口の悪い少女
現在詰め込んだ設定の矛盾を修正してます。
分かりにくい所が多々ありますが、是非読んで頂けると嬉しいです。
朝日が射す中ゴロッゾの平民街では、今日も人々が生活を営む。所々で声が上がり、徐々にそんな声が増えて行く。街の二階建ての民家から顔を出し、空気の入れ替えをしている所も見受けられる。
「しかし、地図があっても絶対悩むだろう……」
エミルの家に泊めてもらい、じいさんと会話した後、意外にもぐっすりと眠れてしまった自分に嫌気がさした。
宿屋で泊まるという計画が脆くにもくずれさった。まぁこの街に来た目的は宿屋に泊まる事ではないのだが……
「確か城に向かって真っすぐだよな」
王都ゴロッゾはフランナイト宮殿を中心に作られた、半径五キロメートルの円村の様な街で、一般庶民が暮らす、『平民街』貴族が暮らす、『貴族街』とに分かれているらしい。『らしい』と言うのは昨日じいさんから情報だからだ。どうやら偉い人という物は街の中心に家を構えたい物らしく、俺はあのデカイしろに向けて歩をすすめる。
「世間知らずにも程があるな……」
自分の無知さに飽きれたのは此処に来て何度目だろう。
「でもまぁ……あの城に行けば偉い人に会えるんだよな」
そして本来の目的を思い出す、こんな世間知らずの俺がなぜはるばる故郷の田舎から、人がひしめく都会に来たのかというと────
「今日こそお袋の情報を手に入れてやる」
そう俺は行くへ不明になったお袋を捜しに来たのだ。
お袋がいなくなったのは俺が4歳の頃だ、何時もの様に仕事に出かけたお袋をが急に姿を消してはや10年の月日が流れた。
そんなお袋を捜そうと14歳になった俺は故郷の田舎を、何の準備も無く飛び出した。そして今日はなんとしてでも情報を手にいれたい、そのためには……
「偉い奴に話を聞けばいろいろ教えてくれそうだしな」
情報を手に入れたい理由は、プライドが半分、そしてもう半分が……
「先生絶対切れてるよぉ、帰れねぇ〜」
先生と言うのは、勉強やら剣術やらを教えてくれた俺の師である。先生は恐い、むっちゃ怖い、結果出さないと帰れない。
ふと昔の事を思い出してしまった。過去のトラウマが背中に寒気を走らせる。回想モードになりかけた頭を再び切り替えると、長い迷路の様な道を再び歩き出す。
「ハァッ!! 通行禁止!?」
俺がそう言った先には腰に剣を刺した憲兵が怪しむ様に立っている。
「そうだ、お前みたいなよそ者を貴族街に入れる事などできるか!」
随分と偉そうに言ってくるその顔が異様に腹立たしい。
貴族街と平民街との間には他国からの侵略や魔物からの安全性を考え、円形に高さ五十メートルの段差がある、貴族街に入るためには専用の詰め所を通らなければならない……と、じいさんに聞いた。
「それに、その髪……お前東界人だな」
東界人とは東の国に住んでいる人の略称で、黒い髪と黒い目をした人達のことだと、これもじいさんに聞いた。
「いーじゃん別に、通してくれよ!」
「駄目だ、いい加減にしないと牢屋にぶち込むぞ!!」
半分脅迫気味に断る憲兵に、
(あぁ!! テメーの給料は誰が払ってると思ってんだ!? 俺たち庶民の血税だろこらぁ!?)
などと言いたくなったのだが、俺は払っていないので言い返す言葉もなく、しかた無く引き下がる事にした。
平民街の飲食店に入り、どうにか貴族街に入る術を模策する。ろくに勉強もして来なかった、俺の頭ではとてもじゃないが、妙案を見つける事なんて出来なかった。
ダラダラと怠惰で無駄な時間が流れる。
「ホレ、兄ちゃんこれ飲みな……」
ガタイの良いヒゲを蓄えた、店の叔父さんがミルクを俺に手渡して来た。
「えっ!? 俺ミルクなんて頼んでないぜ?」
叔父さんは、どこか気品のある笑いを浮かべながら
「それはサービスさ、受けとんな、兄ちゃんがあまり浮かない顔をしてるもんで、ついな……」
「叔父さん……」
ハードボイルドと言うのはこんな感じなのか、叔父さんから底知れぬ何かを感じる。
「まぁ、若い内ってのは色々とあるもんだ、存分に悩めば良いさ、それが後々になって良い笑い話になる、そんなもんだろ」
叔父さんは背中を俺に向け言う
「だが、その困難から目だけは背けるな、逃げたら笑い話にもならねぇー」
叔父さんは店の奥へと消えて行く。
ハードボイルド!! ハードボイルドだよ叔父さん! その後店の奥から、「あんた!! また店の物を勝手に振る舞ったね!! 一体誰の金だと思ってんだい!!」「ごめんよ母ちゃん、ごめんてば!」「全くアンタはいつまでもダラダラと仕事にもつかないで……」などと声が聞こえたが、俺は聞かなかった事にした。
その後も結局、何のアイディアも思い浮かばなかった。脱力感と絶望感が俺の中を蹂躙する。
「はぁ〜、こんな時ユウの奴が居てくれりゃーな……」
ユウと言うのは田舎のダチで幼なじみだ。アイツは昔から頭が良く、何事もそつなくこなす天才肌だった。剣術でも勝てた事はなかったし、それに……。
俺は嫌な事を思い出した、あの忌々しい幼なじみは、女に持てた事を。
同じ師に教えをこい、同じ年に生まれ、同じ様に育った。それなのに何故アイツだけ!! アイツが年上のナイスバディーなお姉さんに言い寄られていた時は本気で殺そうかと思った。
などと切実な感情が渦巻いていると、男の甲高いドナリ声が聞こえた。
「何じゃ!? このアマァ!? 人が仕立てに出てりゃいい気になりやがって!!」
刈り上げられた茶色い髪、浅黒い肌、良く鍛えられた腕、身長は180センチ辺だろう。
(おいおい店の中で喧嘩するなよ、見た感じあれは剣士ってところか……)
そんな面倒ごとに巻き込まれた哀れな被害者さんに目をやる、そこには白いドレスを着たナマイキそうな女が、
「あんた息が臭いのよ、あと私の視界に移らないでくれる? 目が焼けそうだわ」
などと男を挑発している。
ブロンドの長い髪、俺と同じくらいの身長、サファイアブルーの大きな瞳、色白の肌、整った顔立ちは美人と言うよりかわいいに近い。女はやたらと口が悪い。
(おいおい、あんま挑発しないほうがいいぞあれ……バカだなぁアイツ)
「死ね、豚、クズ、ゴミってホント無能ね、脳味噌付いてんの? いい良ーく聞きなさい、アンタの事なんてね誰も見ちゃい無いのよ、だから死ね! 誰にも迷惑掛けない様に苦しんで死ね!!」
よくもまぁーあんな汚い台詞が出てくる物だと思う、良い子の俺にはとても真似できない。
何の義理も無い奴を助ける筋合いは無い、そんな奴、幼なじみのユウだけで十分だ。
俺は傍観を決め込み、野次馬に徹する。
事の顛末を呆然と眺めていると、口の悪い女と目が合った。
嫌な予感がしたので慌てて目をそらす。
(何こっち見てんだ糞アマが!! 仲間と思われたらどうすんだ!!)
そして横目で女を見ていると、女が俺の方を指差し言う。
「ってアイツが全て言えって、これで良いんですよね!!」
(アイツ殴っていい?)俺は殺意ににた怒りを糞アマに向ける。