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インターミッション 人型兵器開発計画

異空戦騎パラレルワールド大競争


 インターミッション 人型兵器開発計画


 陽介が地球に帰還する前田元総理大臣に渡したリストの中に、萌えキャラのガレージキットの完成品と戦闘ロボットの完動モデルがあったのは単なる趣味ではなく、冒険者で細々と暮らしていた時に思い付いた事が原因である。

 あの町の中心部には公園があり休日になると大道芸人が芸を競うのだが、その中に彼の興味を引く芸があった。

 その日、彼は小銭を握って町の外れにある下宿先からゾハラを連れて休日を楽しむべく公園に向かった。

 土の道を歩いて商店街を抜け、石畳が敷かれた公園に出る。

 公園の中心には小さいながらも噴水があって雰囲気に潤いを与えていた。

 ぽつぽつと小さな屋台も並び、人々は思うままに立ち食いをしたり並んだアクセサリーや小物を冷やかしたりして過ごしている。

 そしてそこかしこに銭を投げ入れる帽子を道に置いて楽器を演奏したり、猿回しの様な動物芸をしたり、ジャグリングをしたりしている姿が見えた。

 陽介はちょろっと横目で見て先に行く。

 対してゾハラは少しばかりジャグリングに興味があったようだが、少しばかり会いたい相手がいた陽介が先に行ってしまうので残念を残しながらも着いて歩いて行く。

 ♪デデンデンデン♪と太鼓を叩く音が聞こえて来たかと思うと、調子の良い口調で紡ぐ様に声が聞こえてきた。


「ハイハイ、寄ってらっしゃい見てらっしゃい、本邦初公開。遙か東の国から来訪したるはこの『紙芝居』、お代は見てのお楽しみだぁ」


 そう言う男は派手なジャケットを身にまといまるでチンドン屋の様な目立つ格好をしている。


「本日のお題目は『虚乳の味方ゴールデンパッド、他大陸の怪人退治』だよっ! 始まり始まりぃーっ! 」


 派手なジャケットを翻し、持って来た台の上に置いた四角い木の箱の中に入っている表紙の板を横から引き出した。。

 ババーンと迫力のある大判の絵には黄色い色で描かれた効果線が飛び出しており、マンガの様な効果を与えている。

 と云うよりも劇画風の絵柄を意識して描かれた絵物語であり、隣で紙芝居士が抑揚の効いた口調でゴールデンの活躍を面白可笑しく歌い上げる。

 この紙芝居をやっている青年、以前は吟遊詩人稼業を営んでいたのだが絵画にも一角の才があり絵師と吟遊詩人の両立に悩んでいた所、偶々縁があった陽介に絵物語と音楽を合わせたパフォーマンスである紙芝居の事を聞き及び試しに王国に伝わる艶話を描き上げて面白可笑しく上演したところ、通り掛かった民衆に大受けで吟遊詩人から鞍替えした人物である。

 以前は柔らかな物腰と怜悧な美貌で町の女性達に大人気だったのだが、今では『あんなに格好良かったのに』と云う目で見られていた。

 話が終わり陽介が銅貨を帽子に放り込み会釈をすると、紙芝居士もお返しにお辞儀を返してきた。

 とは言え今日の目的は紙芝居ではなかったのでそのまま先に行く。

 少し先にこれまた人気の多い大道芸を行っている芸人の出し物があった。

 陽介がそこで足を止めるとゾハラが不思議そうな声で聞いてくる。


「ヨースケ、これがそんなに不思議なの?」

「ああ、これは凄い。操り人形マリオネットは俺の国にもあったけど糸も使わずに操るなんて、まるでロボットだ」

「ロボット? ゴーレムや自動人形とは違うの?」

「ああ、原理は違うけど自律行動が出来るのは同じかな。ただ、こんなに器用に動かす事は出来ないんだよな」

「ふぅーん。陽介の国の方が駄目なんだ」

「魔法が出鱈目なんだよ。なんで呪文を掛けただけで人形がこんなに器用に動くんだっての。日本の技術者が泣くぞ」


 魔法の理不尽さに思わず陽介は最高の技術を用いて二足歩行型のロボットを研究開発している技術士達を不憫に思ってしまう。

 自動で稼働する小型のゴーレム達の劇は問題なく終わり、観客達から拍手喝采を貰っていた。


「ありがとうございます、有り難う御座います。私たちイセッドゴーレム店では小型ゴーレムや自動人形の展示販売、レンタル業務を行っておりますのでお急ぎでない方は是非ショールームの方へとお越し下さいませ。また、お持ちの小型ゴーレムや自動人形の下取りも行っております。ご不要の物が御座いましたらお持ち頂けると新品購入時に値引き額が上がるキャンペーンを実施しております、是非ご利用の程をお願い申しあげます。また、お気に入りの人形に術式を付与し小型のゴーレムへと改良する事も請け負っておりますので、是非ご検討の程を。イセッドゴーレム店でした」


 劇の後に進み出た店員が口上と共に宣伝をするが、既に慣れてしまっているのか、観客の関心は引けていない様だった。陽介を除いて。

 ガレージキットやプラモデルを作った事のある少年だった人には心当たりはないだろうか。

 自分の作ったプラモが思った通りに動く事を。

 陽介は俄然に興味を引かれた。

 彼はゾハラが袖を引くのを気にもせず、店員に突撃しゴーレム化作業の値段を尋ねる。

 基本的に女の子向けの人形が対象となる事が多いため店員は面食らったが、商人魂で冷静に値段を示した。

 高かった、陽介の手持ちの金では手を出す事が出来るような物ではなかったのだ。

 それに元となるガレキやプラモも無い、陽介はあっさりとその場を引いた。

 時は過ぎて勇者の帰還後の事、前田が持ち帰ったお土産の中には両親からの手紙や3Dデジカメ等の電気機器の他に、陽介が趣味で頼んでいた品々が数点入っていた。

 以前にゴーレム化加工する事を諦めた事を思い出しながら、陽介は美少女フィギュアと戦闘ロボットの可動モデルを握りしめて王都にあるゴーレム店へと駆け込んだ。

 女の子向けの人形を加工する事が多いため、ショーウィンドウは可憐な飾り付けが成されていたが、店内は人形作りの為の目玉やヘッドフィギュア、肉盛り道具や半完成品の肢体が飾られているシュールな光景が広がっていた。

 人形が苦手な人間には足を踏み入れる事を躊躇してしまう程に空気が重い。

 もっとも、並んでいる筐体を見る限り女の子向けの人形ばかりではなく作業用の土隷マッドゴーレムの核となる水晶核や巨大な鍬などの農作業用具が置いて有る事から、手広く仕事をしている事が伺える。

 カウンターには初老の男性店員が座って何やら加工作業を行っていた。


「こんにちは、相談したいのですが」

「お、済みません作業に夢中になっておりまして。ゴーレムの購入ですかな? 我がマスチキ・ゴーレム店はお客様を満足させる事の出来る製品をお約束いたしますぞ」

「ええ、と、ですね。この人形ふたつをゴーレム化して貰いたいのですが」

「ふむ、ちょいとお借りしても。おお、軽い素材ですな、それに随分と精緻な造りで。この素材は……」


 店員は手に持ったフィギュアを軽く握りながら何やら集中し始めた。

 もしも魔力を検知する事に優れた魔術師がいれば、彼が魔力をフィギュアに当てているのが分かったであろう。


「随分と魔力の通りと留まりが良い素材です。琥珀や大理石ほど優れては居ませんが、これならば随分と優れた機能を持たせることが可能だ……お客様、もし宜しければこの人形がどの遺跡で発掘されたものかお教え願いませんか? すぐにでも確保に赴きたいのですが」

「あ、えーと、それは合成樹脂って云いまして、俺の故郷で作っている量産品なんですけど」

「なんとっ! 是非っ! 手に入れたい。取り寄せは出来るのでしょうかな!?」


 老人の急なヒートアップに陽介は引き気味であるが、確認の意味も込めて提案する。


「店員さん、実際に加工出来るかどうか分からない訳ですし、まずはそれを確認してからでも。取り寄せなら出来ますし」

「ぅ分かりました。確かにそうですな。それと取り寄せの方は宜しく頼みましたぞ」

「あ、はい。それで加工賃の方なんですが」

「今回は私どもの試作品でもあります。それでお代を頂くことはこの店の名に掛けて出来兼ねますので。今回に限り結構で御座います」

「そうですか」


 陽介はあの値段を思い出したのかホッと息をつくが、次の瞬間店員が顔を近付けて念を押してくる。


「その代わり是非とも取り寄せの方を」

「あーハイハイ。大丈夫ですってば。そんなに顔を近付けないでくださいってば」


 押しの強い店員の様子に辟易し、軽い気持ちで陽介は確認の意を示す。

 ニカッと店員は笑い、ふたつのフィギュアをお盆の上に置いて軽く質問をする。


「こちらの角張った人形はそのままゴーレム化すれば宜しいとして、こちらの人形はいかがしましょう。人間と同じ様に稼働する様にしても宜しいのでしょうか」

「ええ、是非お願いします」

「分かりました。では一週間ほどで完成するかと思いますので、こちら預かり証です」


 店員が羊皮紙にスラスラとペンを走らせて預かり証を書き上げる。

 サインはモスバ・マスチキとある、カウンターの上の商業ギルドの営業許可証にも店長としてモスバ・マスチキとあるので目の前の老人が店長なのだろう。頭に残る赤毛が見た目はニワトリっぽい感じに見せているが、漂う雰囲気は闘鶏しゃもの様な鋭い雰囲気を匂わせている。

 もしかすると冒険者の職種でゴーレム使いが有る事から、以前はゴーレムを使って冒険者をやっていたのかもしれない。


「はい、では一週間後に」


 こうして陽介は意気揚々と屋敷に帰って一週間待った。

 仕事や私事で色々あった陽介だったが、何とかその日の内に抜け出してゴーレム店へと足を運んだ。少量の荷物を抱えてだが。

 店内に入ると店長のモスバがそわそわと立っており、陽介の顔を見るとニカニカと心からの笑顔を見せて歓迎した。


「お客様お待ちしておりましたぞ、さぁさぁ、こちらの応接室へどうぞ」

「あ、はぁ。失礼します」

「いやぁ、あの素材は実に良いですよ。家の者達も調子に乗ってしまいましてあの大きさのゴーレムには有り得ない程の改造をしてしまいました。あ、どうぞお座り下さい」

「失礼して、どっこいしょっと。ええと、大丈夫なんですか? お値段的に」

「左様ですな、正直言って値段的に見れば下町に家が買えるほどの金額が掛かりましたが」

「ガクブルですね」

「もうすっかり虜になりましたぞ。ではお披露目です」


 彼がローテーブルの片隅に置いてあるドールハウス型の箱を開くと、ハウスメイドの服を着た30センチ余りの人形とグレートマスター級の1/100スケールの量産型戦闘ロボットが立っていた。

 ジッと陽介は人形の方を見た。

 確か自分が渡したのは魔法少女物の服を着たロゼットシュタイン嬢のフィギュアだった筈。

 何故にメイド服を着ているのであろうか。

 戦闘ロボットの方は見た目はそのままだが。

 彼がジッとロゼットの顔を凝視していると、ロゼットは顔を赤らめて瞬きした。

 体はポーズ固定の様に動かなかったが、表情が変わるって云うのも……魔法技術すげぇーっと陽介は思わざるを得なかった。


『マスター、ソンナニ見ツメラレルト恥カシイデス』

「喋った」

「もちろん喋りますぞ。我が店自慢のオリジナルユニット『喋るのです』が入っていますからな。前もって入力して置いた状況に応じて出力します」

『拙者も喋れるで御座りますれば、殿、ご下命を』

「うひゃあっ! しゃ喋ったよぉ」


 量産型戦闘ロボットが敬礼をしながら言葉を喋ったので、予想外の出来事に陽介は驚きの余り声を漏らしてしまう。

 うくくく、とモスバは含み笑いをする。

 モスバの説明によると、最初は通常のゴーレムと同じように水晶核を入れようとしていたのだが、興に乗ったスタッフがより高性能なルビー核の試作品を倉庫から持ってきて搭載した為、色々と魔改造が行われたのだと云う。

 凄い事に日本の進んだロボット技術でも作れないような制御機構によって二足歩行で軽々と歩き出す。

 その動作は滑らかで、現在の日本のロボットよりも上だと云わざるを得ない。

 もちろん将来的には日本の科学技術もこの水準まで達するだろうが。

 この制御機構はルビー核にて行われていて、基本的な動作はそこに書き込まれているとの事、新たな動作も、動作と言葉で覚えさせられるというのだから大した物だった。

 折角だからと陽介は鞄から取り出した超小型のトイ・デジカメを取り出し、ロゼットに持たせると手に持った物はデジカメと云う物である事を記憶させた。

 デジカメの方向を記憶させてデジカメを撮ると云う時にどちらの方向へ向けてもこの部分が前に来るようにと記憶させる。

 次にデジカメを撮る時にはデジカメの上に位置するボタンを押すと言う事を記憶させた。

 一連の動作を順に行う様に作業を連結させて、モスバの顔を撮れと指示すると、トコトコと歩いたロゼットはデジカメのレンズをモスバに向けてボタンを押した。

 陽介はそれを貰い受けると小型のノートパソコンにUSBで繋ぎ、ファイルを確認するとモスバの怪訝な顔が映し出された。

 少しピンボケだがトイカメラなのでこれ以上は望めない。

 しかし、この新しい仕事を覚えさせる事でゴーレムと云う魔法技術の融通が利く事が分かったが、何故こんなに便利なのかは分からない。

 分からないけど、利用は出来る。

 それが応用技術という物だ。

 陽介はこの国に来て色々と思い付いたアイデアが有った。

 それは日本との繋がりが断たれていた時には単なる思いつきでしかなかったが、今回勇者が日本との間に異世界通廊を開設した事で実現に可能性が出てきた訳だが、それを実現するには色々としなければならない事が多い。

 まずは日本全国にある工学部のある大学と連絡と共同研究が出来る環境が必要な訳だが、こちらの人間は向こうの世界へ移動できない制約がある以上、向こうの世界の人間がこちらに来ないと魔法の研究が出来ないのだ。

 現在、王国内で豊富に電気が使用出来るのは駐屯地のみであるから、その周辺に研究施設を建設してから研究者を受け入れないとならない。

 これらの事をするにはお金が掛かる、予算が必要だ。

 と言う訳で予算を引き出すために自分で出来る簡単な事を始めてみたわけだった。


「あ、これが合成樹脂、レジンにエポキシパテにポリエステルパテ、二種類の素材を混ぜ合わせて固めるもので、これがプラパテで乾くと固まる奴ですね。シリコン樹脂で型を作った後に離型剤で剥がれ易くした後にレジンを流し込んで大まかな形を作りエポキシパテやポリエステルパテで形を整えるって感じですね。型も持ってきたんで使ってみて下さい」

「おお、これが合成樹脂ですか。使い方は・・・・・・」

「ああ、こちらに書いて置きましたんで、参考にして下さい。分量を間違えると固まらなかったりしますから要注意で。足りなくなったら書いてある住所までお願いしますね」

「色々と済みません。色々と使ってみます」

「使い心地とか、後で教えて下さいね」

「もちろんですとも」


 こうして地球側の素材を現地に流して魔法との相性を調べたり、逆にこちらの魔法金属のサンプルを日本に送って調べて貰ったりと色々と活動をし始めていた。


 そんなこんなで一ヶ月程が過ぎ、駐屯地の整備も進み自衛隊を始めとする多国籍軍が駐留し始めた頃、陽介の持ち込んだと或る魔法道具を使った軍事訓練が行われた。

 題して『南極大作戦』である。

 特に南極大陸とは関係はないのだが、陽介が命名した。

 訓練内容は自衛隊の普通科による家屋の制圧任務である。

 家屋は駐屯地、つまり旧プライベートビーチにあった旧離宮として閉鎖されていた屋敷である。

 以前に色々と王家がらみの事件があり使用されなくなっていたのを、この国の家屋としては大きめではあるが構造は一般的な石造りである事からアクアマンデ王国一般屋内戦闘の訓練に使用したものである。

 訓練では一番奥の部屋にある人形を確保して脱出する事を目的とした状況となっていた。

 目標の人形は某ダッチ○イフメイカーの少女型で右腕に赤いバンダナが結んであるのが目印だ。

 生死判定は銃器に取り付けたレーザーマーカーにて行い、フラッシュ手榴弾(訓練用)の使用も可である。

 最初の小隊は突入して五分後に全滅判定を受けて訓練家屋から出てきた。

 口々に『アレはないよなー』『ホラー屋敷かよ』等と不満を漏らしていたが、現にそれはあるという事で納得せざるを得なかったのだ。

 次の小隊は10分で、その次は7分で全滅判定である。

 全ての小隊の訓練が終わり、敵役の相手が目標家屋から顔を出してくる。

 先頭の少女は目標となった右腕にバンダナを結んだオランダ少女一号と言い、身長150センチと小柄で綺麗な顔立ちをしている。

 次に続くのは特徴はないが普通の顔立ちの少女でやはり身長150センチの体格であり、以下同じ顔と体格の10名がゾロゾロと続く。

 その次が身長30センチから50センチの愛玩人形と20センチ位の戦闘ロボットのプラモ達である。

 それらは一列に並ぶと全小隊が並ぶ前で礼をした。

 中隊長がマイクも使わずに大声量で全小隊に今回の訓練の総括を行った。


「全員今回は貴重な体験をしたと思う。これもこの世界ではあり得る事だ! 今回は敵情報を与えない状況で目標確保を指示したが、この異世界では常識を越えた状況が存在する事が分かった筈だ。よって慣れ親しんだ状況であっても同じ様な反応をするとは限らないので要注意が必要である事が身に染みて分かったかと思う。

 さて、今回敵として演習に加わって貰ったこれら人形はプロトタイプだが、用兵側の要求を容れて改良された後に、補助兵力として戦場に投入される予定である。諸君はこれらの戦力化に協力し、戦闘行動を記憶させ、戦場に於いての常識や行動規範を教育して貰いたい。戦いに役に立つのならば人としての行動に囚われない運用でも問題ない。又、改造点が必要と感じられたら報告書にして要望を上げるように。以上だ」

「中隊長に敬礼っ!」


 整列している隊員が号令と共に敬礼すると隊長は兵舎の方へと足早に歩いて行く。

 それを見送った隊員達には解散命令が出たが、人形達が目に入る場所で雑談を兼ねた情報交換が行われた。


「中隊長殿はご機嫌斜めだな」

「そりゃそうだろうぜ。部下が全員射殺判定じゃなぁ。俺だってこんな事になったのは許せないんだが。まさか最初の部屋に入ったら着飾ったお嬢様達とメイドさんがお茶会しているとは思わなかった。完全に不意を突かれたな」

「それで呆気に取られて意識がお嬢さん方に向いた所で天井に張り付いていたフランス人形が手榴弾を落としてジ・エンドだろ。どんな状況設定だっつーの、絶対捻くれ者の仕業だな」


 それを聞いていた二番目の訓練に参加した隊員が自分たちの状況を説明する。


「おう、第一小隊はそう云う状況だったのか。こっちは部屋に突入したら血塗れの部屋に赤いハンカチを左腕に着けた女性が俯せで倒れていたから警戒しながら近寄ったら部屋に飾ってあったフランス人形の包囲一斉射撃で半数がやられて退避しようとしたらロボットのプラモデルが銀玉鉄砲ぎんだまでっぽうをパンパンと、あっ火薬式の音の出る奴な、銀玉鉄砲で撃たれたの小学生の時以来だぜ。レーザーマーカーは付いてたけどな」


 銀玉鉄砲という懐かしい玩具の出現に苦笑しながら彼はそう言ったが、彼の脇に立っていた女性隊員(WAC)は不満そうに唇を尖らせて不平を口にする。


「えー? でも射撃が通用するなら良いじゃん。私の逃げ込んだ部屋なんか幽霊みたいなのが浮いてて命中判定がないんだよ、攻撃もされなかったけど。幽霊とか嫌いな子がひとりパニクっちゃってさ、乱射して同士討ちだよ。参っちゃうよね」

「へえ、そんな可愛げな子いたっけ?」

「鬼塚ちゃん」

「うげ、ミス・パーヘクトかよ。実質レンジャー相当の」

「鬼塚ちゃん、乙女で可愛いよ。最後にはへたり込んで、うへ~んって泣いちゃったし」

「あの凛々しい鬼塚陸士にその様な一面があったとは、驚愕の事実だな」

「でもさー、ああ云うのって反則だよねぇ。ちゃんと当たれっての」

「うーむ、お、人形さん達の世話役の人が来たみたいだし。聞いてみれば?」

「…………そーする」


 話を向けられたWACワックが魔法の人形へ向かって歩いてきた長田陽介に近寄り、顎を上げて少しばかり横柄に口を開いた。


「アンタさぁ、その子達の世話役な訳?」

「え、あ、はい。今回の訓練ではお世話になりました」

「でさぁ、アレ何な訳?」

「アレって云うと……アレ?」

「訓練で使った洋館で白くて実体のない奴、幾ら撃っても命中判定が無くてさぁ。あんなの反則って云うか」

「むむむ……もしかして洋館に入って左側の三つ目の部屋ですか?」

「そう、中々鍵が開かなくて苦労させられたけど、鍵を壊して入ったら変なフワフワした人形がいて撃っても命中判定が出なくてさ。ああ云うのはちょっとどうかって思って」

「へえ、開かずの間に入れたんですか。凄いですね。で、幽霊とか見たんですか?」

「幽霊? って幽霊!?」

「ええ、あそこの洋館は旧離宮として使われていたんですが、随分前に色々と事件があって使用されなくなっていたんで訓練に使わせて貰ったんですけど。何か開かずの間って云うのがあって、どうしても部屋の扉が開けられなかったんですよね。だいぶ曰く付きの部屋らしいですよ」

「へ、へぇ、そうなんだ。あ、はっははは。うん、幽霊とかって私見たこと無いから良く分かんないかも」

「そうですよね、俺も日本にいた時には眉唾もんだって思ってましたもん。でもこの世界には神様もいれば魔王もいるし、魔法とかも有るんですよね。もし本当に幽霊がいても、まあ、不思議じゃないですよ」

「ガチで?」

本気まじで」


 陽介が真面目な顔してそう言うとWACはヒキツった顔をしてフラフラと待機所に歩いていった。


「大丈夫かな?」

「よぅ、君がこの魔法の人形の管理者って事で良いのかい」

「あ、はい。製造を企画した長田と云います」

「これって云うのはロボットなのか?」

「どちらかと云うとゴーレムでしょうか。ただ、そこら辺の土を魔力で成形するのではなく、人形を魔法で動ける様にした魔法人形って云う分類になるかと。勿論、日本の技術を使ってグレードアップしてますが」

「日本製?」

「ええと、鉄の骨組みに間接、シリコンゴムの肉と皮膚、ぶっちゃけ某オリエント工業のアレですね。ゴーレムの魔法には大理石や琥珀が最適な素材として知られているのですが、地の魔法系統に相性の良い元生物の素材とか、地面に埋まっていた元素、石油を元にしたプラスチック等が魔力とか云う物の通りが良いそうです。なので質の良いシリコン製品の人形をゴーレムにすれば、優れた魔法人形になると考えた次第です」

「ふーん、そうなんだ。で、使えそうなのかい」

「そうですね、歩く走る等は訓練しましたので、人並みの速度と力はあります。教えれば動作を覚えるので、現状では荷物運びには使えるって云う状態です。陸自の技研で開発している個人装備と連携して使えないかな、とか考えて、電子機器を組み込めないか考えてますけど、個人で出来るのは此処までですね。ただ、今のままではメンテナンスが出来ないので、アタッチメントで手足マニピュレーターの交換が出来る様に、ゆくゆくはチタンフレームに筋肉繊維を模したシリコンゴムをゴーレム化して骨格に張り付けて電子頭脳で制御出来ればプログラムもコンピューターで出来れば良いなと考えています」

「つまり、今はまだ使えないんだな」

「ええ、私が匍匐前進のやり方も知らないので教えられないんですよね。是非本物の動きを教えてやって下さい」

「現状は了解した」


 こうして新装備として開発中の普通科支援人型筐体は自衛隊によって新兵同様の訓練を受けて真っ当な歩兵としての能力を獲得する事になるのだが、彼女らの真価は獣人族の戦士から四足歩行法を習ってから発揮される事になる。

 人間ならば両手の平が地面に着く事で塞がってしまう四足歩行は戦闘に支障を来すので意味がない行為だが、体の各所に設けられたハードポイント、後に支腕に武器を保持出来る支援筐体は、例えば五体倒地のポーズのままでも射撃が可能な為にデメリットが少ないのだ。

 四足歩行は幼児が行うハイハイとは異なり、両手の平と足の裏が地面に接し、膝は地面に接触しない歩行を行う。

 これは犬や猫と同じ基本的な哺乳動物の歩行方法である。

 そして犬や猫を見れば分かるように、四足歩行は二足歩行に比べて速度が速い。

 又、姿勢が低い為に投影面積が小さく銃撃戦、接近戦に於いては有利である。

 遂には普通科機甲科支援犬型筐体も開発されるが、戦闘哨戒任務以外に潰しが利かないので、アタッチメントの開発によってケンタウロス型の物も作られるが、それほど普及しなかった。

 その点、人型は戦闘糧食を暖めたり、飯盒でご飯を炊くことも出来るのだ。

 この様な経緯で先行試作機の純魔導機、試作機の科学素材魔導機、先行量産型の科学魔導混合機と開発が進み、少数の先行量産機が魔王討伐戦に参加している。

 正式採用時には普通科の装甲倍力服パワードスーツ装備の隊員3名と7体の戦闘支援筐体で分隊を組み、指揮官担当の装甲倍力服で識別指定した敵を隊内通信で共有し、自律攻撃を行う事もされている。

 この機体を製造するには両国の技術が欠かせず必要な為に日本国とアクアマンデ王国に工房があり部品を集めて最終組立を日本で行い、魂入れをアクアマンデ王国のマスチキ工房を始めとする指定工房で行う必要がある。

 この支援筐体を補助戦力に組み込み人員削減が可能になった為に自衛隊の予算を人件費から装備により多く回せる様になったので、装甲倍力服などの生存性向上装備の開発、配備を進める事が出来たのであった。

 装甲倍力服パワードスーツもエアー圧式やモーター駆動式が開発段階に入っているが、アクアマンデ王国のゴーレム職人と出会ったことで一気に普及に目途が立った。

 ゴーレムに使っているシリコン樹脂を魔法加工した人工筋肉とルビー核のアシスト制御技術を使って開発した所、非常にスムーズに身体の動きに追従する性能を持たせる事に成功したのだった。

 動力を切ればほとんど身動きが取れなくなる程の装甲と倍力機構の重量があるにも関わらず、運用中はランニングとパンツで過ごしているかの様に身軽に動けると評判になったほどである。

 流石にこの段階まで開発が進んで来ると陽介の出番はなく、専門の開発チームの手によって開発が行われている。

 もっともこの時期は陽介の双子の娘たちの世話でてんてこ舞いであり、仕事どころではなかったが。

 これらの新装備が実際に配備される様になるのは暫く後の話になる。


 PS.人が乗り込める大型戦闘ロボットの開発も研究が行われているが、王国中のゴーレム職人達が普通科支援筐体の製造に駆り出されている為に遅々として進んでおらず、陸自の研究所の方でスーパーコンピューターを用いてコンパクトなサイズの人型戦闘機の設計を行っているだけである。

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