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第二章:遠き場所よりきし者は3

「行っちゃった」

 

 何だかすごくもったいないことをしたような気になった。

 思い切ってマントを掴めばよかったのに。

 

「ジンはよくここに来る?」


「ええ。きっと明日も来られますよ」


「それなら明日は一緒にお茶をしよう」


「それが良いでしょう。では、今日は私と二人ですが。どうぞ」


 最初にカナンが出てきた扉の向こうが彼の部屋となっていた。

 寝泊りもここでするようだ。 

 カナンの部屋は広くは無いけれど綺麗に片付けられ狭苦しいという思いはちっともわいてはこない。

 壁に備え付けられた棚には、色とりどりのビンや小箱が所狭しと置いてある。

 ビンの中で眠る乾燥させた花びらや、星型の砂糖たちがセイラの目を楽しませ、たっぷりと注がれた琥珀色のお茶が、少しばかり冷えたからだと舌を喜ばせる。

 薪の爆ぜる音しかしない空間は何故かとても居心地のよいものだった。

 

 カナンは小さな量りを使いながら絶妙なバランスで茶葉を調合している。

 お土産まで持たせてくれるという。

 すでに華やかな香りがして、期待が募る。カナンの手元にある数多のノートにはこれまでの秘蔵レシピが隠れてあるそうだ。

 横から覗き込んでみたのだが、元々料理一般が苦手なセイラには、まるで暗号のようだった。

 カナンとハナはとても気があうかもしれない。

 

 なんだか心地よすぎて溶けてしまいそうだ。

 この時ばかりは賊のこともニキのことも全て放り出してしまおう。

 そう思ったのに、椅子にかけられたカバーには今だけは見たくなかった鳥の意匠が織り込まれていた。


「んん。やっぱり烏かな? なんか咥えてる。赤い……実?」


「ああ、それはマルスの紋章ですよ。烏で正解です。咥えているのは太陽だと言われています」


「マルス……確か初代の王様だったかな」


「ええ、アリオスの初代王。英雄王と呼ぶ方もいますね」


 ニキから与えられた情報は、あまりにも短期のうちに膨大に詰め込まれたので半分以上がセイラの中から零れ落ちている。

 あれだけの情報をすべて覚えいることができたら生粋のアリオス人だと言い張ることが出来そうだ。

 「無理!」そう叫んだセイラにニキは無情にも「ユリザ様ならば難なくやってのけます」と言い放った。

 確かに姉ならやりかねない。


「その紋章ってどこにでもあるものなのかな」


「そうですね。城の中にも多いですし、そのように布や衣服に織り込むこともありますよ。マルスは強い王でしたから災い除けの意味も兼ねています」


「ふうん」

 

 聞きたいのはそんなことじゃない。 

 賊が身につけていた鎧は何なのか。

 だけど、これは聞いてしまってもいいことだろうか。

 考えてみたが答えは出ない。

 少なくともカナンは兵士では無さそうだ。


「鎧にも付いているよね」


「ええ」


「みんな一緒?」

 

カナンがポット置いた。

何か感づかれてしまっただろうかと一瞬体が固くなったが、ちょうど良い量の湯を注いだだけだった。


「いえ、所属する隊や地位によって多少異なりますが基本は同じ形です胸にあしらわれているはずですよ。それがどうかしましたか?」


「ううん。ちょっと気になっただけ」


セイラは慌ててお茶を飲み干した。

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