愛と真の修行!?凸凹コンビはガッタガタ!!③
二人はあっという間にトゥルーラブの衣装へ姿を変えた。
そして手に持ったチャームが光り、それぞれの剣へと変形した。
「うわっとと!」
宙に浮き、重力で落下してきた剣を愛は両手で受け止めた。
真はもう慣れているのか、普通に右手で剣を持っていた。
「分かっていると思うがトゥルーラブに変身すれば身体能力が大幅に上がる。腕力、足力、スピード、跳躍力などがだ。ただし体力がつくわけじゃないから勘違いするなよ」
愛は素直にエーラの話を聞いていた。
「背中にマントがついているだろう。それは空を飛びやすくするためのものだ。ディグレイドは霊体のため宙に浮けるからな。マントがついてない奴もいるが、トゥルーラブは全員空が飛べる」
「……で、何、これ、剣?」
愛は剣を持ち、切っ先を上に向けてエーラに尋ねた。
「両方、リューフを浄化するためのものだ。お前のがピュア・ラ・ブレイド、ディグレイドと戦うための剣だ。真のはトゥルーソード。どっちもリューフは浄化、ディグレイドの攻撃を防ぎ、ダメージを与え、浄化するものだ」
「……?浄化するのに、何で剣なの?」
「ディグレイドは武器を持ってるし、特にブラッド、あいつは好戦的だから身を守るためにもな。ああ、それから、剣がなくても変身すれば浄化は手でできる」
「手??」
「じゃあ、今日はそこから始めるか。愛、そこの茂みの中とか見回してみな」
愛は剣を地面に置いて、茂みを覗き込んだ。
「わっ」
灰色の、もやみたいなものが一匹、スーッと出てきた。
「な、なにこれ」
「それがリューフ。そいつに両手のひらを近づけて」
愛はおそるおそる両手を近づけた。
「体の中心に光り輝く水晶体をイメージして、イメージで手のひらから光を出すようにリューフに当てろ」
「こ、こう?」
愛がイメージすると、実際に手から光が放出され、リューフに当たり、わずかに色が白くなった。
「ひゃっ」
リューフはまだ、ふよふよと愛の前にいる。
「もっとしてほしいみたいだぜ」
「そ、そうなの?」
愛はもう一回イメージし、光を当てた。さっきよりも白くなった。
「もう一回ぐらいしてみろ」
愛はもう一度イメージした。リューフが完全に白くなり、愛から放れて空へ消えた。
「灰色のは特に害を加えない普通のやつだな。気を付けないといけないのは、黒に近い灰色とか、真っ黒のやつだ。何かされる前に浄化しなきゃな」
「高嶺くんはできるの?」
真は辺りを見回した。近づいてきた少し黒に近い灰色のリューフに、両手をかざした。愛が一回で行った強く白い光が当てられ、一気に白くなった。
「わっ、すごい!」
「お前より一か月も早く、しかも毎日やってんだ。これぐらいは当然だろ」
真はクールにそう言う。
「へえ……」
愛が感心していると、エーラが説明に入る。
「リューフは浄化されたくてお前らのところへ集まってくる。まあ変身してる時だけだが。それが二人の使命っつーか日課だから、時間があったらやれよ。で、次はその剣」
エーラは説明を続ける。
「二人が心を合わせてそいつを使えれば、強い浄化の力が剣から発せられる。心が重なれば重なるほどその力は強くなる」
「ふ、ふーん……」
愛はチラッと真の方を見た。真は無表情で愛を見返すと、視線を前へ戻した。
「……まあ、最初はそこまでいかねーだろうから、まずはコンビネーションを鍛えるところからだな。……よし、まずは前の十本の木を使って訓練だ。枝から枝に飛び移って三半規管と反射神経を鍛えろ」
「がんばっテー!」
エーラの再びの追加説明と、加えてシェルルが二人に声援を送る。
二人は同時に木の太い枝の上に立った。真は悠々と遠くを見ていたが、愛は足を震わせながら幹にしがみついていた。
「まずは俺から」
真はタン、と軽快に足を鳴らすと、前の枝に飛び移り、あっという間に十本の木を移り渡っていった。
「すゴいワ!」
シェルルが目を輝かせる。
「さすがだな」
エーラも満足げに頷く。
真が最後の木から飛び降り着地した。
「つ、次は私か……」
愛は震えながら幹から手を放すと、おそるおそる次の木へとジャンプした。
なんとか乗ったものの、バランスを崩し体が大きく揺れる。
「うわ、わ、わ、わ!」
愛は三番目の木へ飛んだが、着地予定だった枝を大きく踏み外し、盛大な音を立ててそのまま地面へ落ちた。
ドッシーン‼
「いたたたた……」
エーラとシェルルは何も言えずにその様子を見ていた。
「お前……運動神経悪すぎだろ」
真は遠くから呆れながら愛に向かって呟いた。
愛は成績はいいが、体育だけは苦手で、体力テストの結果で体育教師に苦笑いをされたことがある。欠席は無いので成績表はかろうじて3なのだ。
「初めての訓練で高嶺くんみたいにやれとか無茶ぶりにもほどがあるわよ‼」
「飛べるんだから、飛びながら足を枝に乗せていけばいいだけの話だろ」
真は淡々とした表情で言い、エーラは短い手を頭に当てた。
「……愛にはハードル高かったか……個人練習が必要だな」
「二人の特訓内容を分けた方が良さそうネ」
エーラは少し考えると、真の方に体を向けて遠くにいる彼に声を届かせた。
「真!ちょっとお前の剣であの一番長い木を切り落としてくれ!」
真は何をするか分かったのかエーラに何も聞かず、森の中の、他の木より少し幹が細い針葉樹をトゥルーソードで切り倒した。
エーラは短い手の指を出し、くるくるっと時計回りに三回まわした後、ふっと息を吹きかけた。
途端に大木が地面から十センチメートルほど離れ、宙に浮いた。
「えっ!何それ、魔法⁉」
「女神様から与えられた力だよ。天界の生物は皆少しだけこういうことができる。愛、その上を落ちないように一番先まで渡れ。お前はどうも三半規管が弱いから、まずそれを鍛える」
「……わかった」
愛は宙に浮いた木の上に片足を乗せた。
「トゥルーサファイア、悪いんだけどチョットその辺の見回りにでも行ってきてくれないカシラ。……時間かかりそうだしネ」
真はシェルルを見ると細く息を吐き、答えた。
「……わかった」
真は剣を持って素早く山の下へ降りていった。
浮き上がった木に足を乗せた愛は、両手を広げ、バランスを取りながら歩いていた。
「と、と、と……っ」
数回木から落ち、十回目ぐらいでようやく最後まで渡り切れるようになった。
「よし、じゃあ次は飛ぶ練習だな。マントを使って飛んでみろ」
「ど、どうやって飛ぶの?」
「普通にジャンプすりゃいいんだよ」
愛は近くにあった木に後ろ脚をあて、軽く蹴った。
その直後、体が勢い良く前に飛び出、新幹線のように真っ直ぐ突き進んだ。
「きゃあ――‼」
「普通にって言っただろ……」
愛は数十メートル突き進むと、正面に生えていた大木に激突した。
「いった――‼」
「あらアラ……」
シェルルが呆れて言う。
その後、愛はお約束のようにジャンプして空中高くまで飛び上がったり、再び十本の木に飛び移ることにチャレンジして特訓を続けたが、怪我をしまくり、その度にジェルが愛の体に天界のスプレー型の傷治しを吹き付けていた。
「……何やってんだよ」
顔を押さえてへたり込む愛の前に、いつの間にか真が現れていた。
「真、戻ったのか」
エーラが言う。
「……こんな危なっかしい奴ほっといてパトロールなんかしてられるかよ」
「うっ……」
真の言葉に、愛は唸った。
「ちょうどいい。二人で連携プレーしてみるぞ」
エーラが言った。
「ええ⁉」
「並んだ二列の木を、二人が交互に渡って、一番最後の木を二人同時に切り倒すんだ」
「わかった」
真は無機質に言った。
「えぇ⁉ちょ、待ってよ……‼」
二人は一番最初に使った林に行き、それぞれ木の幹の上に立った。やはり真は悠々としていたが、愛は若干体を強張らせていた。
「いくぞ」
エーラとジェルが二人の後ろで見守る。
「三、二、一……いけ!」
愛が先に斜めの木へ飛び移り、その後から真がタイミングを合わせて飛び、順調に木をつたっていった。しかし、愛が飛び移るのが遅いため、五本目の木を渡るところで真が愛のスピードに追いつき、六本目の木に飛び移ろうとするところで二人のタイミングが重なってしまった。
『あ……!』
愛と真は鉢合わせ、おでこを真正面から思いっきりぶつけた。
ゴッチーン‼
二人はバランスを崩し、草むらに背中から落ちた。
「いったぁ~‼」
「……っ」
真は起き上がると、体をさすっている愛の方を向いた。
「どんくせーんだよ‼」
怒鳴られた愛は、腰を押さえながら「信じられない」という目で真を見た。
「何その言い方⁉ひどくない⁉あたしは訓練だって初めてなのに‼」
「……あぁ、お前がここまで運動音痴だとは思わなかったよ」
呆れたような真の冷たい声に、愛は心臓に尖った氷が刺さったような感覚にとらわれた。反応的に涙腺がにじみ、右目から涙が流れた。
「あ~らあら、そんな状態でアタシ達に勝てるのかしら?ま・こ・と・ク・ン」
ねっとりとまとわりつくような口調に、真は全身の鳥肌を立たせた。
夕日を逆光にして、赤色の、大きなスリットが入ったドレスを着た女が立っていた。髪は腰まで届くほど長く、ウェーブがかっていて紫色だ。テレビに出る女優と比べものにならないほど美人だが、肌は不健康的に白く、唇は毒々しいほど赤かった。
「アナディアナ……‼」
真は右手に掴んだ剣を握りしめた。
「そ~んなトロい小娘がパートナーなんて可哀相。どう?アンタいい男なんだし、アタシのところに来ない?」
「大いに断る……‼」
真は左手で鼻と口を覆った。彼女から放たれる強い香水の匂いが、気分を悪くさせているようだ。
(え……何、もしかしてこの人苦手なの……?)
愛は涙を拭き、嫌な予感を感じつつピュア・ラ・ブレイドを掴み立ち上がった。
「ルビーローズ、連携プレーするぞ!」
そう言うと真は飛び上がった。
「いきなり⁉」
上に飛び上がった真はトゥルーソードを構え、アナディアナに向かって剣を振り下ろした。
彼女はフッと数十センチほど下がると、下半身を蛇のような鱗を持った尾に変化させ、落ちてきた真を叩きつけ、横に吹っ飛ばした。
真は飛ばされた先の林の中の木に足の平を打ち付け、そのまま再びアナディアナの真正面に戻り、長剣を鋭く振った。
アナディアナは尻尾の先で刃を受け止め、真を木のない平地の方に押し飛ばした。
「くっ……!」
真は砂音を立てて踏ん張り、剣を後ろに下げて止まった。
愛、エーラ、シェルルは林から平地に出、真の後ろに移動した。
「確かに」
アナディアナは細い指を唇の下に当て、足を色っぽく交差させながら言葉を放った。
「……なんだ?」
エーラは飛びながらアナディアナをじろっと睨んだ。
「トゥルーサファイアが攻撃してきた時も何もしないでただボーッと立ってるだけ。確かに彼が言うようにどんくさい」
心に棘が刺さったように痛み、愛は俯き歯を食いしばった。
「ていうかアナタ、エーラ?」
アナディアナは赤いマニキュアをした人差し指をエーラに向けた。
「……そんな姿になっちゃって……前の姿の方がかっこよかったのに残念。元に戻りたくないの?エーラちゃん」
「その呼び方やめろ。気色悪い」
エーラはげんなりした顔でアナディアナを睨んだ。
「……トゥルーサファイア」
愛は俯いたまま、抑揚のあるはっきりとした声で言った。
真はしゃがんでいる愛を見る。
「連携プレー、するわよ」
愛は顔を上げ、剣を握って立ち上がった。
「え~?何言ってんのかしらこの小娘。できるわけないでしょうに」
アナディアナは尻尾をくねらせながら妖艶に笑った。
愛はピュア・ラ・ブレイドを抱えアナディアナに向かっていった。それを見た真も走り出す。
アナディアナは右手を顔の前にかざすと、黒い霧のようなものを周囲から寄せ集めて二人に放った。
「うっ!」
愛の口元、首、胸、腰に黒い霧がまとわりつく。走るスピードがダウンした。真は霧が自身に纏わりつく前に剣で払っていた。
「く、苦し……」
愛は途端に息苦しくなり、体が重たくなったような感覚にとらわれた。
「それを吸うな!闇のリューフが霧状化したものだ!」
トゥルーラブは変身により穢れのない姿になっているため、闇のリューフやそれと同等のものは毒と同じなのだ。
「チッ……」
真は自身に向かってくる闇のリューフ達を斬り払った。
「お前の剣を使え!リューフを浄化できるだろ!」
真は愛へ向かって叫ぶが、返事はない。
「くそっ」
真は単独でアナディアナに向かって行き、トゥルーソードを振り下ろした。
彼女は長い尻尾を動かして剣を防いだ。固い緑の鱗は真の剣の刃を通さない。
真は押そうと力を込めたが、アナディアナの力も強く、歯が立たない。
その時、真の後ろで人が倒れる音がした。
「ルビーローズ⁉」
アナディアナは愛を見た。
「あ~らら……霧が体に充満しちゃったのね。そりゃあ倒れるわけだわ」
「あいつっ……!」
真は倒れた愛を見やる。
アナディアナは尻尾を剣に押さえつけたまま右手をかざすと、周囲の霧を集め、真に向けた。
「あんたもこれでおねんねよ」
「トゥルーラブ・シャイニングッ‼」
瞬間、愛のまっすぐ向けられた剣から光が放たれ、アナディアナに直撃した。
「ぐああああああ‼」
アナディアナの体が元に戻り、よろめいて倒れた。
「ルビーローズ⁉」
真が剣を下ろして振り返ると、地面にうつぶせで倒れたまま顔と腕を真っ直ぐ伸ばしながらその手で剣を持ち上げている愛の姿があった。
「お前、やられてたんじゃ」
愛は立ち上がり、左手で衣装についた土埃を払った。
「息をとめてたの。あいつが私から注意を逸らすように、倒れたふりしてね」
「成程……」
「霧もあいつが集めてくれたしね」
真はアナディアナを見た。体を震わせ、憎しみの形相で愛を睨みつけながら立ち上がろうとしている。
「今だ、やるぞ」
真は愛の方に向かい、左側に立つと左手をピュア・ラ・ブレイドを持つ愛の右手に添えてアナディアナの方に向けた。
覆いかぶさる手から真の体温が感じられ、二度目の「触れ合い」に胸が少し鳴った。
「いくぞ!」
愛はハッとして前を見た。起き上がろうとしているアナディアナは顔をしかめて目を見開いた。
『トゥルー・ラブ・パワー、愛の光よ集え‼』
剣に光が収束され、剣全体が眩く光った。
『トゥルーラブ・シャイニング‼』
剣から放たれる光が真っ直ぐアナディアナへ向かっていった。光が直撃する直前に、彼女は黒い霧に包まれて瞬間移動した。
「……逃げたか……」
真は剣から左手を放すと、光の直撃した地面を見た。トゥルーラブが剣から発する光は霊やディグレイドにしか効かず、それ以外のものにダメージを与えることはない。なので地面に生えている草などには変化はなかった。
「やったな!あいつを撤退させるなんてなかなかやるじゃねえか!」
「一時はどうなることかと思ったワ」
木の陰に隠れつつ見守っていたエーラとシェルルが顔を出し、二人の近くまで飛んできた。
「これも連携プレーでしょ?」
愛は少々ドヤ顔で真を見た。
「……さあどうかな。まあ、お前にしては頑張った方じゃないか」
真は愛から顔を逸らしてそう言った。
(……相変わらず無愛想)
愛は顔を真顔に戻し、音を立てないようにため息をついた。
「……さっきは悪かったな」
「え?」
愛はきょとんとした顔で表情を見せない真の頭に声を発した。
「……その、……音痴とか言って」
数秒間、愛は真の後ろ頭を見つめていた。
(なんだ……)
「……なんだよ、何とか言えよ。まだ怒ってんのかよ」
沈黙に耐えられず愛の方をチラッと見た真の顔は、夕日に照らされていたせいなのかどうなのかは分からなかったが、ほんの少しだけ赤いように見えた。
(照れてた、のかな?)
愛の口元に、少しだけ笑みがこぼれた。




