第八話 秀才少女は植物系女子、緑川乙葉登場!②
「学校見学?」
愛は席にいながら、菜穂の方を見上げると、彼女が持っているポスターを見た。
「明日11日だからあるんだよね。あたしテニス部だからさぁ、筋がいい子見つけたら是非誘おうと思って。愛は?」
愛はうーん、と少し考えた後言った。
「うちは手芸部だしなぁー。咲ちゃんは色々大会とかコンテストに服を出してるから、張り切ってるかもね」
そんなことより、愛はトゥルーラブのメンバーのことで頭がいっぱいだった。まだ新メンバーを増やさないと戦闘がギリギリでしょうがない。さすがに疲れていた。
10分間の休み時間、風に当たろうと廊下に出ると、りょうが愛の肩をポン、と叩いてきた。
「何か疲れてるのか?これでも飲んで元気出せよ」
りょうはマスカットの缶ジュースを爽やかな笑顔で愛に渡した。
「あ、ありがと…」
「大丈夫か?」
「あー…うん、大丈夫だよ」
「日に日に増して顔が疲れてるよな…目の下にクマが出来てないか?」
メイクで顔をごまかしてはいるが、クマができているのは事実である。
(…りょう、すごい観察力だな)
愛はりょうの顔をボーッとしながら見ていた。
「…!?」
それがりょうにはじっと見つめられたのと同じに感じた様で、彼は顔を紅く染めながら、動揺した。
廊下の方から女子生徒の戯れが聞こえてきた。
「…中庭行こうぜ」
りょうは愛の背中を押しながら、階段を一緒に降りた。
「聞いた!?あの話」
「聞いた聞いた」
中庭に出ようと廊下を通ると、男子生徒の声が聞こえてきた。
「明日体験入学に来る女子生徒で、めっちゃ可愛い子が来るって噂らしいぜ」
「中学3年生で秀才らしいよ」
「どんな子だろー、楽しみ」
愛は日頃の戦いの中で疲れがピークに達していたので、ボーッとしていてあまり会話が聞き取れなかった。
りょうは男子生徒たちの会話が少し耳に障り気になっていたが、疲れている愛を労ってベンチに二人で座った。
体験入学当日。
「バスケットボール部はこっち!!」
「バドミントン部はここでーす!!」
「バレー部に体験入部したい人は来てね!!」
「場所どこ?」
中学3年生の男女達が、校門からゾロゾロと姿を見せて歩いてきた。
女子生徒が数人で歩きながらウロウロと、色々な部活動を見て周っていた。
「あっ」
「あの子」
男子生徒たちが一人の女の子をチラチラ見ていた。
「乙葉、私美術部に体験入学に行きたいんだけど、乙葉はどうする?」
茶髪でボブヘアで瞳が綺麗な、背が150cmぐらいの女の子がうーん、と考えた。
「私は園芸部か手芸部がいいかなぁー」
「そっかぁ」
乙葉は光陽高校の部活勧誘のグラウンドに立っている御坂井先生に話しかけた。
「すみません、この学校って園芸部はありますか?」
「あー……、申し訳ないけど光陽高校には園芸部はないんだよな、ごめん」
乙葉はすみれの所へ帰っていくと、
「じゃあ手芸部さがそうかな」
「もっと色々見てみようよ」
乙葉とすみれはグラウンドの中を歩いて見て周った。
「手芸部はこっちー!!」
ストイックな咲は、5人以下になると部が廃部になってしまう危うさの為、何とかして部員を増やそうと必死に勧誘をしていた。
(ヒマだなぁー…)
部長が必死で誘い込みをしている為、愛はあまりすることがなかった。
「あっ、あった!!」
乙葉が手芸部の看板を見て大きな声を上げた。
愛はその声に反応して、そちらに視線を動かした。
「こんにちはー」
透明感のある声に耳を奪われ、彼女と目が合うと整った顔と澄んだ瞳に愛の目が惹きつけられ、同性なのに心がときめいた。
(可愛い子…)
「体験入部したいです」
「いらっしゃい!!是非来て!!手芸が好きなの?」
部長の咲が乙葉の声に応じる。
「ハイ、家でマスコットやポーチを作ったりしています」
「そうなんだ!愛、ちょっと部室まで案内してよ」
「いいよー」
愛は部活勧誘のテントの屋根から出て、乙葉と顔を合わせた。
「私は天園愛、よろしくね」
「私は緑川乙葉です、よろしくお願いします」
愛と乙葉は一緒に部室まで歩いた。
「マスコットやポーチは、どういうのを作ってるの?」
愛が乙葉に尋ねる。
「…えっと、ウサギとか犬とか…ポーチは、パステルカラーが好きなので、そういう色のを作ってます」
乙葉は少し恥ずかしそうに頬を紅らめると、愛の方を見た。
(この子、癒し系で可愛いな…)
愛は優しい風が頬に当たったようにほわっとした気持ちになった。
二人が一緒に歩いていると、光が前から歩いてきた。
「よっ」
「あ、光」
光が右手を上に上げ、愛もまた返した。
「今からその子と部室まで行くのか?」
乙葉は光を見て、深くおじぎをした。
「こんにちは、初めまして」
光は乙葉を見た瞬間、何か閃光がはしったような気がした。
(可愛い)
「え、何々、何してるの?」
サッカー部のユニフォームを着たりょうが顔を出した。
「こんにちは」
りょうは乙葉を見た瞬間、光と同じように、また何か閃光がはしったような感覚に陥った。
(かわいい…)
「じゃあ、行くね」
愛は乙葉を連れて部室まで階段を上がっていった。
部室に着いた愛は扉を開けた。
「あっ、愛ちゃん、おつかれー」
部室にいた真菜津が乙葉を見て目を輝かせた。
「体験入学の子?さぁどうぞ、こちらへ座ってね」
真菜津は隣のイスをひき、作る前のマスコットが入った箱を何個か持ってきた。
「どれがいい?ウサギとかどうかな、難しいのがあるけど…」
「じゃあ、これにします」
乙葉は箱の中から星レベル5のネコを取った。
「えっ、それ、一番難しいのじゃ…」
乙葉は自分の持ってきたポーチを取り出すと、説明書を見て作り出した。
ひとつひとつ丁寧に針を縫い、物凄い早さでペースは進み、愛と真菜津は乙葉の集中力とスピードに驚かされた。
「できました」
一時間程でネコは完成し、その出来栄えに二人は唖然としていた。
「す…すごい、並の早さじゃないよ…そんな才能があるんだ!?」
愛が乙葉に言い、真菜津もそれに続ける。
「手芸部に入ろうよ!!これを売り出したら普通に生活できるよ!?」
「いえ」
乙葉は首をふった。
「私、植物学者になりたいので」
「そ、そうなの」
愛は眠気の中、少し戸惑いながら答えた。
「あー……園芸部とかないもんねぇ……」
真菜津が困ったように笑いながら言う。
「よー真、体験入学には何人か来た?」
りょうが真に話しかける。
「数人来た。今、他のメンバーが皆で練習試合してる」
「そっか」
「テニス部はこっち!!先輩がコーチしてくれるから体験していってー!!」
菜穂が大声で勧誘していた所に、光が来た。
「よっ菜穂、調子はどう?」
「あっ、光!…うーん、何人か来たけどね、声張り上げるの結構疲れるねー」
「そりゃそうじゃん」
「光のとこは?」
菜穂が聞く。
「空手部?男女半々ぐらいかなー」
「そっかぁー」
ー堕落組織ディグレイド、支部ー
「何だと!?」
ガッシャーン!!
ブラッドが中身が入ったガラスのボトルを、音を立てて壊した。辺りに紫の液体が散乱する。
「だからそう言ったじゃない、トゥルーラブの3人目が入ったって」
「チッ…」
ブラッドはこれでもかという程の舌打ちを部屋に響き渡らせると、イライラしながら壁を足で蹴った。
「ワインボトルを割るんじゃないわよ」
アナディアナがブラッドを睨み、ボソッと呟いた。
「おい、グラッディ!!寝てんじゃねーよこの豚野郎!!」
グラッディは起き上がった。
「なんだよ…うるせーなブラッド」
「てめーがダラダラしてっからトゥルーラブが増えたんだろーが、何とかしろよクソが!!」
「あ?」
グラッディはがしがしと頭をかき、辺りにフケを散らばせた。
「…チッ、そんなに言うなら俺が全員ぶっ倒してやるよ、この『怠惰』の力で!!」
グラッディがそう言うと、
「…じゃあ、あたしも行こうかしら。3人目の黄色には借りがあるから」
アナディアナがグラスを置いて椅子から立った。
「へー……そう」
ブラッドは小馬鹿にしたように嘲いながら出て行く二人を横目で見ていた。




