親子との出会い 霊媒体質の少女③
少女の様子が元に戻った。
「お、おかあさん‼」
少女は涙目で母親に抱きついた。
「まいか!大丈夫⁉」
母親は少女を抱きしめ、頭を撫でた。
「大丈夫ですか」
いつの間にか変身を解いた真が、親子のそばにいた。
「え、ええ……」
女性は娘を抱いたまま、真を見た。
「何か様子がおかしかったようですけど」
「……この子、よくこんなふうになるのよ。何かが憑りついてるみたいっていうか……わたしそういうのに詳しくないから、原因が分からなくて……」
真は片膝を立てて地面にゆっくり屈むと、腕を緩めた母親の中の少女を優しく見た。
「大丈夫?」
「う、うん……」
女の子は真を見ると母の服の裾を握った。
「もう怖がらなくていいよ」
そう言うと真は穏やかに笑い、女の子の頭をポンポンと優しく触った。
女の子は頬を染め、恥ずかしそうに真の目を見た。
普段見せない優しげな表情に、愛は不覚にもドキッとしてしまった。
「これをあげる」
真はポケットからチャームを取り出した。ハートが十字架にかかった銀色のチャームで、愛が変身するときに使うものとそっくりだったが、真ん中に宝石がついていない。
「これは……?」
母親は真に尋ねた。
「知り合いからもらったものです。僕も霊感が強くて困ってたんですけど、これを持っていたら祓えました。同じものもう一つ持ってるんでこの子にあげます」
「まあ……ありがとうございます」
真は女の子にチャームを渡した。
「はい」
女の子は頬を染め真を見つめたまま、チャームを受け取った。
「……ありがとう」
二人を見送ったあと、愛は申し訳なさそうに真に近づいた。
「……あの、高嶺くん」
真は視線を愛に向けた。
「……なんでパトロールを怠ったらいけないか、わかったよ……」
真は無言で視線を少し下に落とした。
「……さぼってごめんなさい」
真は静かに息を吐くと、愛に一歩近づいて言った。
「……わかったならいいんだよ」
愛は黙って真の胸辺りを見ていた。二人の間に沈黙が流れる。
「……まあ」
愛は黙ったまま真の声を聞いていた。
「……お前が本当に手芸が好きだってのはわかったし、週に一回ぐらいだったら部活に行ってもいいよ」
「……えっ?」
愛はきょとんとした声をあげた。
「まあでも、伝えたいことはヒステリックに言うもんじゃないな」
「えっ……まさか屋上で言ったこと、聞こえてた⁉」
真は口を手で押さえて笑った。
「俺、耳いいからな」
愛は赤面した。
「おーい、真‼」
数秒後、遠くからエーラの声がした。上の方を見ると、エーラがジェルを引き連れて飛んできた。
「なんだ、遅かったな」
真が言った。
「ごめんなサい」
「ちょっとこっちもこっちでな」
商店街はすっかり暗くなり、人通りも少なくなっていた。
「そろそろ帰るか」
「うん」
愛と真は顔を見合わせた。
「あラ、二人とも仲直りしたの?」
ジェルが二人に話しかけた。
「喧嘩してたわけじゃないよ」
「そうだ」
愛は笑って答え、真も賛同した。
「……ところでさ、あのチャームはどうしたの?女神様から貰ったの?」
愛は女の子にあげたチャームが気になり、質問した。
「ああ、あれか……あれは知り合いに作ってもらったんだ。シルバーアクセを趣味で作っている人がいて」
「ふーん。男の人?」
「……」
真は気まずそうに視線をそらした。
愛は女の勘で作った人が誰だか予想がついた。しかし、それを作ってもらっているということは真とかなり親密ということではないだろうか。
「……」
何と言っていいかわからなくなり、自然に沈黙してしまった。
「おいお前ら、もう帰るぞ。いい加減腹減ったぜ」
エーラが愛の頭の近くまで飛び、家に帰る催促をした。
「ああ、うん、そだね」
愛は変身したままの姿で家の方向に体を向け、真を振り向いて右手を上げた。
「……じゃあ」
「ああ」
真も手を上げて言った。
愛はエーラと共に飛び上がると、住宅の屋根をつたって空を飛んでいった。
「……何かあったのか?」
エーラが愛の肩に乗って尋ねる。
「……別に」
愛はボソッと呟いた。
「真とはパートナーになれそうか?」
戦士としてのという意味なのか、伴侶としてという意味なのかは曖昧だったが、多分後者の方が意味合いが近いだろう。結婚相手をパートナーとは言うが、恋人をパートナーとは言わない。
「……高嶺くんには好きな人がいるんでしょ」
「……お前?」
「なわけないでしょ‼どう見たらそう見えるのよ‼さおりさんっていう人よ‼」
「え、そうなのか?」
本当にこの生物は担当する人間のことをちゃんと把握しているのか。というか恋愛に関して考え方がズレすぎている。
「あいつそういうこと俺に話さねえからなー」
「…まあ確かに」
そうこう話しているうちに家が見えてきた。愛は家の前に着地すると、誰も見ていないのを確認して変身を解いた。
愛は夕食を食べて二階に上がると、ベッドの上に寝転がった。
「あーつかれたー」
学校に行ってそのあとはすぐにパトロール、そして勉強、終わったら就寝という流れで一日を終える。それを毎日繰り返しているためなかなか遊びの時間などが取れず、少ししんどい。
「宿題めんどくさいなー……」
愛は呟いた。
「……トゥルーラブの人数が増えれば、少しは楽になると思うが」
エーラが言った。
「えっ?まだ仲間がいるの?」
「最初に『男女二人を軸にしたチーム』だって言っただろ。探せばどっかにいる」
「……そっか」
「人を助けたいという「心」、ディグレイドと戦う「覚悟」と、一定以上の「愛」があれば男女その他関係なくトゥルーラブになれるがな」
その他というのが少々引っかかったが、愛は触れないことにして話を続けた。
「……そうなんだ」
「まあ、戦うのは体力がいるし、浄化とかは心が強くないといけないし、男女どちらが向いてるかってーのはわからんが、あと四人ほどいれば体制は整う」
「ふーん……」
話が一段落着いた後、愛が思い出したように言った。
「そういえば今日はどこに行ってたの?」
「ああ……ちょっとディグレイドの動向を探りにな。あいつらが一週間も出てこねえのは珍しいんだ。これが二週間超えるようだったら何かある」
「そっか……ふぁ」
愛はベッドに腰かけたままあくびをした。
「……緊張感ねえな」
エーラはジトッと愛を見た。
「ごめん、ちょっと眠くて。一時間だけ寝るね」
そう言うと愛はバフッとベッドに寝転がり、目を閉じた。
「……」
エーラは黙って窓の外を見た。暗く染まった空には、星がほとんど見えなかった。
しんとした町の中に、涼しい風が通り過ぎていった。




