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第7話 仕事始め。

 異空戦騎 パラレルワールド大競争


 第7話 仕事始め。



 さて、翌日の朝。

 小鳥がチュンチュンとさえずり、基本的に空の天辺に存在するお月様の陰から顔を出したお天道さまの光がガラス窓から差し込み、陽介の顔を照らす。

 視覚による強い刺激を受けて陽介の意識が覚醒した。

 ちなみにこの大陸の太陽は空の真ん中からほとんど動かないので、家具の日焼け後がクッキリと残ってしまっている。

 使用人達は懸命に手入れをしている様だが、太陽に晒され続けて色の境界線が付いてしまったサイドテーブルを寝惚けまなこでボンヤリと数分間見詰めてしまった。

 気怠い。

 今すぐに何かをしようという気分になれなかった陽介は無為にサイドテーブルの日焼け後の観察を続け、数分経っても全く光の境界が動かない事に--異世界なのだな--と実感し、日時計が使えない事に憂慮した。

 暇なのである。

 昨晩の夕食会の後の事は覚えていないが、何故だか非常に消耗した表情で彼は起きあがる。

 フラフラと扉を開けて寝室から出るとエマがにっこりと笑って頭を下げる。


「昨晩はお楽しみでしたね」

「誰にそのセリフを……って一人しか思い浮かばない」

「はい、こう云う場合はこう言うものだと勇者様からお伺いしております」

「えーと、取りあえずおはようございます。それでグウェンさんは」

「はいお早う御座います、旦那様に寝起きの顔は見せられないとおっしゃられて、現在身支度を整えられております。暫くお待ち下さいませ」

「あ~ハイ、分かりました。朝食は何時頃になりますか」

「はい、今朝は初日ですので全員が揃ってからの朝食とさせていただきます。ですが、旦那様のご都合次第で個別にご用意も出来ます」

「いえ、全員揃ってからにしましょうか。用事が出来た時にはその時次第と言う事で」

「諒解致しました。その様にさせて戴きます、ではお目覚めのお茶をご用意しております。書斎の方で宜しいでしょうか」

「あ、何から何まで申し訳有りません。俺みたいな」


 陽介が気弱な事を言い掛けると、突然エマは怒濤の如く反論し始めた。


旦那様マスター! 例え旦那様が仮の主だとしても、私達は全力でサポート致します。これから貴方は勇者様をサポートする為に働きます。それはこの世界を救う大事な物なのです。それは貴方にしか出来ない事なのです。私達は誇りを持ってそれをサポート出来る、つまり世界を救う手伝いを出来るのですよ? これが喜ばしい事で無いのならば何なのでしょうか。当然の如くに甘受なさいませ」

「あ、はい。そうですか」


 余りの勢いに陽介は本気マジでビビってしまう。


「そうですとも。それに大それた事ならば既にこなしているではありませんか」

「えーと、勇者の部下になった事?」

「この国の姫巫女ひめみこに手を出してまんまと嫁にした事とか、とかですよ。聞く所によると筆卸ふでおろしに花街に行ってサキュバスに襲われ呪われたけれども、神託が下って姫様自らが一晩掛けて解呪したとか。王国の長い歴史の中でも勇者ですらないのに一個人に神託が下り、姫巫女を娶って勇者の従者に就いたなど聞いた事もありませんし」

「何か自分の知らない間に随分と大事になってたんですね」

「この国では姫巫女と言えば絶対不可侵の存在ですから。女王陛下でも還俗させる権限はないんですよ? 最高神官にも基本的には無いですね、神託が下った時だけ例外として地上の代理人として許可を出せると言う契約が神々との間に結ばれているだけですから」

「はあ、そのエマさんは随分と詳しいんですね。やはり貴族に仕える為に勉強を?」

「いえ、母が侯爵家のメイドをしていたのですが、義母が子供を作れず五年の掟で側室を捜していたご主人、つまり私の父ですが、に目を付けられまして、その後に私が産まれましたから。別に虐待された訳でもありませんし、母も本妻様との仲も良好でしたから、普通に貴族の娘として教育されましたし」

「そうなると、5年の掟で本妻の義母さんは離縁を?」

「いえ、私が産まれてから一年と少し後に娘、私の異母妹を生みましたので問題なく。ただ、私が長女で異母妹の次女、同じ日の同じ時に産まれた私の実妹の三女と女の子ばかりなので、父としては三人目の側室を欲しがっているそうです」

「三人目ですか、あれ? と云うとエマさんは侯爵家の第一爵位継承者なのでは?」

「まあ、そうなりますね。行儀見習いも兼ねて王家の侍女として働いてきたのですが、ちょっと実家でトラブルがありまして。今はこちらでご厄介になっています。この仕事が好きだというのが一番の理由ですけれども」

「そうですか、しかし妹さん達ですか、同じ日に産まれたって凄い偶然ですね」

「ええ、二人とも父親似で見た目はほとんど双子ですね、家族以外の人達からは普通に双子だと思われている位です。銀髪シルバーブロンド白金髪プラチナブロンドの違いはありますが顔つきも性格もそっくりで。ずっと一緒に生活も教育もされて来ましたから」

「なるほど。おっと、そろそろ朝食の時間なのでは」

「あ、そうですね。では食堂の方に」


 おしゃべりに夢中になってしまったふたりは二階の食堂へと移動した。

 食堂には既に浮腫むくみ面皰にきび対応を終えて軽く化粧をしたグウェンディロンと、化粧? それ何? のゾハラが席に着いていた。

 陽介は挨拶をしながら食堂の中に入る。


「おはよう、グウェン。それとゾハラ」

「おはようございます、ヨウスケさん」

「おっはようヨースケ。朝ご飯にしよう」


 心境の変化からか、陽介の呼び掛け方が変わっていた。

 まあ、あれだけ親密な関係になって他人行儀なままと云うのもあり得ない事であるが。

 陽介が席に着くと、厨房からメイドさん達がササッと出てきてパンやらサラダやらスープやらゆで卵を並べて行く。

 並べられた物はシンプルだが手の混んだ物ばかりだ。

 どれだけコストが掛かっているのか、陽介は想像して頭が痛くなる。

 朝食をグウェンディロンの作法を真似しながら何とかこなすと、食後の香茶こうちゃを飲みながら今後のプランについて口を開いた。


「えー、皆さん聞いて下さい」

「勿論一言漏らさず聞いております旦那様ダーリン

「ありがとうグウェン。これからの行動方針を決めたいと思います、素案なので皆の意見を聞いて修正したいと思う、こうしたいと云う考えはあるんだけど、具体的に何をどうすれば良いのか分からないのでティアンムさんも宜しく」

「畏まりましてございます」


 執事兼相談役のセブ・アース・ティアンムがうやうやしくお辞儀をして、諒解の意を伝える。


「では、えへん、今から決めるのは、この国が勇者・マエダの出身国、つまり自分の出身国と同じ日本国からの援軍を受け入れる為に必要な物が何か、それに沿って調査したり、事前交渉したり、報告をまとめたりしなくてはなりません」


 ちなみに陽介はこれだけの人数が真剣に自分の言葉を聞いていると云う状況に慣れていないので、少しばかり緊張気味だ。

 だが、ここにいるメンバーは身内を除けば女王の命令で集められた者達である、下手に混乱して、アレはダメな男だ、と判断されるのもまずいので、必死でメモを見ながら言葉を紡ぐ。


「決めるのは大ざっぱに分けて次の三つです。一、軍隊を駐留させる為の施設と決まり事。二、日本との間で交易する際の窓口。三、敵との戦闘の方法や戦闘の規定、味方との交流に必要な知識や情報を纏める事。大体以上ですが、細かいところは後で決めるつもりです。ではまず一番目の軍隊の駐留場所に必要と思われる要素ですが、日本との魔法回廊が水海みずうみに設置されると聞きましたので、水海みずうみ沿いの場所である事。日本には三つの軍があり海軍、陸軍、空軍です」

「ヨースケ様、質問を宜しいでしょうか」


 陽介が発言をしているとティアンムが発言を求めて挙手をする。


「はい、どうぞ」

「空軍というのは聞き慣れないのですが、山岳の国サンオタカにある竜騎兵ドラグーンみたいな物でしょうか」

「えー、そうですね。ではこれを見て下さい」


 そう言うと、説明が思いつかなかったのか、陽介はノートPCの液晶画面を皆に見えるように向けて、保存して置いた動画を流す。

 画面の中では航空自衛隊の基地の光景が映し出されており、滑走路からF15イーグルが飛び立ち空中機動を見せていた。


「魔法の映像ですか。しかし、ヒトの大きさから類推すると大分大きな飛竜の様ですな。サンオタカの竜騎兵ならば上級竜に匹敵しそうですが」

「えっと、これはF15イーグルと言う戦闘機でして、音の早さよりも早く飛べる長い間世界最強と呼ばれていた戦闘機です」

「ほう、音よりもですか。なるほど、ヒトがガラスを被っているのはそう言う理由でしたか、それならば納得です。馬に乗っていても風が強いと目が痛いですからな」


 陽介が詳しい説明を諦めた事から多大なる誤解が生じていたが、全部を説明しても理解して貰うのに時間が掛かる為ある意味仕方のない事では有った。


「それでですね、これがこちらに来るかどうかは分からないのですが、飛び立つのに長い滑走路が必要になります。その分を含めて駐屯地に必要な広さが10キロメートル四方は必要かと。あ、、えーと大体一辺が12レルレムの正方形ですね」

「ふむ、それは丘などの起伏があった方が良いのでしょうか。砦を作るとなると」


 この国の戦争に於いては軍事基地の防備と言えばやはり堀や石垣や板塀等で囲んだ砦がメインになっているので、天然の起伏が求められる事が多かった。

 だが、航空機を扱う場所に起伏があっては整地に手間が掛かる事を嫌った陽介はそれを否定する。


「いえ、恐らく平地の方が良いですね。都市に近すぎず、湿地帯は基地の設営が難しいので平原で、あと水の供給に綺麗な小川でもあると便利が良さそうです」

「ふむ、町や村に近すぎず、水海に面していているが湿地は避ける。約12レルレム平方の土地ですな。分かりました、問い合わせておきましょう」

「ありがとうございます。出来れば幾つかの候補地を上げて置いて下さい。自分の出した条件が正しいとは限らないので」

「畏まりました」

「それと王都の近郊に小規模の駐屯地も要求される可能性がありますので、6レルミナ程度の街道に近い土地もお願いします」

「ハイ、しかし他国の軍勢が王都近くに駐留するのは嫌がられる可能性がありますな」

「確かにそうですね。その場合は持ち込む武器の制限か、距離を離すか、王国軍を説得するか、等が考えられます。どの道、実際に日本側の要求が分かるまでは対応は取れません。王国側の考えを調べて置いて貰えませんか?」

「承知しました」

「続いては日本との交易の窓口ですが、これは」

「それならば王国の外務大臣と財務大臣でしょうな。交易に何を使うかが問題ですが」

「その点についてですが、次に上げる物を調査して下さい。鉄鉱石、石炭、石油、魔力石、穀物や漁業の水揚げなどですね。調査するのは生産地と産出量、後は生産方法です。あとサンプルも欲しいです」


 陽介が要望を上げると、何かに気付いたのかグウェンディロンが陽介に口を添える。


「ヨウスケ様、やはり穀物の分布などは王国政府の徴税官タクスコレクタが詳しいかと思いますけど」

徴税官ちょうぜいかんですか? なるほど、何を作っているか色々知らなければ税額も分からないですよね。それでこの国では税金はどのように徴収しているのでしょうか」


 グウェンディロンの提案を聞いた陽介はその提案に頷いたが、どれほど地域の事を知っているのか気になったので彼女に細かい事を質問し返した。

 グウェンディロンは自分が家庭教師によって教育を受けた国家の仕組みを思い浮かべながら、大まかな組織図を説明する。


「ええっと、直轄領、領主領共に各村町毎に徴税官を割り当てて穀物や産物の出来高を部下と共に調査し、相場価格に応じて徴収していますね。商取引は規定の形式の帳簿を確認して、小規模店は店の間口に応じて徴税しているそうですわ」

「なるほど、学生時代は消費税以外に税金を払う事が無かったので詳しくないんですけど。了解です。徴税官の方達に話を聞くには税務庁に連絡すれば良いんでしょうか」


 徴税と言えば税務署、と考えて口に出した陽介だったが、ティアンムは徴税官達の公然の秘密になっている小遣いの稼ぎ方を思い浮かべて、彼らが自らの秘密をわざわざ教えはしまい、と渋い顔をした。


「ふむ、少々それは難しいかも知れませんな」

「そうなんですか?」

「はい、正直でない徴税官ならば誰しも賄賂を受け取り私腹を肥やして過小評価の徴税を行ったりしている、らしいので。勿論、発覚次第逮捕拘禁される重罪なのですが、中々根絶は難しいようです」

「自分達の飯の種を知られたくないと言う事ですか。ここで無理を通すと内政干渉的な不快を与えてしまいそうですね。ですが、大雑把な表向きの集計はされているでしょうから、税務庁と王室の許可を貰って国家機密ではない程度の情報を貰いたいと思います」

「はい、話を通して置きます」

「それと日本の外交官の文官と武官が駐在する大使館ですが」

「大使館ですか? それはどう云う物でしょうか」

「あ、そうか、ちょっと失礼して」


 そう言うと陽介はノートPCを操作して国語辞典を調べる。


「えーと、『たいしかん【大使館】 [名] 特命全権大使が駐在国で公務を執る公館。国際法上は本国の領土と同一にみなされ、不可侵権をもつ。』、何かの拍子に相手の国との間で戦争などが起きそうになった時に直ぐに外交官と話が出来て誤解を解いたり、詰まり遠く離れた相手と直接遣り取りする手間を省く目的の物でしょうか。これも国交を始めたばかりで直ぐに必要かどうか分からないので候補地を選定して置くだけでよろしいかと思います」

「なるほど、必要な敷地の広さはどれほどでしょうか」

「確か、裕福な国なら庭付き一戸建ての屋敷、そうでない場合は集合住宅の一室と云う場合もあったような」

「分かりました、では一戸建てを探しておきましょう」

「お願いします。次にこの国の風俗、習俗、民俗の禁忌や慣習を纏めなければなりません。特に宗教的な物は問題になり易いので細かく調べる必要があります」


 多文化の衝突によって世界各地で暴動騒動が発生し、報道の新聞TVによってその実態を知らされていた陽介は彼らが文化衝突の事に対して非常に懸念を抱いており、彼らが自分達の判断基準だけで行動してしまう事にを心配していた。


「普通にしていればよろしいのでは?」

「問題はその『普通』なんですよね。自分もこの国に放り出されて暮らして来た訳ですけど、例えば、エマさん、犬喰いはダメですよね? 四つ足の犬を料理すると云う意味ではなくて」

「はい、特に獣人族の中でも口吻こうふんの長い種族は口の中に物を入れたまま咀嚼そしゃくする時に口を開いてしまい咀嚼音が漏れる事が多いので、王都では余りよい顔をされません」

「えっと、日本では獣人族がいないので四つ足の犬を代表例にしているのですが、食器に口を付けて食べる事、口の中に物を入れて噛む時に口を閉めずに音を立てる事が犬喰いとして嫌われます」

「ヨウスケ様は昨日の食事の時にドンブリを口に付けて食べていましたが、あれは犬喰いなのではないのですか?」

「確かに、日本以外の私達の世界でも食器に口を付けて食べる事、逆に口に食器を付けて食べる事はマナー違反として嫌われる傾向があります。ただ、日本の場合はご飯茶碗、お椀、丼、取り皿の場合は口に器を付けて食べる事は問題ない事とされます。麺や汁を啜る時に音を立てるのも大丈夫とされていますが、一度口の中に入れた物を噛む時に音を立てるのはマナー違反となります」


 そう言うと陽介はゼスチャーで仮想の食器を取り上げ、悪いマナーをして見せる。

 流石に眉をしかめる者はいないが、何処となく拒絶の雰囲気が流れた。


「獣人がいない私の世界では犬喰いとは動物の犬を例えに使っています。四つ足の犬は食器を掴んで口元に運べませんから口を食器に近づけて直接食べますし、噛み込む時に音を立てるので、それが犬みたいなマナー違反な食事の仕方と言う事ですね。ついでに云うと食事が熱すぎて食べられないので冷ました物しか食べられない人の事を猫舌と言います。犬喰いと猫舌のコラボレーションを見た事がありますが、あれは見ていられなかったですよ」

「食事のマナーがこの国とかなり変わってるんですね」

「ええ特に日本の場合は、元の世界でも良く言われてるみたいです、そんな訳でそれぞれ住んでいる場所や習俗による食文化によって異なるマナーを持っているので、その手のマナーを調べて置かないととんでも無い事件が起こりえます。食事のマナー以外にもトイレの使い方や道の歩き方、珍しい所では子供の頭を撫でると魂が抜けるので絶対にやってはいけないって云う国もあると本で読みました」


 陽介は雑誌やテレビ、ネットを通じて知った雑学を披露して、異文化交流の難しさを説明する。


「自衛隊だと過去の教訓から花街いろまちに出入りする事は無さそうですが、一応手順と禁忌タブー、値段と作法を調べて置いた方が良いでしょうし」

「? 男性が家族の元から長期間離れた時に花街に行くのは普通の事ではないのですか? 何故出入りがダメなのでしょう」


 この国の女性的には、長期間家から離れた時に現地妻でも作られて家に残った自分達への愛が醒められてしまうよりも、現地の娼館にでも行って発散して貰った方が安全であると云う考えが一般的であった為に、疑問に思ったグウェンは陽介にその理由を問いかけた。


「えーっと、ずぅっと昔に日本が外国と戦争をした時に民間の娼館しょうかんが軍隊の進出した現地に着いてきたんだけど、兵隊達に性病が感染うつらないように軍医が娼婦達の性病健康検査をしていたんだ、けど、戦争に負けて数十年後に、彼女らは日本の軍隊が出動して支配地域から無理矢理『女子挺身隊』として連れて行かれたのだ、戦場に連れて行かれた不幸な彼女たちは軍隊によって『従軍慰安婦』として強制的に行為を強いられたのだ、と濡れ衣を着せられたことがあって、それ以来、任務に就いていない時でもその手の場所に出入りすると非難の声が出てしまうから、かな?」

「無理矢理ですか? それは酷い、男女の行為は互いの好意によって成り立たねば意味がないと言うのに」


 グウェンは自分達の常識とは違う原理で動く他国の人達の行動を理解し兼ね、無理強いと云う言葉に憤慨してしまう。


「日本の軍隊が誘拐、と云うのが出鱈目でたらめだと云うのは戦後直ぐの調査で明らかになってますし、新聞広告や公的記録から普通の娼婦が高級官僚より高い給料を貰っていたのも分かってます。だけれど日本に支配されていた半島の民間業者が人攫いをしていたのは事実らしいですね。そう言う業者に限って給料を払わずに奴隷の様な劣悪な状態だったとか」

「男女の交わりは神に至る神聖なものなのに、それはダメです、絶対に許せません」

「と云う風に宗教の禁忌は他の宗教の人間からは理解されにくく、国が違えば常識も違うので色々と調査して、やって良い事といけない事などを纏める必要があるんです。特に宗教関係は難しい物がありますから」


 分かりましたか? と陽介が問うとグウェンディロンは興奮し過ぎた自分に恥じらいを覚えたのか、頬を仄かに染めて頷く。


「と、云う訳で花街関係の情報は何処で調べれば良いでしょうか」

「神殿関係ならわたくしの方で調べられますけど、一般の娼館や夜鷹、未婚の一般臣民は分かりません」


 陽介が脱線し掛けた話を引き戻すべく情報を求めると、グウェンディロンは空かさず自分の関係者達への聞き取りを頭に浮かべる。

 だが、流石に接触した事のない分野の事までは伝手が思い浮かばなかった。

 そこへティアンムがグウェンディロンのフォローに回る。


「ふむ、私もこの所、そっち関係にはご無沙汰でありますが、花街に関しては顔役に繋ぎを付けられますのでお任せ下さい」

「へえ、王都の花街の顔役とですか、顔が広いんですね」


 顔役と云えば当たりが良いが、実際はほとんどヤクザである。

 お世話になったゾハルとギム親方は色々ヤンチャをしていた時期に地元の顔役と知り合いになったと言っていたが、王都の顔役ともなればちょいわるではなく極悪ごくわるである。

 そんな連中とティアンムさんは一体どういう繋がりがあるのか、非常に気になったが聞くのは非常に怖くもある。

 だがあっさりとティアンムは如何なる理由でその繋がりを持ったのかを陽介に話してしまう。


「ハハハ、執事足るもの主人のお客人をもてなす為に必要であれば、その様な者達とも付き合いを持ちますとも。ですがおやぶ・・・顔役でも流石に堅気連中の事に関しては分かり兼ねますので、情報屋を数名雇って調べさせましょう」

「へえ、情報屋ってそんな仕事もするんですか、イメージでは酒場の片隅でジッとして客を待つ、なんて思っていました」


 陽介の脳裏には、情報屋と言えば町の闇の中で暴力と隣り合わせの社会で鬱屈とした男達が酒場で情報提供者達と情報の遣り取りをする、と云うハードボイルドな映像が浮かび上がっていた。


「ええ、そう言うのもいますが、社交的でなければ情報も集まりませんし。基本的に気さくな何処にでもいる普通の人が多いですよ」

「ああ、納得です。間諜スパイになっているのが町に良く居る普通のオバチャンが多いのと同じ理由ですか」

「知っていましたか。ふむ、勿論の事、国家機密に関わるような情報を集める情報組織もありますが、そう言った連中は何処かの国家組織や傭兵団、冒険者組合に専属していますから。普通の情報屋と云えば、井戸端会議や酒場で聞いた噂話を纏めて裏を取った物を扱ったり、ペットの犬がいなくなったと聞けば行く先の情報を集めたりと浅く広く行動する事が多いようです。中には花街のあの娘がお勧め、とか花街の情報に特化した情報屋も居るようですがね」


 それを聞き陽介は歌舞伎町の風俗情報ステーションみたいな物かぁ、と何処の世界にもそう言った情報は必要とされているのだな、と感心した。


「では、お願いできますか? 」

「はい、任されて下さい」

「最後の案件は魔族との戦闘規定ですが」


 陽介は或る意味一番厄介な規則ルールの確認を取るべく言葉を進めた。

 地球に於いては、例え敵であろうとも同じ人間であった。

 歴史に残らない様な遙か太古の時代に異種人類との競合はあったようだが、それ以外に人間以外の知的存在との生存権干渉行為は確認されていない。

 特に日本に於いては、江戸時代までに異民族との戦闘ですら稀であり、たった二回の元冠で平地で騎馬戦闘を行う戦闘スタイルから、堀と石垣による籠城戦スタイルへと変更してしまう程に戦訓を得る位、異なる文明との戦闘経験が不足していたのである。

 ましてや、第二次世界大戦に於いて、戦後に整えられた世界の平和に対する罪とやらに事後法で裁かれた経験を持つ日本の自衛隊員には、事前に人間でない相手との戦闘の際にやって良い事と悪い事を法律でキチンと整えて置かなければまともに戦闘もこなせない可能性がある。

 実際は上部組織が迷っている内に現場の人間が罪を被る覚悟で戦闘を実行してしまう可能性もあったが。

 ともかく、魔族相手の戦闘が人間相手の物とは全く異なっている事を日本の政府に認識させなければならなかった。

 さもなければ戦闘後に残虐行為を行ったと戦闘を行った当人達が責任を負わされてしまう可能性が否定出来なかったのだ。

 現在この大陸で行われている魔王による侵略戦争は殲滅戦の様相を呈しており、魔王軍が通った後には人族の姿はなく、血に酔った魔族らが徘徊するのみである。

 魔王の支配下に置かれた地域では、光を嫌う魔族を庇うように暗雲が立ちこめ、通常の植生が破壊されて行き、動物なども痩せ細って魔物モンスターの餌食となっていた。

 既に魔王の根拠地である大陸北端から魔族の軍勢が南下を始めていた。

 大陸中部西岸を大きく割り込むこの水海みずうみは魔族の侵攻を押さえ込む天然の要害となっており、ここを抜かれると後は無い。

 情け容赦なし。待ったもなかった。

 この事は戦いに縁のない普通の農民でも理解しており、魔族に対する心構えは誰もが心得ている本能とすら言えるであろう。

 なのでティアンムの答える事も既に決まっていた。


「これは本来ならば王立軍に訊くべきなんでしょうが、今更訊く迄もありません。冒険者も一般人も理解しています、見敵必殺サーチアンドデストロイ見敵必殺サーチアンドデストロイ! 魔族との共存は不可能、魔族の目的はこの大陸を滅ぼす事にあります。一匹足りとて俘虜ふりょに取らず、殲滅あるのみ、で御座います」


 見敵必殺サーチアンドデストロイが合い言葉、それは既に国是となっていたのである。

 だが、平和国家を標榜する日本に生まれ育ち、平和こそが生きる道と教えられて来た人間には他に道は無いのかとも考えてしまう。

 だからこそ、陽介もこう云わざるを得ないのだ。


「まったく干渉は不可能なんですか?」

「魔族が人間の味方をしている時は罠を用意している時の事ですから。今までも公正明大で高潔な騎士や神官戦士が見かけはか弱い魔族の少女に騙されて自滅しているばかりではなく、周りを巻き込んでいますので。自分だったら大丈夫と公言している者ほど被害が大きいのが特徴ですな」

「最悪ですね」

「魔族で御座いますから」


 それが納得行ってしまうのが魔族という物なのだろう。

 陽介はその点を頭に刻み込み、ティアンムにこの国の軍隊の構成、使用武器、兵糧の備蓄量や運搬方法、相手方の目的や戦闘方法、使用武器や軍隊の構成等の報告書レポート要点書レジュメに纏めて貰う事にした。

 まずはそれを日本語に翻訳してから前田前総理に手渡すつもりである。

 近日中に前田前総理は日本に送還魔法で送り返される予定であった。

 早急な戦力の充実化が計られなければならない、軍事組織がいきなり戦場に投入されても十分な働きはこなせない。

 戦略的見地、戦術的見地から戦場となり得る地域を把握し、兵站の計画を立て準備をして、必要十分なだけの兵士と武器弾薬を用意、陣地構成をしっかりとして準備を整えた後、有人偵察機によって戦略偵察行動を行い、無人偵察機によって戦術偵察を実施、制空戦闘機による航空支配と支援戦闘機による対地攻撃を行い敵を斬減させ、砲兵と自走砲による遠距離砲戦、中距離にて敵装甲部隊を機甲部隊によって攻撃し、陣地にて近距離戦闘を行う、もちろんその他に採れる奇策は必要に応じて使うのだ。

 だが、それを行う為には膨大な戦力とそれを支える支援が必要なので前田前総理には事前の情報が必要不可欠なのだ。

 しかし、何しろ時間はなかったので、かなりの量がある細々とした報告書をきちんと翻訳して完全版を用意する余裕は無かったからだ。

 前田前総理に手渡す物は「女王陛下からの親書・原版」「アクアマンデ王国軍軍事要点書・翻訳版」「同要点書・原版」「同報告書・原版」「敵勢力軍事要点書・翻訳版」「同要点書・原版」「同報告書・原版」である。

 彼は頑張った、屋敷の書斎に籠もり切りになりグウェンディロンやエマに軽食と眠気覚ましの苦辛クラ茶を持って来て貰い、ボールペンは途中でインクが尽きた為に慣れぬ羽根ペンでペンだこを作りつつ紙に記述を続けた。

 王城や勇者、その他の組織に用事がある時にはゾハラが健脚を活かして手紙の遣り取りを行った。

 そして三徹の後にゾハラに渡した最後の報告書とSDカードは無事に前田前総理の手に渡り、異世界の日本へと転移して行ったのである。

 予約掲載を入れた水曜日現在、ストックは無し。

 来週の掲載に向けて頑張っぺ。

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