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闇に消えた町

作者: 黒耀石

俺は、物陰に身を潜めて奴らが追跡を諦めるのをただ待ち続けていた。

夜の路地、人の姿など無い。

そこは、暗い犯罪の臭いが漂う町。

秩序の欠片も無い町に、俺は生まれた。

見寄りも無ければ、守る者も無い。

そんな俺でも、生きて行く為にたった一つだけ出来る事があった。


盗み。


犯罪者の人権なんて認められない。

捕まれば、殺される。

罪の重さなんて関係無い。

ただ、捕まれば容赦無く殺される。

俺の両親も、そうやって側から消えた。

だが、俺は捕まるつもりは無い。

今日も食糧を盗む事が出来た。

店主を殺さなかったのは、まだ優しい気持ちが残っていたからかもしれない。


店から出た直後だ。

奴らの姿が遠くの方に見えたのは。


「いたぞ!あそこだ!」

「ちっ……」

奴らの罵声が、俺の神経を刺激した。

素早く体制を整え、身の丈はある銀色の剣を鞘から抜いて構える。

「殺せ!」

暗闇の中、騒がしい声だけが響く。

どうせお前らは、政府のやり方に反抗出来ない弱者の集まりじゃ無いか。

なら、政府の為に死ね。

「殺せ!」

一人が、奇声を発して突っ込んで来た。

暗闇とは言え、剣の発する空気の流れを読めば攻撃の軌道は分かる。

胴体だ。

素早く後ろに下がり、剣を回避。

「ひっ……!」

攻撃を避けられ、無防備状態のまま驚愕する一人の首に向けて剣を振る。

肉を裂き、首は落ち、赤い鮮血を飛び散らせながら力無く地面に倒れた。

もう一人の方は、恐怖に捕われたのか無様な後ろ姿を晒し逃げて行った。

「……くっ!」

やりきれない気持ちで、側に横たわる死体の腹部に赤く染まった剣を突き刺す。

生々しい感触。人間の肉を裂く感覚。

「痛くねぇだろ……お前らは!」

お前らは、こうやって脅え震える母さんを殺したじゃ無いか。

俺だって、殺したく無い。

けど、生きる為にはどうしてもやらなきゃいけないんだ。

体を血に染め、苦しんで死ぬ人間の姿を見ない為には、首を断てば良い。

昔、誰かから聞いた。

だから、俺は今でも実行する。

全ては生きる為に。


俺と同じ境遇の少女と会った。

幼い頃に両親を失い、それから裕福な男に養子として育てられたらしい。

だが、男のやり方は卑劣だった。

少女の体が目的だったのだ。

抵抗出来ない事を知っていて。

似た境遇を持つ少女と、出会った。


「……男の家を教えてくれ」

許せない。

少女は、とても純粋な目をしていた。

汚れていない心を持っていた。

なのに、男はそれを奪おうとした。


どうせ俺には守る者は無い。

だが、それはさっきまでの話。

今は、こんな俺を頼ってくれる人がいる。

裏切りたくは無い。

ただ、男の全てが憎いだけだ。


「……ここです」

しばらく歩いた後、少女は脅えた様な瞳で一軒の大きな家を指差した。

剣を携え、音も無く中へ入る。

「いらっしゃいませ」

どうやら、そこは武器屋の様だった。

髭を蓄えた老人が、冷たくお辞儀をする。

「会わせろ」

「……はい?」

「一番偉い奴に会わせろ!」

カウンターに両手を叩き付け、その老人に向かって怒鳴る。

老人は、逃げる様に店の奥へ消えた。

「野郎!」

後を追い、店の奥へ強引に踏み込む。


奥には、豪華な金色の家具が置かれた広い空間が広がっていた。

そして、家畜の様な男が美女に囲まれている姿が視界に飛び込んで来た。

「ひ……」

剣を見た瞬間、男は声にならない悲鳴を上げて後ろに後退する。

女も、俺を見るなり悲鳴を上げて逃げた。

「どうか!命だけは……」

何処までも都合の良い野郎だ。

少女の恐怖は、こんなものじゃ無い。

育ての親というのも、昔の話。

こいつには、少女と同様の罰を与えなければならない。

「ふざけるな!この野郎!」

この腐った生き物が、俺の父親だ。

少女の話と、俺の記憶が確信させた。

二年前、母さんを失った俺を捨てて別の女の所へ行ったのだ。

それが、今や体まで醜くなっていた。

「終わりだ」

右手に携えた剣を、上段から降り下ろす。

父は、断末魔にも似た叫び声を上げながら血を吹き出し、その場に倒れた。

動脈を切ったせいで、壁だけで無く俺の方にまで赤い血液が飛び散る。


これで、全ての家族は死んだ。

服を血で濡らし、俺は静かに店を出た。


当ての無い、暗い町。

側には、守らなければならない少女。

唯一残った、たった一人の家族。

同じ日に生まれた、双子。

運命に翻弄され、再び出会った。

様々な思いを胸に、少年と少女はひたすら居場所を探して歩き続ける。


FIN

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― 新着の感想 ―
[一言] 面白かったです。ダークヒーロー好きなので、容赦なく悪に剣を振るう主人公に気分爽快です。戦闘シーンが流れるように読めて感心させられました。 ただ肉親との出会いが少し唐突だったような気がします。…
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