第15話 戦争の始まりと激しい嫌悪感
作中で戦闘シーンがあり、激しくグロイシーンもありますのでそういうのが苦手な人は戻りましょう。
異空戦騎パラレルワールド大競争
第15話 戦争の始まりと激しい嫌悪感
北方戦線は合戦準備を整えて遂に参戦したPKFの多国籍軍によって一気に王国側が盛り返した。
北の国境沿いに広がる原生林の南方3キロにて反抗を行うべく築城された防衛線では、手ぐすねを引いて多国籍軍が魔王の軍勢が接近して来るのを待ち構えている。
時刻は夕刻に近付いてはいたが、太陽からの日差しはまだ強い筈であった。
だが、魔王の軍勢が進軍して来ると、おどろおどろしい黒霧が立ち込め始めて薄暗い空気になる。
日の光が苦手な魔物達はそれに保護されて生命の支配する昼間に進軍する事が可能になるのだ。
よって魔王が軍を率いて来ない限り魔物が大規模な侵略を行う事はない。
現在は威力偵察を兼ねた王国の偵察兵達が森林の中に入りその先兵を待ち構えていた。
多国籍軍側は監視装置を設置しているからその必要はないと提言したのだが、王国側のメンツもあり完全に頼り切る事も出来ないと考えたのだろう。
だが、陣地の場所によっては地雷原が敷設されており大変に危険であるために、偵察兵には立ち入りを禁止する区画と地雷の危険性をきちんと説明し、なお且つ塹壕の掘ってある陣地へと魔物を誘導する役目を担って貰う事で面子を立たせる事に成功した。
昼尚暗い森林の奥、ソフトレザーアーマーに身を包んだ偵察兵たちが木立の間を進んでゆく。
森林の向こう側は完全に魔王の軍勢の支配下に置かれている事が判明しているのだが、一昨日軍勢を森林に突入させた事を戦術偵察機RF-4EJの偵察行によって確認されていた。
巨木の間に繁茂する下生えの羊歯植物を揺らさぬように縫い動き、最初に接敵したのは下級の魔物の中でももっともポピュラーな人型モンスターである小鬼である。
身長1メートル程の小柄な種族で魔族の一員故に陽の光を苦手とし、通常はダンジョンと呼ばれる地下洞や巨大蟻の巣跡に生息し、夜になると表で活動を始める習性がある。
個々の力は弱く、集団戦によって驚異となっているが秩序立った行動は期待できない。
道具類を自ら作る事無く、他の種族の破棄した道具を再利用するのみであった。
現在も彼らが手に持つのは折れた木の棒や拾った錆びた剣だけであり、極初期の打製石斧すら持っていない。
偵察兵はゴブリンを避けてその奥の部隊を偵察しようとしたが、ゴブリンの一人が訓練した狼を連れていた為に隠行が露呈、ゴブリン達に騒ぎ立てられた為に予定通り撤収を行う事とした。
森を抜けた王国軍偵察部隊は多国籍軍が構築した野戦陣地の方へと魔王の軍勢を誘導する様に撤退を開始した。
まんまとそれに釣られ、漏斗の様に集められ密集した魔物達に対して、自衛隊は塹壕陣地から最低限身を乗り出し、構えた自動小銃から無数の鉛玉を浴びせ掛けた。
中級以下の魔物に対して自動小銃による通常弾は極めて有効で入念に設計された銃弾が交差するキルゾーンに入った魔物はバタバタと倒れ伏す。
だが、甲羅の厚い足早亀や堅い鱗を備えた爬虫類に類する魔物や魔力の篭もった毛皮の魔獣の中にはライフル弾程度なら問題なく弾く種族がかなりの数存在していた。
地球の自然界の中にも、既に絶滅しているが地上性のナマケモノ類の様に毛皮の細胞の中に骨片が存在していてライフル弾を弾いたであろうほ乳類が存在していた事から荒唐無稽な存在ではない。
しかし対物狙撃銃による狙撃班が容赦なくそれらの頭蓋を砕いてゆく。
中途半端に知能の高い小鬼の類はその光景を前に逃げ出す者が続出するが、途端に魔王の支配率が上がり何も考えずに突撃してくる。
だが、対物狙撃銃程度では歯の立たない強固な魔力を有する鱗に覆われた地竜が咆哮を上げ、味方の魔物を蹂躙して突撃して来た。
地竜の大きさは小型のバス程であり、四つ足を蹴り上げて時速30キロメートル程のスピードを出している。
その巨大な質量は大地を揺らし、運動エネルギーは莫大な物となっている。
だが、それは人が練り上げて来た主力戦車よりも強いのであろうか。
否、その巨体は戦車よりも大きく狙いやすく、その鱗の強靱さは戦車の前面装甲よりも脆く、その早さは戦車よりも遅く、唯一勝っているのは運動性だけであろう。
よって脇に設置された戦車壕から飛び出して来た10式戦車が凸凹した地面を跳ねるように走り出した。
「ターリホーッ!」
10式戦車の吉田戦車長は目の前に現れた怪獣に尋常ならざる高揚を覚えながらも、目標を指示する。
照準を与えられた10式は44口径120mm滑腔砲の砲口を目標にピタリと張り付けたまま接近し、走行したまま発砲した。
砲煙と共に放たれた徹甲榴弾は100メートル程の距離を一瞬で飛翔し、地竜の横腹に着弾した。
徹甲榴弾はあっさりと地竜の堅い鱗を貫通、内部で炸薬を破裂させて爆発の威力は骨格を粉砕し、まるで巨大なブロックが崩れるように断裂された肉体は地面に崩れ落ちた。
魔物軍団の中でもタフな相手として王国軍に恐れられている地竜はその生命を絶たれたのだ。
「ぃよっしゃっ!!」
「よっしゃじゃないですよ車長。まだ待機でしょうに」
「バカ野郎、怪獣だぞ怪獣、俺が憧れた怪獣映画の中の防衛軍の戦車達がかなわなかった大怪獣が味方に襲い掛かって来たんだ。攻撃しない訳にはいかんぜ」
『そこのヒトマル式っ! 射撃の邪魔だ、元の場所以外の所へ引っ込んでろっ』
10式戦車は防衛陣地の脇の戦車壕から飛び出して前に向かって進んだので火線の前面に出た訳ではなかったが、魔物が散発的に移動している区画であったので時折ライフル弾の流れ弾が甲高い音を立てて弾かれるのが分かる。
魔物達は魔獣の中でも別格の強さを誇る地竜が倒されたのを見て10式を非常に警戒している。
もしもこのまま飛び出して来た戦車壕に戻ると他の戦車が待機している場所が敵に知られる可能性もある。
それを警戒して敵が怯んで近寄らない状況を利用し、塹壕横に鎮座する。
それを待ち兼ねていたかの様に指揮所から苦情の無線が入った。
『こら吉田ァ、独断専行か貴様』
「ハッ敵装甲兵器が突進して行ったので無我夢中でありました」
『お前の所為でうちのカールグスタフ(カールくん)の見せ場が無くなってしまったじゃないかっ!』
「ハッ申し訳ありません」
『その場で接近する敵の掃射を命ずる』
「え、敵背後に回り込んでの包囲殲滅は」
『命令違反の角でお前は無しだ、バカ者』
非常に残念そうな顔をした吉田は気を取り直して搭載機銃を接近してくる中型以上の魔物に向けて撃ち放つ。
ちなみに地竜は大地と火の属性を持つとされている大型の魔物である。
よって火炎と金属に対する抵抗値が高く、カールグスタフの対装甲機構であるノイマン効果によって強化された超高速噴流による貫通効果に対して強い耐性がある事が判明するのは、戦闘が終わった後の死骸に対する試射を行った時の事だ。
死骸では効果が薄かったが、地竜が生きている時には生体バリアーと云うか魔力による斥力壁が発生している。
特にノイマン効果を利用する低速の成形炸薬弾頭は接触以前に弾かれるか信管が動作してしまうので、空間装甲の様な効果を生む事から対戦車ロケット弾は効果が限定される。
それを知った普通科の幹部と多国籍軍の将校は軒並み蒼白になったが、翼を持つドラゴンは風と水、もしくは風と火の属性なのでそれ程金属の超高速噴流を阻害する要素は無い事が知られるまでにはしばらく時間が掛かる事になる。
前線に接近して来る小型中型種の魔物達に対しては自衛隊員達は八九式小銃と5.56mm機関銃ミニミが火を噴き掃討している、そして塹壕の片隅には撃っている間に故障が発生して動作不良になった六二式機関銃が山積みになっていた。
時折迫撃砲の着弾する音と共に奥の方の魔物集団が吹き飛ぶ。
この陣地のある場所は国の国境沿いに広がる北方にある深い森林から三キロばかり離れて設置されている。
森林から陣地までの間にあった林などは視界の妨げになる為に伐採され、戦場として整備されている。
ここに広がる森林は地元住民が使う小径以外古来より人の手が入っていない原生林であり、数千年の年輪を刻んだ太く高い木立が林立していて見通しが利かない場所である。
よって大型の魔物は篩に掛けられる様に行く手を阻害され、身軽な中型以下の魔物や地竜のようなスリムな魔物が先に森林を脱して姿を現していた。
それは散発的であり、手に負えない状況ではない。
森林の中には監視装置が無数に設置されているため、指揮所ではどれだけの種類の魔物がどれだけの数で移動しているか把握している。
だが、森林毎ナパームで焼き尽くす様な自然環境破壊は許されないので、航空攻撃や砲兵による支援射撃は待機中である。
自衛隊の担当範囲と他国の陸軍の範囲の隙間は設置型の無人対人自動機関銃台や対戦車地雷、それに地球では条約で使用出来なくなったので在庫一掃セールで持ち込まれた対人地雷の地獄と化している。
無人の地雷原では、時折連続で爆発音が響くと断末魔の声と共に魔物が吹き飛ぶ光景が見えた。
稀に姿を見せるワイバーンやハーピーと云った魔物は高射特科のスカイシューターによって容赦なく殲滅されている。
現在までの所、地竜以外はオーバーキルと云っても過言ではない状況であったが、指揮所の方で航空隊に航空支援を乞う動きがあったのでそろそろ大型種が森林を抜けて来る兆候が見られたと云う事だろうか。
先程から小型種の姿が見えなくなり、黒い炎を身体に纏った三つ首の狼や大鬼等の中型種から大型種の魔物の姿が増えてきた。
大型になるだけ等級が上がるようで、自動小銃の射撃で即死する事は減ってきていた。
それでも対物狙撃銃による攻撃は効果が上がっていたのだが、とうとう魔物の中でも怪物と呼ばれる存在が姿を現し始めた。
指揮所には王国の冒険者組合に所属するベテランのA級冒険者や王国の博物学者が詰めていて、監視映像に映し出される魔物の姿を見てはその相手の事を解説していた。
博物学者は理論的な面で、冒険者は実践的な面でその習性や行動パターン、名称などを喋り自衛隊が記録に取っていたのだが、後半になるに連れて冒険者は見た事のない魔物に口を噤む事が増え、博物学者も系統は示せるのだがハッキリと断言出来る事が少なくなっていった。
その多くはレッドドラゴン、キングヒドラ、帝王陸亀、グレートライオン、キングベヒモス、エンペラーサーベルタイガーやEXコカトリス等である。
何しろ、千年単位でダンジョンに眠っている主級の目撃例なぞ殆ど絶無であったし、あったとしても神話に出てくる程度である。
恐れるべきは、それら神話級の者共でさえ従える魔王であり、そしてこの場に来ているだろう指揮官級である。
この頃になるとすっかり日も陰り、黒霧が立ち込めて戦場は闇夜よりも暗い様に成り果てた。
以前からの戦場では、この状態になると人類側では暗闇に慣れたドワーフ族やエルフ族と云った暗視能力を持つ人類種の他は無力化されるのが常であった。
何しろ篝火を焚いても黒霧に遮られて見通しが取れないのである。
だが、科学力の進んだ自衛隊には暗視能力を付加する装備があった。
対人レーダーにて戦場を移動する魔物を感知し、情報共有システムによって指示された目標を光量増幅装置にて目視し、迎撃するのである。
だが、暗闇でこそ真価を発揮する魔物相手に余計な装備をしていては相手を利するばかりである。
主級が出てくる少し前に指揮所は現場に指示を下す。
『暗視装置を取り外せ』
魔物の接敵を受けていない部隊は直ちに暗視装置を外し、片目を瞑って備える。
森林の方からは魔物の立てるドロドロと云った足音が響き、隊員達の不安を駆り立てる。
魔王の軍勢は火勢の途絶えた自衛隊側の気が折れたのかと一気呵成に攻め立てる。
その咆哮と地響きを伴った足音が戦場を支配する。
だがその時、やや後方で控えていた三〇台の七四式戦車のディーゼルエンジンの咆哮が唸りを上げてそれを圧倒する。
何故、最新型のMBTではない七四式がこの戦場に持ち込まれたのか、魔物に関する陽介の報告書にあった記述を自衛隊が拾い上げた事に原因がある。
何故ならば、七四式は戦場に一番容易に持ち込める、装甲付きの、自衛用の重火器を持つ、『照明器具』と成り得るからである。
この時点で五〇年近く配備が続いている時代遅れのMBTは装備自体が現用の装備では考えられない思想に基づいて設計されていた。
暗闇に存在する光量を増幅して認識するパッシブな暗視装置は相手に自分の居場所を教えずに済む事から現代では主流の暗視装置となっている。
だが、七四式が配備された当時は電子機器の性能も低くパッシブ方式の暗視装置が作れなかった事もあり、砲塔に搭載された赤外線照射ランプを戦場に投射し赤外線的に明るくなった戦場を低性能の赤外線暗視装置にて視認していたのだ。
だが、赤外線照射ランプについている赤外線フィルターを外せばそれは通常のランプになる。
光量が桁外れに強い事を除けば、であるが。
それが三〇台も一斉に点灯し、戦場を照らし出した。
同時に戦場の各所に設置されている赤外線灯や紫外線灯、白色照明にLED式の照明も一斉に点灯された。
後方の砲兵陣地からは絶え間なく照明弾が打ち込まれ、黒霧が晴れないままであるのに、戦場は一瞬にして昼間よりも明るい光の空間へと変化した。
主級の従兵的な役割を持つ取り巻きはそれだけで消滅し、暗闇の中に佇んできた主達も慣れぬ光の奔流に当惑していた。
突進の勢いを止め、思わず光の弱い森林へと足を向ける主級に対して自衛隊は敢然と攻撃を敢行する。
三〇台からなる七四式の51口径105mmライフル砲の徹甲弾による一斉射撃、二〇台の九〇式の44口径120mm滑腔砲の一斉射撃、塹壕からカール・グスタフを始めとする携帯ロケット砲やMINIMI等の支援火器の雨霰、そして砲兵陣地からM270 MLRSが降らせる『鋼鉄の雨』は大地を耕し、九九式自走155mm榴弾砲は正確な射撃で榴弾を主級に降り注いだ。
支援戦闘機による航空支援は空対地ミサイルやスマート爆弾による精密誘導によって的確に主級の怪獣にダメージを与えた。
高性能火薬の爆音が戦場を支配し、地響きは人間が立てるものとなった。
正に現代戦の基本『戦力は火力』に乗っ取った正攻法な戦術である。
如何に生体バリアーに身を包み、魔力で強固な身体を維持していようがこの圧倒的な運動エネルギーの前には無力だった。
とは云えレッドドラゴンは15発の120mmAPFSDS(装弾頭付翼安定徹甲弾)に耐えたし、キングヒドラは次々と生え替わる首を盾に30発の徹甲弾とカール・グスタフに耐えて見せた。
後に映像記録でそれを確認した多国籍軍は怪獣のタフさに驚愕し、より効果的な戦法の研究に乗り出したのは当然の事であった。
だが、自衛隊側が圧倒していたのは此処までである。
一瞬、閃光が戦場を舐めた。
次の瞬間、ボロボロになった主級の魔物諸共に、照明を投射していた七四式15輌が爆発した。
一瞬で静まりかえる戦場にそれは姿を現した。
純白の服を身に纏い、自分の背丈よりも高い杖を掲げた一人の少女。
「情けないの、魔王様の部下のクセして。そして舐めるんじゃないのよ。人間風情が魔王様に刃向かうなんて無謀にも程があるのよっ!!」
一喝する少女の声は戦場に響きわたり、戦場を支配する。
指揮所にいて、モニターでその姿を見たA級冒険者が驚愕の顔を浮かべて声を上げる。
「あれはっ!」
「知っているんですの、イーデラン」
「ああルーマトーラ、魔女娘の中でもとびっきりの武闘派で知られる最悪の奴だ。字を『白き悪魔』と云う」
白き悪魔と呼ばれた少女は柳眉を逆立て、自衛隊の陣地を睨みつける。
彼女は杖の先端を自衛隊の陣地に向けると呪文の詠唱を始める。
「捧げよ、その命、我が魔族の贄と成れ、消えちまえっ! 『全滅ォー、光線ッ』」
ビンッ!! とゴン太の怪光線が迸り、塹壕線の一部ごと地面が抉られた。
バラバラと土の塊が周囲に降り注ぎ、着弾地点は5メートルのクレーターと化していた。
爆弾でこの規模のクレーターを作るとなると大体500キロ爆弾が必要になる。
ただ、殺傷範囲は広範囲なので、塹壕に篭もっていなければさらに大人数の戦死傷者が出ただろう。
『被害報告せよっ!』
「畜生っ! 神田の奴がやられちまった。隣の区画は全滅、被害者の姿は確認できない、吹き飛ばされた」
「衛生兵っ こっちだ」
これまでの魔物も毒の息を吐いたり炎のブレスを吐いたりして来たが、魔法の攻撃は初めての経験となった。
王国の魔法使いのファイアーボール等ではここまでの威力は観察されなかったのだが、流石は魔族と云う事なのだろう。
一瞬で混乱に陥る最前線であったが、冷静さが要求される狙撃兵らは落ち着いた様子で狙撃体勢に入った。
てくてくと森林を抜けてこちらに歩いてくる少女然とした魔物、魔女娘に照準を付ける。
対物狙撃銃は対人戦闘に使用してはならない戦争法があったが、通常の自動小銃では効果があるか分からなかったのだ。
セオリー通りに彼女の薄い左胸に狙いを付ける。
引き金を引き絞ろうとするとスコープの向こうの魔女娘と目が合った。
構わず引き金を引くと軽車両の車体を打ち抜く弾丸が発射され、彼女の目の前に展開した魔法陣に弾き飛ばされた。
狙撃手は相棒の観測手に位置を知られた事を知らせて素早く移動する。
彼らが退いて直ぐに魔女娘の砲撃が飛んできた事から彼の判断は的確だった事が分かった。
その他の狙撃手や優先誘導ミサイルが次々に狙いを付けるが彼女はその悉くを事前に避けるか、魔法防壁で防ぐかしていた。
彼女は好戦的な性格で知られているが、それは長距離から魔法によって攻撃し、あらゆる攻撃を避けるか防ぐか出来る長距離砲戦型の魔女娘であり、相手の殺気を読めると云う特殊能力による賜物であった。
この数の現代型の軍隊が相手でも、最長の矛と強力な盾の戦法は有効であったのだ、例えるならば一人戦艦娘と云ったカテゴリーになるだろうか。
だので余裕綽々で彼女は魔法で拡声した声で以て宣言する。
「この私は殺気が読める、貴様等の攻撃など当たりはしない。一撃も食らわずに全滅させてやるともさ。……そうだな、もしも私に一撃でも喰らわせる事が出来たら温和しく見逃してやってもいいぞ! あはははは」
そう言って彼女は魔法の杖を構えて陣地に向けて走り出す。
絶対の自信を込めて。
その様子を見て現場指揮官は部下に引きつけてから射撃を行うように待機させる。
「まだだ、まだ遠い。十分に引きつけてから避ける間もなく当てればいい。乱戦になったら着剣戦闘に入るぞ」
「了解」
彼女は胸辺りまである水堀をジャンプして飛び越えると難なく着地して、対戦車地雷を踏み抜いた。
流石に単なる物理現象で爆発する地雷の殺気を読む等と云う出鱈目は出来なかったらしい。
一瞬で爆炎に包まれ土埃で辺り一面の視界は塞がれた。
「……これで無事だったら手はないですね」
「うむ、流石にな……」
バラバラと砂や石が降り注ぎ、土煙が晴れて行く。
だがそこに怒りの形相で陣地を向く魔女娘の姿は有った。
ゴゴゴゴゴと背後の砂が舞い上がり、アニメ的な力の奔流が沸き上がっているのが見て取れた。
「キーサーマーラー、よくも私をっ!!」
前言を無かった事かの様にギラギラと輝く杖を陣地に向ける魔女娘であったが、頭上から三角形のヒラヒラした白い布が降って来て彼女の頭に引っ掛かった。
「ぬっ、何だこ……っ!」
最初は何か分からず摘んだそれを訝しげな顔をして見ていたが、その正体に気づいた途端クルクルと丸めてポケットにしまい込み、左手で腰の辺りをまさぐった。
パンパンと数回自分の尻を叩いていたが、急にもじもじと内気な女児の様な仕草で後退るとスカートが翻らない様に小股で北へと走り去った。
「追撃は?」
「いや、間違って反撃してきても有効な攻撃方法が分からないからな。魔法ってのは出鱈目だな」
「しかし、何で自衛隊が他の国の……」
「云うな」
「戦死者も出ているんです。関係ない国で」
「中国の侵略を受けて他国との共同戦線を張る事、つまり集団的自衛権を国民が許容した。
宇宙開発が進むよりも先に地球での科学文明の維持に支障を来す可能性が高まり、それを打破する手段が与えられた。
国連安保理による合議の結果、破滅への道を打破する手段である異世界の文明と進出の機会を破壊しようとする存在を攻撃する事を決議した。
最早地球人類の未来と存亡が掛かっていると云っても過言ではない状況だ。
合法であるし、国会の承認もある、そして国連の決議に従っている。自衛隊員、軍人である我々は国民の生命と財産と利益を守るために戦うのが仕事だ。そうだろう?」
「ですが……ハイ」
「戦死者の遺体回収作業に戦場の清掃、陣地の再構築とやる事は山ほどある。今は目の前の仕事に没頭して置け」
「了解です」
こうして北方の戦線での多国籍軍改め地球軍による魔王軍との初会猟は終了した。
基本的に魔王軍の主戦力を打破し、壊滅させた事で高い評価を得たが、又問題点も多かった。
純粋科学技術による力押しでは勝てない、高い魔法技術を持つ相手とどう戦えば良いのか。
恐らく、魔女娘ならば戦術核か気化爆弾を使えば殲滅する事は可能だろうが、結論はまだ出ていないのだ。
時を遡る事数日、場所は変わって水海、正式名称バン・シュワー湖の南岸にある王都カーリヤの陽介の屋敷。
彼の屋敷には日本から色々と情報が入って来る。
通廊を跨ぐ永続的な通信網が作れない為に、到着した輸送艦から断続的に入って来るものになってしまうが、それは非常に重要な物となっていた。
その中でもアメリカ合衆国のアクアマンデ王国との条約締結のニュースは世界中に衝撃を与えた。
関連した様々な情報が情報サイトから世界中に発信されていて、アメリカ軍の異世界での戦争の推移や経済状況は世界経済に多大な影響を与えていた。
アメリカ陸軍空軍による対魔王戦闘はオミスインフ公国の国土を奪回しており更なる追撃を慣行中であると云う事や、アメリカが新たなる未開拓地を開拓する為の新たなる開拓者を募集する旨の公募を主に南北アメリカの希望者や困窮者に呼び掛けただとか色々である。
特に後者の情報は大反響を呼び、アメリカの異世界移民局には早速メキシコやコロンビア等から連日の如く人が押し寄せ、列を成している状態だった。
さて、そうなると訳が分からなくなるのが国連決議に基づいてPKFに多国籍軍を派遣した各国の首脳達だ。
彼らが手を着けた異世界のアクアマンデ王国には、明らかにアメリカ合衆国の陰は無い。
だが、アメリカの進出している異世界には厳然としてアクアマンデ王国と言う物が存在している事が現地調査で判明している。
此処に至り、国連調査部はこれらが俗に云うパラレルワールドで有る事を認め、アメリカの世界をAW-01A、日本の世界をAW-01Bと認識番号を振る事にした。
何故別の番号を振らなかったと言うとこれがパラレルワールドであるからだ。
杉田参事官の持って来た報告書は国連から提出された物だったので原文は英語であったのだが、日本の議員向けに和訳を施した物である。
陽介は未だを以て英語が読めない。
これを覚えなければ必ず死ぬと云った意味で、必死で覚える必要があった共通語は何とかなったのだが。
それはさて置き、報告書に書かれていた内容は知識のない人間には難解至極な代物であり、一読して理解しろと言われても難しい事は理解出来ない。
と云う訳で陽介は杉田参事官が来宅している時に機会を作って質問をしてみた。
「それでどう云う意味なんですか? 何故ふたつに分類しているのでしょうか」
「ふん、此処に書かれているだろう? 異世界は平行時間線世界と可能性世界の二種類に分別されるべし。平行時間線は異なる時間の流れを有するビッグバンから派生した別の世界、可能性世界は共有する世界の別の可能性を観察した状態である。以上だ」
杉田は自分の知っていることを簡潔に口にした、それ以外の言葉は必要ないと口を噤んだ。
「イマイチ分からないんだけど」
「平行時間線世界は平行時間線世界だし、可能性世界は可能性世界以外の何者でもない、変な例えをしたら別の意味になってしまうからな、キチンと理解すれば良いだけの話だ」
「そこを噛み砕いて分かり易くお願いします」
「と言ってもなぁ、俺はそれで理解しているから他に説明のしようがないんだが。あ行あ段のあ、が何で、あ、なのか説明出来ないのと同じだ」
「……これだから頭の良すぎる人間は先生に向かないんだよな。自分なら出来るからって教科書ベタ読みで終わってちゃ生徒が理解出来ないんだっての」
「ふん、俺はそれだけで理解出来るからな。頭が悪いのが悪い、頭が良いのが悪いなんて屁理屈に過ぎないからな」
「説明責任的なものは」
「そんな物はないな。だがそうだな、君だったら科学よりもSF小説でも読んだ方が分かり易いだろう。SF文庫の『時空監察官○動せよ』とJA文庫の『・・・・○絶句』、あとどこの文庫か忘れたが『パラレルワ○ルド大戦争』でも読みたまえ。それと『シュレーディンガーの○』は読まないと意味がないな。それとマンガで『さより○パラレル』だな『ヴァ○ランツ』もあるが」
「あ~、了解。じゃあ取り寄せ依頼をお願いします」
「ふむ、偶然なんだが偶々読み終えた中古本があるので進呈しよう。感謝し賜え」
「大変有り難う御座います。読んだんですか?」
「ふむ、まあ一般人に概念を理解させるにはこれで十分だろう。ほら、Bo○k ○ff で買ってきた中古本だ、有り難く受け取りたまえ」
と言う経緯で手に入れた文庫本を陽介は書斎で読みふけった。
それによるとマンガやラノベで良く見るパラレルワールドにはふたつの種類があるらしい事を陽介は理解した。
もちろん、学術的に、理論的に、数理的に理解した訳じゃない、何となくパラレルワールドとはこう言ったものかと頭に入っただけだ。
基本的に一つの物語にはそのどちらかの種類が用いられている。
最初の一つが平行時間線世界で、ビッグバンで世界が出来た時に無数の世界に分かれ、それぞれが独立した世界であるがエネルギーポテンシャルが釣り合う空間が両者を繋ぐ窓となってふたつの世界を行き来出来ると云う物である。
もう一つが可能性世界で、量子力学で光子のふるまいを観察する事で波動から粒子の性質に変わる事から、物事を観察する事で世界は決定されると云う物だ。
平行時間線世界では、似た様な物理法則を持っているが故に似たような歴史を持つ複数の世界が存在するが、神隠しなどで偶然に世界間を移動する事でも無い限り、世界間を移動する為の機械を用いて移動する場合が多い。
可能性世界では、現時点で選び得るすべての選択肢がそれぞれ実在する未来として枝分かれして行き、又逆に過去も今に至るすべての可能性が選択肢として存在すると云う解釈となっている。そして過去と未来が無数の世界であるなら、現在の自分も別の可能性として無数に存在する可能性がある、と言う事になる。
量子力学のコペンハーゲン解釈に対抗する多世界解釈(エベレット解釈)ではその認識の違いで宇宙全体が分岐して行き無数に多世界が存在するとなっている。
だが、宇宙全体でなくても認識している広さだけが一時的に分岐しているだけで認識していない場所はそのままでも差はないので、或る意味同じ空間を共有して居るとも言える。
例えるならDVDの画像記録方式と同じ様に変化している場所だけが分岐しているのだ。
もしも観察者が小さな部屋の中だけを認識出来る状態でも、宇宙全体を認識している状態でも認識出来るだけの能力を有している状況には変わりないので、大きさの大小に関わらず認識されている範囲だけが分岐していると見なしても問題はない。
小説などではその違う選択肢を選んだ別の世界に紛れ込み、自分の望む未来を勝ち取ると言うシチュエーションが多い、タイムスリップもその一種だろうか。
それを知ると陽介は今現在の自分に当てはめてみた。
この世界は明らかに自分の住む世界と違う存在である、よって前者の平行時間線世界であると云う考えで間違っていないはず、と陽介は思考する。
そしてアメリカ合衆国の主張するアクアマンデ王国と自分の居るアクアマンデ王国はほぼ同じ存在である事が分かっているのでこれは可能性世界の可能性が高い。
頭の中だけで考えると頭がグチャグチャになって考えが纏まらないので、陽介は口に出して状況を整理してみた。
「だとすると、どう云う事だ? 両方に観察者がいるのだろうか。だとすると勇者だろうか、この世界に来て世界を観察した筈だから、そう考えると勇者の数だけ可能性世界のある可能性が高いかも。
G8+1の中で公式に地球に戻ってきたのは日本とアメリカだけだけど、実際は首脳の数だけ可能性世界が存在するのではないだろうか、だったら九人が消えてこの世界に他の首脳が来ていない事の説明にはなるけど。
うん、それはともかく取り敢えず単語の意味は分かった。
俺にとってはこの世界が平行時間線世界で、アメリカ大統領の居る世界はこの平行時間線世界の可能性世界な訳だ」
『君は資格を得たから助言を。ご明察、現在までに魔人を倒して元の世界との繋がりを持てたのは三名、魔人の攻略中なのは四名、死亡したのが二名、勇者の居ない世界は魔王の軍勢に滅ぼされちゃってるね。だから全部で10の世界が競い合ってる訳だ』
「頭の使い過ぎで頭が朦朧としているみたいだ、幻聴が聞こえる」
『このゲームでの君たちの順位は現在三位だからもっと頑張ろう。以上、守護神風のエルゼムからゲームの補助参加者ナガタ・ヨースケに対する中間報告』
突然脳裏に響いた声に陽介は呆然とする。
やはり妄想だろうかと思ったが、この世界には魔法も有れば神も悪魔も存在するのだ、迂闊に無視するのは危険だ。
だので思いつきでこちらから呼び掛けて見ようかとも思った訳だった。
「お~い、風のエルゼムさんよ~い」
「旦那様、夕食の用意が……、どうやらお疲れのようですね、後ほどこちらの方にお食事を運びますので、ゆっくりとお休み下さいませ」
エマが扉を開けるとちょうど陽介が薄い空気に向かって何かを呼び掛けている場面だった。
その痛々しい様子に思わずエマは精神的に引いた。
独り言の範囲を過ぎた姿を見られた事に動揺したのだろうか、陽介は顔を真っ赤に染めてドモリながらも反論を口にする。
「ち、ちがっ、誤解だ、疲れてるけど、その所為じゃなくて」
「はい、そうですね。旦那様も北の戦場の事が心配で溜まらなかったのですね、分かります。旦那様が心労でお心をお乱しになったのは仕方のない事、どうぞ御自愛を」
エマは陽介のことを慈愛に満ち満ちた顔で心配する。
非常に居たたまれない感触に、陽介は声を上げて抗議する。
「ちがうって、そうじゃなくて、テレパシーじゃ分からないか。そう、神託が聞こえて来たから思わず返事をしちゃったって云うか」
「嗚呼、その様な事を、神託は素養のある者が長年の修行の後に身に着ける物。旦那様如きに出来る筈が」
陽介の言葉を聞いたエマは、鼻で笑いながら蔑むように言い放った。
そのドSな態度に陽介は渋面を作り落胆する。
「うわっ、イヤな言葉を聞いちまったな。そうだよ、どうせ俺は情けない奴なんだよ、エマさんもうるうるって目を潤ませてももう遅いよ、いいよ、もう一人でふてくされて独りで寝るよ」
「何でしたら添い寝して差し上げますが」
「エマさん、そうやって人間関係に波風立てて楽しいのですか」
「まあ、それなりに」
「くっ、なんて質の悪い人なんだ」
「おほほほほ、ああ面白い。なんならそのまま手を出してもよろしいのに、新婚の旦那様が奥方の妊娠中や出産後に屋敷のメイドに手を伸ばす事など珍しくもない事でしょう?」
「おれは一人で十分です。第一エマさんは侯爵家の嫡子でしょう」
「ああ、それならこの前正式に勘当されたので」
「え、ああ、だから婚期を焦って……だけどどうして勘当に?」
「元々家に居られない事をしてしまいましたから籍があっただけですので、お父様も結局三人目のお嫁さんを貰ってこの前長男が生まれたんですわ。それで、私が必要な理由もなくなりましたし」
「はぁ、なるほど。って云うか妹さんたちが居たのでは……やっぱり長男の方が優先されるんですか」
「ちょっとあの状態ではねぇ、原因である私が言うのも何ですけど」
「貴女は一体何をやらかしたんですか?」
「あー、話すと長くなるので寝物語ででも」
「なら良いです、いりません」
「うー、つれませんね、まあ良いですか、私昔はそれなりに魔法が得意な才媛と呼ばれていまして、大陸南部にある学園都市の魔法学校に留学していました。そこで倶楽部活動として愛玩動物部に入って品種改良した可愛いペットを創ってたのですが」
「動物の品種改良って物凄く時間が掛かりそうなんですが、学校の倶楽部活動でやってたんですか?」
「ええ、そこは魔法を使ってですね、耳の長いウサギと可愛い猫の合いの子なんて想像を絶する可愛さだと思いません?」
「……遺伝子操作ですか?」
「えーっと、遺伝子って何ですの?」
「……続きをどうぞ」
「あ、はい。生体融合魔法術って言うのがありまして、馬とドードー鳥を掛け合わせた鳥馬が有名ですが、それを使って品種改良してたんです。充実した日々でした」
よほど充実していたのか、エマは指を組んで遠い目をした。
当時の事を思い出しているらしい。
「それで?」
「他国にある魔法学校には様々な国から生徒が集まるのですが、他の国から見るとアクアマンデ王国と云うのは淫らな国民しか居ない淫猥な国であると云われていまして、当時清純無垢な私はそれに反発して『ならば私がそうでない事を示してみせる』と息巻いていたので、性的な物に対して激しく嫌悪感を抱いていました」
「ふむふむ、思春期までの女性にありがちな潔癖性だよね。そう言うのに限って女の楽しさを知ると奔放な性格になるんだけどさ」
「ハイ、それで春休みで実家に戻って来た日、義母様と実母が妹達に性教育をしている現場に行き会ってしまいまして、何て言うか内蔵丸出しで群で交尾する蛞蝓みたいで凄くグロテスクだったんですよね」
「第一婦人と第二婦人が実の娘達に……いや、親が子に性教育をするのは……良くあるの?」
「正しい性教育と性知識は円満な家庭を築くのに必須ですから、それの伝授と云う点では確かに良くありますが、一線を越えて実地でするなんて聞いた事もない変態でしょうっ! 思わず良く使っていたキメラの魔法で攻撃してしまいまして……本当なら人間みたいなしっかりとした自我知能を持つ生物には効果がないんですよ? ただ、あれの直後で凄い一体感に浸っていたらしく、肌色率の高いアラクネみたいになってしまいまして。何て言いますか、幾ら性に奔放な国民性とは言えアレはないですよね、越えてはいけない一線がある筈ですよね、と云う訳で実家に居づらくなってしまいまして家を出た訳です」
「エマさんが一番一線を越えていると思うのは気の所為だろうか。まぁ、そういう関係を見て嫌悪感から実家に戻れないって云う事なら有りそうな話ではあるのですが……色々非道いですね。それで妹さんと言うかお母さんと言うか、元に戻られたんですか?」
「私、ミルクティーを紅茶と牛乳に戻す方法を知りませんの」
「滅茶苦茶非道いですね、何か本格的に気分が悪くなって来た。横になりますので戦況が入ったら起こして下さい」
「はい、旦那様」
こんな人が家のメイドをやっていて大丈夫だろうかと心配になったが、どのみち家の屋敷の人事権は王国が握っており自由にならないので、信頼することにして置いた。
ベッドに横になりうつらうつらし出した陽介は何かを忘れている様な気がしたが、思い出す事もなくそのまま夢の世界へと行ってしまった。




