早口言葉の世界
「隣の客はよく柿書き食う客だ」
俺はこの言葉が大嫌いだ
そんな奴がいるはずがない、いたら見て見たいものだ
常々そう言っていた
ある日、俺が牛丼屋で食べていると、隣の客が柿を注文した
最初は何も思わなかったが、ふと思う
牛丼屋で柿?
隣を見ると、柿ばかり食べている
反対側を見ると、そちらの客も柿ばかり食べている
俺はギョッとして牛丼屋を飛び出した
誰かにぶつかってしまう
「お綾や母親にお謝りなさい!」
怒られる
お綾じゃないし
俺は逃げた
洋服屋には、赤パジャマ、青パジャマ、黄パジャマが並んでる
雨も降っていないのに、相合傘の愛妻家に会った
英雄の映画に永遠の列ができている
勘弁してくれ、全てが早口言葉になっている
人のいないところまで俺は逃げた
こんなところまで追って来ないだろう
ふと見ると、竹垣に竹がたけかけられている
俺は死に物狂いで逃げる
奴らはどこまでも追ってきた
東京特許許可局長が新設診察室視察の帰りに新設診察室の前を除雪車除雪中で豚が豚をぶったのでぶたれた豚とぶった豚がぶっ倒れている
もう勘弁してください
俺は地面に倒れこんだ
誰かが俺の肩を優しく叩く
見上げると優しげなお爺さんがいた
「この世界に迷い込んだんだね」
「はい……」
「現実にない事を求めてはいけないよ」
「はい……」
「では帰り道に案内してやろう」
お爺さんは帰り道まで連れて行ってくれた
「ここを真っ直ぐ行きなさい」
「ありがとうございます、お爺さんは行かないのですか?」
「ワシはいいんじゃ、ワシの事は忘れなさい」
「忘れるなんて出来ません、せめてお名前だけでも」
「ワシの名? ワシの名は、寿限無寿限無五劫の擦り切れ……」
俺は一目散に逃げ出した




