第一話 、盤筆、
『伝説の剣士ライカ』『爆炎の魔導士イレーネ』『殺しの申し子ルイネ』『癒しの聖女フィル』
――世界最強と謳われる英雄パーティーに、妙な少年がひとり混ざっていた。
「あの子、荷物持ちでしょ?」
「ただの作家志望らしいけど……記録とかしてるって噂よ」
「戦力にならないのに、なんで連れてきたんだ……?」
誰も知らなかった。
彼が綴る“盤筆”が、いずれ歴史となることを。
剣士ライカが声をかける。「あんた、名前は?」
「ヤヅナだ!よろしくな」
ルイネが小さく呟く。「東方……の出身か」
イレーネが周囲を見渡して言った。
「今日はあの川沿いで野宿よ」
「いやですぅ〜!ふかふかのベッドがいいです!」とフィルが騒ぐ。
──夜、野営地。ライカは食事の準備をしていた。
「ヤヅナ、手伝いなさ──」
振り返ると、ヤヅナはすでに酔っていた。
「ライカ!勝負だ!腕相撲だァ!」
「……荷物持ちが私に勝てるとでも?」
「いいから、やれや!」
イレーネが審判役に立った。
「レディー……ファイト!」
\ドォォーン!!/
ヤヅナ、瞬殺KO。
「よし、賭け金ゲット!フィル、酒持ってこい!」
「わたしが負けるなんて……信じられない……」
「一回だけって言ったのお前だろ? 勝どきの酒はうめぇなぁ!」
ライカの顔は真っ赤だった。
「アンタぁあああ! もっかい勝負しなさいッ!」
──そのとき、森がざわめいた。
鳥たちが一斉に空へ逃げる。
「来るわよ」イレーネが低くつぶやいた。
現れたのは……神器級のオーク。
「なぜこんなクラスのオークが……」ライカが剣を構える。
一方ヤヅナはというと、岩に腰かけ、静かにペンを手に取っていた。
「戦闘準備!」ライカが叫ぶ。
英雄たちが動き出す。
イレーネの火炎魔法が轟く。フィルの癒しの魔法陣が展開される。ルイネは影に潜り、急所を狙う。
その間も、ヤヅナのペンは止まらない。
(まだ……筆が進まない……)
ライカが突っ込む。
が、なにかが乱れていた。表情が硬い。
「どうした!?」とルイネが声を上げた。
その瞬間――
ドォンッ!!!
ライカの剣がオークを粉砕した。
神話級の一撃だった。
ライカは、ふらりと倒れた。
ヤヅナが、拍手しながら言った。
「よくやった……だけど――」
「この戦いじゃ筆が走らない。物語としては、まだ未熟だ」
「なにを……言ってるのよ」イレーネが睨む。
ヤヅナはあくびをしながら立ち上がった。
「今日は寝るよ。次は……もっと面白い戦い、見せてくれよ」
──英雄たちは、その言葉に言い返すことができなかった。
――この物語は、連載進行中です。
次話も順次投稿予定。
荷物持ちの行き先を、見届けてくれると嬉しいです。