マオとエリザ
「ねぇー、私アンタに付き合ってる暇なんて無いのよ。まさかまだすぎた事根に持ってんの? アンタそれでも男? 女々しいのよ」
俺の隣で偉そうな態度で話しかけて来る女の名前はエリザ。この糞女には申し訳ないという気持ちが微塵も感じられない。よくそんな言葉がでるもんだと呆れて物が言えない。この女のせいで今日は散々な目にあった。変な男には因縁をつけられるわ、そのせいで無茶苦茶になった店内の清掃費や迷惑料を払わされ、魔法闘技場で手に入れた金はほぼ空である。
そんな糞女と一緒にいる義理は無いのだが、エリザは裕福そうな身なりをしている。貴族街の人間である可能性が濃厚だ。俺はしばらく猫を被りコイツと親交を深め貴族街にいく為の足がかりにしようと画策する。だがコイツの態度は予想を大きく上まり最悪だった。俺は一言文句を言わざる得なかった。
「テメーのせいでこっちは散々な目にあったんだぞ。俺に何か言う事があるんじゃねーのか? ごめんなさいとか、すいませんとか」
「だからさっきから、謝ってるでしょ。それとも何? アンタまさか迷惑料だせとか言い出すつもり」
「そんなことたぁどうでもいいんだよ。お前『悪かったわね』が人に謝る時の言葉とか思ってんの? 貧しいのは胸だけにし……ファガ!」
頬にめり込む様に華奢な手が跳んで来た。痛いじゃないか。本日で二度目の打撃攻撃が俺の身体に悲痛な痛みを与える。
「あんたそれ以上言ったら殴るわよ」
もう既に殴っているじゃん。とツッコミを入れそうになったがギリギリのところで自制する。それにしてもなんて女だ、謝る気が全く無い。裕福そうに見えるがきっと心は貧しい奴なのだろう。その証拠が胸に表れている。もしコイツの胸が一つの惑星なら何処までも地平線が見える真っ平らな平原であろう。可哀想な奴だ。
「それにしてもアンタ。さっき使った技、あれ魔技に見えたけど何処で教わったの? この国にそんな魔法技術でまわってないわよ」
エリザは怪訝な目で問いかけてきた。
「なんでお前に説明しなきゃいけないの? 勝手に想像して……」
と文句を足れようとしたが、エリザの手に力がこもるのを目にしたので、少しぐらい教えてやってもいいかと考え直す。
「分かった。教えるからその手をしまえ」
「分かればよろしい」
クソ、なんてムカつく女なんだ。そんな気持ちを押し殺し事情を話す。
「いいか一回しか言わないからよく聞いとけ――――」
――どうやら黒髪の少年マオは東海人らしい。
東海人は東の大陸に住む人間の総称だ。特徴として髪や目の色が黒いく魔技といった魔法技術を使う。彼の使う魔技は、故郷の村の先生に教わったらしい。なぜ東国の人間が南の小国であるフランナイト王国にやって来たのか、そう聞くとマオは、「母親の情報を手に入れるため」と答えた。そのために貴族街に行きたいらしいのだが、貴族街にいる人間はある事情から東海人を嫌っている。嫌っていると言うより恐れていると言うのが意味としては正しいだろう。その為、貴族街にはよっぽど事でもない限り、何処の誰かも分からない東の国の人間が入れる事なんてまず無理だろう。
(まぁ……絶対に無理とわ言わないけどね)
「ん、えーと……アンタ貴族街に行きたいのよね?」
「ああ。そうだけど」
「つれてってあげようか?」
「マジ?」
「マジよ」
私はマオの事情をあらかた聞くと、さっきの事もあるので貴族街に連れて行ってあげると約束した。
「ただし、きょう一日だけ街を案内しなさい。そうすれば貴族街につれて行ってあげる」
私がそう言うとマオは頭を抱えしばらく考え込んでいた。そしてしぶしぶと顔をあげ、
「……分かったよ、今日だけだからな」
「分かればよろしい、今日はよろしくねマオ」