマ状の散光が遷移しながら発せられていて、例を上げると支障があるのだが、例のタイムマシンで時を移動している最中に見える光景に似ている。○ラ○も○じゃない奴で。
こちらの海は非常に穏やかであった、内海だからだろう。
次元通廊内では室内待機を指示されていたが、既に指示は解除され、ふたりは甲板の上に立って周りを見ていた。
海上から見える景色は非常に見晴らしが良く、澄んだ空気ならば何処までも見渡せそうだった。
実際、惑星サイズの丸みがない限りなく平坦なこの世界では水平線などと云う物が事実上存在しない。
何処までも続く風光明媚な風景は正に絶景だった。
海外旅行に何度も出かけている長田夫妻でも他に類の見ない素晴らしい景色に酔いしれており、舳先が進入禁止でもなければ『氷山で沈んだ大型客船』ごっこでもしそうな雰囲気だ。
天辺に存在するお天道様は燦々と輝き、全てを明るく照らし出している。
船が半島の付け根に向かって進み出すと、人ぐらいの大きさの大型海洋生物が水中を併走しているのが見受けられる。
祐介はそれを見てイルカがじゃれながら併走しているのだろうと思った。太平洋の観光船では良くある光景だったからだ、なので海の中を指さしながらみどりに言った。
「見てごらん、海の中にイルカがいるよ」
「まあ、可愛らしいわねぇ。ジャンプとかしないかしら」
「曲芸が仕込まれている訳じゃないし、顔を見せる位じゃないかな」
「えー、見たいなぁ」
「ジャンプしてくれたら御の字って思うしかないね」
「おーい、イルカくーん♪」
それを見てみどりは興奮したのか、海面に向かって手を振った。
それを見て反応した訳では無いのだが、水中をグングンと凄まじいスピードで泳ぎ続けるそれは、息継ぎの為かハシャいでいたのか大きく空中にジャンプした。
飛距離で言えば30メートルほど、高さで言えば10メートル近くの大ジャンプだ。
彼女は甲板の上で手を振るニンゲンを見て笑顔を浮かべるとブンブンと手を振り回して空中で一回転、飛沫の飛ばない見事な着水を披露した。
「凄く人懐こいイルカだったわねー」
「いや、どう見てもイルカじゃなくて人魚だろ? ……すっごくファンタジーな世界だな、ここは。うん、良い光景だった」
「……ブラジャーしていなかったものねぇ。あなた」
「凄くファンタジーだったな。抓繰るな、痛いよ」
祐介が絶句しているとしばらくして船は港に着いた。
王都の平民街の外に開港されているこの港は普段の異世界人が王都に用事がある場合に使用されている物である。
軍事関係は直接駐屯地の方へと向かうので、ここでは政府関係者等が降りるのだ。
日本政府の税関が暫定的に管理を行っていて、後にアクアマンデ王国が入管用の監視機器の取り扱いに慣れ、放射線技師の資格を取ったら順次王国に管理を委ねる予定である。
さて、異国情緒溢れる税関を潜り、建て屋前の広場に出ると小型の四輪駆動車が待っていた。
花畑参事官と共に乗り込むと馬車や荷馬車がのんびり走る街道を北に、王城に向かって走り出す。
とは言え、それほど早く走る乗り物に慣れていない都民に配慮してのろのろ運転を敢行中であるが。
白い壁にオレンジ色の屋根が続く下町を駆け巡り、王都の貴族街へと入る。
長いトンネルを潜ると、先程までの開放的な明るい町並みから一転して黒い建物が建ち並ぶシックな雰囲気の街になった。
道を歩くのもメイド姿の女性か執事姿の男性ばかりで、その他には荷物を積んだ荷馬車がチラホラと見かける位である。
住民である貴族は基本的に馬車を利用しているので道を歩くと言う事は少ないのだ。
半島という立地の所為か道幅一杯まで建物が迫っている町並みの中で珍しく壁が張り巡らされている屋敷があった。
一階は日本の建築業者が手を入れたのかガラス張りの事務所になっていたが、二階以上は随分と立派な作りのお屋敷である。
ふたりは思わずその建物を見つめてしまうが、四輪駆動車はその塀に開いた門から中に入ってしまう。
それを見て、祐介はここが日本の外務省が借りた領事館なのだと推察した。
ここで陽介と面談を行うのだと考えたのだ。
推察は、後者は合っていたが前者は間違っていた。
一階の事務所にいた受付の女性に花畑参事官が用件を告げると、その事務員は驚いた顔でマジマジと二人の顔を見つめると、直ぐに奥の階段へと小走りで走っていった。
どう見ても日本人ではないな、と祐介は思ったが外国人を領事館で雇用する事もあった筈と気にしなかった。
しばらくその場で待っていると奥の階段からドタドタと足音が聞こえ、何事かと顔を向けると随分と質の良い服を着た息子、陽介が驚いた顔をして二人を見つめていた。
「親父? おっ母さん?」
「よ、よう、陽介、随分と久し振りだな、元気だったか?」
「え、あ、うん。お陰で病気一つしていないけど」
「うむうむ、流石我が息子、身体だけは丈夫だな」
「どういう意味だよ」
実に冷静そうに見える祐介に陽介は苦笑してしまったが、隣にいるみどりがいきなりポロリと涙をこぼしてしまった事で動揺する。
「陽介……」
「おっ母さん、お、元気だった?」
「心配したんだから。全くいきなり居なくなるなんてどういう積もりなの」
「どういう積もりも何も、俺もいきなり巻き込まれただけなんで」
「言い訳は良い訳! 親に心配を掛けさせるなんて!」
「そう言われても不可抗力だしさ」
うるうると泣き出したみどりに釣られて雰囲気が暗くなる。
それが伝染したのか陽介が抱える双子の赤ん坊達まで泣き出してしまった。
両耳元で泣かれると相乗効果でダメージが増える。
ヨシヨシ良い子だベロベロバー、等とやっていると祐介が質問してきた。
「今更何だが、その子達は? ベビーシッターでも始めたのか?」
「え、あーいやー、俺の娘達です。はい」
「そうかそうか、お前の娘達か……孫!?」
「孫です」
パチクリと不思議な物でも見るかの様に祐介はマジマジと双子達を見つめる。
その視線を感じ取ったのか泣いていた双子も祐介を見つめ返す。
怖ず怖ずと祐介が手を伸ばすと双子達はふにゃっと笑った。
突然訪れた感情の奔流に祐介は戸惑った。
『何だこれは、この如何ともし難い溢れてくる愛おしさは、これが、これがっ、これがぁっ!』
「これが、身体の奥底から沸き上がる様な激しく感情を揺さぶりながらも果てしのない平穏な気持ちになれる、これが孫と云う存在の持つ力なのかぁ~っ!!」
「ほらイイ子でちゅね~、オバアチャンですよぉ」
「あ、ずるい。私も抱っこしたい」
「はい、じゃあガイアちゃんを抱っこして下さいね。は~い、オジイチャンでしゅよ~」
いつの間にか双子のひとりを抱っこしている妻に柄もなく拗ねたのか、祐介がみどりに迫る。
だが幸いにも孫娘は二人もいる、みどりは自分が抱っこしているミルクの匂いをプンプンとさせたガイアを祐介の腕に手渡す。
途端に祐介は尖らせた唇を三日月の様に丸めてご機嫌の絶頂の笑顔を孫娘に向けた。
「おお、ガイアちゃんか。う~む、可愛いでちゅね~」
「親父、おっ母さん。すっかり爺バカと婆バカに」
その様子に陽介はすっかり毒気を抜かれて、二人の余りにもな態度に思わず呟いてしまった。
だが、陽介の呆れたような言葉を意にも介さずに祐介は笑い飛ばした。
「うははははっ何とでも言えこんなに可愛い子の前では霞んで消えるわ」
「おほほほほ、エマナちゃんも可愛いでしゅよ~♪ あ、それからこんな可愛い孫達を生んでくれたお嫁さんに会いたいわね」
もとよりその積もりでは有ったのだが、みどりの口調に何やら不穏当な物を感じたのも確かである。
「ああ、じゃあ取り敢えず三階の応接室に行って腰を落ち着けて貰おうかな。花畑さんもどうぞ」
「ええ、お邪魔するわね。プライベートに割り込むのも何だけど、言って置かなければならない事もありますし」
そうして階段を上り、三階のプライベートルームへと足を運んだ一同は応接室のソファーに座り込み、一息吐いた。
祐介達にしては短いながらも波乱に満ちた旅であったし、自らの血族が増えたという事実に喜びと共にショックも受けていたのだ。
と、そこへドアーがノックされて女性が顔を見せた。
彼女はお辞儀をしながら日本語で話しかける。
「旦那様、お」
「おお、君が息子の嫁か、うむ、溌剌として良いお嬢さんじゃないか」
「な、ち」
「あらあら、嬉しいですわ、不束者ですが、」
「我が屋敷のメイド長のエマさん、質の悪い冗談は止めて下さい。お茶をお願いしますね」
「まあまあ、それは残念です、奥様が妊娠なさっている今なら旦那様もムラムラが溜まって既成事実を作って下さるかと期待しましたのに」
「ありませんから、親父におっ母さん、こちらが家の屋敷のメイド長を勤めてくれているエマさんです」
「初めましてエマと申します。ご用件がございましたらいつでも申しつけ下さいませ」
「はは、これは丁寧に。って陽介、ここって外務省の領事館じゃないのか?」
「え? ああ、元は女王陛下から勇者の屋敷として前田元総理に貸し出していたんだけど、前田元総理が日本に帰還したから俺が借りた」
「借りたって、給料とか貰ってるのか?」
「え? えーと、屋敷の賃貸料金とかメイドさん達の賃金は王国が出してくれているし、生活費も王国から貰っているか・・・・・・あ、そうそう、ギルドに技術提供したからそちらから少し俺の方に入って来ているよ? あと雷力石の開発技術料金が結構入って来ているから日本政府からも貰ってるし」
「働いていないのか? うん?」
陽介の現状を聞いた祐介の瞳に剣呑な光が灯り始めた。
「いや、つい最近まで凄く忙しく働いていたんだよ? 大陸共通語と日本語を翻訳したり、自衛隊の基地の下見をしたり、海底の魚人族の集落に交渉に行ったり、鉱山資源の下見と確保に行ったり、ゴーレム式ロボットを開発したり。大変だったんだよ? ねえ、エマさん」
「私、一介のメイドですので分かりかねます」
「じゃあ、花畑さん」
「私は長田さんが働いている所を見た事はありませんね」
「うえ? いや、ちゃんと成果は出して来ていますしじゃん」
「目の前で働いている所は見た事ありませんですね?」
「いや、それは働いている場所が違うじゃんってか何だよ、俺ちゃんと働いてたじゃん、嫌がらせかよ」
「ほらー、陽介、親がそんなに声を荒げると子供が不安になっちゃうからダメだよー」
「むぐぐ……取り敢えず、雷力石から電磁誘導で電気を取り出す方法は日本の特許庁に連名で出願しているし、その内に周辺特許を開発されるだろうけど、無職じゃない」
「なるほどな。それで、お嫁さんはどうした?」
「あ、ああ。ちょっと体調不良で部屋に居るけど」
「あら、産後の肥立ちが悪くて?」
「いや、三人目を妊娠していて……」
「ほう、孫が増えるのは嬉しい事だが、体調を悪くしてまでと言うのはどうなんだ? 随分と早い様な気がするぞ」
「いや、前も悪阻が酷くてさ」
「ふーむ。それにしても今度は男の子が嬉しい所だな」
「えー……たぶん女の子だと。家系的に何百年も女の子しか生まれていないんだってさ」
「へぇ、そんなに遡れるお家の子なの? もしかして貴族的な?」
「あーっと、嫁さんが女王陛下の妹さんです」
「へー、じゃあこの子達は女王様の姪っ子なんだ。王位継承権とかあると大変ねぇ」
「この国は女系が王権を継承するから、今の所、第一位と第二位かな? 」
「え、何で?」
「女王陛下が結婚する気が無いから。仕事好きの上に女好きなんだ。出産なんかで政治から離れる気はないって言ってたし」
「それは、困ったもんだな。誰か意見する大臣とか居なかったのか?」
「居たけど……聞く気が無ければね。それに慣習によると一名の女王と数名の副女王は王配を共有して血統の散逸を慎むべしってなっているから、俺にそんな甲斐性は無い」
「おー、或る意味男のロマンだな」
「歴代の王配は40代までに腎虚が原因で衰弱死している人ばかりなんだけど」
「なるほど、文字通り人生の墓場だな」
「物理的にね」
そんな感じでワイワイと状況の報告とか雑談をしているとドアがノックされた。
「はい、どうぞ」
「失礼します」
そう言って入って来たのはグウェンディロンである。
随分と気合いの入った格好で、化粧も入念に仕込んであり、グッと魅力的な姿形である。
ふんわりと膨らんだドレスの裾を形を崩さずにスルスルと歩み寄り、祐介とみどりの前でスカートを摘みドレープを美しく見せながら挨拶を見せた。
「初めましてお義父さまお義母さま、私は長田陽介の妻となりましたグウェンディロン・ナガタと申します。不束者ではございますが、我が娘達、エマナ、ガイアと共に末永くお付き合い願います」
グウェンディロンの凛とした容姿は定まった視線により妙な迫力を伴った挨拶となってその場にいた者達を圧倒した。
だがひとり、それを物ともせずにニコニコ笑いながら挨拶を返した者が居る。
長田みどりである。
「あらあら、ご丁寧に、綺麗な娘さんねー。こんなに可愛い孫達を産んでくれたんだから当然よねー、うふふふふ」
「いえいえ、息子は母親に、娘は父親に似ると云う話もありますもの、私の娘達が可愛いとしたら父親の母親であるお義母さまに似たも同然、この子達が可愛いとしたらそれはお義母さまのお陰ですわ」
「まあまあ、そんなに煽てても飴ちゃん位しか出ませんよ。これどうぞ」
「ありがたく頂戴します。アラ美味しい」
「そうでしょう? 自分が特別な存在になった気分になるって有名なお菓子なんだから」
「これはとても素敵な甘味です。是非我が娘達が飴を舐められる様になったらご褒美として上げて貰うと良いかも知れませんね」
「でしょー?」
嫁姑の関係は何処の世界でも存在する、それを警戒していた陽介は和気藹々とした二人の雰囲気に安堵の息を漏らしたのだが。
「親父」
「何だ?」
「嫁さんと母親が衝突すんじゃないかと緊張していたんだけど、和気藹々としてホッとしたんだ」
「うむ」
「なのに何で冷や汗が引かないんだろうか」
「そうさな、お前の母親はああ見えてかなりのブリッコでな、俺も結婚して彼女の故郷に行くまで知らなかったんだが……」
「え、何かあったのか? そう言えばおっ母さんの実家に行ったこと無いけどさ」
「うむうむ、母さんは東京の大学に就学するまでは地元でな、県内最凶レディースのみどりと云えば泣く子が気絶すると云われていたらしくてな、彼女の故郷に行く度に尊敬の目と生け贄を見る目で見られて来たよ」
「へー、そう言えばグウェンディロンも結婚前までは神殿の姫巫女として勤めていたんだけど、戦闘訓練でダンジョンに籠もってモンスターやら盗賊やらをメイスで撲殺しまくっていたらしいからなー」
「ああ、じゃあ気が合うのかもな」
「なるほど」
「いいか? 先輩として言って置いてやる。夫婦喧嘩だけはするなよ。半殺しじゃ済まないからな」
「そう言えば小学生の時に親父が骨折したのって」
「止めろっ、思い出させるなっ、もう懲り懲りだよなんだようおーっ」
「親父、おやじーっ!」
陽介と祐介が久し振りの会話を楽しんでいるのを見てみどりはニコニコと微笑んだ。
「あらあら、久し振りに男同士で話したからハシャいじゃったのねー。秘密にして置いてって頼んでいたのになー、アハハ」
「お義母さまも、結構イケるみたいですね」
「アラアラ、アナタほどじゃないわよ。日本じゃ流石に全殺しは出来なかったしー、危険な動物が居るわけでも無かったから正当防衛ってのもねー、色々難しいったら」
「はあ、安全な世界だったんですね、地球って」
「どちらかって云うと日本て云う国だけだけどねー」
みどりとグウェンディロンは底冷えのする雰囲気を維持しながら和気藹々と会話を重ねる。
一見すると主婦同士の穏健な会話に過ぎないのだが。
さて、そうして会話を楽しんでいると夜も更けてきた。
伝令に出ていたゾハラが戻ってきてセントール族と云う進化樹の系統では獣人族よりも人族から離れた種族に驚かれたり、二階の広間でパーティー形式で夕食を取っていたら女王陛下と末妹が顔を出したりと、随分賑やかな夜を過ごした。
二日目は翌朝から一日を掛けて陽介の現状説明と今後の見通しの検討を会議室にて執り行い。
三日目は王都周辺の観光である。
地球とは比べ物にならない程に豊かな自然に風光明媚な自然は世界を旅した長田夫妻にも好評を以て受け入れられた。
四日目は孫達との触れ合いと嫁に日本式の子育て方法の伝授をしたりと、中々忙しい日々であったが、五日目は日本に帰還する日となった。
港の埠頭で出航の銅鑼の音を聞きながら手を振り続ける息子夫婦を遠くになるまで眺めていたが、すっかり見えなくなると船室に戻った。
船室は外交官用の物で、長田夫妻の他には花畑参事官だけが座っていた。
ふたりは無言で椅子に座ると一息吐いてから花畑参事官を見つめた。
シーンとした空間が続き、暫くすると放送設備から次元通廊通過の知らせが聞こえてくる。
狭い丸窓の外はプラズマ状の輝きが覗き、散光が室内を照らし出す。
「まずは今回の訪問を企画して戴いて感謝します。 で? 戦況は悪いのかしら」
「特に悪くはないですよ? 戦線は押し戻してますし。二日目に説明した通りです」
「何故このタイミングで他の民間人には一切認められていない異世界訪問が認められたのか。勇者の関係者、ってだけじゃ無理よね」
「まぁ、そうですね」
「何が起こっているの?」
「国家機密です」
「(イラッ)」
「まぁ、言えるヒントだけでもお願いしますよ、お嬢さん」
みどりが花畑の態度と言葉に苛立ちを募らせている事に気づいた祐介はグァムでガイジンのネーチャンをナンパする時に使ったバタ臭い笑顔で懐柔に掛かる。
それに気付いたみどりも外に漏れ出す闘気を抑えつつ、そして自分以外のオンナに笑みを浮かべる祐介に刺々しい視線を向けた。
「これは、日本に帰ったら報道し始めていると思いますが、中華人民共和国では現在『第二次大躍進政策』と云う活動を行っています。実際は尖閣事件の直ぐ後から始まっていたのですが、竹のカーテンの向こう側で行われていた為、情報が入ってくるのが遅れてしまいました。この事も考えて争乱を起こして鎖国状態に入ったのでしたら深謀遠慮も良い所ですわね」
「大躍進政策、ですか?」
「ええ、太平洋戦争後に建国した中華人民共和国は国家主席である毛沢東の指導の元、都市に住む住民を農地へ強制移住させて開拓事業を始めたのです」
「はぁ、それがどう関係してくるのでしょうか」
「現在の中華人民共和国は人口抑制政策として一人っ子政策を続けていますが、一人しか子供を持てないとしたら産み分けや隠滅で男の子だけが増える傾向になりますよね」
「家は女の子も欲しかったなぁ」
「そうねぇ」
「特に中華人民共和国では既に男女比が自然界に於ける11対10の比率が大きく崩れており、深刻な嫁不足が発生しています。今まではそう言った余った男性はチベットやアフリカ諸国に送り込んで現地で中国人コミュニティーを作って現地経済と関与しない独立閉鎖された社会を作り、現地へはレイプ事件や盗難事件、リンチ事件を起こしたりと問題を外国へ輸出していたのですが、この度、異世界への切符を手に入れたようです」
「それは……」
「既に二億人の農村籍の男性達が人民服に着替えさせられ、簡単な武器と食料を持たされて異世界へと送り込まれている様です」
「二億人なんて、輸送するだけでも物理的に無理な気がしますけど」
「中華人民共和国では旧正月になると春運と云って一ヶ月で延べ36億人が移動する民族大移動がありますので、鉄道を活用するとそれ位は可能なようです」
「中国凄ぇ」
「全くですね。おそらく異世界番号AW-01Cのアクアマンデ王国は人海戦術で滅亡している可能性が高いと推測されています。そのまま魔王軍も人海戦術で圧倒して大陸の覇者となるでしょうね。それでも嫁の数が足りるかは微妙な所ですが」
「そんなに国民が減って国家として成り立つんですか?」
「日本だったら全人口を合わせても足りませんが、中華人民共和国では人が余って社会問題化していますので、これ幸いとばかりに人減らしをするんじゃないでしょうか。実際に中華人民共和国の人権意識の薄さはアムネスティーの報告に寄らなくても確かですし」
「中国が異世界へと進出しているのは分かりましたけど、それに何の関係があるのですか?」
「それに対しての結論はまだ出ていません。ですが、アメリカ、日本、中華人民共和国の関わった世界は何れもAW-01世界の可能性世界です。同じ世界なのです。恐らくは何処の世界かに確定してしまう可能性がある。そう言うことです」
「その何処かの世界がAW-01Bじゃなければ、どうなるんですかね?」
「最低限、次元通廊は消滅して行き来出来なくなるでしょう。その後、可能世界が存続するのか消滅するのか、私たちには観測出来なくなります。それは私達には消滅と同義です、が、彼らにとっては……どうなるのか私達には分かりません」
「折角可愛い孫がふたりともう少しでひとり生まれるというのに」
「人間にどうこう出来るものでは無いですからね」
「じゃあ神様にだったらどうこう出来るのが居るのかも知れませんね」
「神様なんて……あの世界にはいましたね……ふむ、確か神話によると高位次元生命体とか云う存在ではないようですが、何か関連があるとすれば……さっぱり分からない……専門家の先生に訊くしか……むう」




