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第8話 彼が頑張る理由

今回は些か短いです。

 異空戦騎 パラレルワールド大競争


 第8話 彼が頑張る理由。


 あれから6ヶ月が過ぎた。

 勇者送還の儀式は成功し、前田前総理はこの世界から姿を消した。

 その間にも魔王の軍勢は南下を続けている。

 アクアマンデ王国の北方に位置するオミスインフ公国は北方に戦線を置き、公国騎士団を中心に土豪の戦士や傭兵団を以て苦戦しながらも未だに戦線を維持していた。

 中でも遊撃弓兵隊のシムナ・ハユハと云う元猟師の経歴の兵士が戦場となっている森林を猟師の頃に狩り場にしていた事から、地理に明るい森の中を遊撃して廻り、一晩の内に一人で数十もの魔族を討ち取っていた。

 お陰で魔族の歩兵部隊が足止めを喰っており、彼の人は『人の悪魔』と呼ばれて畏れられている。

 魔人イレトールブンが滅ぼされた際に一年以内にアクアマンデ王国が滅ぼされると予言していたが、ここに来てその予想は大きく後退する事になってしまっていた。

 アクアマンデ王国の方では難民の受け入れを行っているが、魔族の間諜が入り込んでいる可能性が高い為に一人一人のチェックが欠かせず、遅々として国境付近で溜まっている人の数は減っていない。

 半年を過ぎるが未だに勇者から通廊の魔法陣を設置したと言う合図は送られて来ていない。

 水海の上には筏を組んで魔法陣の設置が済んでおり、いつでも受け入れは可能な様になっているのだが、流石に自国の利益だけで他世界の戦に介入するのは日本という国では難しかったのだろうかと、陽介は懸念している。

 その陽介だが、現在は必要と思われる報告書をティアンムから受け取り、日本語に翻訳する作業に従事している。

 資源の場合は実際に現地に向かい視察してもいる為、月に1週間程は王都の屋敷を離れて鉱山や穀倉地帯を見て回っているので屋敷の中で引き籠もりにならずに済んでいた。

 最初の内はグウェンディロンも一緒に着いて来ていたが、現在は陽介一人がゾハラと冒険者の護衛に守られる形で移動をしている。

 やはり書物や報告書だけでは把握し切れない現実があり、実際に現地に足を運んだ事で大きな成果を上げる事もあった。

 中でも大きな成果と言えば雷力石の件だろう。

 元々需要が少なく、市場に出ている雷力石を購入するつもりで市場価格を調べていたのだが、実際の所市場に出ている雷力石は極僅かで、それなりに安い程度の値段だった。

 火力石の五分の一、水力石の三分の一程度である。

 これを大量購入してしまえば一気に需要不足で値段が吊り上がるかも知れないと考えていたのだが、魔力石の文献を調べた所、同じ鉱山から色々な種類の魔力石が産出されていて、需要の無い物は在庫がダブついていると記述されていた。

 そこで鉱山主に話を付けて鉱山に行った所、露天掘りされている鉱山の外周に幾つものボタ山が築かれていた。

 鉱山事務所で話を聞くと加工を施さないと使用出来ない三級品以下の魔力石はガラと一緒に廃棄されている事、そして雷力石は買い手がいない事から一級品であっても大部分がボタ山に積まれている事を説明された。

 更に現在は廃棄された、内陸の山沿いにある旧鉱山にも大量のボタ山があり、70%は雷力石を含んでいるんじゃないかと説明された。

 旧鉱山は利用価値も無くなった事から、土地も王家に返還されている事やこの鉱山も外周のボタ山に近付いて来た事から新たな鉱脈に移転を行う時期になったとコボしていた。

 そこで陽介は鉱山の視察をすると云う名目で関係者と一緒に鉱山内部を歩き回り、労働者達の疲れた笑顔と鶴嘴つるはしもっこと云う道具を使った作業風景を見て回る。

 だが陽介の内心は沸き上がる高揚感を押さえ切れていなかった。

 廃棄されているボタ山の中にお宝が眠っている、しかも鉱山主達はその価値を知らない。

 安く上げようと思えば幾らでも安く大儲けが出来る事に気付いたのだ。

 その日は取り敢えず鉱物サンプルを貰い、宿屋の一室でボタ山から拾ってきたガラも含めて色々調べてみた。

 するとやはりボタ山に積まれているガラの中に高い発電量を持つ雷力石が大量に入っていた。

 これはスゴい幸運だと興奮したまま床に着いたのだが、興奮の余り中々眠れなかった。

 翌日、鉱山主との再度の会談があった。

 そこで陽介はボタ山の購入の見積もりを取って貰う、僅か1時間ほどで上がって来た見積もりの額は思っていた以上に安かった。

 後に雷力石発電が本格化した時の雷力石発電の電力量を石油換算で計算すると大凡おおよそ1万分の1程度でしかなかった。

 陽介が安過ぎるのではないかと確認すると、『寧ろガラを引き取って貰えるならこちらから費用を出しても良い位だ』『埋め立てにでも使うのか』と言われてしまう。

 ふむ、と声を漏らして陽介は苦悩した。

 もしも今、真実を話さずに騙して購入して儲けが出ても、事実を知り反感を買ってしまえば、後々に取引が上手く行かなくなる可能性もあるのではないかと考えた。

 誰の書いた経営書の文句だったか知らないが、損して得取れ、と云う言葉を思い出した。

 そして老練な西洋人経営者ならばここで徹底的に騙して安く上げて、まんまと自分だけ得を取るのだろうな、とも思った。

 確か、お互いに得を取る『WinウィンWinウィン』の関係が商売の基本だと云う話も思い出していた。

 陽介は深く溜め息をくと、正直に日本という文明に於ける雷力石の持つ価値を話し始めた。

 鉱山主や経営陣も初めは理解が及ばなかったらしかったが、今まで厄介者でしかなかった雷力石が高く売れるとなると鼻息も荒く、売買価格の吊り上げをまくし立て始めた。

 予想していたとは云え、正直過ぎる反応に『失敗したかなぁ』と反省を見せる陽介。

 新しく算出された見積価格はそれでも石油換算で百分の一でしかなかったが、一気に百倍である。

 苦笑しながらも『実際に勇者様が日本との交易を成功させる必要がある事』や『施設を作らなければ大量に買い付けられない事』を説明して落ち着かせた後、『王国に返還された旧鉱山のボタ山から購入することも出来る』と釘を刺して置いた。


「勇者様が帰還なされれば交易が始まると思います。良い取引が出来ると良いですね」

「こちらも良い取引相手が出来る事を期待しております、是非とも」


 視察も終わり王都へと帰還しようとする陽介に鉱山主の老人は送迎の挨拶にとして顔を出していた。

 思わぬ取引相手の出現に顔を綻ばせて鉱山主は手を差し伸べる。

 陽介もその手を握り返して挨拶と提案を交わす。


「同意します。そうそう、鉱石は船で運び出される事になるのではないかと思いますので、ここから水海まで幅が広い道路と港が出来ると便利が良いですよね」

「ははぁ、確かにそうですな。出来れば直ぐにでも」

「いえ、実際に取引が始まると決まった訳でもないので、測量と計画だけでも十分過ぎると思いますけど」

「善は急げとも言いますが」

「急がば回れとも言いますよね」

「なるほど、とにかく私たちも色々と立ち回る必要はありそうですな。取り敢えずは今はガラに混ぜている雷力石を別の場所に取り分けて置きますよ」

「よろしくお願いします」


 陽介は挨拶を交わして王都へと帰還する。

 ここら辺は治安も良く盗賊などはほとんど出ないが、偶に水賊が陸に上がって来て強盗を働いた後直ぐに水海みずうみに逃走すると云う事があったので、水海の海岸から10キロの距離は警戒するに越した事はない。

 気楽な視察旅行を終えて王都の屋敷へと陽介とゾハラは帰宅した。

 最初は圧倒的な威圧感を感じていた外壁の門であったが、慣れてしまうと外部からの圧力を通らせない圧倒的な信頼感を感じていた。

 冒険者の護衛達とは城下町の入り口で分かれていた、流石にここから内部での犯罪は騎士団によって激しく取り締まられていたからだ。

 任務遂行確認票に陽介の名前を記入し、数日に渡って苦労を掛けた冒険者達と手を振って別れていた。

 彼らも陽介が勇者直属の部下と云う事で最初は緊張していた様だが、実際は貴族の様に偉ぶらないし、武勇を誇る人間でもないと知り気さくに接してくれていたので、陽介も肩を凝らずに済んだのだ。

 王都だが、流石に魔王侵攻が進むにつれて町中での治安の強化が図られていた。

 夜にもなると交差路には篝火を焚いた騎士団が詰めて道を行き来する怪しげな人影を見逃すかと警戒しているし、イザと云う時の為に街角に丸太や土嚢が積み上げられて籠城の準備が進められているのが伺えた。

 陽介とゾハラも何度か見回りの騎士に誰何されたが、勇者直属の部下である事を記した女王陛下直筆の身分証を確認すると姿勢を正して敬礼してくるので、何とも調子の狂う事であった。

 陽介は自分自身には大した価値はないと信じていて、自分に価値があるのは勇者の代理人だからだと云う事実が確認できるからだ。

 だからいい気にはならない、だけどやる事に自信を持って行動しなければ周りの人間は着いて来てくれないから精一杯肩肘を張ってやって行くしかないのだ。

 周りの人間からすれば微笑ましい限りだが。

 さて、既に見慣れた自宅に帰ってきた。

 一階の事務所には出入りの情報屋や商人が姿を見せていた。

 陽介とゾハラが玄関から入ると事務員と商人達が挨拶をしてくる。

 陽介はそれに応えてニッと笑い、挨拶を返す。


「ただいま、皆さんご苦労様、じきに勇者様が帰ってくる予定なのでよろしくお願いしますね」

「モチロンですよ。魔王に一泡吹かせてやりましょう」

「ありがとう。では」


 そう言うと陽介は奥の階段から二階へと登って行く。

 階段を一段づつ踏みしめて行くとゾハラが感心した様な声で陽介に話しかける。


「大分偉そうに喋られるようになって来たじゃん」

「まあ、何だかんだ言ってもね、そう言う立場になってしまったからさ。だけど前田さんの帰りがいつになるのか考えると不安でたまらないですよ」


 陽介は深く溜め息を吐いて二階の扉を開ける。

 扉の向こうには2列に並んだメイドさん達が立っていた。


「「「おかえりなさいませ、旦那様」」」

「……ただいま帰りました」


 未だ以てメイドさんのお出迎えに慣れない長田陽介21歳のビビリであった。


「グウェンは?」

「奥様は寝室でございます。少し調子が悪いからと」

「大丈夫なのか?」

「お医者様の診察では問題ないからとの事です。旦那様がいなくて拗ねられているのでは?」

「いやいや、それはどうだろうか。じゃあ取り敢えず顔を出してくるよ」

「はい、そうなさって下さいまし」


 陽介は三階のプライベートスペースに入ると、取り敢えず書斎の机の上に鞄を置き、外套を脱ぎ身軽な格好になってから寝室へと向かう。

 扉をノックしてから部屋へと入るとグウェンディロンがベッドの上で座っていた。

 姫巫女としての生活を離れて普通の生活をしている所為だろうか、ここの所彼女の体重は増え続けており、頬もふっくらし始めていたし、お腹も明らかにでっぱっていた。

 ぶっちゃけ妊娠六ヶ月だった。

 姫巫女がどうとか関係なかった。

 まあ、あれだけ熱心に励んでいれば当然結果である。

 日々大きくなるグウェンディロンのお腹を見続けていれば色々と覚悟も決まると言うものだろうか。

 グウェンを見つめる陽介の目は優しい。


「ただいまグウェン」

「お帰りなさいませ、旦那様ダーリン♪」

「大分辛いみたいだけど、大丈夫?」

「えへへ、聞いていたよりもずぅっと辛いですね。これが後四回はある訳ですから、がんばらないと」

「そんなに頑張らなくても、君のことが心配だよ」

「家族が増えるのは嬉しい事ですもの。沢山子供を産んで子孫繁栄する事こそ魔族に対する最高の対抗策ですし。あ、」

「ど、どうしたの」

「赤ちゃんがお腹を蹴り始めました。うふふ、どんどん大きくなって行くのが実感出来ます」

「そうなんだ、男には分からない感覚だからなぁ」

「それは勿論、赤ちゃんを産んで育てる事こそ女だけに許された特権ですのであきらめて下さい。古来より我が王室に伝わる格言があります。産めよ育てよ大地に満ちよ、実にうちの王室に合っています」

「へぇ、どうして王室に合っているんだい?」

「我が王室の人間は女腹でして、記録にある限り千年近くは女児しか生まれていないんです。男なら彼方此方あちこちに種まきをすれば子孫を増やせるのですけど、生憎女はそう言う訳にも行きませんので、子作りには特に注意しているんです。多分、この子も女の子ですよ」

「女の子か、可愛いだろうな」

「当然です。私と貴方の子供が可愛くない訳がありませんもの。乳母の手配もしましたし、用意は万全です」


 グウェンディロンは力こぶを作って力説する。

 日本では妊婦としては些か早い十七歳の彼女は元気そのものに見えた。


 さて、陽介はグウェンディロンの健康を気遣いお見舞いを早めに切り上げると、持ち帰った書類の片付けに書斎へと籠もった。

 この所、翻訳の仕事を減らして候補地の現場へと足を運ぶ事が増えたのは気鬱な事になる事が増えたのが原因かもしれない。

 魔族は着々とこの王国へと向かって侵攻を続けていると云うのに、日本へと帰った筈の勇者マエダからの合図が未だに来ていない事に密かに心労を重ねており、居ても立っても居られない心持ちであったのだ。

 果たして勇者マエダは無事日本に辿り着けたのか。

 日本政府に異世界派遣の段取りを着けられたのか。

 それはまた別の機会に。

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