インターミッション・アメリカの場合
前回の話で云う所の平行時間線世界の可能性世界であるAW-01Aのパクス・アメリカ世界のお話です。
宗教に関しては独断と偏見に満ちていますので、真に受けない様に願います。
異空戦騎パラレルワールド大競争
インターミッション・アメリカの場合
アメリカ大統領のハワード・ザイドリッツが異世界へと転移させられた。
G8の主催国でありながら参加していた国家元首共々姿を消してしまったのだ。
当然の事ながら参加各国からは非難の目が向けられ、副大統領のアイゼン・スミスは必死で国内外の問題に対応しなければならなかった。
もちろんアメリカという国では歴史上大統領の暗殺が頻繁に起こっている事から、いざと言う時に政権を担えるように準備をしては居たのだが、まさか各国元首と同時に等とは考えても居なかった。
さて、これがテロの仕業なのかどうかすら分かっていなかったが、アメリカ大統領としてスミスは自国のみならず同盟国の安全保障にも気を配らねばならなかった。
特に独立国家共同体や中華人民共和国と言った一癖も二癖もある国の国家元首も巻き込まれているのだ。
ホスト国としてはそれらの国が付けてくるであろう難癖をどうやって排除するかも思案のしどころであった。
事件が起こって翌々日にはスミスはマスコミの前に現れて宣言した。
「G8の会場に於いて行われた国家元首消失事件の全容は未だに掴まれていない。
だが、神の為した奇跡による物であっても我々はそれを理解し、御心に従い行動しなければならない。
これはアメリカ合衆国の威信を懸けたオペレーションである。」
だが、原因は杳として分からなかった。
この状況は一年以上も続き、事態の進展には役に立たなかった。
人物や物品が忽然と消えた案件を調査してみると、世界各国で報告はあるのだが、良く良く調べてみると結局はUFOの目撃事件と同様に種も仕掛けもある物ばかりであったのだ。
もちろん全くを以て原因不明な物も報告されてはいた。
特につい最近、旧ルート66に有った銃砲店とダイナーが主人の息子と共に消失した事件は国家元首消失事件と類似していたし、日本の駅前を歩いていた学生が監視カメラの前から忽然と消えた蒸発事件など、G8各国に於いて一人ずつ原因不明の消失事件が起こっている事が報告されていた。
だが、これらは謎を深めるだけであり、解決の糸口にはならなかったのだ。
アメリカにとって一番の問題となっていたのはG8にゲストとして招かれていた中華人民共和国についてだった。
以前から太平洋のハワイから西は中国の支配下に置く事やハワイの領有権を主張できるとか荒唐無稽なファンタジーを口にしていたが、とうとう実際に動き出したのである。
既に共産主義と言う形すら為していないが、世界を武力によって革命すると言う手段だけは利益の拡大の為に利用しようとしている中国共産党は日本領尖閣諸島の征服に乗り出した。
沖縄県自体を過去に存在した琉球王国に連なる場所であることから中国の自治区であるのだと主張し出したのだ。
ここ尖閣を事実上の中国領とする事で、沖縄本島までも自国の領土であると既成事実をでっち上げるのは間違いない事実だろう。
もちろん沖縄には極東アメリカ軍の駐屯地があり、これは防共の役割が大戦後から期待されている。
当然の如く現在に於いてもそれは同様であり、日本政府に圧力を掛けてでも守らなければならない戦略なのである。
もちろん日本政府もむざむざ国土を浸食され、国民を赤化されるだけでも耐え難いと云うのに、チベットやウイグルの如く民族浄化の対象にされるのはお断りであったから、日米安保に基づき米軍が介入する事を断ることはないだろう、あの政党が政権を取っていた頃なら油断は出来なかったが。
さて、そうしていた頃、ホワイトハウスの中庭に誰かが突然闖入するというアクシデントが発生した。
すぐにSPによって取り囲まれたのだが、その正体が判明した途端に武装は解除された。
なんと、その場に立っていたのは国家元首消失事件に於いて消えた筈のアメリカ大統領ハワード・ザイドリッツその人であった。
騒ぎを聞きつけたスミスは安全を確認するとすぐに現場に向かい、噂の人と対面することになった。
彼はスーツ姿の上に何やら青い鎧のような物を身に纏っており、ジャパン・アニメのコスチューム・プレイにでもハマったのかと周囲の人間は思ってしまった。
そうなると当然正規のアメリカ大統領であるハワードに大統領の座を戻さねばならなかったのだが、当のハワード自身がそれを押し留めた。
彼はこう宣言したのだ。
「我々は新たなるフロンティアを見つけた。今こそフロンティアスピリッツ、アメリカンスピリッツを以て彼の世界に挑まねばならない」
ハワードは言った。
魔法の存在する異世界の大陸、そこに存在する多民族国家アクアマンデ王国は魔王の侵略を受けて絶滅の危機に瀕している、今こそ地上に於ける神の代理人たるアメリカ合衆国の手によって邪悪な悪魔を討ち滅ぼす時が来たのだ、と。
スミスはその話を聞き、ハワードの家族を呼ぶ前にハワード掛かり付けの精神科医を呼び出して彼の言動が異常な原因を診断させた。
診断は慎重を期して一週間にも及んで行われた。
結果、精神疾患による妄想ではない事や何らかの組織による洗脳ではない事、物理的な証拠を持っている事などからハワードの言うフロンティアの存在を実在するものとして仮定。
これをアメリカ合衆国の利益に適うものとして社会経済に盛り込む計画を立案した。
頭脳集団による分析の結果、地球に於ける治安活動、平和維持活動に向けるアメリカ合衆国国軍の陸軍と空軍と海兵隊の三割と州軍の一部、特に沖縄に駐屯する即応部隊を引き抜いてもお釣りが来る利益を上げられると試算が出された。
特に現地で採取される伝説の鉱石であるアダマンタイトやガンマニオン、オリハルコン等は有力な現地の資源だろう。
もっとも魔力石と呼ばれる物は現地では良く使われているのだが、火力石は消費量が多い為に値段対効果が石油や天然ガスよりも悪く、水力石はミネラルウォーターの方が安く、雷力石も一瞬で電気が飛散してしまうので静電気の様に役に立たないと評価はかなり低かった。
だがアメリカから輸出する天然の燃料資源の良い顧客に成り得ると試算が出ていたので、これらの資源の価値が低くても何の問題もないと結論付けられていた。
また、農産物もアグリビジネスの重要な戦略物資である。
戦争が終わり交易が始まれば、魔王に侵略された地域は荒廃した田畑によって食糧難となっているので、アメリカから輸出される穀物を格安で王国とその周辺に売りさばく事が決まっている。
それによって王国と周辺の生活に必要な農業の発展を阻害し農民を破産させる事が出来る。
地域農業が壊滅した後は値段を適正値に戻した後、王国の人間が食する穀物は全てアメリカ産の物を輸入し消費する様にし向けるのだ。
更に農民が放置した農地はアメリカの農業メジャーが買い取り、機械化された商業作物を栽培する大規模プランテーションを設置して、生産された作物を格安でアメリカへと輸入して地球世界の大量消費地へと売り込むのだ。
このやり方は、アメリカの歴史の中、今までの経験で培った一番有力な方法であった。
早速一部の陸軍の部隊を任務部隊として編成し、魔法の通廊をと或る乾燥した塩湖にある秘密基地(エリア51)に設置した。
勇者として一番乗りで異世界に軍隊を送り込んだアメリカ合衆国は他国に先駆けて一歩リードする事になった。
自動車化した歩兵部隊と共に機甲部隊がアクアマンデ王国の王都がある半島の付け根に出現した。
M1A2エイブラムスの砲塔に乗り込んだ勇者ハワードが戦車の主砲上面のハッチから身を乗り出してアピールすると、王都中の臣民が歓喜の声で歓迎する。
既にアクアマンデ王国の北方に位置するオミスインフ公国が北の国境に前線を敷き、一部で魔王の軍勢と戦闘を開始していた。
ハワードが歩兵小隊に護衛されながら王城へと向かうと女王陛下が待ち詫びていたかの様に正面玄関に姿を現した。
「ハワード様っ!!」
「おおっエメラダー、待たせて済まなかった。魔王を倒す力を持って来たぞ」
ハワードがエイブラムスから降り、エメラダーへと駆け寄る。
エメラダーも両手を大きく広げてハワードを向かい入れ、ハワードの力強い両手がエメラダーの腰を掴み上げて頭上でグルグルと回す。
ワッと沸き上がる大歓声と共に紙吹雪が舞い、白い鳩が一斉に飛び上がる。
それはまるでハリウッド映画のワンシーンのようだった。
そのまましばらくグルグル回っていた二人だったが、回されていたエメラダーがグロッキーとなった。
「ウゥプス、いつまで回っていれば良いのじゃ、気分が悪くなって来たぞ」
「女王様、その様な言葉遣い、いくら勇者様の国の言葉とは言え、なりませんぞ。これ、トブ。そろそろ良いのではないか?」
『ハーイ、じゃあカットで。休憩の後に次のシーンに行きまーす』
カントクの号令が入るとそれまでワーワー騒いでいた観客達はザワザワとした雰囲気に戻り、或る者は別の撮影へと向かい、或る者は帰り支度を始めた。
先程までメガホンを握っていたカントク、アメリカ人の若者であり旧ルート66にあった銃砲店やダイナーと共にこの世界にやって来た男だった。
首に十字架を下げ、小太りな体格をした彼は、異世界への転移後からずっと使っていたメイドインジャパンのデジタルカメラから大統領直々にプレゼントされた業務用ムービーカメラに使用を切り替えて今回の撮影に望んでいた。
民生品では得られない高画質の画面を覗き込みながらキチンと映像が撮れている事を確認し、声を掛けてきたダラパニ宰相に返事を返す。
「ミスター・ダラパニ、主演女優はお疲れではないですか?」
「じゃから陛下は女優ではないと言っておろうが」
「いやいや、我が合衆国の国民感情を掴むにはそれなりのプロパガンタが必要なのですよ。その為には彼らのフロンティアスピリッツを掻き立てる物が、分かり易く胸の空くエンターテイメントが必要なのです。それには衝撃のある効果的な映像が最適です、女王陛下には最高の女優として振る舞って貰わなければ」
「それはそうなんじゃがのう」
彼、トブ・クローズの言い分が分かるだけにダラパニの声は小さい。
何しろ勇者と一緒に魔人討伐の旅に着いて行ったこの青年の持ち込んだ武器弾薬と保存食がどれだけ活躍したことか。
ここの所、各地で起こった銃の乱射事件で大きく株を落としていたアメリカのライフル協会が狂喜乱舞したというのも当然の事だろう。正に西部劇の世界、敵から身を守る自由を保障する物、それは銃火器である事を世に知らしめたのだから。実にアメリカンジャスティスである。
彼の貢献が武器弾薬にある事を思えば、勇者の合衆国を動かす為に必要と有れば、もはや形振り構っている余裕はないのだ。
しゅんと肩を落とすダラパニに向かい当の女王自身が声を掛け、続けてトブの方を向いた。
「良いダラパニ、妾はまだまだ元気じゃ。それに、そなたの献身には恩義を感じておる故にな。それにクローズ殿の持ち込んだ『ふぉーどのぴっくあっぷとらっく』と『エルフのとれーらーとらっく』それに『らいふる』や『ばるかん』が無ければ魔人退治も難儀しておった事じゃろう」
「そうでしょうとも、魔法も強いですが、アメリカの武器は世界最強ですから」
「まったくじゃのう」
エメラダーがトブの手際を褒めるとアメリカンジャスティスの陽気さを発揮して自慢げな顔になった。
そこへ先程までエメラダーを抱き上げていたハワード役の男優が声を掛けてきた。
「監督、俺そろそろ帰りたいんですけど」
「宿舎にだったらどうぞ、明日もヨロシクね」
「・・・・・・まだ、本国へは戻れないッスかね」
「大統領から正式に開拓者募集の発表があれば自由な出入りが出来るようになるんだけろうけど、魔王の討伐にアメリカ軍が準備を始めたばかりだし、政府と契約をしたんでしょ? 契約違反は怖いと思うなぁ」
「はぁ、では仕方がないってことですか、了解です」
彼は以前は売れない役者をしていたのだが、最近はハワードが大統領になった事でそっくりさんとして少し売れていた所を異世界プロジェクトにスカウトされたアメリカ人男優である。
若干大統領本人よりも筋肉質で見栄えがする姿形をしている。
プロパガンタには最適な人材だった。
「まあ、オミスインフ公国までは魔王の魔手から奪還したしさ、もう直さ」
「うむ。流石は勇者の国、心強いものよ。しかしな、あの宣教師とか云う者共は必要なのか? 我が臣民とトラブルを起こしていると報告にはあったが」
トブの言葉にエメラダーが同意するが、現在報告が上がって来ている事態に懸念を示す形で質問をする。
しかし、トブは自信満々に懸念を吹き飛ばす勢いで持論を展開する。
近所に住んでいた牧師に感化され、映画監督か牧師を目指して勉強を続けていたトブは熱心に懸念を否定し、女王を正しい道へと導こうと説得を始めた。
「当然ですよ。本物の神様である救世主イエスと父なる神と聖霊による唯一の神格だけが人を導くことが出来る絶対的な存在なのです。アメリカ合衆国はその往く所を平定し導く事を許された唯一の存在です。よって我々がこの世界に来たのは邪悪な悪魔を討ち滅ぼし、神の元に平等な世界を作り上げる使命があるからなのです。なので愚かな民は羊の如く、神の羊飼いとして使命を受けた牧師に従い行動する事が必要なのですよ」
「しかし、私達の神々と違って君の神は君の窮地に手を貸さなかったではないか。本当にいるのかどうか試してみてからでも良いのではないのか?」
とエメラダーは信仰に対して反応があるこの大陸の神々に比して余りにも反応のない彼の言う唯一神に対して懐疑的な意見を出した。
するとトブは眉を顰めて、口調は抑えて咎める様に言う。
「よろしいですか? 貴女は神を試すような事をしてはいけません。私がこうしている生きている事こそ神のお導き、元々手を貸す必要はなかったと云う事ですよ」
「ふぅ~む、良く分からぬ。それと角を持つ羊や山羊の獣人族を施設に収容する事に関連はあるのか」
「まあ当然のことですね。大丈夫、それはこの国の為になる事なのです。邪悪な悪魔は滅ぼし、正しい信仰に目覚めれば自ずと理解出来るでしょう」
「ふぅむ、そなたは敬虔な信徒なのじゃな」『些か狂信的な嫌いはあるようじゃが』
「はい、尊敬する牧師様が大事な事はやり過ぎる位に突き進めというので。私もキリスト教のプロテスタントに心酔しておりますので、真っ当な新教徒として判断し、実行するのみです」
「しかし、唯一神を崇めると言う事は、神々に対して不作法であろ。神罰を下されたら如何致すのか」
「むしろ神を信じない者達こそ、最後の審判で神の国に至るか地獄に堕ちるかが決まるのです。その神々と名乗るモノたちはこの世界を作ったと嘯いているのですか?」
「いや、世界は見た時からあったモノであって、自らが作った物ではないと言っているな」
「では彼らは創造主である神ではなく、ただ自然にある力の強い精霊に過ぎません。日本佛教で云う所の本地垂迹と言う解釈に従えば、救世主に従う天使がこの世界に分かり易い様に姿を変えているだけの事。あなた方は異教を信じているつもりで実はキリスト教に帰依していたのです。この様な事を天使が為されたのも神ならぬ我々の為、神の子羊たる我々はただ無心に救世主の事を信じ、神の牧童たる我々に従うのです。さすれば救いの手が差し伸べられるでしょう」
「ほぉ、左様か。汝達の目的は理解したわ」
そう言うとエメラダー女王はニコニコと笑った。




