眩い情熱の愛、ルビーローズ誕生!!③
「こ……のっ!!」
真は足を大股にして立ち、剣を抱えながら唸る。
街の路地裏で、真とブラッドの戦いは続いていた。
ブラッドは宙に浮きながら右手の伸ばした爪を剣に打ち続ける。真は防戦一方で、両手で剣を横向きに抱えながら身を守っている。
「……やっぱり片手じゃらちがあかねーかなぁ」
ブラッドは右の攻撃の手を緩めることなくボソッと呟くと、瞬時にして左手の爪を伸ばし、真の懐に傷を負わせた。
「……ぐうっ!!」
鮮やかな血が綺麗な衣装から染み出した。傷はそれほど深くはなかったが、真は剣を抱えたまま数メートル下がった。
「まだ心折れねーの?」
ブラッドは空気に体を預けるようにふわふわと浮きながら、左足のつま先をコツッと地面につけた。
「トゥルーラブになって一か月、理不尽な戦いはさせられるし女は出てこねーし、そろそろ限界じゃねーの?」
真は短く、深く呼吸を続け、少々の傷や汚れをつけた顔でブラッドを見据えていた。
その表情を見たブラッドは憤怒と歓喜の混じったような顔で口元を歪ませながら笑うと、両手の爪を伸ばしたまま一気に地面を蹴った。
「それにな、お前の剣じゃ俺を浄化できねーことはもうわかってんだよ!!」
ブラッドは両手の爪を目で追えない速さで動かし、真をふっ飛ばした。
「ぐあっ……!!」
真は路地裏の古いビルの壁に背中から打ち付けられた。
「なぁ、もう終わりにしようぜ、トゥルーサファイア」
ブラッドは両手の爪を引っ込めると、足を地面にこすりつけ音を鳴らしながら真に数歩近づいた。
そして右手で闇の空間を作り出すと、そこから刃の黒い巨大な鎌を取り出した。
「最後はこれで、お前の中の宝石を奪う」
ブラッドは鎌を掲げると、距離六メートル程の真まで一歩一歩踏みしめていった。
真は瞳に焦燥を浮かべると、傷だらけの腕で剣を握り締め何とか立ち上がろうと踏ん張った。
「高嶺くん!!」
愛は息を切らしながら折れた鉄パイプを抱え、二人が対峙している場に駆け付けた。腰をつきほとんど動けない真と、巨大な鎌を持った不気味なブラッドを見たとき、恐れが全身を駆け巡った。
「天園……!!」
真は瞳孔を開かせると蒼白な顔で愛を見た。
「あぁ?なんだこの女は」
「……っ!!」
愛は歯を食いしばると、震える体で鉄パイプを握り締めた。
「今からダイジなシーンなんだよ。部外者は消えろ」
ブラッドは鎌の先っぽを愛に向けた。
「まさか……!!心の宝石を取る気か!?」
愛の後を追ってきたエーラが焦りながら大声で言った。
「何、それ……?」
愛がエーラに尋ねる。
「トゥルーラブになる者の中にはそれぞれ宝石が宿ってんだ。それを奪われれば二度と変身できなくなる」
「な……っ!!」
ブラッドは鎌を担いだまま愛とエーラを見やった。
「お前ら、邪魔。……殺すぞ?」
そう言うとブラッドは鎌をかついで近づいてきた。
愛は怯えて涙目になりながら鉄パイプを握り締めた。
「ほんとに理不尽だよな……何でお前なんだよ」
真は額から血を流しながら苦笑する。
「私だって受け入れられないよ!!でも……」
愛は目を潤ませながらブラッドと対峙する。
「あなたは私を助けてくれた」
愛は鉄パイプを地面に放り投げた。
「そんな人を死なせるわけにはいかないでしょ!!」
そして、左手に握り締めたチャームを胸に当て、大声で叫んだ。
「トゥルー・ラブ・チェンジ!!」
瞬間、愛の胸の中心が赤く輝き、光が辺りに眩しく拡散した。
「……なっ……!?」
ブラッドは眩しさで目を瞑り、真とエーラは驚き視線を愛に集中させていた。
愛の胸から赤い宝石が現れ、目の前に浮いた。
「これ、は……」
愛は目を大きく開かせながら宝石を見つめた。
赤い宝石が光の砂粒になって愛の体を纏い、その輝きで愛の体は見えなくなった。
真、エーラは目を瞑った。
光が収まると――愛の姿が変わっていた。
ふちが金色の、赤を基調とした鎧と肩当てを身に着け、黒いプリーツスカートを穿いていた。腕には白いフリルのついた黒いアームカバーを着用し、首元と腕には真と同じように金色のチョーカーと腕輪が光っていた。足元は膝まであるワインレッドのブーツ。チョーカーの下には赤い宝石が装飾されており、セミロングだった黒髪は頭の高い位置でとめた長いツインテールになり前から見て右側には赤いバラをあしらった大きなリボンが飾られていた。
「眩い情熱の愛、ルビーローズ!!」
愛はそう言うと我に返り、自分の格好を見回した。
「うわ、なにこれ!?」
「チャームを使え」
エーラがそう言うと、持っていたチャームがたちまち大きな銀色の剣に変わった。
「うわっ!?」
愛はあわてて剣を持ち直した。
「それはピュア・ラ・ブレイド。トゥルーラブに伝わる剣だ」
愛が構えて前を見ると、ブラッドが苛々しながらこっちを見ていた。
「はァ……よりによってこの女がかよ……」
「変身できればこっちのもんだ!!ルビーローズ、トゥルーサファイアと協力してブラッドを浄化しろ!!」
「協力……!?浄化……!?ええ!?」
愛は勝手が分からずおろおろしている。
その時、上空から小さな白い生物が飛んできて真のところまで行き、額同士をくっつけて体を白く光らせた。途端に真の傷が全て癒えた。
「やっと来たか、シェルル!!」
「遅くなっテごめんなさイ」
エーラがシェルルと呼んだ生物は頭に赤い水玉のリボンをつけている、耳が羽のようになった、背中に小さな白い羽をつけている生き物だ。目がくりっとしていて、ほっぺは赤くつやがあって可愛らしい。エーラとは見た目がまた違うが、マスコットみたいという所は似ている。
「この子は……?」
「紹介は後だ。まずはこいつを倒すぞ!!」
エーラがそう言い、いつの間にか立っている真を見やると生気に満ちた顔つきでブラッドを見据えている。
「……へェ。こいつを見ても同じことが言えるかな」
ブラッドは路地の隠れていた部分から一人の人物を引っ張り出した。
黒髪を低い位置で二つ結びにしている、見覚えのある少女だった。
「瀬川さん!?」
愛は驚いた顔で真菜津を見た。彼女は恨めしそうに真を睨みつけている。その表情はおっとりした彼女からは想像ができないほど怨恨に満ちていた。
「許さないっ……許さないぃぃ!!」
真菜津はブラッドから鎌を受け取ると真に襲いかかった。真菜津の力とは思えない重い一撃を真は剣で受け止める。
「くっ……!!」
(こいつ……黒いやつに憑りつかれてる、ブラッドのせいか……!!)
普通の人間にはトゥルーラブは見えないが、ディグレイドに接触した人間は見えるようになる。なので真菜津には一時的にだが変身した二人の姿が見えているのだ。
「うぁははは、やっぱり人間の怨念ってやつはいいねぇ!!力が溢れてくらぁ!!」
ブラッドは真菜津の負のエネルギーを吸収しながら黒爪を伸ばし、愛に襲いかかった。
「きゃあ――!!」
エーラが翼を尖らせてブラッドの目もとに斬撃を与えた。
「つッ……!?」
ブラッドが呻く。
「シェルル!!」
エーラが叫ぶと、シェルルが体を真っ白に光らせて辺り一面を照らした。ブラッドはふらりと頭を抱え込んでよろけ、真菜津も手を緩める。その隙に真が真菜津から武器を落とし、遠くへ蹴り上げた。
真菜津は、震える声で涙を落としながら呟いた。
「高嶺くん……なんで……」
「……瀬川」
真は真菜津の正面を向いた。
「わたし……ずっとずっと……本気で好きだったんだよ……三年間も、誰にも言わなかったんだよ……なのに」
真菜津の目から大量の涙がとめどなく零れる。表情にはもう恨めしさは残っていない。ただ、痛いほどの悲しみと、恋慕だけがそこにあった。
「どうして……どうして、あんなこと……」
「ごめん」
真が声を絞り出して謝った。
その直後、真菜津は泣きはらした目を閉じ、真の胸の中へおさまるように倒れた。
真は彼女を静かに横たわらせた。
「瀬川さんはね、本気だったんだよ」
愛は剣を握ったまま真の隣に立って言った。
「その純粋な思いをあんな形で踏みにじるなんて、私でもひどいと思うよ!!」
「あれは……本当に、俺が悪かった……」
真は額に左手を当てて、ふさぎ込むように顔を隠した。
「……ただ……ああするしか、なかったんだ……」
「ルビーローズ、ブラッドを倒すぞ。剣をあいつに向けろ」
二人とブラッドの様子を見ていたエーラが言った。
真が愛の右横に立ち、愛の掴んでいる剣に右手を添え、愛の手の上から一緒につかんだ。真の少し骨ばった大きな手が愛の手の上にかぶさり、体温が感じられた。
「『トゥルー・ラブ・パワー、愛の光よ集え』って一緒に言うんだ」
エーラが愛に言う。
それを見たブラッドは顔をしかめ、体を震わせてなんとか少し動き、右の爪で何かをし始めた。
『トゥルー・ラブ・パワー!!愛の光よ集え!!』
二人が叫ぶと、ピュア・ラ・ブレイドの刀身が光を帯びた。
『トゥルーラブ・シャイニング!!』
「チッ」
刀身から光が放たれ、ブラッドに直撃する前に彼は悪態をついて姿を消した。
「……瀬川さん」
愛は変身を解いた後、横たわっている真菜津のそばに座った。
「……俺には十年想い続けてる大切な人がいて」
いきなり話し出した真と、その内容に愛は驚いた。
「……その人と結ばれるっていう願いを叶えて貰うためにトゥルーラブになったんだ」
愛は黙って真を見ていた。その横顔はどこか寂しそうだった。
「……だから、瀬川の気持ちに応えてやるわけにはいかなくて、つい、あんな行動を」
「……そう、なの……」
愛はもやもやとした気持ちでそう答えた。
何かあってはいけないからと、真菜津を一応救急車で病院に搬送した後、愛、真、エーラ、シェルルは向かい合っていた。
「それで、自己紹介ネ。ワタシはシェルル。トゥルーラブのつかいで、天使ヨ。今は真クンの家に居候させてもらってるワ」
水玉のリボンをつけた可愛らしい生物が愛に話しかけた。
「あっ、うん、よろしくね。私は天園愛です」
「よろしくネ!」
シェルルはニコッと笑った。愛は「かわいいな」と思い、少し癒された。
その直後、近くのコンクリートの壁に鏡のようなものが現れ、金髪でウェーブがかった長髪の、人間離れした美しさを持つ女性が浮かび上がった。
「うわぁっ!?」
突然のことに愛は素っ頓狂な声を上げた。
「トゥルーサファイア、エーラ」
壁の中の女性は声を出した。その声は透き通るように綺麗で、到底この世のものとは思えないような響きを持っていた。
「女神様」
真はいつもと変わらない仏頂面で壁に話しかけた。
「めがみ……さま!?」
愛は真の言葉を反復して女性を見た。女神様と呼ばれた彼女の、琥珀色の瞳が瞬かれ、潤む。
「まあまあ、この子が二人目のトゥルーラブ!?まあ可愛らしい、真クンのパートナーにぴったりね!!ものすっごくお似合いだわ!!」
「いや……あの」
真はこめかみに変な汗をかいた。
「あの、この方は……?」
愛はエーラの方を見ながら右手で女性を示した。
「天上界から俺たち天使をトゥルーラブのもとへ送ったり、トゥルーラブの武器やチャームをくださるお方、すなわち女神様だ」
何がすなわちなのかわからなかったが、ひとまず納得しないことには話が進まないので頷くことにした。
「で、パートナーってどういうことですか?」
愛が女神様に質問した。
「そっか、この子まだ何も知らないのね。……エーラ、説明してあげて」
エーラは二回咳払いをすると、愛の立っている方向に向いた。
「あー、言ったと思うがトゥルーラブってのは男女二人を軸に形成されるチームなんだ。さっきもそうだったが、二人が力を合わせればディグレイドを浄化する力も強まる。で、トゥルーラブってのは『真の愛』って意味だろ。二人が真実の愛で結ばれた時、本来の力が発揮され、俺は元の姿に戻る」
愛は口を開いたままエーラを見つめていた。
「ちょ……ちょっと待って……真実の愛って何よ……」
「ディグレイドを倒すにはそれが必要なんだ。あーつまり、二人が愛し合えば愛し合うほどそれだけトゥルーラブは強くなるわけで」
愛はエーラの「愛し合えば」のところで吹き出した。
「なな……ななな……」
愛と真は顔をガッチガチに強張らせ、気まずい表情でお互いを見た。
「冗談じゃない、俺には好きな人がいるんだ!!」
「わ、私だって他に好きな人がいるのに!!」
焦る愛たちを横目に、エーラはふわふわと飛びながら適当なことを言った。
「まぁ……二人が一緒にいればそのうちなんとかなるんじゃねーの?」
「なってたまるかー!!」
愛と真は、同時にエーラに向かって思いっきり正拳突きをくらわした。




