地下通路
不自然な台詞や言い回しがありますが、ご了承下さい。
もうすぐ序盤の終わりにさしかかっています。
私がそこに気づいたのは最近の事だ。宮殿の地下倉庫に保存されている、『ある物』を見に行った帰りの事。宮殿のバカ長い道をてくてくとあるいていると、不意にある違和感に気づく。道の両側にには複数の甲冑が飾られている。その内の一つだけ他とは何か違った。「なんだ?」と思い近づき観察した。他の甲冑は全て右手に剣が握られていて、騎士さながらの構えをしているにも関わらず、その甲冑だけは不自然にも左手に剣が握られていた。私がそれに手を振れいじっているとガチャンという音が聞こえ、甲冑がひとりでに動き、隠されていた穴が姿を表した。穴をのぞくと、はしごがあり、闇が奥まで続いていた。
父が昔言っていた事を思い出す。『宮殿の何処かには、他国や魔物の襲撃があった際、緊急の脱出通路が存在する。今はもう魔物の数も、敵国の侵略も無くなり使われることが殆ど無くなったがね……』と口にしていた。この通路はどうやら平民街と繋がっているらしく、『地下の隠し通路』といわれているらしい。もしそれが本当なら思わぬ発見である。少なくとも私にとって……。
昨日のパーティーを終え、もういよいよ我慢の限界にきていた私は前々から計画していたある事を実行に移す事にした。自室の周りの誰もいないか確認すると、そそくさと部屋から飛び出て、地下通路がある、宮殿一階の通路に向かった。挙動不審ぎみに辺を警戒している私の背後から声が聞こえた。
「姫様? どうしたんですかこんな所で?」
万事休すかと思った私は後ろを確認する。そこに立っていたのはメイだった。
「メイ……何だアンタか」
「へへへ、そうですよ貴方直属の使用人のメイですよ」
内心ほっとした。メイなら多少融通がきく。それは私の使用人であることもあるが、彼女本来の性格が大きな理由だろ。
私はメイにいった。
「いい、私はしばらくの間宮殿から姿を消すけど、他の誰かに何を聞かれても、部屋で引きこもっているというのよ。わかった良いわね!」
そう言うとメイは呆れたように、
「またよからぬ事をお考えになられているのですね。いいかげんにしないと私がまた旦那様にしかられてしまいます」
怒った顔が、やがて笑顔になり、
「わかりました、私は今何も見ていませんし、何も聞いていません、姫様はずっとお部屋にいた。そう皆に伝えますね」
「ありがとうメイ、迷惑かけるわね」
「全くです」
メイにお礼を言い、足早に地下通路へと向かった。
「暗いわね……」
それが感想だった。真っ暗な空間。じめじめとした空気。魔物でも出てきそう気さえする。しかし風が吹いているので、外に繋がっているのであろう。
「しかたないわね」
私は空中に文字を描いた。その瞬間、指先から光の玉が出現し辺を照らし出す。これは、『光球』指の先から光の玉を出現させる下級魔法だ。魔法は、『スペリング』と呼ばれる、空中に文字を描く行為によって発動する。正確には空気中に漂う魔力を組み立てコントロールする事なのだが、詳しくはよく知らない。
上級魔法になってくると、『スペリング』の量が膨大な上、わずかなミスも許されない。上級魔法を使用するのに一時間以上かかるなんて事ザラである。
「それにしても汚い所ね」
周りが明るくなり、改めて私は周りを確認する。コケの生えた石造りの道は所々湿っていている。風の吹き込む道は予想以上に不気味だ
「まぁでも……」
私は思う、この先には自分が知らない世界がある。知らない街がある。知らない人たちがいる。知らない物、知らない文化伝統……それら全てが心をときめかす。高揚感に近い衝動が私を突き動かす。自分が自分らしく生きられる、自由な世界、それが今目前に迫っている。
「楽しみね」
私がそう呟いた傍ら何かが暗闇の奥で紅く明滅している事に、ふかくにも気づく事が出来かった。