光仙花
現在詰め込んだ設定の矛盾を修正してます。
分かりにくい所が多々ありますが、是非読んで頂けると嬉しいです。
豚小屋(エミルの家)で一夜を過ごす事になり、まあいいかと妥協する、自分の寛大さにほれぼれしていた数分前。そして出て来た料理に絶句し、切れそうになっている今。
(オイオイなんだよこりゃ?)
地面に丁寧に置かれた、小汚い食器に乗せらている一切れのパンに目を向ける。パンからは緑色の粉の様なカビが生えていて、やばそうなにおいをプンプンとかもしだしている。こんなものをドヤ顔で出されても反応に困る。
「さぁさぁドンドン召し上がって下され! おかわりはありませんがのぉ!」
「そーだよ兄ちゃん!! どんどんくってくれ!! おかわりは無いけど!!」
(お前らわざと言ってない!?)
内心突っ込む、この家に来てから何回突っ込んだだろう。
だが食べ物を無駄にしてはいけない。半分泣きそうになってパンを口へと運ぶ。
「じゃいただきやーす!!」
食事の礼儀をわきまえたいい子の俺は、一気にパンを噛む。
(堅てぇー!! それになんか舌触りが異様な感じが……あっ!?.......でも)
カビパンを一気に飲み込み胃へと押し込んだ。妙な喪失感がしたのだが……。
「まぁ、食えなくもないか……」
そう言うと、ガイモンのじいさんが笑いながら。
「当たり前じゃ、我が家の食事もバカにならんじゃろ、ホホホ」
「じいちゃん! そんな事ないよ家の食事は最高だよ!」
何処までもおめでたい奴らだと心底思う。
それにバカになどしていない、哀れに思ってるだけだ。しかし石の上にも三年、豚小屋も住み慣れれば都となる……少し怖くなった。
「それにしても気になってたんだが、エミル?」
「ん? どうしたの?」
俺は疑問になっていた事をエミルに言った。
「お前の父ちゃん、何時になったら戻ってくるの……もう夜更けだし」
「父ちゃんは、帰って来ないよ」
え? また余計な事を言ってしまったのか、でもちゃんと生きてるって言ったじゃん! 周囲に流れる嫌な空気が重い。
「エミルの父親イワークはのぉ、エミルが三歳の時に……」
ガイモンのじいさんが暗そうな顔でを言って来た。
周囲の流れから大体の事情を悟る、きっとエミルの親父はあれだ、事故かなんかで行くへ不明になり、未だに帰ってくる事をエミルは信じて待っている。
様々な展開を予想してテンパってしまった。聞きたくない聞きたくない……。
「騎士になると言って王都の騎士学校に行きおったワイ!! 今頃何処かで飲んだくれとるかもしれんの、ホッホホ」
「じじいぃぃぃぃいいいいいい!」
俺は生まれて初めてじじいに殺意がわいた。
食事は終えるとエミルは寝入ってしまった。夜の静寂が訪れ、外は静まり返っている。
「あぁ今日は何時も以上に疲れたぜ……」
雑草が無造作に生えた地面腰をおろし、独り言を呟いた。
夜空に輝く星々を見上げる。そこには何処までも続く果てしない空間が広がっていた。
そしてエミルの家に目をやる、街から切り離され、裏手の森の奥にポツリとある家は何処か寂しそうで、不自然に思えた。
エミルの家は、王都ゴロッゾの外れの森に家を構えている。
彼らの先祖は他国から移り住んで来たらしく、かつて赤子だったエミルを連れたイワークがここ王都ゴロッゾの官職に、無理を言って特別に住まわせて貰っているようだ。
ふとガサガサと木の陰から物音が聞こえた。
(魔物か────!)
相棒に柄に右手をやり、目をこらし辺を見据える。五感を研ぎ澄まし不身な影をとらえた。
全神経を影に向け、警戒心をレッドゾーンまで高める。
たとえ王都でも魔物と言う者は何処にでも表れる、それに今は夜、魔物が活発に活動する時間帯だ。
魔物の段階はEからSまであって階数が一つ上がる度に強さが段違いなのだ──と故郷の先生に教わった。おそらくこの辺だと最低ランクのEランク辺の魔物である筈だが、警戒するのにこしたことは無い。
そして影は次第に形どられ、瞳孔にその形を映し出す。
「────じいさん?」
「御主まだ起きとったのか? どうしたんじゃ剣なんか握って?」
糸が切れた様に力が抜けた。俺のマジモードは一体何だったのか。
相棒から手を離し、じいさんを見据える。
「じいさんこそ、一体どうしたんだよこんな夜中に?」
疑問に思ったので訪ねると、じいさんは笑いながら言った。
「ウム、御主に見せたい者があっての」
「見せたいもの?」
「まぁ、付いて来なさい、ほっほっほ」
笑うじいさんの後を追う。森の奥へと突き進む、エミルの家から随分とはなれてしまった。
「おい何処まで行くんだよ、魔物が出たらアブねーぞ」
「この辺りは魔物の嫌いな匂いのする植物があっての、今まで一度も魔物なんて出て来た事なんて無いわい」
そんな植物が存在するなんて知らなかった、自分が胃の中の蛙である事を意識する。
「そろそろ、見えて来る頃じゃ」
「────?」
やがて見えてきた光景に、俺は驚嘆する。
樹木で覆われた森の中に、わずかに開いた空間 そこにはエメラルドのように光る花が、大量に植えられていた。
絶景──そう表現して良いのかと思うくらいに、神秘的な光景だった。
「これは光仙花と言っての、エミルの思い出の花なんじゃ」
光仙花の花は、夜になると大気の魔力と月の光で光合成を行う。その時光仙花は瞬間的に光を放つ。とじいさんは言う。
「あの子の母親が生きていた頃にの、一緒に育てていてのあの子は何時もニコニコと笑っておったわい」
じいさんは寂しそうに言った。
わずかな沈黙が流れる────
「エミルの、あんな嬉しそうな顔を見るのは久方ぶりじゃ」
沈黙を破る様ににじいさんは言った。そして続ける。
「あの子は父親がいなくて、何時も寂しい思いをしておったからのぉ」
「はっ? 何言ってんだ、そんな分けないだろ」
何を言い出すかと思えば、あの糞ガキにそんな様子微塵も無かったぞ。
「ホホホ、それは御主がいたからじゃ」
風が吹きゴロッゾの森の木々を揺らす、一つ一つの木が生命の躍動を醸し出す。美しい情景が語りかける様に目に映る。
「御主が家に来てくれてよかったワイ、悪いの、本当は嫌々だったんじゃろ?」
全てをじいさんは見透かしていた。
「本当だぜ、あんな家.....今日ぐらいしか泊まれねーぞ」
自然と本音が出てくる。何時ぶりだろう、こんなに自然に気持ちが出て来たのは。
俺は今日見たこの光景を絶対に忘れないだろう、そう胸に刻み込んだ。